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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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ユエを呼ぶ声

 

「レイラ!」

「ヴォイス!」

 ヤマネコのレイラが退避した先に待っていたのは冒険者のトップ、白熊のヴォイスだ。

 白髪の巨体が見えた途端にレイラは安堵した。

 いくら巨大なものはドラゴンが引き受けてくれるとは言え、逃げる犬族と猫族のしんがりを務めたレイラとラーラは戦闘を繰り返し、魔物との距離をあけたらまた走るのを繰り返していたのでへとへとなのだ。


 ヴォイスは皆から慕われる実力ナンバーワンの冒険者だ。親分肌で、若手の冒険者が困った時にも相談に乗ってくれる。実力もあり本人も冒険が好きなため現場に出ているが、次のギルド長はヴォイスで間違いないだろう。


 レイラたちが横を駆け抜けた途端、ヴォイスは半獣体となり巨大な丸太のような腕を振り回して一撃のもと魔物をどんどん星に帰していく。


 レイラたちに迫っていた一番足の速い魔物を一通り星に帰した後、ヴォイスはレイラに向き直った。

「ヤバイ気配がしたから駆けつけた。魔物が溢れたんだな?」

「そうなんだ。一緒に戦ってるのは犬族でリーダーはラーラ。ラーラ、トップ冒険者のヴォイスだ」

「ギルドナンバーワンの噂の数々は聞いています。よろしくお願いします、ヴォイス殿」

「おいおい、殿はいらん。ラーラ、よろしくな」

 握手を交わして簡単にお互いの状況を確認する。


「・・・金狼と銀狼が」

「二柱の大神は出会ったのですが、違和感があります」

「そうだな。この雰囲気。何故二柱が揃ったのに魔素が、魔物が溢れる?」

「金の大神が魔物を溢れさせたのでしょうが、目的はわかりません」

「とにかく、冒険者たちは人族エリアの前で守っていたんだが、こちらへ向かって進んできている。合流して共に戦おう」

「ありがとうございます」

 追いついてきた魔物を順番に星に帰しながら、ラーラとヴォイスの話はまとまった。

 そこへ猫族の冒険者が走ってきて叫ぶ。

「ヴォイス!武器が届いたぞ!」


「武器?」

「魔道具もたんまりだ!妖精様のお恵みだよ!」

「妖精様のお恵みって・・・?」

 遠くから大きな荷馬車をユニコーンたちが運んでいるのが目に入った。

 馭者はエルフ族のようだ。


「ヴォイス様は貴方か?」

「そうだ!」

 荷馬車を止めたエルフ族の青年が走ってやってきた。


「妖精様がお持ちの魔石を託してくださった。それを使って人族が武器や魔道具を作っているところだ。先に出来上がったものをこちらへ運んだので遠慮せずつかってくれ」

「なんてぇ数だよ、おい」

 ヴォイスはこれだけの高純度の魔石を使った武器が山と積まれているのを見たことがなかった。


「この一刀で家が買えるぜ・・・」

 荷馬車に無造作に置かれた剣を手に取って、その刀身にはめ込まれた魔石の品質に目を見開いた。

 切れ味が落ちないように(まじな)いがかかっている。折れるときまで切れ味は変わらないだろう。


「この弓も魔道具だな」

 レイラが手に取ったのは狙ったところへ確実に刺さる魔道具の弓矢だ。視認できる距離の魔物に刺さるため、子供であってもエルフ族並みの腕前になる弓矢は金を一山積んでもなかなか買えるものでもない。それがこの荷馬車いっぱいに・・・・・・。

 レイラは気が遠くなるのを感じたが、ここで気を失うわけにはいかない。


「こちらの魔道具は安全地帯を作るための魔物避けだ。うまく使ってくれ」

「助かった」

 そうこうしているうちに大部分の冒険者たちが追い付いてきた。戦闘していた犬族と交代して戦闘を引き受けてくれたので、犬族は猫族と一緒に積み荷を降ろす。

 すべて降ろし終わったら、エルフ族の青年はユニコーンを急がせて人族エリアに戻っていった。


「空や大型の魔物は待機しているドラゴン様たちに任せましょう。我々は魔物避けで道を扇形に絞って魔物を誘導します。弓部隊を三班に分けて左右の森と人族エリアの手前の崖の上に配置。左右の森から弓で数を減らし、残りはここで迎え撃つのはどうでしょうか?」

 ラーラが広げた地図にマークしながら作戦を口にする。


 左右の弓部隊が数を減らしながら真ん中へと魔物を誘導。もし扇の外へ逸れてもエルフの大森林と猫族の里がある。きちんと退治されるはずだ。ラーラやヴォイスたちは剣で迎え撃つ。ここで取りこぼしがあったとしても最後の人族エリアへと入る手前の崖の上から弓矢で狙うことが出来る。

