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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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崩れる均衡

 

「銀よ。この場所は気に入ったかな?」

 銀と呼ばれた銀髪の大神は一面の花畑の中で座り込んで、自分に近寄ってひらひらと舞う蝶を見つめていた。


「蝶が好きか?」

 金の髪の大神が尋ねるが、銀の大神は無表情のまま蝶を指にとまらせてぼうっとしている。

 昨日も目を離したらここに座っていた。


 ぽっかり空いた穴からスポットライトのような光が降り注ぎ、光り輝くような銀の美貌が浮かんでいるように見える。


 金が作った地下世界。

 その中で過ごすうちに銀の好きなものも見えてきた。

 以前と変わらない。

 銀は自然が好きで、小さな生き物を慈しんでいた。


「・・・銀。金を愛してくれ。金以外のものを愛さないでくれ」

 長い銀の髪をすくい、口づける金の大神。

 それにも銀の大神は反応を見せないが、自分と同じ顔の銀がいればずいぶんと安心できるのである。


 まだ生き物の数が少なかったとき、草原を駆け回って遊んだ。意識を持った生き物はほとんどなかった。

 二人で遊んでいれば星が喜んだ。

 星が喜べば、生き物が増えた。

 朝と夜がめぐって、金が魔素吐いて、銀が魔素を浄化して吐く。星はますます発展した。


 銀はすべての生き物を愛しく思っていた。

 かわいいのだと言っていた。

 金が怒ると「金が一番かわいく愛おしい」と抱きしめてくれた。


 金がこの星で金の大神という役割を果たせたのは銀のお陰だった。

 銀がいなければ何も興味がわかないし、何をすることも無かったろう。


 しかし、銀は何度も死ぬ。

 何度も記憶を失い生まれて死んで、また出会うを繰り返す。


 銀が死を司っているからだ。

 生を司る金は何度も死を見守り、出会うを繰り返す。


 星は何故こんなふうに二柱に役目を持たせたのか。


 いや、星産みの神のせいだ。

 こんな風にこの星を作ったのがすべての元凶だ。


 そして、異を唱えたばかりに二柱は裁定者に砕かれて罰を受けることになった。

 星を愛して幾度も死を受け入れていた銀を別の星へとばらまくなど、なんという愚行。

 思い出してもはらわたが煮えくり返るような憎しみを感じる。


 金と銀がなんの不自由もなく生きることが出来る星だけが正しい星の姿だ。

 他の生き物がどうなろうが関係ない。

 もう魔素のバランスもどうなろうと知ったことではない。

 すべてを滅ぼして金と銀二人だけが生きる星にしたい。


 銀はただただ金と一緒にいて、金を見ていればいい。金だけを愛していればいい。

 金はそんな銀に愛を返す。銀がくれる以上の愛を返す。

 まずは金が作った銀の器だ。


 金の『永遠』を分けて作った『壊れない器』に銀の欠片を入れた。

 もう星の法則にのっとって銀が死ぬことはない。

 銀に欠片が馴染めば星のすべてを金が好きにする。


 金は愛し気に銀の頬を撫で、口づけた。




「それでは、この拠点も解散としましょう」

「そうだな」

 拠点の荷物が大方片付いたところで、サリフェルシェリはダァーディーへ声をかけた。


 しばらく金の大神がどんな動きをするのかわからない以上、戦力をここへ固めておくことが出来ないのだ。

 みんなそれぞれ生活がある。


「シャオマオ。この武器はどうする?シャオマオの魔石から作られたかなり強力なものだけど」

「ん?みんなにあげるの」

 シャオマオはシナモンクッキーをむぐむぐ食べながら簡単に言う。


「シャオマオちゃん。欲しがる奴からはちゃんとお金取った方がいいかもよ?ちょっと市場が荒れそうだ」

「そうなの?」

「じゃあ、シャオマオが召集すれば必ず集まることを約束させたらどう?もう一度戦いになった時に、魔物や神と戦う気がある者にだけあげるといいよ」

「うーん。じゃあそれで」

 シャオマオがにぱっと笑うとライも「しょうがないな」と笑った。


 今回の戦いで魔道具並みの武器を使った者たちは皆、この武器を買い取ることが出来ないかとそわそわしていた。

 借金しようとも買い取る気があったため、「次回も力を貸してくれ」と言われて二つ返事で武器を持って帰ったものが大半であった。



「お家に帰ってね、人族エリアの人たちにありがとうを言わないと。あと、みんな元気か確認したいしスピカも早く迎えに行ってあげないといけないし、たくさん働いてもらったレーナちゃんにはお礼もしないと・・・」

