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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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星を駆け回るユエとシャオマオ


それからのシャオマオとユエは精力的だった。

高濃度魔素の地に向かって魔物を星に帰すのを繰り返し、魔石を集めて回った。

集められた魔石はドワーフと人族に分けて、武器と防具、魔道具が昼夜を問わず作られた。


金狼は地上を高濃度魔素で満たして生き物を全滅させようとしたのかもしれないが、そんなことはシャオマオが許さない。相手が狙っていることが分かるなら、防ぎようがあるものだ。


「レーナちゃん!」

久しぶりに人族エリアの家に帰ってきたシャオマオは、お屋敷精霊のレーナに抱きつかれた。

「ごめんね!ごめんね!ずっと一人ぼっちにして」

ふるふると頭を横に振るレーナ。人が生きて生活している屋敷の方がエネルギーをもらえるのだが、妖精の屋敷を守るために生まれた精霊であるレーナは強かった。多少の主の不在では弱ることもない。


シャオマオたち住人と、一緒にやってきたダァーディーたちもレーナの作った料理に舌鼓を打つ。

「なんとまあ・・・ライに匹敵するほど料理の上手い精霊とは。恐れ入ったぜ」

絶妙な火加減のレアステーキを口に放り込み、付け合わせのクリーミーなマッシュポテトをバクバクと食べるダァーディー。ステーキのソースがどんどん食欲を進ませるのだ。

「それに、屋敷のどこを見ても完璧に掃除してあるんだよ。俺、こんな清潔なところにいられるの本当に幸せだよ」

ライが人参のグラッセをしみじみと齧る。


冒険者であるからにはどんな場所でも寝られるし、自分が汚れることも厭わない。気にしてられないからだ。しかし、ライは本来きれい好きである。猫族の里の家は「ものを持たない」ことで美しさを保っている。

しかし、家を何日も空ければ埃っぽくなる。

それが今回は一切感じられなかった。

レーナが毎日丁寧に空気を入れ替え、きちんと細かいところまで掃除してくれていたからだ。


肉食獣人と見た目に寄らずよく食べるサリフェルシェリたちが満足する量の食事を出し終えたレーナは、デザートにタオの実のシャーベットを出してテーブルに並べてくれた。


「おーいし!」

とろりととろける舌ざわり。お店を出しても流行るんじゃないかと思うレベルだ。

シャオマオが「ほっぺた落ちちゃう」というと、ユエが慌ててシャオマオのほっぺたを両手で押さえる。

二人がキャッキャと喜んでいるのを見て、双子も「ダァーディーも新婚ね。真似してもいいね」と言って拳骨を食らっていた。

「大人をからかうんじゃない」

「ぱぁぱ。スイちゃんまぁまと結婚式しないの?」

「あー、えー」

「しないの?」

「す、する」

「いついついつ?」

キラキラした目でずずいとダァーディーとスイを交互に見るシャオマオ。

「この騒動が収まってからじゃないと、結婚式もなんもないだろ?」

ぐいぐい迫ってくるシャオマオの頭をポンポンと撫でるように軽くたたく。

「そっか。じゃあシャオマオったらがんばっちゃう!ユエ。早く終わらせようね」

「わかった」

スイちゃんまぁまの結婚式の伝統衣装が見たいのだと、キャッキャと喜ぶシャオマオ。


シャオマオが当然のように参加すると言ってくれたのは嬉しいが、シャオマオが銀の大神となったらどうなってしまうのかわからない。身近な神として今と変わらずいられるとシャオマオは信じているようだが、先のことは誰にもわからないのだ。


「シャオマオ。必ず参加しなさいな。猫族の古いしきたりですが結婚の証を交換する儀式があります。子供がいれば二人の子供がそれを運ぶ役目が式の中にありますからね」

「まあ!まあ!ステキよ!何を交換するの?」

瞳を輝かせてスイに近づく。

「それは当日までのお楽しみにしなさい」

「ううう~気になる!」

「シャオマオには重要な役がありますからね」

「はーい」

シャオマオはスイに頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。


「ユエ」

「なんだ」

いつものように食事を終えたみんなでリビングに移動して、ふかふかの敷物の上でごろごろとお茶を飲んでいたところだった。

ライの呼びかけにユエは視線だけ動かした。

「何だじゃないんだよ。こっちだよ何だって言いたいの」

「?」

「なんでシャオマオちゃんに膝枕してもらってんだよ」

()()だからだ」

夫婦に力を込めて返事するユエと真っ赤になるシャオマオ。

スイに膝枕をしてもらっているダァーディーを見て、さっそく真似したのだ。

「ダァーディーがしてても別にいいんだけどさ、お前まだ結婚してないじゃん」

「独身の僻みね」

「兄さん・・・」

双子がそっと涙をぬぐうしぐさをする。

「僻みとかじゃなくて、まだ結婚してないんだから適切な距離を保ってほしいわけ、お兄ちゃんは」

「シャオマオはおとな――」

「それ!それなんだよ」

ライがユエの言葉を遮って指さす。

「シャオマオちゃんの見た目がこう変わっちゃったからみんな大人だと思ってるけど、シャオマオちゃん子供だったんだよ、ついこないだまで。ちんまい子だったの」

ライは自分の膝よりも低い位置に手をやって、「ちんまい」を表現した。

「お兄ちゃんは心配だよ。まだ心と体がアンバランスなんじゃないかって。急に大人にならなきゃいけないことが押し寄せてさ。シャオマオちゃんにはきちんと子供時代を過ごさせてあげたかった。本当ならね」

