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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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金と銀のつながり

 

「金の大神・・・」

 ラーラは小さく震えながら目の前の男神を見つめる。

 正しく以前に見た金の大神である。相変わらず見るものを凍り付かせるような美しさだ。


 あの命を奪うはずの圧倒的な魔素が和らいでいる理由は、その横に立つ女神のお陰だろうか。

 金の大神と似た姿。銀の髪。銀の瞳を細めて周りをぼんやりと見つめている。


 金の大神は少し視線を落として、自分の隣に立つ銀の大神に手を差し伸べて握る。


「・・・?!」

 それだけで空気がさらに変わったことにその場に居合わせた者たちは気づいた。魔素が急速に循環し始め、圧力が弱まったのだ。


(何故ここに銀の大神が?!すでに金の大神と銀の大神は再会していたのか?!いや、それなら何故地上に出てくる必要が?(そら)へと帰るためか?いや、完全になったのなら何故魔素がまだ不安定なんだ?)

 あまりの衝撃に、ラーラは思考を巡らせたが考えが上手くまとまらない。次から次へと疑問がとめどなくあふれてくる。


 狼を祖とする犬族は、金と銀の大神の再会を実現させることを悲願としてきた。

 その一族の願いが達成された場に立ち会っているというのに、胸に強烈な違和感があるため喜べない。



 前回よりも金の大神の意識ははっきりとしているようだ。握った手の先の、銀の大神を見る瞳は穏やかである。


「控えよ」

 たった一言、金の大神が発した言葉がその場にいるものを地面に縫い付け頭を垂れさせた。

 ドラゴンでさえ地面に降り立ったのだろう。背後から大きな揺れが伝わってくる。


「・・・・・・おらぬ」

 金の大神は何かを探るように軽く目を閉じてから言葉を発した。


「『(ルート)』は・・・。そうか。開かれたか」

 ゆっくり開いた金の瞳はきらきらと輝く。

 その場に居合わせた生き物は、息をひそめて地面を見つめながら金の大神の独り言を聞き逃すまいと聞き耳を立てる。

 兎に角、この状況を理解しなければと必死だった。

 その場にいるラーラをはじめとした犬族によぎる違和感。


 これは本当に金狼と銀狼の再会なのか?



「銀よ。約束した通りだ。銀に星を贈る」

 金の大神が傍らの銀の大神の両手を握り、愛おしそうに額に口づけたところで大穴から帯のように連なった魔物たちが空に、地上に溢れた。


「退避!!」

 ラーラは今出せる精一杯の声を張り上げたが、あまりの魔素の強さに圧倒されて普段の半分も大きな声が出なかった。

 しかし、周りにいた者たちは遅れながらも体を動かすことができた。


 以前の金の大神であれば圧倒的な魔素の量に、皆が金縛りにあったように動けず致命傷を負っていただろうに動くことが出来た。ラーラは少し振り返り、大神たちを確認する。


(笑った・・・?)

 ラーラの目には口角を少し上げて微笑む銀の大神の顔が見えたが、瞬きの間に無表情に戻っていた。




 ぞくぞくと背筋を撫でるような悪寒に体を震わせたダァーディーは全身の毛を膨らませながら空を見る。


「こっちに向かって大量の魔物がやってくるな」

「やっとだ!待ちつかれたぜー」

 まだ視認できない距離とはいえ、これだけの敵意がこちらに向かってくるのを感じるのだ。やっと体が動かせるとライもスイカをククリナイフで切り分けていた手を止めて腰を伸ばした。


「レンレン!甘いところばっかり食べるのずるいね!」

「ずるくないね!後で食べるね!」

 レンレンは半分に切ったスイカの一番甘い部分だけをくり抜いて先に食べてランランに怒られている。


「では私は空を。地上はお任せいたします」

 ドラゴンに姿を変えたダリア姫は空に飛び立ち、魔物がやってくるであろう方向へと向かって行った。


「ミーシャは身を守るのが第一。それからサリフェルシェリへの伝令を任せる。魔物が向かっていることを知らせてくれ」

「はい」

 ライの言葉に力強く微笑むミーシャは腰に剣を携えて背中に矢を背負った。


「目的は穴の前でシャオマオのことを考えて光る番狂(つがいぐる)い、いや『灯台』のユエを守ることだ」

 ダァーディーの言葉にみんなが目を向ければ、視線の先にはもう穴の前から動こうとしないユエが胡坐を組んで座っているのが見える。


「ユエ先生の思考が邪魔されないように、ですね」

「大丈夫だミーシャ。あいつはどんなときもシャオマオちゃんのことを考えていない時間はない。今存分に考えろと言われて出会いから今までの思い出を反芻しているところだからね。例え横で大声で呼びかけても反応しないと思うよ」

