表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/236

シャオマオを追え

 

 意識が溶ける・・・。

 自分という輪郭がひどく曖昧で、自分と周りを分けている「線」が希薄になっている。

 それは自分を見ることもできない暗闇のせいか。


 闇は自分の形に侵食してくるのか、自分の形がだんだんと広がっているような気がする。


「シャオマオ。意識を広げすぎるな。戻ってこれなくなるぞ」

「うん」

 いま声は出ただろうか。

 きちんと返事をしたつもりだが、周りの音が大きすぎて自分の声が聞こえなかった。


 MRIの機械の中に突っ込まれて身動きが取れないときのようだ。

 ジャカジャカ色んな大きな音が鳴っていて、自分を刺激するものは沢山あるのにそれには反応できない。

 大音量の中なのに、意識が溶けて眠っているような心地だ。


「シャオマオ。思い出せ。必ず帰ると誓った愛しい者たちの姿を思い出すんだ」


 愛しいという言葉に引っ張られて、濃厚なクリー二の木の実の香りが鼻をくすぐる。

 6日間びったりとくっついていて、自分にもあのかぐわしい恋人の木の実の香りが染みついている。


「・・・ユエ」

「そうだ。シャオマオ。決して忘れるなよ。お前の意識をはっきりさせる虎の名前を忘れるなよ」


 シャオマオはいま、ひとり奈落の先へと落ちている。

 暗い暗い、闇より暗い大きな穴に落ちて1日。まだ底には到達していない。


 シャオマオの体はふわふわと、風に乗って落ちる羽毛のようにゆったり落ちていっている。

 奈落の底から吹く風に抵抗せずに、身を任せているせいだ。


 神々の世界につながるこの穴は、確かに落ちているような感覚だが、人が到達できない高さにあるらしい。

 シャオマオはそこを落ちながら登っているのだが、全く時間の感覚がないためどれだけの距離をどれだけの時間をかけて落ちているのか全く分からない。


 過保護者たちがもう追いついてこれないくらいの距離になっただろうか。

 誰にもまだいなくなったことはばれていないのではないだろうか。

 あとどのくらいの時間で地面に足をつけることが出来るだろうか。


 とろとろとした思考の中で、シャオマオはぼんやりといろんなことを考える。

 銀狼からは穴に落ちる前に、「考えることをやめるな」「たくさんの自分を幸せにするものを考えていろ」と言われている。


 ユエの魔素器官はきちんと動いているだろうか。

 もうシャオマオとしては、自分の魔素がユエに吸い取られている感覚がない。

 ユエはシャオマオの魔素器官を頼りにしなくとも生きられる。

 それだけで一つ安心することが出来る。


「ユエ・・・」

「なんだ。虎に会いたくなったのか?」

「うん・・・」

 くすっと笑う声に素直に返事する。


 会いたい。ユエはシャオマオの虎なのだ。シャオマオもユエのものだ。

 それを勝手に出てきてしまった。


「すまない。銀に力があれば・・・」

「ううん。いいの。早く終わらせて帰るから」

「ふふふ。強気だな、シャオマオ」

「もちろんよ。シャオマオは、ユエの桃花(タオファ)だから・・・」

 うっすらと微笑むと、銀狼が嬉しそうに声を弾ませる。


「桃花の意味を教えてもらったのか?」

「桃花の意味?」

「うむ。きちんと意味がある言葉だぞ?」

「まだ教えてもらってない・・・」

「じゃあ、戻ったら虎に教えてもらうがいい」

「うん。そうする」

 シャオマオは微笑んで、ユエのことを考えた。


 桃花と呼んでくれる時、とてもたくさんの気持ちがこもっているのだ。

 優しい虎。ユエ。


 まだ寝ていてくれているだろうか。体内の魔素が安定するまでは目が覚めないはずだ。

 そして、目が覚めたころにシャオマオが戻れば、ユエも泣かないで待っていられるはず。


「シャオマオ。そのまま、虎のことを考えておれ」

「うん・・・」

 とろり、と眠気がやってきた。


「眠って」

「う、ん」

 ユエ。夢でも会いたい。




「シャオマオ・・!」

 がばっと起き上がったユエにレンレンがびくりとした。


「びっくりした!ユエ。体の調子どうね?」

「問題ない」

 スパッと答えたユエに、ライがごちっと頭に拳骨を落とす。


「お前なぁ。勝手にギプス外すし起き上がって体動かすし、問題ばっかりだよ」

「そうそう。それでまた気絶して世話ないね」

 ライと一緒にやってきたランランが食事をテーブルに並べた。


「お前、自分で自分の腕噛んで骨にひび入ってんだぜ?頼むから大人しくしててくれよ」

「反対の腕は肉がえぐれて使い物にならなくなる寸前でした。本当に無茶をします」

 ライとサリフェルシェリにため息をつかれる。


「精霊が戻ってきたので助かりました」

 サリフェルシェリが原始的な外科手術でけがの治療をしようとしていたら、急に何をきっかけにしたのかわさわさと精霊がやって来て手助けしてくれたのだ。

