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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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愛を受け取る器

 

「ダァーディー!大変です!」

「どうした!」

 ユエのゲルに慌ててやってきた猫族の青年がダァーディーを呼んだ。


「それが、空に、大勢のドラゴンを確認しました!」

「なんだと?!」

 ユエを見張っているレンレンとランラン以外の全員がゲルの外に出た。


 ゲルの外には空高く飛んでいるドラゴンの姿が目に入った。

 一斉にどこかを目指して飛んでいるようだ。


「皆様」

「・・・ダリア姫!?」

 唖然として上空を見上げていたところに一人、ゲルに近づいてきた乙女はまさしくダリア姫。


「サリフェルシェリ様。皆さま。お久しぶりでございます」

「ダリア姫!山から下りてこられたのか。お久しぶりです。しかし、このドラゴンの移動は?ダリア姫も同じところへ向かっているのですか?」

 矢継ぎ早に質問したが、ダリア姫は目を伏せたままだ。


「質問にお答えすることはできません。大いなる力によって我々は誓約をしております」

「・・・・ならばここを訪れた訳は?」

 ダァーディーがむっとしながら質問する。

 ドラゴンなんぞという力の強い生き物が大いなる力というんだ。相手は決まってくる。


「誓約があっても、私は皆さまのお力で助けられたのでございます。皆様のことも案じております」

 にこりとダリア姫が笑う。


「高貴なタオの実は傷つきやすく守らねばならないものでございます。そのかぐわしき香りに誘われた我らはこれから旅を致します」

 スッと視線を上に向けた。

「この星に、最後の変革が訪れます」


 皆がダリア姫に目を向けた。

「我々、この星に生きる者が生き残るため奔走しておられる方に力添えがしたいのです」


 ドラゴンが二列になって、さらに高く飛ぶものと、西へ飛んでいくものに分かれている。

「人には到達できない。それは鳥族でも。ドラゴンのみが到達できる場所へと、高貴なるタオの実の家族だけをご案内しますが、いかがいたしますか?」

 一瞬にして、ダリア姫は人の姿からドラゴンの姿に変わった。


「何の説明もせずに、どこに連れていくかも言わないで『一緒に行こう』だと?ドラゴンってなぁ強気な生き物だなぁ」

 ダァーディーが半獣姿に変わりながら牙を見せてにやりと笑う。


「いいのですか?ダリア姫。我々を導くことは誓約に背くことにならないのですか?」

「グルルルルル」

 ドラゴンとなったダリア姫はゆっくりとした瞬きをしてにっこりと()()()


 ダリア姫がドラゴンとして守らなければならない誓約は「道の存在を他種族に話してはならない」だ。

 案内するなとは言われていない。

 そして、かわいい妖精様から願われたお願いも、「この星のみんなを守ってほしい」ということだ。

 ダリア姫は、その「みんな」に妖精様本人も入れて受け入れた。全員が無事でなければ。


 今回の行動はどちらにも背くことにはならないだろう。ダリア姫は約束をうまく使う。いろいろと縛られることが多いドラゴンの性質である。


 星に魔素が溢れる可能性がある。


 ドラゴンは他種族に関心がないが、星の大事には関わることになっている。そのための強大な力だ。

 汚れた魔素が溢れてこの星を覆えば、ほとんどの生き物は生きていられない。魔素を払うことが出来るのは、巨大な魔素器官を持つドラゴンや、魔法が使える獣人に限られる。


「・・・・・・・・・・・はやく、連れていけ」

「ユエ?」

「お前起きたのか?!」

 戦闘服を着たユエが双子を従えて、ヨタヨタと武器を背負ってダリア姫に近づいた。


 ダリア姫は地面に伏せて、自分の腕に乗るユエをうまく背中に乗せた。


「おい!ユエ!お前まだそんな状態で・・・!」

 ライが文句を言おうとしたが、ユエはもうダリア姫の背中の上で眠ってしまっている。


「家族のみと言われたんだからしょうがない。ユエ、ライ、レンレンとランラン、ダーディー、ミーシャはダリア姫と行ってください。サリーとラーラはもう一方のドラゴンが向かう方へ行きます」

 シャオマオにとってサリフェルシェリは教師で、ラーラは友達どまりだ。


 サリフェルシェリは家族同然と言えるが、家族という枠に入ったものを見ると完全に「魔素器官が大きく汚染された魔素にも対抗できるもの」という共通点がある。

 ダリア姫が「家族のみ」というからには、ラーラはもちろんサリフェルシェリでは対抗できないほどの場所に行くと思われる。

 自分が足を引っ張るわけにはいかないのだ。


「ダリア姫。申し訳ありませんが皆をよろしくお願いします」

「グルルルルル」

 ライとダァーディー、双子とミーシャはダリア姫の背中に慌てて飛び乗った。


 バサッ!!


