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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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星が動く

 

「ユエ」

 柔らかな手が自分の頭を、頬を、肩をさする。


「ユエ。まだ眠いの?」

 本当は目を開けたい気持ちを堪えて寝ているふりをしている。

 それも相手にはばれているだろう。でも、知らないふりをしてくれるみたいだ。

 こんな時間は日常でほとんどとれない。たまには甘えたいユエの気持ちを汲んでくれているのだろう。


「ユエ。愛しい子。よく食べて、よく眠って、偉いわ」

 トントン、と肩を叩いてくれる声は慈愛に満ち、ユエの成長を喜んでいる。

 ユエはそれが心地よくて眠ったふりをしていた。


「強くなってね。片割れを見つけるのよ。この世で一人のあなたの片割れよ」

 トントン。ゆったりとした柔らかなリズム。


(片割れ)

 何度も何度も聞いた単語。片割れ。自分と魂を分け合った相手。本当は一つなのに二人に分かれてしまった片割れ。ユエの宝物。


 どんな形だろう?どんな色だろう?どんな柔らかさだろう?匂いは?温度は?大きさは?

 ユエは考え付く限りユエの宝物がどんなかを想像する。

 でも、考えても考えてもわかるはずない。


 ユエがどれだけ想像しても、それを超える存在だったからだ。


桃花(タオファ)

 この世に一つの、ユエの宝物。自分と分かれた魂から、あんなステキな女の子ができるなんて。


 柔らかくてすべすべで、あたたかくて、ふわふわしてて、壊れそうなくらい。大切に大切にして一つの傷もつけないように気を付けて懐で温めるように育てた。


 驚くほどにユエを愛してくれた。

 ユエの宝物は存在するだけで素晴らしい。少しもユエのことを気にしなくても、ユエは宝物が大切だ。でも、ユエの宝物がユエのことを愛してくれるなんて、なんて奇跡だろう。


 トントン。

 肩をリズムよく叩かれる。


「ユエ。片割れを大切にして。ずっとずっと、大切にして」


(わかってる)


「本当?泣かせたらダメよ」


(わかってる)


「では起きなくてはね」


(まだ寝ていたい)


「だめよ。片割れが泣いてる」


 がば!!


 ユエは無我夢中で体を起こした。

 まるで泥の穴から必死で這い出すように、重い体を一気に動かした。空気が肺に急に入ってきて、ユエは大きくむせた。息を吸うタイミングと吐くタイミングがバラバラになり苦しい。


「はあー、はあー」

 薄暗い部屋の中で、息を整えて状況を確認する。

 自分の体に覆いかぶさっていたものはとっさに抱きしめた。絶対にシャオマオだという確信があったからだ。

 ふにゃりとした体。シャオマオだ。ユエの宝物だ。


 鼻が利かない。

 シャオマオの香りが届かない。

 おかしい。

 体が動かしにくいのは、服がべたべたとまとわりついているからだ。

 ほとんど明りがない中で、ユエの瞳は微かな明りを頼りに自分の膝の上に力なく横たわるシャオマオを確認した。


「しゃお、まお」

 声がかすれている。聞き取りにくくごろごろとした音が喉からなったので咳払いをする。


 おかしくないか?

 寝ているシャオマオの呼吸音が聞こえない。

 途端に呼吸が苦しくなった。がたがたと震える手は動かしにくくまだ泥の中にいるかのようだ。


「しゃおまお」

 ぐっと胸元までシャオマオを抱き上げて顔をよく見ようとする。呼吸が整わない。


「しゃおまお、シャオマオ!」

 急に鼻の機能が戻った。

 タオの実の香りをかき消す鉄さびの匂い。

 シャオマオの体を汚す染み。


 信じられない。シャオマオの体のどこかに傷がついている。

 ユエは薄暗い中で必死にシャオマオの体を確認しようとしたが、ポトリと落ちた何かに視線が吸い寄せられた。

 それはユエがいつも身に着けている小さなナイフだ。真っ赤なものがまとわりついている。


「シャオマオ?」

 おかしい。何があったのかさっぱり理解できない。


「シャオマオ!!」

 ユエはやっと吸い込んだ空気を追い出すように必死に叫んだ。

 シャオマオの瞼が震える。


「シャオマオ!」

 ほっとした。少しだけ空気が吸えた。


「・・・・・・・・・ゆ・・・・・・え」

「シャオマオ!!」

 シャオマオを強く抱きしめる。無事だった。シャオマオが、ユエの宝物がユエの名前を呼んだ!


「シャオマオ。大丈夫か?俺にできることはあるか?」

「・・・・・・ゆ、え。だいじょ、ぶ?」

 かすれた声でゆったりと微笑むシャオマオはどこかで見たことのある、記憶を揺さぶるような慈愛に満ちた顔をしていた。


「ゆ、え。たお、ふぁの、命・・・」

「桃花」

「ユエに、桃花の命、分けた」

「・・・?」

(ユエ)桃花(タオファ)。桃花は月。これで、ほんとの、一緒よ」


 ぼわ


 胸が熱くなった。

 シャオマオの指先が光って、触れたユエの胸が熱くなったのだ。火をともされたようだ。

 ぐぐっと体に力がめぐっているのがわかる。

(これが、桃花の力か?)