 そのおかげで精霊札が使えてユエの傷が自然治癒よりも外科手術よりも早く治っている。


 そして、目を覚ませば無理して動こうとして痛みのあまり気絶、そこでレンレンとランランに回収される、というのをもう3回繰り返している。


「まだ完全に魔素器官が安定してません。眠気も相当あるでしょうに無理するからです」

 サリフェルシェリが薬湯をユエに渡す。

 それをぐびりと一気にあおると、窓の外を眺めた。


 夜になっている。


 シャオマオの不在は最近のギルド仕事で慣れていたものの、シャオマオが自分から姿を消して屋敷にはいないという事実で不安が募る。

 安全な場所に番がいない。番の居場所が分からないというような状況で落ち着ける獣人がいるなら教えてほしい。

 気が狂って完全獣化し、暴れ出していないだけ冷静だと思ってほしい。


 しかし、この時点でユエは相当冷静を欠いている。

 サリフェルシェリの薬湯も周りにいる精霊たちも、相当ユエの体を鈍化させている。

 普段ならこんな薬を何度も口にすることも、周りの精霊の動きに、見えないにしろ気配を感じないことなどないはずなのに素直に受け入れてしまっている。

 心と体が弱り切っているせいだろう。

 いつもなら大粒の涙を流して泣いていてもおかしくないのに、涙も出ない。

 周りの刺激に対して相当意識が鈍化しているということだ。


 そして、上半身をふらふらと揺らしたかと思うと、またばたりと倒れて眠ってしまう。

 そんなことを何度も繰り返していた。


「おー。ユエはまた眠ったか」

「ダァーディー」

「やっぱり完全に相手が成人してないせいか?番と言ってもまだ落ち着いてるのかな?」

 人化したダァーディーが自分とそっくりな顔で眠っているユエの寝顔をまじまじと見る。


「いえ、沈静化の薬湯も精霊もフルで使っても目を覚ましてます。考えられない」

「興奮した猛獣でも瞬時に3日は眠り込む量よ」

 サリフェルシェリの手伝いをするランランも呆れ気味だ。


「おーおー。獣の執着は怖いねぇ」

 テーブルの上の料理をつまみ、にこにこする。


「笑い事ではないですよ。早くユエをシャオマオ様に会わせないと、狂ってしまう可能性は低くはないです」

「普段の溺愛見てるからなぁ。その可能性は十分ありそうだよな」

 巨大なステーキ肉をガツガツ食べるダァーディー。ほとんど寝ないで活動しているので食欲で睡眠欲を抑え込んでいるように食べまくっている。


 獣人の獣の本能の部分は自分でもどうしようもないものだ。

 話に聞いていても、実際に見ても、自分が体験しないと真に理解することが出来ない。

 そして、本当に狂ってしまえば人の理性を失うーー。


 完全獣化が解けなくなって、そのまま獣となり果てるものもいる。


 番は本能が求めるが、理性の部分では「出会わなくてもいい」と考えるものもいないわけではないのだ。

 自分がコントロールできなくなる可能性を考えれば、恐ろしいと感じるのかもしれない。


「鳥族はシャオマオがどこ行ったか見つけられないね?」

「風の精霊が全く協力しないらしい」

「あのおしゃべり精霊たちが口を閉ざすなんて相当ね」

 レンレンとランランが口々にダァーディーに質問する。


「昼と夜に分かれて地道に空から目で探すしかない。時間がかかってすみません」

「ミーシャ!お疲れさまね」

 夜の時間になって、夜目が利かなくなったミーシャ一家がゲルに戻ってきた。


「夜目が利く鳥族と交代しました。情報共有を」

「ああ。頼む」

 チェキータとニーカもやって来て、自分たちが昼チームが夜チームに引き継いだ内容を地図を広げて 簡潔に教えてくれる。


「やはり、まだシャオマオの行方は分かりません」

「せめて方向だけでもわかったらいいんだけど・・・」

「ユエの話ではユエを眠らせてすぐに出発。休暇を一日残して我々には発覚を一日遅らせました。飛んで一日でたどり着くくらいの距離ではないのですか?」

「妖精様の飛ぶスピードが分からない。鳥族だとしても相当距離を稼ぐぞ?」

 ミーシャはシャオマオと全力で飛んでみたことがないのを悔やんだ。

 もし鳥族と同等か、それ以上に飛ぶならば、シャオマオはこの星のどこが目的地でもとっくについていると思われる。


「最近、魔素濃度が高くなった例の穴は?」

「我々犬族が交代で見張りを立てている。大きな異変はなかった」

 ラーラがやって来て会議に参加した。


 以前に金の大神が復活した際に、犬族は金の大神が帰っていった北のダンジョンにある大穴を見張ることに決めた。

 また大神の復活があるなら前兆があるのではないかと考えたのだが、多少魔素の濃度が濃くなった程度で、大騒ぎするほどのことではない。


「我々を巻き込まないように、ユエを置いて行動するなんて、大神がらみだとしか考えられんのだがなぁ」

 ダァーディーは血の滴るような超レアステーキを食べきって、ナイフとフォークを置いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