 全員が乗り込むとダリア姫は翼を広げて大きく動かした。

 それだけでもう地上のサリフェルシェリやユエのゲルは豆粒の大きさだ。


「グルルルルルルル!」

 ひと鳴きして、自分の背中に風の防御魔法をかけるとダリア姫はさらに空高く飛翔して見えなくなった。


 気が付くと、西の森の先へと進んでいくドラゴンの群れも少なくなっている。

「ラーラ。追いかけましょう。私はユニコーンを連れて行きます」

「わかった。大穴の見張りをしているもの以外は犬族も向かわせる」

「では伝達係は鳥族が請け負う」

「すまない。助かる」

 ラーラとニーカが打ち合わせしていると、サリフェルシェリが「エルフ族にも伝達を」と頼んだ。そちらはチェキータが請け負ってくれるという。


「猫族は一旦ここを拠点としてください。鳥族を使ってここに情報が集まるようにします」

「わかった」

 戦闘服に身を包んだスイが戦斧を背にサリフェルシェリに返事する。


 スイは以前、猫族の里でシャオマオの世話をしたことのある女性だ。今回は猫族の里から戦闘能力が高いものはダァーディーによって招集されている。スイは戦闘能力が高くダァーディー不在の時には全権を任されている。

 猫族への指示はスイが上手くやってくれるだろう。


「ギルドを通じて人族にも注意喚起を」

「わかった。ではジェッズ。速いお前に任せる。サラサは里に戻って担当各地へ鳥族を派遣し、異変があればここへ情報を集めるように伝えてくれ」

「わかりました!」


 それぞれが、自分のやるべきことを胸に走り出した。

 この星の危機に、愛する妖精様を守るために。




「私のせいじゃないわ!」

「じゃあ誰のせいだっていうんだよ!」

 若い男女の怒鳴りあう声が聞こえる。


「私はあんなに病弱じゃないわよ。うちの家族にももちろんいないわ」

「うちだって同じだよ。あんな弱い人間いない」

 二人が向け合っていた憎悪が、突然自分を向いた気がする。

「そもそもーー」


「病気で弱った子供の前で言い争いなんて」

 男の口が開きかかった時に、止めてくれる優しい声。


「お母さん」

「やめて頂戴。自分の子をないがしろにして親には甘えるなんて。そんな子に育てた覚えはないわよ」

 自分の子供の甘えた声をぴしゃりと止めた。



 しばらく体調がよかったから、自宅療養に切り替えたとたんだった。

 自宅に帰って食事を終えたところで高熱を出してまた病院に緊急搬送されたのだ。

 久しぶりに両親がそろったところを見て、緊張してしまったせいかもしれない。


「貴方たち、もう結構よ。孫の面倒は私が見ますから。無理に付き添いすることないわ」

 その言葉に、不貞腐れた男女は何か文句を言っていたようだったがしばらくすると静かになった。

 本当に帰ってしまったようだ。


「雛子ちゃん。大丈夫よ。おばあちゃんがいますからね」

 シワの多い手で、おばあちゃんが優しく髪を撫でてくれた。


「ーーなさい」

「雛子ちゃん。謝らないで。雛子ちゃんは悪くないわ」

「でもーー」

「大丈夫よ。眠って。安心していいわよ。もう雛子ちゃんを傷つける人は近づかない」

 ホロホロと流れた涙を柔らかいハンカチで拭いて、おばあちゃんは瞼を閉じるように言ってくれた。


 祖父母は本当に私を大事にしてくれていた。

 両親の愛情が足りない分、それ以上に注いでくれていた。

 しかし、愛情は受け取る器があってこそだ。


 自分の価値を自分で認められなかった私は、祖父母の愛情をうまく受け取るようにはできていなかったのかもしれない。

 愛情を注がれれば注がれるほど、それを返せない自分が歯がゆくてしょうがなかった。


 もっと元気に育っていれば

 せめて、普通に生活できていれば

 神様、お願いです。

 おじいちゃんおばあちゃんが喜ぶような元気な子にしてください。

 お父さんとお母さんが仲良く居られるように、私を普通の子供にしてください。

 そんなふうにずっと祈っていたが、願いが叶うことはなかった。


 時間だけが過ぎていく。


 息が苦しい。

 熱が上がったんだろうか。

 血管を通る点滴の冷たさで自分の熱が高いのを知る。


 ああ。どうしてこんな体なんだろう。


 お願いです。神様。早く迎えにーーー。



桃花(タオファ)

 愛しい声が聞こえる。

 こんなにも名前一つに愛を込めることが出来る人。


 ーユエ。


 暗闇の中、シャオマオの目が開く。


「やっと目を開けたな」

「銀・・・」

「目的地に着いたよ。シャオマオ」

 やっと声だけではなく、銀の大神と会うことが出来た。


「ありがとう。会いに来てくれて」

 銀狼に抱きしめられたので、抱きしめ返す。

「シャオマオも会いたかった」


「久しぶりの星だよ。見たいところはあるかな?」

「ううん。大丈夫。雛子としての役目はきちんと終えたから」

「そうか。うん。そうだな」

 二人は暗闇の中、手をつないで歩きだした。

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