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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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最後への階段 3

 

「もう泣き止んで、ユエ」

「う・・・」

 シャオマオに涙を拭いてもらって、なんとか涙を止めようとするユエ。


「一泊だ。たった一泊なんだから甘やかしちゃダメだ、シャオマオちゃん」

 荷物を馬に乗せて戻ってきた厳しいライの声にも、シャオマオは眉を困ったように下げるだけだ。

 玄関先で泣き出してしまったユエは、何度怒られても涙が止まらないのだ。



 昨日、ユエとライに指名依頼が入った。

 それが「難病の娘のために、薬の原料をとってきてほしい」というものだった。


 他の冒険者には難しくとも、2人であれば何も難しくない。

 行って、採取して、戻ってくるだけだ。


 ただ、めちゃくちゃ遠い。人族エリアからはどんなに脚の速い馬を飛ばしても往復で1日がかりの距離である。

 しかも、「魔物が活性化している森」で、「目を離すと襲ってくる魔の巨木」から「どこにあるかわからないが、根っこにできる薬になる瘤」を「日光に当てないで」「最短で」採取してほしい。という依頼だった。


「確実に戻ってきてほしいという気持ちから俺たちに依頼されたんだ」

「自分の子供がびよきなんだもん!ユエたちに頼みたくなる気持ちわかるよ!」

 ライとユエは依頼を確実にこなす獣人の上位冒険者として有名だ。

 うんうんと力一杯頷くシャオマオ。


 依頼の「瘤」は地中にできるものなので、日光に当てることができない。

 瘤の中に入っている樹液を使いたいのに、日の出ている時間に地上に出していると乾燥して粉々になり使い物にならなくなるという。

 なので、採取した後にも日の出前には一旦採取した瘤を地中に埋めて日の入りを待たなければならない。


 このややこしさ満点の依頼は、他の冒険者には難しい。

 しかしユエとライであれば一泊で戻ってこれる計算になるらしい。どういう計算をしたらそうなるのかはよくわからないが、二人がそうだというのならそうなんだろう。


 もうライは依頼を受けて出発の準備を進めているが、ユエはうだうだと準備をしない。

「シャオマオと離れて眠らないといけないなんて・・・」と言ってはため息をついている。

 一応嫌だ、受けないとは言わない。


 先に依頼の中身をライがシャオマオに説明したためだ。

 この状況で「いかない」といったらシャオマオに嫌われるのは分かり切っている。


「お前なぁ!いい加減に諦めろよ!!俺はお前の分の荷造りなんてしないからな」

 ライはぷりぷり怒って明日食べるシャオマオのおやつを作りにキッチンへ行ってしまった。


「ユエ、ユエ。ライにーにをあんまり怒らせたらかわいそうよ。シャオマオと準備しましょう」

「ん」

 シャオマオに手をつないでもらって、二人でユエの部屋に向かい、行李の中に入っているカバンを出せばそれで準備完了だ。泊まりが必要な場合に備えてかばんにはいつも必要なものが入っている。