 いままで魔素の浄化を無意識にシャオマオに頼っていたが、それとはまた違った感覚。

 まるで血が自分の体とシャオマオの体をめぐるように、もっと具体的なつながりを感じるのだ。


「ユエ、ごめん、ね」

「桃花?どうして謝るの?」

「桃花は選んでしまった、の」

「選んだ?なにを?」

「ユエ、を生かすこと。死んでほしくなかったの。桃花のユエだもん。絶対放したくない」

 シャオマオの瞳からホロホロと涙がこぼれる。


「いいんだよ。桃花が必要だといってくれて嬉しいよ」

 力を籠めすぎないようにシャオマオを抱きしめる。

 ユエの命は正しくシャオマオが握っている。要らないといわれればそこで費えるほどのものだ。シャオマオが必要とするから生きている。自分のものだ、離さないといわれて喜ぶ。これ以上ない言葉だ。

 ちっとも謝られることではないのに。


「ユエに銀の器の血が入ってしまったの」

「そうなんだ」

「・・・神の血が、ユエに分けられたの」

「うん。でも、桃花の血の方が多い」

「わかるの?」

「わかるよ。神の血は、俺の体を変えた。でも、桃花の血が俺の体を守ってる。ありがとう」

「ううん。ごめんなさい」

「謝らないで。桃花が何を望んでも俺は全力でそれを叶えるよ」

 すりっとシャオマオの頭に頬ずりする。


「桃花ったら少し眠ってる間にお話ししたの・・・」

「だれと?」

「だれかわかんない。桃花が決めたから、星が動くの」

「星が動く・・・」

「うん。星がね、もう動くって」

「それは、桃花にとっていいことかな?」

「わかんない。でも・・・」

「でも?」

「ユエと一緒に、ずっと一緒にいられるの」

「そうか。それはとてもいいことだ」

 ユエは嬉しそうにシャオマオを抱きしめた。




「ラーラ!これ以上近づくのは危険です!!」

 鼻血を噴いたラーラに、ベラが叫ぶ。


「ラーラ!!」

 ラーラはべろりと血を舐めて、ぺっと地面に吐き出した。

 聖地へと向かう途中でぐらりと頭が揺れたと思ったらこれだ。ラーラの体は魔道具を持っていても魔素の影響を受けてしまう。


「ラーラはこちらで待っていてください。我々が確認してきます」

 ラーラの部下が肩をぽんと叩きながらなだめる。聖地まではあと半分。半分の距離でここまでの影響が出るならラーラが聖地に行くのは無理だ。


「ダメだ。俺も行く。妖精様の御身に何かあれば俺は生きていられない」

「ラーラ!」

「止めても無駄だ。俺は進む」

 こうと決めたらラーラは梃子でも動かぬ男である。どこまでも頑固でまじめだ。


「しょうがない。一緒に行きましょう」

 ベラが諦めたところでラーラの足にすり寄る気配があった。


「にゃあ」

「ラーラ、この大猫もついてきてしまったがいいのか?」

「魔素に弱い雰囲気はないな。ラーラよりもよっぽど耐性があるんじゃないのか?」

 皆が少し和んだ。


「スピカ。お前の主人がどこにいるかわかるか?」

「にゃあ」

「どこへ迎えに行けばいいのかわかるか?」

「にゃ!」

 スピカは軽く返事すると弾丸のように飛び出していった。


「スピカを見失うな!妖精様を追いかけている!」

「は、速い!」

「ラーラ!私が運びます。背中に!」

「すまん」

 ラーラは部下の背中に背負われて運ばれていった。

 正直、立っているのもやっとだったので助かった。


「ラーラ。貴方が狼の里でも一番の妖精狂いだってこと忘れてましたよ」

「妖精狂いなど。私は妖精様を崇拝しているだけだ。あの美しい妖精様の魂に触れられるユエ殿が本当に羨ましい」

 ラーラは二人が聖地の花園で昼寝をしたり、花冠を作って遊んでいる姿を思い出していた。

 美しい光景だった。



 ばちばちばち


 相変わらず、聖地の巨石は線香花火のような火花を散らしながら輝いている。

 巨石の周りに茂っていた草花は全て枯れてしまっている。魔素が強すぎるのだろう。


「にゃああ!!」

 聖地の姿にみなが呆然としていると、スピカの声が聞こえた。


「スピカ!」

 スピカは大きな魔物の背中に飛び乗り、首のあたりを食いちぎる勢いで噛みついていた。


「魔物が出た!戦闘態勢!!」

「スピカ!離れろ!」

 ラーラの声に、スピカは魔物の背中を蹴って飛ぶと、戦闘の邪魔にならない場所へと避難した。

 大きな牡牛のような影は、犬族の連携にすぐに形を無くしていた。


「・・・ここで発生した魔物か?」

 発生が早すぎる。それも魔素が強いせいだろうか。


 わからないことが多い。

 聖地が聖地でなくなったことは悲しい。

 しかし。現実に起きていることはこの星の生き物全てにかかわることだ。

 この聖地の場所を破壊してでも高濃度魔素を封じ込めなくてはならない。


「全員周囲を警戒し、魔物の襲撃に備えよ。聖地の巨石を調べるんだ」





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