「ユエ先生はシャオマオをなによりも愛してますからね」

 ややあきれ顔のライにきらきらの笑顔で答えるミーシャ。ミーシャは愛し合うユエとシャオマオの関係をとても愛しているのだ。


「さてさて。持ち場に付くか」

 ダァーディーたちはまるで散歩に行くかのようにのんびり歩きだしたが、顔はこれからの戦闘に向けてみた者がおびえるような好戦的な笑顔だった。




「スイ様!伝令です!」

 ゲルに飛び込んできた見張りが手紙を渡す。


「北の大ダンジョンの大穴から金と銀の大神様が揃って?!」

「!!」

「大穴から飛び出す大量の魔物の姿を確認したとのことです」

 スイが慌ててサリフェルシェリを振り返る。


「わかりました。大穴から離れ魔素の直接及ばないところまで避難し、人族エリアまでの道で迎え撃ちましょう」

 北の大ダンジョンから近い猫族の里、エルフの大森林はそれぞれ守り手がいる。

 人族エリアはまっすぐに位置し、戦闘に関しても他種族に頼っている状況だ。

 一番被害が大きくなるエリアを守るのが優先だろうと幸いにも冒険者を人族エリアの手前に配置している。

 ラーラ達もそこまで下がって戦闘を行う方が効率がいいだろう。それぞれのエリアにも何かあれば人族のエリアに避難することを伝えるために鳥族に伝令を頼む。


 伝令が飛び出してからサリフェルシェリは考える。

 銀の大神はいまシャオマオが命を賭けて連れ戻そうとしているところだ。何故銀の大神が――?


「一体何が起こっているんだ・・・・・・」




「シャオマオ」

「・・・うん」

 シャオマオはまだまだ長い道のりを銀狼と手を取り合って飛んでいた。


 目指すべき方向は分かっているから間違っていないと暖かい方向へ。シャオマオが愛する星に向かう。ぼんやりと光るあの方向へと向かうのだと星を目指していたが、その目的の星が力強く光を増したのだ。暖かささえ感じる光。


「ユエよ。ユエの気持ちが引き寄せてくれてる。ユエ。ユエ・・・」

「うむ。一片の混じりもない純粋な想いだ」

 星から星への道を、必死にユエへの愛で進んでいたシャオマオは自分を引き寄せてくれるユエの力に心が満たされる。そして、溢れた分だけ涙になって瞳からこぼれた。


「よかった。ユエったらまだ、シャオマオに会いたいと思ってくれてる」

「当たり前だろう?何故会いたくないと思うのか」

 つないだシャオマオの手を、銀の大神は優しく撫でる。


「だって、ユエを眠らせて黙ってきちゃったから・・・怒ってるかと思ったの」

「怒らんよ。シャオマオが何をしようともあの虎は怒らん」

「そう、かしら?」

「うむ。何があっても自分の身よりもシャオマオを愛する虎をもっと信じてやれ」

「―信じる」

「そうだ。虎はシャオマオを愛してる。これは事実。これからも変わらん。虎のことは自分が虎を嫌わないのと同じように信じてやれ」

「はい」

 目じりに涙をにじませて微笑むシャオマオ。


 少し進むのが速くなったシャオマオは、目を閉じてユエの美しい瞳を思い出す。改めて早くユエに会いたいと思う気持ちを言葉にする。

 ユエの美しい瞳。周りに散った金の星はなくなってしまったが、よく磨かれた美しい琥珀の瞳を思い出す。


 泣き虫のユエ。

 きっとシャオマオが居なくて泣いてる。

 あの美しい瞳に大粒の涙を限界まで張らせて、こらえきれなくなったら宝石みたいに輝く涙をホロホロこぼすユエ。

 早く抱きしめてあげたい。震えているかもしれない。

 もう離れることはないと早く安心させてあげたい。


「ユエの瞳に見つめられると、シャオマオは動けなくなる。あのきれいな瞳に取り込まれそうになって、ユエのことしか考えられなくなるの。あのユエの瞳に映ったシャオマオは、完全なの」

 その言葉に、銀の大神が目を閉じる。


 完全。

 二人で一つ。


 そう。完璧にと作られたはずの狼は、創造の神にふたつに裂かれてそれぞれとなった。

 生と死、光と闇、すべてのことを二人で分け合って成してきた。

 今までなら考えたこともないようなことが頭をよぎる。


 つながりが薄くなっている?



 金狼と銀狼は二人で一つ。表裏一体。陰と陽。二つの体にと分かれたが、片時も離れたことも忘れたこともない。相手は自分自身なのだから。


 しかし悪い予感がする。

 ひょっとしたらと感じる程度であるが、つながりが薄まっているのを感じるのだ。星に近づいているはずなのに何故だ?

 あんなに離れて他の星に分かれていても、お互いに相手を想っていた。それがどうしたことだ・・・。


 銀狼はシャオマオの進む邪魔になってはいけないと必死に考えたことを振り払う。


 金が銀を求めないことなどない。

 銀がこれだけ金を求めているのだから。

 金の瞳。そうだ。あの銀を求める力強い瞳を思い出すんだ。

 金に会うことだけを考えるのだ。

 金に会い、二人で弱った星を蘇らせ、二人で永遠に星の子らを見守って暮らすのだ。


「さあ、シャオマオ。虎のことをもっと思い出して」

 握ったシャオマオの手に力を籠める。

「銀を金に会わせてくれ」


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