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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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器と魂と記憶

 

「シャオマオ様!!」

「サリー!」

 ミーシャに案内してもらって人族エリアの拠点へとやってきたシャオマオたち。

 サリフェルシェリがゲルから飛び出してきた途端に駆けだしたシャオマオはサリフェルシェリへと強く抱きついた。


「ううう~。サリー・・・助けられなかったの!銀が!銀が助からなかった!!ああーん!!」

 わあわあと泣き出したシャオマオは大粒の涙をボロボロとこぼす。


「大丈夫です。シャオマオ様は出来ることを必死に、命を賭けてやったのです。誰がそれを責めましょうか」

 ぎゅうぎゅうと必死にしがみついてくるシャオマオを、しっかりと抱きしめ返して落ち着かせる。


「シャオマオ様も旅をしてきてお疲れでしょう。少しお休みなさい」

 サリフェルシェリが見ると、頷いたユエが大事にシャオマオを抱き上げて、ゲルへと入っていった。



 簡易ベッドに寝かされて、すうすうするサリフェルシェリの薬草が目に張り付けられると前が見えなくなる。

 桶の水のちゃぷちゃぷする音。絞る音。

 冷たい手巾が目の上に乗せられた。


「シャオマオ。心が落ち着くように、話たければ話して。ちゃんと聞くよ」

「ひぃん。ユエ。シャオマオったら、たくさん銀とお話したのよ」

「うん」

「シャオマオはね、ずっとユエが大好きって、愛してるって言ってたの」

「うん」

「銀もそうだったの。金を愛してるって。ずっと言ってたの。裏切られるなんて、これっぽっちも思わないくらい、心の底から信じてたのに~!!」


 再会したら抱きしめてほしいって言ってた。

 それが、傷つけられることになるなんて!


「許せない!金なんて嫌い!大嫌い!星を壊そうとした!唯一の番の銀を殺してしまった!銀は金なのに!自分なのに!」

「そうだね。わかるよ。シャオマオが俺と同じだって、俺もわかってるからね」

「ユエ~!銀が可愛そうなの!こんなにも愛してた。星のみんなのことも。金のことも!なのに金に裏切られるなんて~!!」

「そうだね。金が悪いね」

「シャオマオは金を許さない!この星の神だなんて認めないんだから!!」

 手巾が吸いきれなかった涙が流れ続けるのをみて、ユエは新しい手巾に取り換えた。


 興奮のせいかと思ったが、シャオマオの顔が赤い。

 首筋を触ってみるとやはり熱い。発熱しているようだ。


「サリフェルシェリを呼んでくる。少し待ってて」

 泣きすぎてしゃっくりを繰り返すシャオマオがかわいそうだった。



「いろんなことがあって体にも心にも負荷がかかったのでしょうね」

 サリフェルシェリの診察は簡単だった。


 体も成長したままだ。しかも、タオの実色の髪と尾を見るに、銀狼の力を借りているわけではなく自分自身の力なのだろう。成長とはいえ、こんなに大きくなって負担がないわけないのだ。


「まずは体の成長のためにこの薬湯を飲みます。一日三回。心はなるべく吐き出して乗り越えるしかないでしょう」

 緑の草の煮汁であるが、お抹茶のような味である。ずずずっとすすって飲み切った。


「目の腫れは治まりましたね。こすってはいけませんよ」

「あい」

 泣きすぎて、ぼーっとしたシャオマオであるがきちんと返事をしてくれた。


 ユエと離れたくないのか、狭いベッドなのに添い寝してほしいと頼んでぎちぎちになって眠っていたが、簡易ベッドの方が壊れた。今は敷物を何枚も敷いてそこに二人でくっついて眠っている。

