里はよいとこ、なんか見たことあるところ
「お前ら本当にイヤな奴らよ。なんで罠に一つもかからないのか」
「ホントよ。なんで全部避ける」
怒った年若い男女の声が聞こえたのが翌日のお昼ご飯を食べたあとののんびりした時間帯だった。
お茶を飲んでまったりしていたら、木の上から話し声が聞こえたのだ。
ちょっと癖のある話し方だ。一応共通語なのでシャオマオにもなんとなくは分かるが、訛っていることもわかる。
「レンレン。猫族もいるな」
「ランラン。里に入れて大丈夫か?」
地上に降りてきたのでユエが立ち上がってシャオマオを背に庇ったが、興味が湧いてシャオマオはユエの足からちょっとだけ顔を出す。
「シャオマオ危ないよ」
「ちょっとなけ」
「しょうがないな。ちょっとだけだよ」
見たいなら見せてあげようと、ユエはシャオマオを立て抱きにしてやってきた二人を見せた。
黒い髪に黒い獣耳。エメラルドのような輝きの瞳。
『双子!しかもかわいい!』
全く同じ背格好で同じ顔つきの男女の双子のようだ。18歳とかそのくらいかな?シャオマオがプレゼントでもらったカンフー服と同じような服をお揃いで着ていて本当に人形みたいにかわいい。二人ともおかっぱ頭で揃えているのでしゃべらないとどちらが男の子か女の子か、ぱっと見ではわからない。体の線が見えにくい服装だからだろう。
「う!めちゃくちゃかわいい。あれナニ?」
「タオの実の色の髪よ。タオの精霊か?」
シャオマオと対面した双子は二人でこそこそ話す。
「目の色と髪の色、ライと一緒!」
「うわあ!精霊が話しかけてきた!」
シャオマオがびしっと指さしたので男の子のほうが真っ赤になって胸を押さえた。
「かわいさで人を殺すつもりか?!」
そんな物騒なつもりはないのだが、殺すの単語がわからないのでいつものように「う?」と首をかしげるシャオマオ。徹底的に汚い言葉から遠ざけられた結果である。
「なんだオマエ本当に可愛すぎるな」
「ありがとうごじゃーますます」
ほめられたのがわかったので丁寧にお礼を言ったらちょっと言葉がおかしくなった。
「ひぃ~!ランランだめだ!レンレンは戦えない!」
「レンレン!ランランも戦えない。精霊を傷つけてしまったらと思うと・・・」
二人はぎゅっと抱き合って嘆いている。
「そうだな。シャオマオはかわいい。この世の何よりもかわいい俺の番なんだ」
シャオマオを褒められた時は饒舌になるユエに言われて、レンレンとランランの二人ははっとした。
「虎男!お前ユエか!」
レンレンがユエを指さした。
「そうだ」
「本当に兄さんに会いに来てくれたんだな」
「シャオマオが会いたがったからな」
「ユエだったか。何故里に来ない?会いたかったのに」
ふすんと鼻を鳴らしてランランがいう。
「俺はお前たちを知らない」
「知らないわけないよ。でも会ったのずっと昔よ」
「レンレンとランランは恩を忘れてない。でもさすがに初めて見るユエの人型はわからないね」
二人は「はっはっは」と声をそろえて笑ってから頭を下げた。
「「失礼した。皆様を里に案内いたします」」
声がそろった。
最短距離を行ったので、予定より短い時間で到着できた。
猫族のエリアは切り立った崖の上に作られていて、基本的には子育てや仕事を引退した老人が暮らしている。猫族の若者は基本的に成人すれば冒険者や傭兵となって外に出ていくので、里帰り以外で見ることがあまりない。
入り口から子供がたくさんいるのが見えて、シャオマオがユエの腕の中でじたじたと興奮した。
「ユ、ユエ!こじょもいっぱい」
「そうだね。たくさんいるね」
今まで出会ったのが大人ばかりで、この世に子供は自分一人なのかと思っていたがそんなわけはなかったのだ。
そして、建物や里の雰囲気、人々の服、生活感。
(完全にカンフー映画の世界だ・・・)
服を見てなんとなく思っていたが、やはり何かつながっているのかと思わせるくらいに似通っている。
入り口のところで小さな子供が、生まれて少し経ったくらいの目のあいた子猫を抱きしめて歩いている。
「チビ猫が独りぼっちよ。保護しないと」
友達に出会って腕の中を覗かれて、ごにょごにょと説明している。
「う?」
聞こえてきた声に、シャオマオは自分が話に出てきたのかと思ってそちらを見たが、特に子供たちは自分のことを見ていない。
「う・・・?」
シャオマオは考えた。
「シャオマオって・・・『子猫』なの?」
「コネコが何か知らないけど、ああいうチビ猫をシャオマオというんだ」
ユエの背後から、懐かしい声が聞こえてシャオマオはユエの肩越しに振り返る。
「やあ。やっと来てくれた」
「ライ~~!」
興奮してユエの腕の中でジタジタと暴れるシャオマオを見て、「釣り上げられた魚みたいだ」といってライに大笑いされた。
「シャオマオ落ち着いて」
背中をポンポンされた後に、地面に下された。
「ライ~!」
がしっとライにしがみついて全身で感情を表現した。
