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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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銀と金の再会

 

 それから何度か日が昇ったり落ちたりした。

 シャオマオはユエから送られてくる光の粒を辿って、大事に大事にポケットに入れながら宇宙(そら)を飛んだ。

 そして、あるときにやっと眩しいくらいに輝く穴に出会ったのだ。


「見て銀!あれ出口じゃない?すごく眩しい!」

「おお!虎が待っているのじゃないか?シャオマオの灯台」

「ユエー!ユエー!シャオマオったら戻ってきたのよ!!」

 二人は涙をぬぐって、光に向かって飛び込んだ。


 光る穴を潜り抜けてたシャオマオは、銀とつないでいるのと逆の手をとられて釣り上げられた。

 見なくてもわかる。この手の大きさ。つなぎ方。熱。すべてが一人の人物をさしている。

「・・・・桃花(タオファ)・・・!!」

「ユエ!ユエ!会いたかった!!ユエ!」

 一緒に引っ張り出された銀の大神は地上に降り立ち、周りを見回した。


 穴から出てすぐ抱き合って泣く二人に、疲れた顔のシャオマオの家族たち。


「おお。ここを守っていたのか。ありがとう」

 銀の大神の声に、シャオマオとユエ以外の全員が膝をついて頭を垂れた。


「よいよい。楽にせよ。それにしてもおかしな雰囲気よ」

 キョトキョト周りを見て眉間にしわを寄せる銀の大神。

 指をパチンと鳴らすとその場に視認できていたすべての魔物が瞬時に消えた。


「・・・消えた」

「うむ。不自然な生き物はかわいそうだ。自分一人で生き物を作ろうとするなんて、金を叱らねばならんな」

 ミーシャのつぶやきに、少し怒ったように銀の大神が応える。


「ユエ!おいて行ってごめんね。愛してるの。ユエを傷つけたくなかったの」

「俺こそついていけない弱い個体ですまなかった。桃花。愛してる。何があってもお前と運命を共にするよ」

 ユエは抱きしめたシャオマオの大きさに、ここで気が付いた。


「桃花。また大きくなったのか。美しいな」

「ユエはおひげ生えてる・・・」

 やっとお互いの顔をまじまじと見た二人の感想は簡単なものだった。

 シャオマオがユエの無精ひげ姿を見たのは初めてのことだった。

 あまり髭が生えないタイプなのか、寝起きでもツルツルのユエにしては珍しい。

 ほっぺたをさわさわと触って、もしかしたら自分が思っているよりも時間が経ってしまったのかもしれない、とシャオマオは青くなった。


「さて、二人の再会もなされたことだし、銀も金に会いに行こうか」

 シャオマオとユエをみてにこにこしていた銀の大神は北の大ダンジョンの大穴の方向を見た。



「・・・?」

 美しい銀の大神の鼻から血が落ちる。手でぬぐって不思議そうに首をかしげる。呼吸がうまくできない。息を吐く代わりに血の塊が口から飛び出した。おかしい。


「銀!!」

 涙声のシャオマオがこちらに向かって走ってくる音がする。


「くる・・・な」

 声は血の塊に邪魔されてほとんど聞こえなかっただろう。代わりに口から出たのは血の塊だった。


「桃花!待つんだ!」

「放してユエ!銀!銀!!」

 よし。シャオマオの虎がシャオマオを掴んで止めた気配がする。今は巻き添えを食ってシャオマオが怪我するのだけは避けたい。


 高濃度魔素がまき散らされる。

 シャオマオの家族が傷つかないよう魔素濃度をコントロールしたいが上手くできない。そりゃ自分の呼吸もうまくできないんだからできるわけがない。

 シャオマオ。落ち着け。落ち着いて魔素をコントロールしろ。お前の家族を守れ。


 銀の大神は後ろを振り返り、ユエに手を引かれて動けないシャオマオを見た。

 目が合って、少し微笑むと意思が通じたような気がする。


 涙を湛えた瞳が落ち着いて、この場の魔素をコントロールし始めた。


 そうだ。それでいい。これはシャオマオにしかできない仕事なんだから。


 シャオマオ、優しい妖精。ありがとう。銀はこの星に確かに帰ることが出来た。ありがとう。ありがとう。ありがとう。


 だらりと力の抜けた銀の大神の体は仰向けにゆっくりと倒れたが、地面にたたきつけられる前に体がすべて光の粒となって消えてしまった。


「・・・・これで欠片が揃った。銀。お前の欠片だ」

 先程まで感じられなかった禍々しい気配が膨れ上がった。


 そこには銀の大神の胸を貫いた腕を赤く染め、手に心臓を持って笑う金の大神の姿があった。




「ラーラ!魔物の姿が消えました!」

 座って傷に包帯を巻いてもらっているラーラの下に、前線で戦っていた犬族の戦士が慌ててやってきた。


「なんだと!?」

「ラーラ!鳥族の偵察隊が、ここから北の大ダンジョンの大穴までの魔物が消えたのを確認したそうです!」

 別の青年が走ってきて息も絶え絶えに叫ぶ。


「どういうことでしょうか、サリフェルシェリ様」

「わかりません・・・。きっと何かが起こったのだと思いますが、私にはわかりません」

 サリフェルシェリもシャオマオたちが無事でいることを祈るしかなかった。




「よくも!!よくも!!よくも!!!」

 シャオマオは涙を流しながら震えている。

 過ぎた怒りによって、体の震えが止まらないのだ。


「どうして銀を傷つけることが出来るの?銀は金にずっと会いたがっていたのに。他の星に飛ばされても、金のことばかり心配して、ずっとこの星のことを考えていたのに。・・・よくも殺したな・・・・・・」

