人族エリアの様子を確認
「シャオマオ、なの?」
「う・・・うん」
シャオマオは学校の友達、カラとジュード、ペーターを屋敷へ招待した。
当然みんなはまだ子供。
シャオマオは大人並みに身長が伸びているので見上げられている。
「本当にシャオマオ・・・なんだな」
「うん。しょーなの」
シャオマオが噛んだ瞬間、3人ともがわあっと声を上げた。
この舌ったらずはシャオマオだ!と確信した瞬間であった。
「シャオマオ、獣人になっちゃったの?」
「なんでそんなに急に大人になっちゃったんだよ。まだ子供でいいだろ」
「しっぽはあるけど耳は・・・エルフ族みたいだね。なんの獣人かわからないなぁ」
ペーターがスカートからはみ出るピンクのしっぽを覗き込もうとしたらぐいっと首根っこを掴まれた。
「・・・ユエ先生」
「菓子を持ってきた」
「わー。ありがとうございます!」
カラがテーブルの上のお菓子を見て椅子に飛び込むように座った。
「ごめんねシャオマオ。興味が、ちょっと、過ぎちゃって」
「いいよ。気になるよね!人のしっぽちゃん」
シャオマオはカラっと笑ってユエの膝の上を避けて隣の椅子に座った。
とてもとても残念そうな顔をするユエ。
明らかに客(子供)の前でもイチャイチャをあきらめないユエの溺愛にはみんな慣れっこであった。
ペーターは傍らでお茶を入れてくれるレーナに視線が吸い寄せられている。
「ペーターはレーナちゃんと会ってるよね」
「うん・・・。すごくきれいな人だ・・・」
「レーナちゃんこのお屋敷の精霊ちゃんなの」
「精霊?!こんなにはっきりと、誰にでも見える精霊!?」
お茶を配ってくれるレーナがペーターの瞳を見て、微かに微笑む。
驚くくらい真っ赤になるペーター。
「物語にも出てこないよ、こんなにきれいな精霊様・・・」
「そうなの?お屋敷を守ってくださーいって気持ちで出てきてもらったから、他にいるのかわかんないけど・・・」
「ちょっと待って。・・・・シャオマオが召喚したの?」
「うん」
レモンケーキを一口頬張る。
そろそろ暑くなってきたのでさっぱりとした後味のケーキが美味しい。
レモンの形のさっくりとしたケーキはシャオマオのお気に入りだ。
「僕、常識ってなんだったか忘れちゃいそうなんだけど・・・」
「ペーター、そんなこと考えたってしょうがないじゃない」
「そうそう。妖精様なんだぜ?考えたって俺たちの常識が当てはまるわけないじゃーん」
カラとジュードはレモンケーキをぺろりと食べて、お代わりをレーナにねだっている。
「このケーキ本当に美味しい!」
「よかった。これライにーにが作ってくれたの。お土産に持って帰れるようにしてくれてるからこっちのクリームのケーキも食べてみて!レモンのクリームなの」
「やったぜ!ライ先生本当に料理上手だよな」
「お嫁さんになるひと、幸せだろうなぁ」
カラがうっとりとクリームをすくって口に含む。
酸味と甘みがちょうどとろけるようなさっぱりとしたクリームが紅茶にも合う。
獣人には「女は家にいて家庭を守る」というような話がないのだ。
どちらかというと、男女というよりはその獣性に基づいた習性を持っているので「女が外で狩りをして、男が家を守る」という夫婦もいる。
無理せず自分の特性を活かせる組み合わせであれば幸せなことだ。
「ところでシャオマオ。今日はシャオマオがくれた魔石のあまりを持ってきたんだけど・・・」
「ん?魔石?それペーターにあげたの」
「もらえないったら!これだけでいくらすると思ってるのさ」
「んー?ユエ、いくらだろうね?」
シャオマオは傍らのユエを見る。
「そうだね。最高レベルの虹が出ていたから、一つでも価値があるが宝飾品には粒が小さいものが多いし、シャオマオが気にするような金額じゃないんじゃないかな」
「気にしてほしい・・・」
レーナが持って来た時より数を減らしてしまったが、まだ大きめの巾着に3つ分の魔石が残っているのだ。
家にあるだけで心臓が持たないので引き取ってほしいと懇願して、なんとかシャオマオに受け取ってもらえた。
「レーナちゃん、これもとあったところに戻してきてくれる?」
コクンと頷いたレーナはお盆に巾着を乗せて二階へ消えていった。
「魔石ったらね、生きた証でしょう?」
「生きた証?」
「うん、魔物がいた証。魔物が頑張って魔素を浄化した証」
シャオマオがにこにこという。
「みんな魔石になったあとも働きたいとか役に立ちたいって気持ちでいてくれるの。だからシャオマオのチェストの引き出しにいるより、ペーターの工房で魔道具になるの喜んでるのよ」
「そう、なんだ・・・。え?」
「え?」
「引き出し?」
「うん。引き出し」
「金庫?」
「ううん?鍵かからないよ」
「僕、このお屋敷に遊びに来ていいのかな・・・」
