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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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鳥族の里でもユエはユエ

 

 鳥族の里でのシャオマオは、地上から離れて思う存分空を飛び、夜はユエのご機嫌を取りながら穏やかに過ごしていた。


 ユエは昼間はミーシャの顕現させた大精霊のリューに頼らざるを得ず、夜はシャオマオからご機嫌を取ってもらって数日の滞在を耐えて過ごしていた。


 ライはみんなのお母さんをし、サリフェルシェリは少し学校をやって子供たちに文字を教え、ミーシャは初恋クラッシャーとして男女問わずいろんな子の心を砕きまくっていた。

 つまりは通常営業というやつだ。


 シャオマオはそこにいるだけで汚れた魔素を浄化するが、鳥族の里はもともと風のお陰で魔素が少ない。

 しかしながら、微量ではあるが存在する魔素が浄化された空気というのは誰にでも好まれる。そして殊更鳥族を元気にする。


 鳥族の長は翼の艶がよくなり、楽に飛行できるようになったらしい。

「これでシャオマオ様のおうちに遊びに行くことができる~」と飛びまわって喜ぶ里長を、ユエがウルウル唸って睨んだとかなんとか。


「ユエ~。今日も飛ぶの付き合ってくれてありがとう」

 ひな鳥たちの訓練場に戻ってきたシャオマオは笑顔でお礼を言う。


「うん。好きでしてることだから」

「大好きな空に大好きなユエがいるともっと楽しくなるのよ!飛ぶのすっごく楽しいの」

「シャオマオ・・・」

 きゅうきゅうと抱きしめあう二人。


 暖かいシャオマオ。

 楽しそうに笑うはじけるような笑顔。

 タオの実色の髪と瞳がきらきら輝いている。

 存分に見つめあったあと、二人は手をつないで借りている家に入って床に座ってくつろいだ。


「・・・かわいい」

「まあ。ありがとう。ユエだってきれいよ。私の虎さん」

「うん。俺はシャオマオの虎だよ」

「がおー!」

 シャオマオは手を猫のポーズにして、ユエに唸った。


「ふふふ。シャオマオは何になったの?」

「シャオマオだって怖い虎よ~。ユエのこと食べちゃうんだから」

「そっか。シャオマオは猫じゃなくて虎だったか」

「そうよ。がお~!」

 ぴょんっと飛び掛かったシャオマオを抱きとめて、ユエはベッドの上に寝転んだ。


「シャオマオが俺のこと食べるの?」

「そうよ!シャオマオったらユエのこと食べちゃう悪い虎さんなの」

 仰向けに寝たユエは、自分の胸の上で顔を近づけてくるシャオマオをじっと見た。


「なあに?食べられるの心配してるの?」

「俺はね、シャオマオになら何をされてもいいんだよ」

「まあ!食べられてもいいの?」

「うん。シャオマオに食べられるなら幸せな最期かもしれない」

 満足げな笑顔。


「じゃあ本当に食べちゃうもん」

「くすくす。本当に?」

「うん!」

 シャオマオはそのままずりずりとユエの体を登って、頭の上まで来ると、その柔らかい耳を軽く齧った。

 ユエの体がびくりと揺れた。


「シャオマオ・・・!」

「ユエったら耳が弱点なの知ってるのよ」

 ふふんと鼻息荒くシャオマオは自慢げに話す。


 ちらりと驚いているユエを見ると、目元が赤くなっており、色気が半端ない。

 この子供にも通じる色気は何とかならないのか!?とシャオマオがつられて真っ赤になったところで、ユエは落ち着いてシャオマオをひっくり返して今度は自分が上になってシャオマオを動けないようにした。