 ふうふうと息を整えながら話すシャオマオは冷静なのか、それとも怒りに我を忘れているのか。

 シャオマオがここまで怒ったところを見たことがないユエたちは、判断がつきかねた。


「あれは銀ではない。微かな破片しか持たず、金を愛する以外のことを気にするものなど銀ではない。銀はもういるのだからこっちの銀はいらないのだ」

 冷たく響く声。

 銀と同じ顔をした金の髪、金の瞳の金狼。この星の神様。でも、正しい神ではない。もう正しくない神だ。


 自分と同じに作られた最愛の恋人を殺すなんて。

 要るとか要らないとかで殺すなんて。

 こんなの神様なんかじゃない!!!!


「あああああああ!!!!!」

「桃花!」

「シャオマオちゃん!」

 ユエの手を振り払って飛び上がったシャオマオが金の大神へと飛び掛かる。


「なんと。星の愛し子が神に逆らうか」

 シャオマオが蹴りを繰り出す。金の大神は心臓を持つ手と逆の手を使ってシャオマオを叩きのめそうとしたが、シャオマオはそれをうまく避ける。地面に降り立ったが顔が少し傷ついた。血が流れる。


「桃花!!」

 ユエは近づけない。怒りで我を忘れているシャオマオに近づけば、集中力を欠いた瞬間にもっと大きな怪我をするかもしれないからだ。


「桃花!やめろ!戦闘経験がないのに勝てる相手じゃない!」

 ユエの声が響いた刹那、あたりが光に包まれた。

 双子の閃光弾だ。至近距離で食らったために目の前が白く塗りつぶされてしまった。


「リュー!」

「ダリア姫!」


 光が消えるとともに、その場にいた人はすべていなくなっていた。

 空を見ると豆粒のような大きさになったドラゴンの背中に乗る獣人や妖精の姿が見えたが、その場に取り残された金の大神からすればどうでもいいことでもある。

 優先事項はこの取り出した欠片を銀に組み込むことだ。

 それで金のことだけを考える銀ができるのだ。


 今日は機嫌がいい。

 うっとりとした顔で手の中の心臓を見ていたら、それは歪な形の宝石のような赤い石に変わった。

 どこまでも光を反射して輝く宝石。銀の恋心。美しい。


 これを与えれば、あの形だけの器が金を愛するようになる!

 金の大神は少しだけ笑うと、その場から姿を消した。




「桃花、泣かないで」

 シャオマオの涙は止まらない。痛いほどユエの手を握って縋りつくように泣いている。


「ありがとって、何度も言ってた・・・・・うううううう。何度も何度も。この星に帰ってこれたのを喜んでたの。嬉しいって。旅してる間もずっと金のこと言ってた。どうしてそんな愛してくれる人を殺せるの~!!」

 ダリア姫の背中でわあわあと泣き叫ぶシャオマオ。

 ユエはシャオマオの涙を舐めてやりながら、金の大神に沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。

 ユエの宝物のシャオマオを泣かせるものは、神だろうと許すことは出来ないのだ。


「銀はもういるって、どういうことなのかな?」

 しばらくは泣いていたが、ユエの膝枕で少し落ち着いたシャオマオは、ダァーディーたちを見た。


「俺たちもミーシャが持ってきた手紙でしか状況が分からんのだ。兎に角サリフェルシェリの所へ合流してこれからのことを考えよう」

「しばらく魔物が出ないなら、休憩する時間もありそうだ」


 よくよく観察してみれば、全員顔色が悪い。目の下のクマ。ユエだけじゃなくてライもモショリと無精ひげを生やしている。


『追ってくる気配がありません。なのでゆっくり飛びますから皆さん休んでいてください』

 ダリア姫の声が聞こえてくる。


 追う気があるならそもそもこんなに簡単に閃光弾程度で脱出することはできなかっただろう。

 追う気もない。多分、『どうでもいい』に近いのだろう。


「絶対許さないんだから・・・!」

 シャオマオの言葉に、ユエも頷いた。



 シャオマオ。銀はな。自分と同じ顔をした金を探しているんだ。

 金は寂しがり屋。銀に会えないときっと泣いてる。

 金に会わせてくれ、星の命が危ない。

 銀は星のすべての生き物が愛おしいんだ。

 なあ、シャオマオ。銀は金にまず最初に会ったら抱きしめてもらうぞ。お前も虎にしてもらうといい。


 にこっとわらういたずらな笑顔。

 シャオマオは銀のそういう顔がとても好きだった。



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