援軍到着
「魂は思い出の貯蔵庫だ。その溜まった思い出が自分に影響を及ぼす。繰り返し繰り返し、思い出を魂に刷り込んで磨くんだよ。そうすると磨かれた魂がレベルアップする。わかるか?」
「うん。なんとなくだけど分かるよ」
「そうか。シャオマオは賢いな」
タオの実色の髪をふわふわと撫でられる。
今はシャオマオと銀の大神が手をつないで宇宙空間を漂っている。
宇宙服着てないなぁなんてのんきに考えていたけれど、特に妖精にも神様にも必要ないらしい。
そして、きちんとシャオマオの魂に刻まれた思い出を使って、二人は星に帰る道を間違わずに進んでいる。
「妖精は自由だからな。でも、星を渡るのは我らが大神と呼ばれていても至難の業よ」
銀は自分が出来ないことに対してちょっとしょんぼりして見せる。
神様にできないことが出来る妖精は、よっぽどイレギュラーな存在なのだろうと思う。
星も、星を治めるように作られた大神も、基本的には自分たちの星にしか影響を与えることが出来ない。
その星の中ですべてが完結する。他の星でもそうだ。星一つの中ですべてが完結している。
唯一星の力を超えるのは、星の愛「妖精」。
大神の愛を知った星は、イレギュラーな存在である妖精を投入してなんとか思いを遂げさせようとした。
妖精も、生来の好奇心から大神の愛がどうなるのか見てみたくなった。そうして別の星に散った銀狼を迎えに行ったのだ。
「シャオマオの魂は星の愛で出来ている。美しく眩しい」
銀色の瞳で目を細めてシャオマオの体の中を透視しているんじゃないかというくらい見つめている。
「シャオマオったらズルも考えるし、嘘ついちゃったりもするの。そんなにいい子じゃないのよ」
「うむ。人としての価値観はあまり魂の美しさには関係ないな。魂の輝きは星がどれほど喜ぶかにかかっている。その魂で何をなして輝くか。魂が輝けば星も輝くんだ。愛が魂を磨き上げるんだよ」
ゆったりと笑う銀。
実はあんまりにもみんなに「魂が美しい」「きれいな魔素だ」と言われすぎていてびくびくしていたのだ。
実際のシャオマオを見てがっかりされたらどうしようかと考えていたのだが、銀の言葉を聞いて安心した。
「縛られるなよ、シャオマオ。人の理にも、神の理、星の理にも従いたくなければ従わなければよい。自由とはそういうことだ。愛は縛られてはならない。窮屈であってもならない。惜しみなく与えられるものなのだから」
流れるプールに浮かぶように、二人は自然と流れに身を任せながらいろんな話をした。
主に銀の星であったことをたくさん話して聞かせると、銀はとても喜んだ。
そして、この話すという行為、いろんな愛しいものを思い出す行為が星に向かって進む推進力になっているのだという。
「シャオマオはあの虎を大事に思っているんだろうが、番たいと思っているのか?」
銀がニヨニヨと笑いながら聞いてくる。
「ちゅがい!?」
「番だ、番」
びっくりして噛んでしまうところは体が大きくなっても変わらないようだ。
「ユエはとってもシャオマオのこと大事にしてくれてるの。自分より。それはちょっと、困ったなの」
「シャオマオは相手が自分に執着しすぎて身動きが取れなくなっているのを見て喜ぶような阿呆には見えんしな」
嬉しそうにふんっと鼻を鳴らす銀。
自分よりも番を大切にする獣人は多いが、ユエはそれに魂の片割れやシャオマオが妖精であったりすることで余計に分厚いフィルターがかかっているのではないかと思うときがある。
妖精じゃなくてもいい?
魂の片割れでなくてもいい?
それでもお嫁さんにしてくれる?