 これからしなければならないことを考えたらシャオマオはそわそわが止められない。


「シャオマオ。どれくらいの時間ゆっくりできるかわからないけど、きちんとシャオマオの生活は守るからね」

「ありがとう、ユエ。シャオマオだってみんなのこと守るのよ!ユエのことだって守ってあげる!」

 ドンッと胸を叩いて鼻息荒く言うシャオマオ。

 自分だって守られてるばかりではいけないと思ったのだ。

 みんなを守ることができるのはシャオマオなんだと自信にあふれた顔はピカピカに輝いている。


 武器や拠点に使ったゲルを片づけて、冒険者たちはそれぞれ帰っていった。

 ほとんどの者がシャオマオに忠誠を誓っている。必ず妖精様の声に応えると。


「ぱぁぱとスイちゃんまぁまはもうすぐに里に帰っちゃうの?」

「そうさな。一旦帰って今回の戦いの報告と、里の様子を確認しなきゃならん」

「結婚の報告もするのん?」

「あ、う、うむ。そうだ。結婚の報告を里のものにきちんとしなければ・・・」

 もう鳥族を使って里の人には知らせが行ってるはずではあるが、二人そろっての挨拶はしておかなければならないのらしい。挨拶大事。


「レンレンも帰るよ」

「ランランも帰るよ」

「え!?」

 双子もダァーディーたちと一緒に帰るのだという。


「にーにもねーねもまだ帰っちゃいやぁー!」

「シャオマオ、大人になったのは見た目だけね」

「寂しがり屋のままね」

 二人に抱きしめられて慰められるがせっかく一緒にいられるようになったのに、すぐ離れることになるとは思ってもいなかった。


「兄さんは置いていくから安心して」

「むいーん」

「泣かない泣かない」

「まったく、置いていくとはなんなんだ」


「鳥族はしばらく人族エリアで療養させてもらうものが多いと思います」

「ミーシャ」

 鳥族は今回、魔素が溢れる場所を無理して飛んだものもいたらしい。

 サリフェルシェリが治療にあたったが、魔素酔いはしばらくの安静が必要だ。


 ひどいものは自分のエリアに帰るほどの体力がないため人族エリアの医療機関に入院している。そこで引き続き治療してもらうことになるだろう。


「鳥族のみんなも今回たくさん頑張ってくれたの!シャオマオもお見舞いに行かないと!」

「シャオマオがお見舞いに来てくれたらどんな重傷者でもすぐに治るでしょうね」

 くすくすと笑うミーシャ。


 妖精様が自分に会いに来てくれるなんて聞いたら、鳥族がじっとベッドに寝ていられるわけがないのだが。


 犬族はチームをいくつか分けて、北の大ダンジョンの周辺を見守ってくれる。

 ドラゴンたちは引き続き空から異変を確認してくれるという。


「妖精様。ドラゴンはみな妖精様の味方です。星の愛、星の愛し子。シャオマオ様。何かあればドラゴンを読んでください。必ず駆け付けます」

「ありがとう、ダリア姫」

「それでは妖精様・・・。サリフェルシェリ様も、またお会いしましょう」

「ダリア姫。またお会いしましょう」

 ダリア姫は大きな比翼を広げてドラゴンの姿に変わり、空の彼方へと飛んでいった。


「ねえ、なんでダリア姫わざわざサリフェルシェリの名前呼んだんだと思う?」

「ねえ、なんでダリア姫とサリフェルシェリ見つめあってたんだと思う?」

 双子がお互いに疑問を口にしたが、ダリア姫の姿を最後まで見届けようとするサリフェルシェリは返事をしなかった。

「重症ね」



 それぞれが自分の向かうべき場所へ向かって行った。

 シャオマオたちは人族エリアに帰る。


 ぱぱらぱー!!


 人族エリアが見え始めたところで、トランペットのような音がした。


「妖精様お帰りなさい!!」

「妖精様ご無事でしたか!」

「妖精様万歳!」

 待っていた人たちが大きな声を出しながら、大勢で手を振ってくれているのが見える。


 人族エリアの職人たちは妖精様が放出した魔石を間近に見ている。

 あの魔石をもって人族エリアを守ってくれたのだと皆で感謝を伝えているのだ。


「妖精様!シャオマオ!」

「ジョージ王子!」

「本当に君なんだね?!大きくなってる!」

 先頭で待ってくれていたジョージ王子は、大きくなっていてもシャオマオを間違わなかった。

 あの妖精の不思議な雰囲気に慣れていれば、性別が男に変わっても気づくだろう。


「うん。時々こうなるの」

「・・・・時々・・・」

 ぷはっと噴き出したジョージ王子はシャオマオに深々とお辞儀した。


「妖精様。この度は人族エリアに多大なる恩恵を頂きましてありがとうございます。おかげさまで魔物に備えることが出来、一人の死傷者も出すことなく人族を守り切ることが出来ました」

「よかったの・・・」

「お預かりしていたスピカをお返しいたします」

「にゃー!」

「スピカぁ!」

「スピカは積極的に自分が何をすべきかわかっていたようです。避難所で怯える子供をあやしたりしてくれたんですよ」

「スピカったら偉いね」

「にゃあ」

 得意げに胸をそらして座り、シャオマオに頭を撫でてもらって気持ちよさそうにしているスピカ。

 本当に頭がいいのだ。


「王はこの後、シャオマオたちがきちんと休息をとってから、改めて挨拶に行くと言っている。今は簡単なお礼だけで許してほしい」

「そんな、いいのよ。シャオマオったらみんなに頼りっぱなしで。シャオマオが何かしたわけじゃないもん」

「本当にいつものシャオマオだね」

 ジョージ王子はにこりと笑った。




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