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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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この星は穴だらけ

 

 底が見えないほど深い大穴。そばにいる戦士たちはどろどろとした高濃度魔素の気配に全身が粟立つ。

 半獣体や完全獣体の獣人たちは明らかに毛が逆立って体が大きく膨らんでしまっている。

 高濃度魔素が迫ってくると同時に魔物がぞろぞろと集まってきているのが目視できた。


「・・・ラーラ。これは我々には荷が重いかもしれません」

「うむ。残念だが今回は妖精様のご加護がない。ドラゴン殿に言われた通り後方へと下がり、あふれ出た魔物が他のエリアへ行かないように守護しよう」

「わかりました」

 普段、ラーラが特攻するのに嬉々として続く部下であるが、あまりの魔素量に後退を提案した。

 ラーラは部下の言葉に素直に従って、後方に控える兵士たちに指で軽く合図を送った。ここは自分たちが無理をしていい場面ではない。


 部下たちが後退を始めるのを見届けて、最後にラーラが下がろうとした瞬間、ドオンと大きな地面をたたくような音とともに地面が大きく揺れた。


「キュアアアアアアア!!」

 振り返った時にはもうドラゴンの一匹が巨大な魔物を足で抑え込んでいるところだった。

 大穴の背後、北の大ダンジョンの裏にある森から出てきた巨大な像のような大きさの魔物をワシっと鋭い爪を持つ足で掴み、地面に押さえ込んで興奮している。

 そして、抑え込んだまま強烈な炎のブレスを吐いて粉々にした。


「あの巨大な魔物を・・・」

「ラーラ!早く下がれ!巻き込まれるぞ!」

 部下の声にハッとしたラーラが急いで部下のいる場所まで駆け抜け地面にスライディング。その後ろをブレスの炎や熱風が追い付いてきたが、間一髪尾を焼かれることなく逃げ切ることが出来た。


「ふう。ドラゴン殿が味方でよかった」

「本当ですね」

 自分のしっぽが焦げていないか確認してからつぶやいたラーラ。あの炎が自分たちに向くことを想像することすら恐ろしい。


 ドラゴン3体は、空中から地面に向かって氷のつぶてを魔物の群れにぶつけるもの、地面から炎のブレスを吐くもの、空中から襲う魔物を鋭い爪で攻撃するものと分かれて連携して、森から溢れた魔物をどんどん狩っている。

 しかし、きちんと考えて動いているらしく、大型の魔物は積極的に狩って、小さいものは動線を誘導してラーラ達が待ち構えているところへ向かうように仕向けてくれている。


「我々にも活躍の機会があるようだ。来るぞ!構えろ!!」

「「「応!」」」

 犬族たちは武器を持ってうずうずと中型の魔物がドラゴンたちをすり抜けて向かってくるのを待った。




「クルルルルルル」

 ダリア姫は雲の上からすーっと高度を落とすとごつごつした岩山に降り立った。


「ふぅ」

「ぷう」

 ダリア姫が人型になってため息をつくと、ぷーちゃんも真似をしてため息をついてダリア姫の胸元にまた滑り込んだ。

 因みにぷーちゃんはダリア姫の頭の上に座っていたので一切疲れていない。


「ダリア姫、ここは?」

「詳細な場所を告げることは出来ませんが、ドラゴンが管理している聖域になります」

 ライの質問に、ダリア姫がにこりと答えた。


 冒険者をしているライや里長をしているダァーディーでも、ドラゴンが管理している場所があることを知らなかった。

 勿論ドラゴンの里が種族ごとにあることは知っているが、ドラゴンについて詳しく知らないため里も大まかにしか把握されていない。そのいくつかの場所のうちのどこかなんだろう。


「案内したかったのはここです」

 ダリア姫が指さす前方の地面を全員が注目する。


「穴?」

「穴ね」

「穴だな」

「穴よ」

 全員が直径1メートルくらいの地面に空いた真ん丸の穴を見た。


 岩場に突然現れた異常なくらい真っ黒の穴。

 日光は十分あるのに穴の中が見えない。穴の深さもわからない。


「な、んだか、不安になるね。レンレン」

「怖いよ、ランラン」

 双子は震えながら手をつなぐ。

 見ているだけで無性に恐怖心が湧いてくるのだ。


 ライが手にした小さな岩をぽいっと穴に向かって投げた。

 岩は黒い穴に吸い込まれて、見えなくなって、ゆったり10秒数えるくらいでぷっと吐き出された。


「!?」

「・・・・・・・穴のなか、誰かいるね?」

 こんなぞわぞわ見てるだけで鳥肌が立つようなところに誰かいるなんて考えるだけで怖い!