何度か質問が出かかったことはあるが、聞けずじまいだった。
たらればの話をしたってしょうがないと、質問を引っ込めた。
今回シャオマオは、自分がユエから離れてしまうことでユエの体内魔素が枯渇しないように、ユエの魔素器官を修復させるということを試みた。
魂は二人別れたままで「魂の片割れ」であることは間違いないが、魔素器官がまともに動くようになったので、ユエは魔素の浄化をシャオマオに依存しないで済むことになった。
これで一つ、「シャオマオと離れては生きていけない」という足かせを外したことになる。
「魂の片割れ」の心理的な枷の方は、ユエの金狼の欠片、シャオマオの銀狼の欠片を失った場面で外されていた。二人とも、二人で一つ、同じものだという感覚は薄らいでいた。
それでもユエもシャオマオも態度は変わらなかったが、今回は肉体的な枷までもが外された。
シャオマオは少しの寂しさ、喪失感を感じていたが、ユエはどうだろうか。
一人で息がしやすいのを感じて、清々しているのではないだろうか。
それを哀しいと感じるならば、シャオマオはユエを束縛して喜ぶ阿呆なのかもしれない。
「シャオマオ。ほら、もっと楽しいことを考えるんだ。虎の見た目はどうだ?好きか?」
「すき!?」
急な質問に、ぴょんと跳ねてしまうシャオマオの体。
少し進むスピードが遅くなったので、気分を変えようと銀が質問したのだ。
「どうなんだ?なかなか整った姿の虎ではないか?」
「ととととととにょった!?」
慌てすぎてまた噛んだ。
ユエの長い髪も、ふかふかの獣耳も可愛くてきれいでやわらかい。
金の瞳にはもう星はないけれど、それでも変わらずシャオマオを熱く見つめていることがある。
スッと通った鼻は、スンスンとシャオマオの香りをよく嗅いでいる。
シャオマオによく触れる唇は・・・・・くちびるは・・・・・・。
「ぴえ!」
「なんだ変な声出して。何を思い出したんだ?」
「なんでもないなんでもない!!」
「これ、シャオマオ。銀の手を離してはいかん」
「きゃあ!ごめんなさい」
慌てて手を振ってしまったので思わず銀の手を離してしまったシャオマオ。銀を置いて行っては意味がない。慌てて離れていく手を掴んだ。
「そんなに真っ赤にならなくともよいではないか」
真っ赤になって汗をかくシャオマオを笑って見つめる銀。非常に楽しそうである。
「シャオマオは虎が好きなんだな」
「・・・・・・しゅき」
俯いたシャオマオがポツンと言った。
「ユエ、シャオマオのこと怒ってるかなぁ・・・」
「何故だ?」
「ユエったらずっと一緒だって言ってくれてたの。一人にしないでって言われてたの。でも、置いてきちゃった・・・」
「この空間にはいくら妖精の片割れと言ってもただの獣人を連れてくるわけにはいかないぞ?ちゃんと普通に死ぬからな」
銀があっさりという。
「シャオマオが守ってあげてもダメなんでしょ?」
「どうやって守るのかはわからん。死んだら悲しいので置いてきたのだろう?」
「そうなの。ユエが傷ついたり苦しむところ見たくないから置いてきたの。どれくらいの時間がかかるかわからなかったし、銀を迎えに行って戻ってくるだけだし・・・」
「そうだ。説明しても止められそうだしついていくとしつこそうだったので眠らせたらどうかと銀が言ったのだ」
ふんすっと胸を張る銀。
「まあ、無事に星に帰ったら、まずはシャオマオの虎に会いに行こうな」
「うん!」
いい子だ、とまた銀に頭を撫でられた。
「魔素濃度がまた上がったな」
「ラーラ。どうしますか?」
「猫族の半分はこちらに援軍に来てもらう」
犬族の戦士たちはウルウル唸りながら以前に金狼が開けた大穴を見つめている。
魔素濃度は鳥族が耐えられるものではなくなったので、拠点のスイに連絡に行ってもらった。
また魔物があふれ出したときのことを考えて、猫族から援軍をもらおうとしたところだった。
「ラーラ!空が!」
見張りの犬族が大声を上げたら、一瞬にして自分たちのいるところが影になる。
「なんだ?!」
ラーラが視線を上に上げると、ドラゴンたちが羽ばたいているのが見えた。
「クルルルルルルル!!!」
ひと鳴きしたドラゴンが一匹地上へと降りてきて、姿を人型へ変えた。
「ここの責任者は?」
「私です。犬族のラーラと言います」
「そうか。ドラゴンの名前は聞き取れまい。好きに呼んでくれて構わない。早速だが、ここの守りに仲間を3人置いていく。魔物には十分だろう。巻き込まれないように注意してくれ」
空から3匹のドラゴンが下りてきて、大穴に向かって歩き出した。
「ドラゴン族がなぜ助けてくださるのですか?」
「うむ。妖精様から不在の間、この星の守るように仰せつかったのだ」
「妖精様から?」
「そうだ。我々の仲間が呪いの王となったのを助けていただいた恩がある。我々にとっては魔物も高濃度魔素も気にするようなことではないが、妖精様はこの星の生き物が傷つくのを良しとしない。恩返しのためにも小さき生き物を守るために来たのだ」
「なる、ほど」
ラーラは全く予期していなかったドラゴンの助力が得られると知っても、実感が湧かなかった。
こんなに自分たちのこと以外はどうでもいいと思って隠れ住んでいる生き物が、自分たちの味方をしてくれるなどと誰が考え付くだろうか。
「と、とにかく、こちらの守りに3人お借りすることが出来た。素晴らしい戦力だ」
「残りは人族の里の守りと新たな高濃度魔素が溢れている場所に均等においていく。戦局によって数の入れ替えをするので安心せよ。小さき者たちは後方にて我々の取りこぼしをつぶしてほしい」
「畏まりました」
運が向いてきたかもしれない、とラーラは犬歯を見せながらにたりと笑って犬族すべてに伝言を回した。
「さあ、犬族の戦士たちよ!武器を持って戦いに備えよ!!」
「「応!」」




