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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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ユエのもじもじ。シャオマオの思い切り。

 

 朝からユエがもじもじしている。


 訳が分からない。


 ライは朝になってユエとシャオマオの二人を見て、首をひねった。

 何かあったのか。


 あったと言えばあった。

 シャオマオが成人を超えたような妖艶な美女に成長したことだ。


(そしていつものようにユエがプロポーズをして、失敗・・・してたよなぁ・・・?)

 ライはシャオマオが目を回して返事らしい返事が出来なかったところを見ている。


「んで、この感じ・・・?」


 目の前では、顔を赤らめた二人が縁側に仲良く座っているが、お互いに手がつなぎたいけれど言い出せない雰囲気でもじもじしあっている。

 手は横へ伸びるが、つなぐ寸前でもじもじ。少し触れ合っては引っ込めてを繰り返している。


 ライはお兄ちゃんとして、シャオマオが付き合う相手には節度を持ってシャオマオに接してほしいと思っている。たとえ相手がユエだとしても。

 小さなときからべたべたべたべたしては勝手に匂いをつけたりするのは良くないと思っていた。

 思っていたが、ここまで大人になった姿で初々しくもじもじされるのも複雑である。


「妖精様。ユエ殿。おはようございます」

「お!おはようラーラ」

「おはよう」

 背後から声をかけられて驚いたシャオマオ。ちょっと浮く。


「食事の準備が整いましたので、どうぞこちらに」

「ありがとう」

 二人はチョンと指先を触れ合わせると、シャオマオがユエの人差し指だけを握って飛んだまま引っ張ってもらうことにしたようだ。ふよふよと風船のようにユエについていく。

 里の貴人が身に着ける着物を用意してもらったので、まるで天女のごとき美しさである。


「おはようございます。朝から精が出ますね」

「おはよう、ラーラ」

 傍らに置いてあった手ぬぐいを投げて、ラーラがにこりとする。

 ライは今日も庭で一人鍛錬をしていたのだ。


「あの二人、昨日何かあったのかな?」

「わかりませんが、ユエ殿もあのお美しい妖精様に照れておられるのでは?」

「うーん。単純にそれもありそうなんだよなぁ。急にあんな美女になっちゃうなんてな」

 ライも驚いた。

 先代の妖精はずっとこどもの姿をしていたと伝わっていたのでライも安心していた。あんなに可愛いとはいえ子供の姿をしていたので。しかし今は誰が見ても国が傾くほどの美女になってしまっている。

「一目見てしまえば虜になったやつが溢れるんじゃなかろうか・・・・」

「妖精様のお美しさは誰をも虜にするでしょう。しかし、この狼の里に居れば安心です。不届き者はおりませんよ」

 大神信仰が厚いこの里で、大神の欠片をもつ妖精様を自分のものにしたいなどという欲望はないのだという。ただでさえ狼の血が濃く残るこの里の獣人たちは完全なる序列社会である。一度トップと決めたものに逆らうことはない。