 レンレンが震えながら指さしたが、穴は静かなものでその後は何の反応も見せない。


「これは『誰も入れない穴』なんです」

 ダリア姫の言葉に、全員の頭の上にはてなが浮かんでいるのが見える。

「誰も入れない穴・・・?」

「ええ。落ちたものは返されますし、雨が降った後は水が溢れます。何か落としても全部返されてしまうんです」

「・・・入ってみた『人』はいるのかな?」

「昔、好奇心旺盛なドラコンが頭を突っ込んだようですが、精神的な消耗が激しく寿命を縮めたようです」

「何を見たんだろうな」

 ダァーディーの言葉に、ダリア姫は首を振った。


「そんなことがあってから、ここはドラゴンが他の生き物の立ち入りを禁じています。もちろん自分達も近寄りません。しかし、見回りをしていたドラゴンがたまたま見てしまったそうです」

「見たって」

「まさか」

 ライとダァーディーは顔を見合わせてわなわな震える。


「妖精様がここへーーー」

「まて、ユエ!!!」

 ダリア姫が言い終わらないうちに完全獣体になったユエが穴に飛び込もうと跳躍した。ライは止めたが、人型では取り押さえることが出来ない。横をすり抜けられた。

 それを完全獣体になったダァーディーがタックルで横から弾いた。まるで交通事故のような衝撃だ。

 ダァーディーとユエがもみ合いながら転がって、穴から遠ざかる。


「レンレン!」

「あいよ!」

 もつれあうダァーディーとユエをみて、双子はふわりと飛び、罠に使う道具を次々と出してユエを器用に拘束した。


「ガアアアアアア!」

 なりふり構わない勢いで自分を拘束する縄をほどこうとするが、流石のユエでもちぎれないドワンゴ特製の網だ。ぐるぐる巻きにされて一歩も動けない。しかもこの縄は獣人仕様で、完全獣体から人型に姿を変えて拘束している者のサイズが変わったとしても合わせて縮む魔道具の縄だ。ユエが人型になったとしても抜けられない。


「とりあえず口も拘束しとくね」

 口にも布を噛まされて、ムームー言ってるが興奮が収まるまではこのままでいるしかない。


「あーびっくりした・・・」

 ダァーディーが半獣人姿に戻りながらつぶやく。

「勘弁してくれよ。ドラゴンが狂うような穴に獣人が入れるわけねえだろ・・・」


「レンレン、ランラン、よくやったな」

「それほどでもあるよ!」

「もっと褒めてもいいよ!」

 ライは双子を代わる代わる撫でまわして褒めたが、実際ダァーディーが抑え込んでいるところだったとしても、一流の冒険者が完全獣体になって暴れているところを二人が狩りとはいえ拘束できたのだから大したものだ。


「それにしてもシャオマオがユエを置いて行った理由がやっと分かったな。こんなところに入るのなら、置いていくしかなかっただろう」

 その言葉に、興奮が少し冷めてきたユエは唸りながらほろりと涙をこぼした。


 どうして自分はシャオマオについていけるような生き物として生まれなかったのか。

 何故シャオマオを一人で旅立たせることになってしまったのか。

 シャオマオは一人で寂しい思いをしていないだろうか。

 考えれば考えるほど、自分がシャオマオの足かせになっていることに対して情けなさがこみあげてきた。

 俺はシャオマオの虎、シャオマオは俺の妖精なのにーー。




「でね!ユエったら泉にそのまま飛び込んじゃってね!シャオマオが首に抱きついてるのにすっごく上手に泳ぐのよ!」

「そうか。それは楽しそうだな」

「うん!とっても楽しかったし素敵だった」

 シャオマオはぽっと頬を染める。

 虎のユエとの思い出を語っていたが、人姿のユエのこともついでに思い出してしまったのだ。


 遊ぶ時には虎姿でいることが多かったユエは、ゲルの中では「シャオマオの世話がしたいから」といって人型でいることが多かった。

 頻繁に完全獣体になることも多かったので一枚の布で出来た巻き付けるタイプのズボンを履いているだけで上半身には何も着ていないことが多かったために、ユエの素肌にもよく触れた。


「ユエったらかっこよくて、シャオマオよく恥ずかしくなっちゃったの」

「番がかっこよくて恥ずかしいのか?」

 銀はぽかんとして聞き返した。


「ユエったらきれいでかっこよくて素敵で。きらきらしてて眩しいの」

「うむ」

「シャオマオが持ってる宝物の中で一番きれいなの。ドキドキしちゃって困っちゃう」

「ドキドキすると、困る?」

「そーなの!シャオマオったら困っちゃうの。ドキドキしてるのユエにもわかっちゃうし」

「そうか。シャオマオの気持ちは沢山あって難しいんだな」

「銀はそんなことないの?」

「うむ。銀たちは単純だ。ただ相手を愛し、自分を愛し、星を愛し、星の子供らを愛する」

 少し考えてから、銀はにこにこと教えてくれる。


「銀と金は二人で一つだからな。ほとんど同じもので出来ていてるしなぁ。ドキドキはせんが安心感はあったぞ。すべてが満たされている安心感だ。不安も恐怖もない」

 金と銀がそっくりだったのを思い出す。


「シャオマオも、シャオマオの虎さんと二つで一つの魂の片割れなの」

「そうだ。見た目は違っていても、お前たちは一つの魂で出来てる。妖精の魂が欠けるなんてとんでもない確率だ。きっと銀を追いかけて星を出た時に欠けてしまったんだろうな。そこまでして迎えに来てくれてありがとう」

 ぐりぐりと頭を撫でられた。

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