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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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それぞれの戦い

 

「ミーシャ!」

 高濃度魔素の塊にぶつかられたミーシャは風の精霊が消し飛んでしまったため、上空でのバランスを大きく崩して吹き飛ばされてしまった。


 ライとサリフェルシェリを乗せたリューは慌てて引き返して空中で上手くミーシャの下に回り込み、ライがミーシャをキャッチした。


「ミーシャ?大丈夫か?」

「う・・」

 ミーシャは目の焦点が合っていない。気を失う寸前だ。しかしリューを顕現し続けているのはミーシャが強靭な精神力を持っているからだろう。


「サリフェルシェリ」

「この状態のミーシャを連れて狼の里に行くのは無理です」

「そうだな。どう考えてもあのへそのあたりから魔素が漂ってる」

 遠くからでもわかるくらい、禍々しい気配がする。

 ライは自分の腕が総毛だっているのを感じた。


「エルフの大森林が近い。そこまでリューがもってくれるなら」

「わかった。俺は一人で狼の里へ向かう」

 ライは久々に完全獣体へと変身し、雷を伴って地面へと飛び降りた。地面に雷を落として着地の衝撃を和らげる。


「リュー。消える前に少しでもエルフの大森林へ近づいてください!」

 サリフェルシェリは腰のポーチから魔素あたりしたものに飲ませる薬を取り出して、慎重にミーシャに飲ませた。リューは主の一大事に、力を振り絞って空を駆けた。




「ダァーディー!ギルドからの緊急招集だ!」

「何があった?!」

 ダァーディーの家に転がるように飛び込んできたのがニーカとチェキータであることに気づいてスイは構えていた武器を下ろした。


「狼の里で高濃度魔素が爆発した!ギルドは高濃度魔素に強い獣人冒険者を緊急招集している」

「魔素の爆発?」

「あと、妖精様がユエと行方不明だ!多分攫われた!」

「なに?!そっちを先に言え!!」

 ダァーディーは慌ててスイが投げてよこす武器と防具を身に着ける。


「ニーカ!半鐘を鳴らせ!3-2-1だ」

「わかった!」

 ニーカとチェキータが一人ずつ冒険者を探して声をかけるより、猫族の里にいるものは半鐘で集めるほうが早い。素早く飛んだニーカが半鐘を鳴らす。

 半鐘を3回2回1回で鳴らすのは戦えるものへの「武装。里の外。集まれ」の合図だ。


「チェキータ!説明は任せた!俺たちは先にギルドへ向かう!」

「助かる!」

 今回の緊急招集は普段の魔物の爆発的な発生というものではない。高濃度魔素がどこへ移動するかで人族をはじめ魔素に弱い人たちを避難させなくてはならない。人手は多ければ多いほうがいいだろう。


「ダァーディー!」

「スイ!」

「双子か!」

 走り出したダァーディーとスイの後ろから声がかけられた。


「レンレンも行くよ」

「ランランも行くね」

 いつかのシャオマオが滑落する勢いで滑り降りた崖を、レンレンとランランが軽く飛び降りる。

 双子にとってはこの険しい崖も、ただの散歩道のようなものだ。


「兄さんの雷が見えたよ」

「シャオマオにきっと何かあったよ」

 二人は半獣体になって崖を蹴って降りると同時にパリパリと小さな雷をまとわりつかせる。二人とも、精霊は「雷」が使えるようになった。ライと同じなので喜んでいる。


 雷の精霊が教えてくれた。

 ライが雷を使っていること。精霊を集めていること。

 きっとシャオマオに何かあったのだ。




「ジル。魔道具の反応がどんどん強くなってる」

「わかった」

 ギルド職員がジルに耳打ちした。


 ギルド長室にはこの星の大まかな魔素濃度を測る魔道具がテーブルの上で静かに動いている。それを確認した職員がジルに報告に来てくれたのだ。


 水の中に浮かんだ球体が上下運動をして魔素の濃度を教えてくれる道具である。

 この星の地図の上、狼の里近くをさした矢印と、真ん中よりも下へ落ちていく球体を見るに、濃度はどんどん濃くなっているようだ。


「ジル!」

「ヴォイス!ギルド長室へ来てくれ」

 長身のヴォイスがギルドの入り口で手を振っているのをみて、ジルは微かにほっと息をついたように見えた。他の者にはわからない程度だが、ヴォイスにはわかった。

 ギルド職員に集まった冒険者たちへの説明を任せてジルとヴォイスは階段を上る。


「やっと帰れたと思ったらまた呼び出しだ。しかも狼の里の異変だと?妖精様はどうした?」

 ヴォイスは二人掛けのソファにどっしりと座る。


「妖精様はユエと一緒に行方不明だそうだ」

「妖精狂いが妖精様を見失ったってのか?」

「妖精狂いって・・・」

「狼至上主義は妖精にも狂ってるからな」

 ヴォイスがにたりと笑う。


 犬族の中でも狼の血が濃く残る者は神に近いという考えだ。同じ獣人よりも「すこしばかり」自分の血筋を誇りに思っているものが多い。犬族の中でも考え方は色々だ。


「人族エリアは狼の里から一番遠いが、いつでも避難できるように警戒してもらおう」

「避難たって・・・どうすんだよ?狼の里から南に魔素が迫ればこれ以上は逃げらんねえ」

 ヴォイスが地図をトントンと指で叩く。


 人族エリアの南は険しい山が連なっている。老人や子供は超えるのが難しいだろう。


「前に魔物が溢れた時、妖精様からもらった魔石で作った魔道具が人族エリアにはまだある。魔道具でがちがちに守りを固めてもらうしかないな。その間にこの魔素の爆発についてなにか解決できる糸口が見つかればいいんだが・・・」