 今はクリスのばあ様がトップなのでさらに安心だという。


「ばあ様は狼の里に伝わる神話を愛しているから、妖精様のことも大切にしています」

「大神の話は妖精様とセットだもんなぁ」

 汗を拭いたがライは一旦着替えてから食事に向かうことにした。




 食後、ギルドからの手紙を受け取ったヴォイスたちがそろそろギルドに帰ることになった。

「手紙では報告してたんだが、そろそろ実際の報告をしてほしいってよ。あとミーシャにも来てほしいらしいんだよな」

「わかりました」

 ミーシャも体力が回復したので報告に来てほしいということだった。

「ミーシャは冒険者じゃないのに」

「ジルも今回のことは不思議で済ませるわけにはいかないので、脱出できるすべがあるなら知りたいのでしょう」

 不満顔のシャオマオをサリフェルシェリがなだめる。


「ミーシャが召集されているなら、私も行きますよ」

「サリー」

「シャオマオちゃんはユエとお留守番かなぁ・・・」

「そうですね。荒くれ者が多いギルドで混乱が起きそうです」

 全員がシャオマオを見て、サリフェルシェリの言葉に納得する。


「番のいない男は全員求婚しそうだな」

「それを見てユエが暴れる」

「ジルが泣きますね」


 今までならこんな話をユエの前ですれば、ユエは不安でシャオマオを離すまいとしていただろうが今は大人しく座ってもじもじとしている。


「ユエ。二人になっちゃうみたい」

「・・・うん」

「ユエがもしギルドに行きたいなら、シャオマオはここで待ってるの」

「いや、俺が行っても話すことはライと同じだ。シャオマオがここにしばらく滞在したいなら、俺もここにいるよ」

「ありがとうユエ」

 シャオマオが隣に座るユエの肩に頭をそっと乗せる。

 ユエはシャオマオの頭をそっと壊れ物のように撫でる。


「・・・今までと違った感じで甘いですね」

「うん。甘さの種類が変わったな」

 サリフェルシェリとライが顔を見合わせる。

 ハーブティーはさわやかですっきりとしたものにした。




 皆がギルドに出発してから、シャオマオは虎のユエに乗せてもらって再び星のへそを訪ねた。

 虎姿のユエとここで昼寝をするのがお気に入りになったのだ。

 その間、幸せな夢を見ていた記憶だけが残る。


 午後はユエと犬族の訓練を応援する。

 犬族は猫族と違って、1対1の対決はほとんどしないらしい。1対複数で敵と対峙する。例外がラーラだ。

 指揮を執り、しんがりで皆を守ることもするので一人でも戦える。

 巨大な剣を振り回して戦う姿は凛々しく美しい。

 半獣姿のユエとラーラが戦う姿は大迫力だった。


 ユエの半獣姿は巨体であるが、音のしない足運び。

 巨大な爪でラーラの剣を防ぎ、尚且つどんどんと前に出て攻撃するスタイル。

 暗器を繰り出す速度。そしてそれを手足のように操る練度。

 そのすべてでユエが強者であると示していた。


 しかし、ラーラも強者。

 後手に回っているように見えてしまったが、すべての攻撃をいなして剣を振るう姿は圧巻であった。




「ユエ殿。我々は序列を大事にします」

 訓練を終えて、井戸で水を浴びていたラーラとユエ。

「今日の訓練で、ユエ殿を侮る者はいなくなったでしょう」

「・・・そうか」

 ラーラから渡された手ぬぐいで顔を拭くユエ。


 ユエは人に侮られようとも気にしない。しかし、シャオマオと一緒にいるためにはそれではいけないとわかっている。そのため力を見せることにも躊躇しないようにしている。

 ラーラはそれをしっかりわかっていた。


 ラーラとの訓練の後、里の若い衆がユエに訓練をお願いしていた。

 ユエは丁寧に全員相手にし、ぶちのめしていた。

 数人怪我をしたようだが、ユエの実力が分かって安心したものもいたようだ。


 妖精様の尻尾が狼族であるため、狼の里で保護しあわよくば侍りたいと欲をかいたのかもしれない。

 犬族は本能的に狼を崇拝し、従うことを喜びとしている。

 猫族が後ろ盾になったことに反発するものもまだいる。

 どうしようもない。


 すべては妖精様の思うがままなのに。



「ユエー」

「シャオマオ。こっちだ」

 シャオマオがユエたちを探して井戸までやってきた。


「ユエ。ラーラもかっこよかったの。怪我してないかしら?」

「大丈夫です。ユエ殿は加減が上手い」

 途中でガツガツと何発か殴り合っていたように見えたが、獣人からすればじゃれあいにもならなかったのだろう。上半身裸の二人に痣らしきものは見当たらない。頑丈である。


「シャオマオ・・・・ちょっと・・・」

 シャオマオの指が真剣にユエの上半身を撫でる。

 少しの怪我も見逃さないように、水の滴る滑らかな肌の上をシャオマオの白い指が滑る。


「・・・くすぐったい・・・・」

 ユエが少し震えながらつぶやく声をやっと拾ったシャオマオは、はっとユエの顔を見た。


 少し赤らんだ顔。

 伏せられた視線。

 水が滴る彫刻のような姿態。


「シャオマオったら、シャオマオったら・・・・・・・・・!!ごめんなさい!!!!」

 真っ赤になったシャオマオが空を飛んで逃げてしまった。


「あ!シャオマオ!」

 ユエが追いかけようとしたが、その前に女性の世話人ベラが追って行ったのを見てラーラが止めた。


「里の中なら安心ですよ。ベラは女性で一番腕が立つ」

「しかし・・・」

「あの方向ならばお部屋にこもるのでしょう。着替えてから合流しましょう。妖精様もまだ恥ずかしがっておられる。時間をおいてあげるのも優しさですよ」

「・・・わかった」

 ここでラーラもおや?っと思った。


 いつものやり取りを見る限り、ユエがシャオマオに触られてくすぐったいからなどと言って止めるようには思えない。シャオマオが飛び去って、追いかけないという選択肢もあり得ないだろう。


 二人の関係が確実に変わってきているのだなとラーラはほほえましく思った。


 ラーラはもちろん今でもシャオマオの忠犬となり、シャオマオの手足や牙となり仕えたいという欲求がある。そばに侍り、生涯シャオマオを守って暮らしたい。

 しかし独りよがりの忠誠など、シャオマオは求めていないのだ。


 全身全霊でシャオマオ以外のものを必要としない、このユエこそが一番シャオマオに必要なのだというのがいまではよくわかる。


 この二人は鏡合わせのようだ。姿かたちは違っているのにそっくりだ。



「・・・シャオマオ、入っていい?」

 ぽすぽすとふすまをノックするユエ。ちょっと時間をおいて着替えてきた。


「あにょ、えっと。・・・・はい、ドーゾ」

 部屋に入ったユエは、うつむいてるシャオマオの手を握る。


「ごめんね、シャオマオに触ってほしくなかったわけじゃないんだ」

「うん・・・わかってるの」

「なんだか急に、恥ずかしくて・・・」

「シャオマオが大人になったから、かな?」

「そうだね。ますますきれいになった」

 ユエは珍しく、赤い顔でニコッと笑った。

 シャオマオはまぶしくてそんなユエの顔を見て、またぱっと顔をそらしてしまう。


「ユエも。・・・・・ユエもきれいよ。シャオマオ出会った時から、ユエのこときれいって思ってる」

 真っ赤になりながら、シャオマオも絞り出すように言葉を紡ぐ。

 ここで言いよどんだり遠慮すると誤解が生まれそうだから、一生懸命に言葉を尽くす。


「シャオマオがどんなに成長しても・・・・・しなくても。シャオマオが一番なんだ。きっとどんな一瞬でもシャオマオを好きなことは変わらないよ」

「うん。シャオマオも・・・同じ気持ち」

 お互いに畳に座って、もじもじ、もじもじと気持ちをゆっくりと吐く。


「ユエ。結婚式・・・したいね・・・・」

「!!」

「ユエと、二人で生きる約束の式でしょ?だったらやりたい・・・・の」

「・・・・・・」

「みんなお祝いしてくれるかな?」

「・・・・・・・・・」

「・・・ユエ?」

 嫌だったのかと思って顔を上げたら、座ったまま気絶してた。

「ユエー~。うわーん!ベラちゃん助けてー!!」

 大騒ぎであった。



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