「もちろんよ。ペーターったらとってもシャオマオに優しくしてくれるの。いつもありがとう」
ぽっと頬を染めるペーター。
「魔石の値段は分からないけど、泥棒とか大丈夫なのかな?」
「う?」
「妖精様のいるところに泥棒に入ろうとするやつはいないだろう?」
「シャオマオは守られているから大丈夫だ」
カラとジュードの疑問に、優しく応えるユエ。
ただ、警備がちょっとシャオマオに偏りすぎていたために、お屋敷を守る精霊レーナが出来たのだと言われて納得する。
「人造精霊か・・・。すごいな」
空になった巾着を受け取って、ペーターはまじまじと精霊レーナを観察する。
「ちょっと、ペーター女性に対して失礼じゃない?」
「そうだぞ。いくらタイプだって言っても穴あいちゃうぞ?」
カラとジュードに言われて驚くペーター。
「タタタタタイプ!!」
「そうでしょ?ずっとレーナちゃんのこと見つめたままで、ケーキもあんまり食べてないじゃなーい」
「そそそそそそそんな、そんなこと!」
「そんなに照れなくってもいいじゃない」
ケラケラと笑われるが、ペーターにはもう何も聞こえないくらい狼狽えているのだった。
きょうシャオマオが友達を呼んだのは、シャオマオが避難していた人たちや人族エリアの職人たちがどうしていたのか話を聞きたかったからなのだが、ペーターがこんなに喜んでくれるなら呼んでよかったなぁと思ったのだった。
「最初はもう出来上がった武器に魔石をつけて、魔道具にしたところから始めたんだ」
しっかりとした武器を一から作るのには時間がかかる。
普通の製造をしていたのでは間に合わないと踏んだドワーフのアイディアだったのらしい。
そのおかげで魔石の加工場であるペーターも武器づくりに参加することが出来た。
人族エリアを守るための、安全地帯を作るための魔道具も大いに活躍した。
職人たちは魔物の急襲があっても身を守れるようにと魔道具をすべての工房に配った。
パンは一晩中焼かれて、シャオマオがライに作ってもらったサンドイッチは片手で食べられると人気だった。避難所でも、保存食では味気ないだろうと途中から届けてもらったパンを使ってサンドイッチがふるまわれた。
中でも簡単に作れるたまごサンドは人気だった。
「武器も、魔道具も、食事も、みんなの安全も、シャオマオのお陰なんだよ」
「避難所の中もそうよ。スピカが小さい子供の相手をしてくれて、小さな子たちも泣かなかったわ」
シャオマオの顔が赤く染まる。
「シャオマオじゃないの。みんなが頑張ったの」
「いや、みんなが頑張れたのはシャオマオのお陰だよ。シャオマオが僕たちを気にかけてくれたからなんだ」
「そうよ。シャオマオありがとうね」
「そうじゃなかったら、獣人の戦士たちもあそこまで人族のエリアを守ってくれなかったかもしれない」
「シャオマオは人族エリアの恩人だよ」
ぽわんっとシャオマオの頬がタオの実色にうっすら染まる。
「よかったね、シャオマオ。頑張ってよかった」
「うん。うん」
涙ぐむシャオマオを抱きしめるユエ。
ユエはシャオマオが誇らしかった。
「はー。走った走った。ただいまー」
「にゃー」
ライとスピカの声だ。
シャオマオは走って玄関まで迎えに行く。
「ライにーに、スピカ、おかえりなさーい」
「ただいま。シャオマオちゃん。お友達は?」
「みんなでケーキ食べてお話してたの」
「そっか」
「お、お邪魔してますライ先生」
「おー。みんないらっしゃい。ケーキどうだった?」
「美味しかったです!本当にクリームが美味しくって」
「よかたらお土産にも持って帰ってね」
「ありがとうございます」
一通りの挨拶を済ませたら、ライはスピカを連れてシャワーを浴びに行った。
今日はスピカの狩りの訓練のために、ちょっとした険しい山を獣体で走り回っていたのらしい。
シャワーから戻ってきたスピカは思うような獲物を捕れたのだろう。お腹がぽんぽこりんで、眠そうに仰向けになっている。
「シャオマオ。スピカって人の話ちゃんと分かってるわよね」
「うん、言いたいことはわかってくれてるみたい。どうして?」
「ジョージ王子と漫才みたいなやり取りしてたのよね、避難所で」
「まるでジョージ王子の兄貴みたいな態度だったんだぜ?」
シャオマオからの預かり者だから大事にしようとするジョージ王子と、シャオマオに任されたのだからこの場を守らなければというスピカの戦いだったようだ。
「もう。スピカったら・・・」
「でも、スピカがいたからすごくみんな安心できたのよ」
「見回りしてくれてたしな」
「子守りもしてくれてたし」
「まるでジョージ王子の近衛兵みたいだった。かっこよかったんだから」
口の周りをぺろぺろしているスピカがそんなにかっこよかったとは。
シャオマオはそれが見れなかったのが残念だった。