「最善策だなラーラ。よし!それでいこう」

 ヴォイスはかっかっかと笑って大きな手でラーラの背中をバンバン叩いて喜んだ。


「ラーラ、大丈夫か?」

「ケホッ」

 レイラの心配に、ラーラは咳で返事した。

 ヴォイスは気の良いやつだが時々、自分が怪力であることを忘れるのだ。

 レイラはラーラの背中を撫でながら、鳥族を呼び出すための羽根をポーチから取り出した。




「サリフェルシェリ先生!」

「ミーシャ」

 拠点のゲルへ飛び込んできたミーシャが呼吸を整えるのを待って、水を飲ませるサリフェルシェリ。


「ありがとうございます」

「ユエたちに何かありましたか?」

「ええ。ユエ先生たちのいるところへ魔物たちがやってくるのを感知しました。空から確認してきましたが、北の大ダンジョンから南の人族エリアに向かう魔物とは別の部隊がユエ先生たちのいる方向へ向かっていました」

「なるほど。数はどれくらいでしたか?」

「大小空を飛ぶものも含めて500はいました」

「ダリア姫がいてくださるのでその数なら対応できると思います。知らせてくれてありがとう」

「いいえ。戦闘に役立たないのが不甲斐ないです」

「この伝令で十分役立っていますよ、ミーシャ」

「ありがとうございます」


「サリフェルシェリ!スイ!続報だ!」

 ゲルに鳥族の青年が飛び込んできた。


「ジブラ?」

「あれ?ミーシャがいる」

 青年は飛び込んできた形のまま固まると、自分の名を呼んだミーシャを見つめた。


「そんなことより、サリフェルシェリに続報だよ!」

 サリフェルシェリはジブラから渡された手紙に素早く目を通した。


「スイさん。ラーラ達は人族エリアの近くまで南下し、そこで魔物たちを迎え撃つようです。人族エリアからの武器や魔道具、食料品の供給もあるそうです」

「我々も向かいましょう!!」

 スイは戦斧を握って爛々とした目でサリフェルシェリを見る。


 流石、戦闘民族の中でも戦闘狂と言われるスイである。

 戦いの予感にフルフルと震えている。武者震いだろう。

 こんな人を何故自分の代わりとはいえ指令室に置こうとダァーディーは思ったのだろうか。不思議である。


「ミーシャ。来たばかりですがリューで我々を運んでもらえますか?」

「勿論です」

 こうしてサリフェルシェリたちは人族エリアへ向かい、ラーラ達と合流することになった。




「グアアアアアアアアアアアアア」

 空から魔石が雨のように降り注いでいるのが遠くに見える。


「おお。流石はダリア姫だ。割と細かいのまで対応してくれてるんだな」

 ダァーディーはふんふんと嬉しそうにきらきらと魔石が舞う空を見ながら、取りこぼされた小型の魔物をナイフで星に帰す。


「全然ここまでくるやついないね」

「本当、魔物って猪突猛進ね」

「来る方向が分かってるのに罠仕掛けないわけないね」

 双子の罠もかなりえげつないものが仕掛けられているため、この山頂までやってくる魔物の数は限りなく少なかった。


「だああ!このままだったら俺は飯作るぞ!晩飯作っちゃうぞ!」

 ライの出番が全くない。

 座りっぱなしで尻が痛くなったライは、立ち上がってゲルの中に入っていった。

 今日の晩御飯の食材を確認しに行ったのだ。


「兄さんが作ってくれるなら今日は暖かいスープが飲めそうね!」

「やったねランラン!」

 双子はのんきに手をぱちぱち合わせて喜びながら、崖の上から下に向かって爆発物を投げつけた。


 どかーーーーん!


 罠を除けた魔物がまた塊で吹っ飛ばされた。土煙ときらきら日の光を反射して輝く魔石。

 こんな調子で山頂まで陸から突破する魔物はまだいないのである。


 ユエは相変わらず穴の前から動かない。

 微動だにしていないようにも思えるが、時々後ろから見て耳がやしっぽがせわしなく動いているのが確認できる。

 ライは(大体どんなこと考えてるかわかるなぁ)と遠い目をした。



桃花(タオファ)

 ユエは夢見るようにシャオマオを想っていた。

 笑顔。はにかんだ顔。拗ねた顔。怒った顔。泣いた顔。どんな顔をしてもかわいいが、圧倒的に笑顔が好きだ。それもユエの名前を呼んでくれるときの笑顔が大好きだ。シャオマオが呼ぶから自分が存在出来ていると思える。誰に呼ばれるよりも美しく響く。


 かわいらしい声がユエの名前を呼ぶ。

(ユエ!)


 ユエは初めてシャオマオにユエの名前を教えて何度も何度も練習させたあのときの感動が、今もずっと続いているのだ。

 震えるほどの感動。何度呼ばれてもユエをうっとりとさせる魔法の声。色褪せない。


 あの成長した姿も美しかった。

 銀の髪に銀のしっぽは大神のものかもしれないが、成長したシャオマオの姿だ。

 ちょうど成人したくらいだっただろう。


 地下のゲルで抱きしめあったあの体。

 普段は柔らかく漂う桃花の香りがあまりにも濃厚で、ユエは息するだけでくらくらとした。


(ユエ)

 抱き合って吐息を吐くようにユエの名前を呼ぶ唇を塞いでしまったのはあれが初めてだった。


(桃花。早く帰って来てくれ。あのかわいらしい声で俺の名を呼んでくれ)

 にこにこと手を広げて飛びついてくるシャオマオの姿を思い出しながら、ユエは強く強くシャオマオを想った。


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