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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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猫族の里のご飯は「里飯」っていうのらしい

 

「ジル!」

「妖精様・・・?」

 いつものように飛び込んでくるのは鳥族あたりかと思っていたが、窓から部屋に飛び込んできたのは妖精シャオマオだった。


「ユエは?みんなどうなったの?」

「妖精様、落ち着いて。一人で来たのか?サリフェルシェリは?」

「ジル!教えて!」

「とりあえず落ち着いて。説明するよ」

 ジルに肩を掴まれて、トントンとゆっくりのリズムで叩かれる。

 ギルド長室のソファに案内されるままボスンと座った。


「ユエたちの探索は順調だった。ある一定の深さまで潜ると別のダンジョンに繋がっている道があることが分かったんだ」

 ユエたちが作ったダンジョン内のマップは複雑で紙をつなげると大きなマップになる。


「北の大ダンジョンは確かに他の小さなダンジョンに繋がってしまっている。そこから魔素が漏れて今や初心者用のダンジョンでも魔素濃度がそれなりに上がってしまってる状態だな」


「ジル。シャオマオの質問に答えて。ユエは無事?ライにーには?ヴォイスやみんなは?」

「妖精様。サリフェルシェリがきたらちゃんと説明するよ」

「だめ!今教えて!!」

 立ち上がって駄々をこねるシャオマオの姿に、ジルはため息をつく。

「しゃーねえな」


「無事かどうかはわからねえ。探索は順調。この地図を地上の連絡係に届けたのが最後だった。連絡係がダンジョンに戻る冒険者を振り向くと、もう入り口はなくなって、岩壁しかなかったんだそうだ」

「・・・・・閉じ込められちゃったの?」

「いまは他のダンジョンにもつながってるからな。どこかの出口から出てこられるかもしれない」

 シャオマオの体が小さく震える。


「妖精様。サリフェルシェリが来るまでここで大人しく待ってくれ」

「・・・・うん」

「とりあえず、飯は食ったか?」

 コクコク頷く。


「茶を入れるから、座っててくれな」

 ジルは湯を取りにキッチンへ向かって行った。



「シャオマオ様!」

 部屋に飛び込んできたサリフェルシェリがシャオマオを見つけて抱き着く。

「サリー!」

「もう、本当に矢のように飛び出していくのだから慌てましたよ」

「サリィ~」

 ひいんっと泣き始めたシャオマオを慰める。


「ゆゆゆえ、も、みんな、も、ダンジョンから、ででででられないかも・・・・」

「大丈夫ですよ。シャオマオ様」

「どうして?」

「シャオマオ様、皆に祝福を与えてお守りを渡しましたよね」

「う、うん」

「何か感じますか?例えば絆が切れたような」

「ううん。何も感じない」

「では大丈夫ですよ。まだ皆の身代わりにお守りが壊れるようなことにはなってないのですよ」

「ほんちょ?」

「ええ。サリーを信じてください」

 シャオマオの涙と鼻を拭いてあげる。



「サリフェルシェリが来てくれてよかったよ。このお姫様ったら強情で」

 お茶を飲みながら恥ずかしそうにするシャオマオを、ジルが笑う。


 自分の意見を通すときのあの強い瞳の光。冒険者をまとめるギルド長のジルは弱くない。普段はふにゃふにゃしているように見せているが、今でも戦えば上位冒険者と並べるくらいの実力はあるはずだ。