 ジルは鳥族を呼ぶと、人族エリアの王ダニエルに向けて緊急避難の指示を飛ばした。




「にゃあ」

「・・・う?」

 ラーラが目を覚ますと、目の前いっぱいに猫のマズルがあった。スピカである。


「ラーラ!」

「・・・・神殿、か?」

「そうです!本当に本当に危なかったんですよ!」

 タミーが涙ながらにラーラに抱きついた。まだ子供のタミーは誰に対しても距離が近い。

 周りを見回すと、子供と老人が避難しているようで建物の中は少しざわざわと騒がしい。

 ラーラは布団に寝かされていた。


「里は?どうなっている?」

 まだ体は動かせない。魔素が体内に残って渦巻いているのを感じる。


 ラーラの部下がタミーに変わってラーラに説明する。

「いまは魔素に弱い者は神殿以外に居場所がありません。聖地から溢れた高濃度魔素は里に充満しています」

「魔素濃度は?」

「高です」

 この濃度ではラーラは魔道具なしに神殿から出ることが出来ない。途端に血を吐いて死んでしまうだろう。


「誰か、聖地を確認したか?」

「遠くからですが、石が発光しているのを確認しました。まるで導火線のように下から輝きが走り、先端から光がはじけたとのことです。そこから高濃度魔素があふれ出したと」


「妖精様は?」

「手がかりがありません。この獣も探したようですが見つけられないようです」

 スピカが「にゃうん」と悲しげに鳴いた。


「妖精様・・・」

「ユエ殿が一緒にいて妖精様を守ってくれるのを祈るしかないとは・・・」

 ユエは犬族相手にも強かった。

 あのユエが妖精様と離れ離れになって、妖精様を危険にさらすとは思えない。犬族が付いていけなかった以上はユエのあの執念にも近い妖精様に対する愛情にかけるしかない。


「立てるようになったら聖地を確認に行く。魔道具を用意してくれ」

「はい」


(妖精様・・・ご無事で!必ず助けます!!)





「・・・ユエ・・・」

 シャオマオは血にまみれたユエを抱き起そうとして、あまりの重みに一緒に地面に倒れこんだ。力の抜けた自分よりも背の高い獣人であるユエを上半身とはいえ起こすには筋力が足りなかった。


「ゆえ・・・」

 ユエの上半身にぺたりと身を寄せる。

 ぬるりとした血がシャオマオの服にもしみ込んできたので、服がまとわりついて動きにくい。


 不思議なことに、金狼と銀の器がいなくなったここは、まるで電気を消したように真っ暗になった。

 シャオマオの顕現した大精霊だけが光を放ってこの場所を明るくしている。


 大精霊がユエの魂を肉体に縛り付けている間に、傷を治さなければならない。

 銀の器が血を分けたことで肉体の崩壊は止まっているのがわかる。

 時間をかければ肉体は復活するのか、それとも崩壊が止まっているだけなのか判断がつかない。


 でも、シャオマオには予感がある。

 ユエが再び立ち上がるにはあと一つ何かが足りない。


 そして、足りないままだとユエと一緒にいられない。


「ユエ。ユエ。桃花の月。愛してる」


 シャオマオはユエの体にぴったりとくっついたまま、ユエの体を探って小さな細い折り畳みナイフを取り出した。

 ユエが着替えるところを何度も見ている。どこに何を隠しているのか、シャオマオはよく知っている。


 メスのような小さな刃はシャオマオを写すくらいピカピカだ。

 右手でしっかりと握って、刃先で左手首をなぞる。

 溢れた赤を、ユエの腹の傷にしみ込ませる。


「だから・・・・起きて、ユエ・・・・」

 シャオマオは目を閉じた。


 これが正解かどうかはわからない。


 でも、流れ出る命をつなぎとめるために、シャオマオの命を分けるしかないと思ったのだ。


 ユエ。ユエ。ごめんね。

 怒らないで。


 ユエの大好きなシャオマオの体を傷つけてごめん。


 ユエが何でもしてくれるように、シャオマオだってユエのために何でもしてあげたいの。


 とろりとやってきた眠気に、シャオマオは意識を手放した。





(ああ!ちくしょう!なんでこんな嫌な予感がするんだよ!)

 ライは完全獣体のままで唸り声をあげた。

 腹の底から湧いてくる不快感。ライはそれを必死に飲み込んで走った。

 足がもつれるような感覚で、速く走れている気がしない。


(俺が行くまで馬鹿なことしないでくれよ!頼むから!)

 ライは必死に祈った。



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