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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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しっぽを咥えると落ち着きます

 

「スピカー」

「ぴぃ」

 シャオマオが思いっきり投げたボールはユエ特製のラグビーボールのような楕円形で、地面にたたきつけられるとどこに飛んでいくかわからないようになっている。


 スピカと名付けられたユキヒョウの子供は、縦横無尽に跳ね回るボールをご機嫌に追いかけて喜んでいる。


 スピカの毛布も、寝床の箱も、おトイレも、遊び道具も、今のところぜーんぶユエのお手製だ。


「スピカー。次は鬼ごっこしようか」

「ぴぃ」

「シャオマオ。じゃあ、この服着てね」

「はーい」

 シャオマオは二人が遊んでるのを見守っていたユエから渡された着ぐるみを見て、ちょっと嫌そうに受け取った。


 スピカの爪はまだ赤ちゃんなので硬さはないが鋭い。

 牙だって小さいが鋭いものが生えかけてる。

 そんな獣と遊んでシャオマオの体に傷でもついたらスピカは一瞬でユエに捨てられてしまうだろう。


 スピカを飼うことになった時、シャオマオはまだスピカと遊んでいいと言われなかった。

「防護服がないなら野生動物と遊んではいけない」と言われたからだ。

 スピカは賢い子で、シャオマオに決して牙をむいたり爪を出したりすることはなかったが、それは理性が効いているときだ。遊びに興奮しても理性を維持できる年齢だと思えない。


 そうして4日で完成してデザイナーのリリアナから送られてきたのがこの真っ白の着ぐるみである。

 ぱやぱやのぱや毛がかわいい猫の着ぐるみ。


 シャオマオがもう少し小さい時なら喜んで着ていたのだが、もう8歳だ。

 少し恥ずかしさが勝ってしまう。


「ああ。可愛いシャオマオ。もっと毎日着て見せてほしいくらいだ」

 背中の紐を閉めてもらって、フードをかぶれば白猫シャオマオの完成だ。


 後ろからきゅうと抱きしめられて、毎度のようにユエはほめに褒めてくれるけれど、ちょっと恥ずかしさはぬぐえない。


 普段なら「赤ちゃんじゃないもん!」とかいって着るのを拒否していたかもしれないが、これにはドワンゴの作った超軽量皮鎧が内側に縫い付けられている。

 ドラゴンの皮で出来ていて恐ろしくかたい。そして恐ろしく高価(たか)い。


 最初はその皮鎧を装着する予定だったのだが、ユエが「可愛くない!いや、シャオマオに似合わない物はないが、もっと似合う形にすべきだ!!」と大急ぎでそれをリリアナの所へ持ち込んでしまったのだ。