「に~しゅうかんも帰ってこない~!なんでえ?なんでえ?シャオマオさみしかっちゃ!」
「わあ!シャオマオちゃん!それ以上は俺の命が危ないから落ち着いて!」
べりっと剝がされて、またユエの腕の中に戻される。
「シャオマオ。簡単に俺以外の男に抱きついたりしないで。シャオマオから俺以外のやつの匂いがするなんて耐えられない」
「あーい・・・」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、匂いを付け直されているようだ。
ユエはいい香りがするから匂いをつけられるのは嬉しいので抵抗しない。
「ライ。無事でよかったとは言えない姿ですね」
サリフェルシェリがため息交じりにライを確認する。
「まあな。手紙を確認もしない薄情な奴のせいで、族長やら里帰りの連中に引き留められてたんだ。しばらくレンレンとランランの相手もしてたし」
ライの体は服から出ているところだけでもケガやあざが目立つ。
「猫族の里帰りは大変だな」
「鳥族は飛べなくなるような危険なことはしないからな」
とニーカとチェキータもくるくるライの周りをまわってケガを調べる。
「ライだいじょぶ?いちゃい?」
「大丈夫だよ。この程度はケガにも入らない」
ニカッと笑って見せるライは本当に気にしていないように見えたので、いきなり抱き着いてしまったシャオマオはほっとした。
「でも、二週間で我慢できなくなるなんて、シャオマオちゃんは優しいなぁ。一か月くらいは引き延ばされるかと思ってたのに」
ユエに抱っこされているシャオマオの頭をそっと撫でる。
ユエもあれだけ会いたがっていたシャオマオを見ていたので、少し触るくらいは許したようだ。
「兄さん、その精霊が・・・」
黒耳、エメラルドの瞳が三人揃ったら、やっぱりよく似ていることがわかる。
精悍な顔つきのライに、かわいらしい顔つきの双子なので雰囲気は違うが確実に血のつながりは感じる。
「シャオマオちゃんだよ。ユエの片割れだ」
「精霊ではなかったか。人族?」
「それにしてはかわいいが過ぎるよ」
「シャオマオちゃん、こっちがレンレン。こっちがランラン。双子で俺の弟と妹だ。来年成人するから14歳だな。冒険者を目指して修行中だ」
ライはひそひそ話し合いしているレンレンとランランを紹介してくれた。やっぱりライの双子の弟妹だった。
「レンレン、ランラン、こちらは妖精のシャオマオちゃんで4歳だ」
「「妖精!?4歳!?」」
双子も驚いたが、シャオマオも驚いていた。
背が高くて美人の双子は14歳。こんなに背が高くて大人っぽいのに?
「兄さん、4歳にしては小さすぎね」
「ちゃんと食べてるの?妖精はご飯食べないか?」
「そうなんだよねぇ。小さくて心配になるよねぇ。でも、だんだん食べる量も増えてきたから、そのうちふくふくになるよ」
「里のご飯食べるかな?」
「シャオマオちゃん好き嫌いないし、大丈夫じゃない?」
「よし!妖精がご飯食べるところ見れるね」
レンレンがガッツポーズしたが、それを見て(別にそんな変わった食べ方はしないけど何か期待されてる?)と首をひねるシャオマオ。
それを見て「かわいいが過ぎる・・・」と感動するランラン。
ちょっと動くだけでかわいいかわいいと言われる。小さいころからレンレンとランランは着せ替え獣人人形ラッキーちゃんで遊んでいた。ちょうどシャオマオがドンピシャの大きさなのも加味されてる。
「この大きい虎が『あの』ユエだ。エルフがサリフェルシェリ。俺の先生でもある。鳥族のニーカとチェキータ。二人は番だ」
「皆様のお話はよく兄さんから聞いてます」
「ユエ、あの時はありがとうございました」
双子がみんなにお辞儀をした後に、ユエには深々と礼をいう。
「構わない」
ユエはあっさりとしたものだ。
過去であり、結果でしかないので礼を言われることでもないと思っている。
「兄さん、族長のところにみんなが来たことを知らせて来るよ」
「ランランはマリーナ母さんに知らせて来るよ」
双子はそれだけ言い残すと、すっと姿を消してしまった。
「ひょ!?」
「レンレンとランランは素早いんだ」
ほら、と言って指さされたところを見ると、レンレンとランランはそれぞれ左右に分かれて人の家の屋根の上を走っていた。
「ほわあ~。『忍者』だ」
感心しすぎて変な声がでてしまう。
「にん?」
ユエに尋ねられたが、忍者を説明する語彙がないのでニコッと笑ってごまかした。
「さあ、迎えが来るまでは俺の家で待っていようか」
「あーい」
ライのおうちに招待してもらえるみたいだ。楽しみ!
ニコニコして返事をしているシャオマオをみて、まぶしそうに笑うユエ。
それを見て、ほほを染める子育て中の猫族ママさんたち。
ここでもユエの笑顔は武器になるようだ。
ユエは普段は猫族の服装をしていません。
里まで行かないと買えないのと、リリアナの店でライが調達していたからです。