 それでもシャオマオの眼光には逆らうのが難しかった。

 恐怖したわけではない。

 抗いがたい力がジルに口を開かせたのだ。


「シャオマオ様。ユエたちのことが心配でしょう。しばらくギルドに泊まりますか?」

「うん。そうしたい」

 ギルドの寮にはまだシャオマオの部屋がある。


「では、お部屋まで送りましょう」

「サリー。いつでも何かわかったら、必ずシャオマオに教えてね。夜中でもよ」

「わかってますよ。必ずシャオマオ様を起こしますから安心して眠ってください」

「ありがとう、サリー」

 きゅうと手を握ってくるので、強く握り返して安心させる。シャオマオの機嫌をとるのはサリフェルシェリだって上手いのだ。


 サリフェルシェリはジルの部屋に戻って、一緒にやってきたジェッズとサラサに屋敷に戻ってもらう。

 お屋敷精霊のレーナにしばらく帰らないことを連絡しなければ。




「にゃあ」

 シャオマオは聞き慣れた鳴き声に起こされた。

「スピカ・・・?スピカ!どうしたの?一人で来たの?」

 ガバッとベッドから飛び起きると、スピカのマズルが目の前に迫っていた。


「にゃー」

「そっか、一人で走ってきたんだね。急に帰ってこないからびっくりしたんだね」

 ぎゅっと抱きしめて慰める。


「ごめんね」

「にゃあ」


「シャオマオ様。起きていらっしゃいますか?」

 トントンとドアをノックする音。


「サリー!」

「おはようございます」

 ドアを勢い良く開けると、薬湯を持ったサリフェルシェリが立ってた。


「朝ご飯の前に薬湯を飲みましょうね」

「はぁい」

 まずいわけではない。抹茶の味だ。ものすごーーーーく濃い抹茶の味。

 シャオマオの部屋は家具がないのでベッドの上に座って「ズズズ」っと吸いきった。


「サリー。朝までみんなの様子分からなかったのね」

「ええ。まだ続報はありません。シャオマオ様の方はどうですか?」

「んんん。まだ特に途切れたような気はしないなぁ」

「では大丈夫ですよ。サリーは妖精様の力を信じておりますから」

 カラッと笑われると本当に大丈夫なような気がする。


「朝ご飯はギルドの街に食べに行きましょう」

「お外で食べるの?」

「ええ。ギルドの街は基本が外食ですからね。朝ご飯が人気のお店がありますよ」

「うん・・・・」

「シャオマオ様。どんなふうに待っていてもいいのですよ。でも、シャオマオ様が落ち込んで食事もままならなければ私が戻ってきたユエとライに叱られます。さあさあ、シャオマオ様は元気に待つのが目標ですよ」

「はい!」

 流石学校の先生だ。なんだか元気に待つという目標をもらったので罪悪感が薄くなる。


「シャオマオ様。あまり張り切って食べるのも胃に負担がかかるかもしれませんね。猫族の女将さんが出してる里飯の屋台がありますよ」

「見てみたいかも」

「はい。行ってみましょう」

「にゃー」

 スピカも一緒についてくる。



「鳥のおかゆ、たまごのおかゆ、丸鳥とパンの揚げたのと甘いお茶ください」

「妖精様だね。猫族の養い子だ。たんと食べな」

 猫族のおばあちゃんが粥をたくさん盛ってくれたのを食べて、スピカにも丸鳥をほぐして食べさせた。

 じんわりとだしの味がして美味しい。

 スピカはご機嫌で「うにゃらうにゃら」とうたいながら食べている。


 サリフェルシェリとシャオマオの組み合わせは朝からとっても人の注目を浴びる。

 妖精様と美貌のエルフ族の姿はギルドの街であってもめったに見れるものではない。遠くからの視線を感じる。


「なんだか見られてる?」

「妖精様の美しさは、皆の心を虜にしますから」

「ラーラ!」

「おはようございます。妖精様。ご一緒しても?」

「勿論よ!」

 ラーラは人型で丸鳥と揚げパンをお盆に乗せてやってきた。

 やっぱりラーラも美形が過ぎる。この星には美形しかいないのかという気持ちになるシャオマオであった。




「北の大ダンジョンの入り口が無くなったと聞き、現地を確認してきました」

「本当?どんな様子だった?」

「本来、入り口があるはずの所が壁になっていて全く入り口が見つけられませんでした」

「大穴の様子は?」

「大穴は変わらずありますが、魔素濃度が薄くなっていますね」

 ジルが確認した以上のことはまだわからないようだ。


「妖精様もユエ殿やライ殿のことが心配でしょう。犬族は皆、妖精様のために働きます。何かあればお声をかけてください」

「ありがとう、ラーラ。頼りにしてるの」

「お任せください!!」

 頼りにしてるの、という言葉が愛の言葉のように響いたラーラは褐色の肌をほんのり赤く染めて力強く答えた。


「でも、きっと大丈夫なの。シャオマオったら気持ちを込めて『みんな無事で』って祈ったの。お守りも『何かあったら身代わりになってね』ってお願いしたのよ。だから大丈夫なの」

 シャオマオはふんわり笑う。


「シャオマオったら、きっと大丈夫って信じてるのよ。お守りも精霊も『危ないよ』って連絡ないのよ。だから大丈夫なの」

 シャオマオがフルフル震える。


「ユエもライにーにも強いし、虎さんにもなれるし、ライにーには雷もびりびりできるのよ。ヴォイスは大きい白熊さんだし、他の冒険者の人も強い獣人だって聞いたの。だから大丈夫なの」

「シャオマオ様」

 サリフェルシェリがシャオマオを抱きしめる。


「そうですよ。シャオマオ様が祈っているのに怪我の一つもするわけないのです。安心してください」

「ええええーーん。サリー。みんな帰ってくるよねぇ?」

「勿論です。必ずシャオマオ様に全員で『ただいま』を言ってくれますよ」

 ほろほろ大粒の涙をこぼすシャオマオを抱きしめて、サリフェルシェリの胸は濡れている。


「妖精様。妖精様の願いは必ず叶います。私が叶えます。絶対に皆無事に帰ってきますから安心してください」

 慌てて立ち上がったラーラも必死にシャオマオを慰める。

 妖精様が泣かなくて済むよう、尽力を尽くそうと誓うのだった。


「あまり泣いてはいけませんよ。暗くなるようだったらリリアナの所へ服を買いに行きましょう。それともドワンゴの工房に遊びに行きますか?」

「私もお付き合いします。妖精様の護衛を」

「ありがとうラーラ」

 タオの実色の瞳からボロボロ涙をこぼしながら、懸命に笑おうとするシャオマオ。


 かわいい。妖精様はほんとうに可愛い。

 ラーラは顔が熱をもつのを感じた。



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