 薬湯を飲んだシャオマオは、もぞもぞとタオルケットの中に潜り込んでユエにぴたりとくっついてサリフェルシェリに背を向ける。

 ふさっとはみでたしっぽも、タオルケットの中に仕舞われた。


「シャオマオ様と離れることができないでしょう。ユエも眠ってください。貴方もひどい顔をしてます」

「すまない」

「いいえ。また食事の時間に声をかけます」


 サリフェルシェリがゲルから出ると、聞き耳を立てていたダァーディーが立っていた。


「・・・どうだ?」

「消耗してます。皆同じように消耗してますが、ユエとシャオマオ様は特に」

「そうだな」

「とにかく食事しながら何があったのか情報共有しましょう。それまであなたも休んでください。目の下にクマがありますよ」

「半獣体の獣人にクマなんか見つけられんだろうに」

「さっきスイさんが心配してたんですよ。『顔色が悪い』と」

 ふふふと笑いながら言うサリフェルシェリに、気まずそうな顔をするダァーディー。

「スイにはかなわんな」




「シャオマオ様。どうですか?おなかは減りませんか?」

「・・・スイちゃん?」

「はい。スイですよ」

 陽が沈んでスイが声をかけてくれた。


「スイちゃん!」

「お久しぶりです、シャオマオ様」

 上半身を起こしてスイに抱き着くシャオマオ。

 スイのきりりとした香りが心地よい。


「食事をしながらこれから情報共有をしますが、シャオマオ様が眠いならこちらへ食事を運んでおきますよ」

「ううん。みんなと食べるの」

「わかりました。では隣のゲルへ」

 スイに手を引かれて、隣の少し大きなゲルへと移動した。


 ここはサリフェルシェリとスイたちが指令室として使っていたゲルだ。

 猫族式に敷物がたくさん敷かれてふかふかな床にはたくさんのお膳が並べられている。


「シャオマオ。おお。ぱあぱの隣に来なさい」

「ぱあぱ!」

 シャオマオはダァーティの隣に腰かけて、その太い腕にしがみついて甘えた。


「シャオマオ。大きくなったな。しばらくしたらまた元に戻るのか?」

「ううーん?戻らないかも?シャオマオの体にいた前の星の魂は返しちゃったの。今はユエの片割れの魂だけなの。だからどうなるかわかんにゃい」

 シャオマオの言葉にユエがわなわなと震えた。


「シャオマオもう結婚できるな!」

「うぇ?そ、そうなの?」

「どう見ても、シャオマオの姿は成人している。今すぐにでも結婚しよう!」

「ユエ、落ち着け。プロポーズは後だ」

 シャオマオの両手を握って逃げられないようにしたのに、ライの声が割って入った。ちっ。


 あくびをしながらライと双子のレンレンとランランがゲルにやってきた。

 まだまだ眠そうだが、一時の顔色の悪さはすっかり治まっている。ライは無精ひげも剃っていつものにーにだ。

「ライにーに!レンレンにーに!ランランねーね!」

「大きくなったように見えたのは夢でなかったね」

「疲れて朦朧としてたから夢かと思ったよ」

 双子は左右からシャオマオを挟んで抱きしめてくれる。


「シャオマオちゃん。お帰り。もう大丈夫?」

「ライにーに!うん!元気になったよ」

 ああ。いつもの香りだ。家の、シャオマオの家の香り。家族の香り。


「ずいぶんと頑張ったんだろう?あのユエを眠らせて一人で出かけるなんて、どうやったらできるのか知りたいね」

 ライはカラっと笑った。


「シャオマオね、ほんのちょっとだけ銀に欠片を分けてもらってた・・・・・・・・・・・の」

 何気なく自分の口から出た言葉でシャオマオは固まった。


 金狼はすべての銀狼の欠片を持って行った、と思われているが、まだシャオマオの中にも欠片はある。

 大事なことかもしれない。もう大事なことじゃないかもしれない。シャオマオには判断がつかない。


「みんなの情報を共有して、金の大神がこれからどうするのかを考えましょう。そうして、シャオマオ様がどうしたいのかを考えましょうね」

 サリフェルシェリがスイとみんなの料理を運んできて、にっこりと笑った。


 情報共有の食事会は、ダァーディー、ライ、レンレンとランラン、ミーシャ、ダリア姫、ユエとシャオマオと、スイ、サリフェルシェリ、ラーラが参加した。


「そうか。北の大ダンジョンではそんなことが・・・」

「てっきり金の大神と同じ顔をしていたので銀の大神と錯覚したが、あれは大神ではあるまいよ。以前、シャオマオ様に力を貸したあの燃えるような心が、匂いがなかった」

 スープを食べるラーラは珍しく人型になっている。食事の時には人型で食べるようにしているのだそうだ。


 ラーラはびっくりするくらいの美形だった。エジプトの王様かと思うくらい褐色の肌とくるんと巻いた黒髪が美しい目鼻立ちのはっきりくっきりした美形だった。


「あれはきっと、銀の大神の形だけなんだろう。以前、シャオマオ様を襲った時にも銀狼様の欠片を求めていた。血・・・を集めていたのは欠片がそこに含まれているんだろうな」

「そうですね。別の星にいた銀の大神様の魂の欠片。それを前回地上に来た時ほとんど集めたんだと思います」

 サリフェルシェリもラーラのいうことに同意した。


「そうして、銀の大神様の器を作った」


「この星に帰ってきた銀は、心臓を、盗られちゃったの。あれが、最後まで残って銀を保っていた『金を愛する気持ち』だったの。盗られちゃったから、姿を保てなくなって、崩れちゃったの・・・」

 ぐすっと鼻をすすると、ユエがシャオマオの顔を優しく拭いてくれる。また涙が止まらなくなってしまったようだ。


「金を愛するだけの銀でいいんだって・・・。そんなの、銀じゃないもん」

「シャオマオ・・・」

 きゅうと抱きしめたら、同じだけの力で帰ってくる。


 愛おしいシャオマオ。ユエはシャオマオを抱きしめて、金狼のことを考えた。

 同じことが出来るなら、自分のことだけを考えるシャオマオを作ろうと思うだろうか。


 この体で経験したことがそっくり引き継がれるとしたら、それはシャオマオと同じものだと言えるだろうか。

 ユエを愛する気持ちだけを持ったシャオマオは、シャオマオなんだろうか。

 ユエを愛することだけするシャオマオは、幸せなんだろうか。


 ユエは少し考えてみたが簡単に答えの出る問題ではないように思われた。


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