「ユエ。中身の確認しましょ」

「ん」

 シャオマオは簡易の毛布を取り出して、いつもシャオマオがお昼寝に使っている毛布と取り換えた。


「ちょっと大きくて邪魔かもしれないけれど、夜はこれで眠って。シャオマオの匂いがするでしょ?」

 自分で「自分の匂いが付いてるこれで眠ってほしい」というのはちょっと恥ずかしい。


「シャオマオ。ありがとう」

 金の瞳からしとしと涙を流すユエ。

 顔をうずめてすうすうと匂いを嗅ぐのはやめてほしいが、やる気を出してもらわなければ。


「ユエがシャオマオと別で寝るのなんて、ユエが大きな魔石に閉じ込められた時以来ね」

「そうだ、忌々しい。シャオマオと離れるなんてありえない」

 ミラという金狼や魔人に魔石に閉じ込められたユエは、数日間シャオマオと触れ合うことが出来なかった。

 その時の記憶はないが、思い出すだけでイライラするのらしい。


「ユエ。シャオマオもユエがいないベッドで寝るのは嫌よ。二人で眠りたい。でもね、ユエは人を幸せにする力があるのに、シャオマオのためにそれを使わないのはだめよ」

「シャオマオ・・・」


「頑張ってお薬の材料集めてきて。こどものびよきが治ったら、シャオマオも嬉しい」

「うん。頑張ってくるよ」

 座っているユエに、立ち上がったシャオマオが抱き着く。

 大きな体なのに小さな子供みたいなユエ。

 かわいいかわいいシャオマオのユエ。

 撫でてあげるとゴロゴロと喉の音が聞こえる。

 心休まるいい音だ。


 というような一日をもってしても、出発前にちょっとぐずるユエ。

 こんなのでよく指名依頼を受けるという選択ができたなと、ちょっと引き気味のシャオマオ。


「おーい。早く出発しようぜ。向こうに夕方には着いて準備したいんだから」

 というライの声で、シャオマオは自分を抱っこするユエのおでこに口づけた。


「いってらっしゃいユエ」

「行ってくる」

 驚いて涙が止まったユエは、ぎこちない動きでシャオマオを地面に立たせてぎくしゃくと馬に乗った。

 シャオマオが自分から口づけてくれるなんて、めったにないことに驚いてしまったようだ。


「じゃあね!シャオマオちゃん。行ってくるよ。おやつはいつもの棚に入ってるから」

「ありがとうライにーに!いってらっしゃい!」

 大きく手を振って、二人を見送った。


「全く本当に人騒がせな虎だこと」

「くふふ。シャオマオの虎さんだからね」

 サリフェルシェリは少し眠そうな目でユエとライの後ろ姿を見送っている。


「シャオマオ様、まだ朝早いですが眠くはありませんか?いつもの時間まで眠りますか?」

「ううん!シャオマオったら目が冴えちゃったから、いつもの体操してから朝ごはん食べちゃうね」

「畏まりました」


 シャオマオは運動しやすい服に着替えて「いつもの体操」と呼んでいる運動を行う。

「いつ見ても変わった動きです」


 そう。前の星でラジオ体操と呼ばれていた準備運動を毎朝するようになったのだ。

 知ってる運動がこれくらいしかなかったのだ。


 しかし、こちらの星でもラジオ体操は浸透した。

 主に人族の子供から伝わって老人にも届いた。

 獣人にはちょっと物足りないのらしいが、エルフ族にはサリフェルシェリ経由で伝わっているのらしい。


「妖精体操」と呼ばれているが、第一と第二を真剣にすれば、ちょっとした運動になるとちびっ子に人気である。


 それから、空を飛ぶ訓練。

 たまにはグローもやって来て、シャオマオに「当たるなよ」といって、ふわふわのボールを結構な勢いで投げてくる。

 ボールにはゴムひもが付いていて、伸びきった後に戻ってくるのを除けるのが難しいのだが段々避けられるようになってきた。


 グローのすごいところは、ユエがいないときにやって来て、当たれば痛いのに痣やけがをさせないような力加減をするところだ。

「虎がうるせえから」ということらしい。

 しかも、シャオマオの息が上がっても続ける。わかってやっている。

 その点ではミーシャの訓練より強度が高い。


 ミーシャはシャオマオの許容範囲や限界をよくわかっている。

 楽に終えられる強度、少しきつい強度を取り混ぜてくれる。

 ミーシャの場合は、シャオマオのサポートに徹しているところがすごい。

 シャオマオの癖、シャオマオの呼吸、タイミングを知ろうとしてくれる。

「ミーシャがいればどんな場面でも安心だ」と思わせてくれる。


 シャオマオも、強くなって誰かを傷つけたり、誰かより強くなりたいといった気持ちがないため、今のところ、普段の訓練はこれで十分である。


 そして、今日は一泊でライとユエがいない。

「あそこ」へ行くチャンスなのだ!



「ということで来ました~」

「ぷ~~い!」

「妖精様!」

 ダリア姫の住んでいるドラゴンの聖域の山である。


 人型になったダリア姫とぷーちゃんが抱き着いて歓迎してくれた。


「元気でしたか?」

「うん!ダリア姫は?」

「私はドラゴンですよ?もう元気すぎるくらい元気です!」

「ぷーちゃんは?」

「ぷんぷいーん」

 ダリア姫の胸元を定位置とするぷーちゃんもフンフンと鼻息荒く返事してくれた。


「今日は虎殿とヒョウ殿は?サリフェルシェリ様も置いてきたのですか?」

「そうなの・・・。今日はダリア姫に相談があってきたの」

 シャオマオは今日の訪問の理由を色々と話してみた。



「なるほど。それを妖精様は心配しておられるのですね」

「うん。まだユエにも誰にも内緒なの・・・」

「その時は私も力を尽くします。ご安心ください」

「ダリア姫、ありがとう」

「妖精様の願いを叶えない者などおりません。安心して願えばいいのですよ」

「うん」


「準備に時間があるのはありがたいです。私もドラゴンの里に行って里長と話をしてみます」

「え!ダリア姫ったら大丈夫?」

 ダリア姫は異種族の番から生まれたドラゴンの子供である。


 ドラゴンは異種族間の番を認めていない。

 子どもが弱く生まれることが一番の原因である。

 ドラゴンは強者を求める気持ちがどの種族よりも強い。

 短命で、弱く生まれてくることが分かっているため、異種族の番は元の群れから弾かれる。


「まあ、どんな反応をされるかわかりませんが、父と母の群れには挨拶に行きたいと思っていました。いい機会なのでしばらく旅に出てきます」

「ドラゴンの里、遠いのね」

「ええ。ぷーはよく知っているようです。私が死んでいた間に里にもなにか手がかりがないか探しに行っていたようです」

「ぴゅーう」

 残念ながら幻獣であるぷーちゃんは、ドラゴンたちには全然相手にしてもらえなかったのらしい。


「妖精様。この星の愛。安心してください。何があってもみんな妖精様の味方です」

「・・・ありがとう、ダリア姫」


 シャオマオの目はやっと人と秘密を共有できた安心感から涙がにじんでいた。

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