「ライにーに」

「シャオマオちゃん。まだ子供でいいんだよ。俺はシャオマオちゃんをいつまでも子供だと思って接するからね」

「ライにーに・・・ありがとう」

「シャオマオは俺と夫婦神になることを選択してくれたんだから、見た目が子供でも大人でもいいんだ。シャオマオがシャオマオであればいい。いつでも子供に戻っていいからね。ずっと一緒に居よう」

ユエは手を伸ばしてシャオマオの顔を両手でそっと包む。

「ユエも、ありがとう」

シャオマオはまたふにゃりと子供の顔で笑った。



「シャオマオ。髪が濡れたままだと風邪を引くよ」

風呂上がりに屋敷の屋根に上って人族エリアをぼうっと見ていたシャオマオは、ユエの声に少し驚いた。

タオルを持ってきたユエは、当然のようにシャオマオの髪を包んでポンポンと叩いて水気を取る。

この美しい髪をガシガシ拭いたりしないのだ。


人族エリアはシャオマオから現状を伝え聞いたダニエル王の号令で、昼夜を問わず様々な魔道具を作っている。

今日もどの工房も火を入れているせいで夜なのにずいぶんと明るい。

「みんな頑張ってくれてるの」

「そうだね」

前に作った魔道具はずいぶんと魔石が小粒だったのに高性能だった。いまシャオマオとユエが星を駆け巡って集めている魔石はもっと大きい。きっといい魔道具ができる。


「人族は魔石を使って魔道具を作り、ドワーフは魔石の力を借りた武器と防具を作る。エルフは魔素に対抗できる薬や傷薬を作って医療体制を整えている。そのほかの者たちは魔石集めだ。シャオマオ。皆が自分たちの星を守ろうとしているよ。シャオマオと俺だけじゃない。だから安心して」

「うん」

また心の硬いところがふにゃりと柔らかくなるのを感じた。

ライもユエも、シャオマオの柔らかいところを上手に扱ってくれる。それが嬉しい。


自分が頑張らなければ。自分がやらなければ。みんなを守らなければ。だって妖精なんだもの。だって特別だってみんなが言うんだもの。きっとできる力があるんだ。だからやらないと。

気負っていた心がふんにゃりとほどけていく。


「シャオマオ。夫婦だって忘れないで。シャオマオの苦しみは俺が背負う」

「ユエの苦しみはシャオマオが背負うね」

「そうだ。二人でやるんだ」

「うん。二人でやろう。ありがとう、ユエ」

抱き合う二人の影が重なった。


「こらー!風呂上がりでいちゃいちゃしてるふたりー!ホットミルク飲んで寝る準備しなさーい」

「はぁ~い」

ユエとシャオマオは間延びした返事をしてくすくす笑いあって、屋根からふわんと地面に降り立った。

ハチミツ入りのホットミルクはシャオマオの好物だ。


二人は次の日からまた星を駆け巡って働くことになる。

夜くらいはゆったりのんびりさせてあげたいなぁとライはシャオマオのホットミルクに張った膜を取り除いてから手渡した。ユエのはそのままだ。



「じゃあ、ライにーに。今日は海に行ってみまーす」

翌日。朝食を終えたシャオマオが元気よくライに行き先を告げる。


「海にまた大きな魔物が出るの?」

「うん。海人族が住んでないもーっと遠くなんだけど、魔物の群れがいるらしいから星に帰してくる」

「わかった。気を付けて。なんならミーシャを呼び出して一緒に行ってもいいと思うよ」

ミーシャは水の大精霊を操れる。海では一番の味方になってくれるだろう。


「最近ミーシャにーにったら危ない目にあってばっかりなんだもん。ちょっとお休みしてもらいたいの」

「そっか。わかった。じゃあ二人で頑張ってきてね」

そうだ。ミーシャも十分子供だ。あまり頼りにしすぎるのも良くない。


「最初に海人族に挨拶に行って、行き先を告げておくこと。何かあれば逃げるんだよ。それに、精霊を使ってすぐ連絡すること――」

「ライにーに。大丈夫よ、ユエがいる」

過保護のライは心配するが、一人で行くんじゃない。シャオマオにはユエが付いてきてくれるんだから。とシャオマオはふふんと胸をそらして自慢げに言う。


「やっぱり俺たちも準備して一緒に行こうか?お昼ご飯だって食べたいだろう?」

荷物になる弁当を持ってついていこうとしたが、シャオマオにすぐに終わらせてくるから大丈夫!と言われたらしょうがない。

「お昼ご飯はシャオマオちゃんの好きなスープを準備しておくからね」

「やった!じゃあすぐ帰ってくるね!」


後ろ手に手を振って、虎のユエに乗ってシャオマオは海へ出かけて行った。

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