「んも~。ドワンゴったらシャオマオちゃんにこんな無骨なもの着せるなんて何考えてるのかしら!」とぷりぷり怒ったリリアナとユエのセンスが爆発している。


「ぴぃ」

「あ、スピカ。ごめんね。準備できたから追いかけっこしよう」

「ぴい!」

 二人は笑いながら裏庭に走っていき、ユエは完全獣体でそれを追いかける。


「なんか、うちの獣化がすすんでるような気がする・・・」

「まあまあ、あんなにかわいらしいシャオマオ様のお姿が見られるのもあと少しでしょうから楽しみましょう」

 サリフェルシェリが窓から遊ぶ三人の獣を見ながらふふふと笑う。

「ライも遊んできていいのですよ」

「ダメ。俺は狩り担当だよー」

 ライはくるっと背を向けて、キッチンに入っていった。


 完全獣体になるとやりすぎてしまう自分の性格をよくわかっているライは、普段は簡単に完全獣体にならないようにしている。

 ライのスピカ育児は餌担当である。

 早朝や深夜、たまに完全獣体になってスピカを連れて山に行って狩りを見せてくれているようだ。

 ユエがシャオマオを連れて狩りに行くわけにいかないのでこうなってしまった。


 早朝にスピカがベッドにいないときに窓の外を見ていたら、大きなスーイーを引きずりながらライがスピカと帰ってきたことがある。


 解体した肉を食べさせて、血で汚れた毛皮を舐めてあげていた。

 飼うといった時には難色を示していたライだが、やっぱり一度懐に入れてしまえば面倒見の良い優しい人なのだ。


 裏庭で三人でもみくちゃになって遊んだあと、スピカに指をちゅうちゅうと吸われた。

「ユエユエユエ~。スピカったらおなか減ったみたい」

「グルルルル」

「スピカ!ご飯の時間にしようね!」

 シャオマオはスピカを抱っこして、ユエに飛び乗って家まで走ってもらった。

 スピカは自分のしっぽを咥えてユエのスピードに驚いている気持ちを落ち着けようとしている。


「スピカ。大きくなったらこれくらい早く走れるのよ。頑張って大きくなろうね」

「!」



 スピカはライにーにの離乳食を食べてぽんぽこりんになったお腹を見せて寝ている。

「やっぱり不思議だよなぁ。なんでユキヒョウの子供がこんな人族の街中にいたのかなぁ」

「しかもうちの倉庫にいたんですよね」

 サリフェルシェリも不思議そうにお茶をすする。


「スピカはねぇ、お兄ちゃんからいじめられて追い出されたんだって」

 シャオマオが悲しそうにチョコチップ入りのソフトクッキーをむぐむぐ食べながら説明する。

 生のクッキー生地を食べてるみたいでシャオマオはこのソフトクッキーが大好きだ。


 スピカはシャオマオに名付けされたおかげでまた人と言葉を交わせるようになった。

 赤ちゃんだし念話なのでなかなか会話は進まないが、ちょっとずつ話を聞きだしてみるとそういうことらしい。


 スピカは体も小さく他の兄弟たちにいじめられていたようだ。

 一番体の大きな兄にケンカで負けて、最終的には親の不在時に追い出された。

 縄張りに再び入ることは叶わず、餌を求めてふらふらしているうちに人里に降りてきてしまったのらしい。


「ふらふらしてるうちに倉庫の鍵が開いてる日があって、入ったんだけど鍵閉められちゃったみたいで出られなくなったらしいの」

「こないだ保存入れ替えに行ったときか・・・。え?もしかしてあの肉食ってたのか!?」

 ライは慌ててキッチンに走って行って、しばらくしてからがっくりと肩を落として戻ってきた。


「・・・・・かじられた跡があった・・・」

 討伐依頼の時に持っていくのを楽しみにしていた干し肉に、齧られた痕がまんべんなくついていたのらしい。


「ライにーに。それがあったからスピカが助かったのよ。スピカの命の恩人よ。ありがとう」

「ん。別にいいんだよ。端っこだから切り取ればいいし・・・」

 端っこが一番好きなライがしょんぼり答える。

 鍵を開けたのも、閉めたのもライだ。ある意味閉じ込めた犯人と言えなくもない。


 肉はあったが赤ちゃんだし、水もない。

 5日程度閉じ込められていたと思われるが、よくぞ生きていたものだ。


「スピカったら幸運の赤ちゃんね!」

 シャオマオはにこにこして寝ているスピカを眺めた。



「じゃあね、シャオマオちゃん、行ってくるよ」

「シャオマオ、気を付けて。無理はしないでくれ」

「うん、わかったの!ユエもライにーにも絶対怪我しないように帰ってきてね」

 屈んでもらった二人と順番に抱き合って別れの挨拶をすると、二人とも颯爽と馬に乗って出発した。


 今日は魔獣の討伐。

 最近群れなして遠くの村を襲っているのらしい。

 それが次第に中央に近づいてきているというのであれば、被害がもっと大きくなる可能性があるため、二人に依頼が来た。



「ユエとライにーに。とっても忙しいね。体壊さないといいんだけど」

「あの二人はシャオマオ様を見つけるまでは本当に休まず星の中をくまなく探し回ってはギルドの依頼を受けていました。全く心配することありませんよ」

 サリフェルシェリがニコッと笑いながらシャオマオとスピカに家に入るよう促す。


「ぴぃ」

「スピカどうしたの?」

 スピカは後ろを振り返って不思議そうに固まっている。


「・・・ぴぃ?」

「うん?誰かいたの?今はいないみたいね。サリー。おうち覗いてる人がいたみたい」

「それはそれは。スピカは役に立ちますね」

 サリフェルシェリは懐の精霊札を破って、風の精霊獣を顕現させると空に放った。

 真っ青な羽根の、小ぶりな小鳥の姿である。


「風の精霊獣ちゃんかわいい~」

「ふふふ。しばらくこの辺りを見回ってもらいましょう」

 精霊獣はぴよぴよ鳴いてサリフェルシェリの周りをくるりと回ってから、敷地の外に消えていった。


 この家の庭には勝手に住んでるものもいるが、多少腕があれば庭には入れるようにしてある。

 家の中に入るのは、本当に許可された「悪意なきもの」に限られる。

 それに加えて上位冒険者が普段は守護しているのだが、今のように頻繁に出かけるようになってしまった。


 なにかしらの悪意ある者からの襲撃があるかもしれないというのは想定内。

 サリフェルシェリは冒険者とまではないかなくとも、戦うすべがある。

 そして、戦闘になれば「まずは自分の身の安全の確保」を教えられたシャオマオである。

 相手を攻撃するのは躊躇しても、逃げるのに躊躇はない。


 ユエとライが出かけるのを直接確認しに来るようなおバカさんに何か危害を加えられる可能性は低い。


「さあ、シャオマオ様、スピカ。朝の体操はリビングで。それから朝食を食べましょうね」

「はーい」

 シャオマオも、サリフェルシェリも普段と変わらないが、スピカはちょっと動揺して自分のしっぽを咥えて歩いている。


 自分の言ったことを、素直にシャオマオが信じてくれたのに動揺してしまったのらしい。

 兄妹での発言権はほとんどなく、親にも弱いとがっかりされていた。

 そんな自分の勘違いかもしれない発言を他人の二人がすぐに信用してくれたのに驚いた。


「スピカ。足を洗ってからおうちに入るのよ」

「ぴぃ」

 突貫で作られたスピカの足洗い場に、二人は走って向かって行った。

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