「いたずらだね、シャオマオ」

「うう・・・」

「獣人の耳は家族、夫婦にしか許されないような特別な場所だよ?」

 ユエの指がシャオマオの丸い耳を撫でる。


「きゃう!」

「くすぐったい?そうだね。シャオマオも耳が弱点だもんね」

 シャオマオは自分の耳が弱点だなんて知らなかったのに、ユエが知っていることに驚いた。


「だからね、シャオマオの耳に触っていいのも俺だけ。俺の耳を触っていいのもシャオマオだけだよ」

「・・・はぁい」

 ギラギラした金の目に捕えられてゆっくりと耳を撫でられると、「はい」以外の返事などできるわけがない。


「本当にわかってる?このかわいい耳。触らせちゃだめだからね。鳥族みたいに耳にアクセサリーをつけるのもダメ。シャオマオの耳に傷をつけるなんて許せない」


「ううう・・・。ユエ!覚悟!」

 うっとりと語っていたユエの隙をついて、シャオマオは首を伸ばし、ユエの高く整った鼻の先に軽く齧りついた。


「あ!シャオマオ!!」

「うふふ。ユエのこと食べちゃった」

 ちっとも痛くはないが、お返しはしなければならない。


「じゃあ、シャオマオのことも食べるからね」

「やだー!」

 ケラケラ笑いながら体を捻って逃げようとするシャオマオの手がユエの口を抑えようとしたが、その小さな指先に口づけしながら、ユエは手のひらをぺろぺろ舐める。


「ユエー!あはははは!くすぐったい!やめてええ~!」

 指先に口づけされるよりも、手のひらはくすぐったい。


「大型のネコ科は舌がざらざらしてるんだよ」

「し、しってる、あはははは!」

「舐めて舐めて、獲物の肉を食べて骨だけにしちゃうくらいざらざらなんだよ?」

「シャオマオったら骨だけになっちゃうのかしら」

 自分の骨だけになった姿を思い浮かべてみる。ちょっとかわいいかもしれない。


「シャオマオのことは骨だけになっても誰にもあげない。全部食べるよ」

「ユエ」

 赤くなった顔で、シャオマオはこんなことを言われても嬉しいってどういうことなんだろうかと考えた。


 うん。

 ユエの愛情表現は全部嬉しいんだ。

 一般的な言葉かどうかわからないけれど、ユエが表現してくれる言葉も行動も、全部シャオマオをあいしてるって言ってくれてる。それが嬉しいんだ。

 目線も、呼吸も、ぜんぶシャオマオに向いてる。全身でシャオマオが大好きだって言ってくれる人。

 こんな人、この先どれだけ長く生きていても出会えると思えない。


「ユエ。いつもありがとう。ユエ。だいすき」

 ユエはその言葉でシャオマオの顔をみて、美しい眉を下げてシャオマオのお腹に顔をうずめてしまった。


 暖かなユエの呼吸。

 少し服にしみ込む水分。


「・・・・・ユエ、泣いてるの?」


「・・うん」


「嬉しかった?」


「・・・うん。ありがとうシャオマオ」


「どういたしまして」


「おーい。飯だぞ二人とも~。って、ユエ泣いてんのか?!」

 部屋に入ってきたライに笑われたり「だきつくな」と怒られたりしながらも、こうしてユエのご機嫌は鳥族の里の中でも保たれていたのだった。




 ある日、シャオマオはひな鳥たちの飛行訓練にいつものように付き合っていた。

 ひな鳥たちに付き合って、断崖絶壁の飛行場からひな鳥体操をした後、一緒に飛ぶのだ。


「そーれ」

「ぴょーん」


 そして、ひな鳥たちが羽を動かしたりうまく風を捕まえるのにアドバイスをするのだが、シャオマオが一緒に飛んで、手をつないで色々話をしながら羽を動かせば、飛べるようになるのが早いというのがわかってきたのだ。


 それとなくジェッズにも聞いてみたが、みんな「習うより慣れろ」でやってきたため本当に本能で何とかするまで投げ落とすことを繰り返していたのだという。

 とにかく、勝手に体で自然とやっていることを言葉にするのは難しい。


 どうして自然と呼吸できるのですか?

 という質問に答えるのと同じくらい難しいし、鳥族にとって「飛ぶ」とはそれくらい意識しなくてもできるような自然な行為なのだろう。


 ほとんどの子供たちが今年はシャオマオの指導があって、まだよちよちではあるが飛べるようになったのはめでたいことだ。


 そして飛べるようになった子供たちに、ユエが絡まれた。


「ねえ、おじさん・・・・おにいさん?どしてりゅーに乗ったままなの?」

「とべないの?」

「ようせいさまと手をつないだらいいのに」


「とらになれるんでしょ?よーせーさまのせたらとべるかな?」

 素朴な疑問だった。

 考えたこともなかったが、シャオマオを乗せて空を飛べる!?とユエは興奮して、訓練場から走って消えたと思ったら、完全獣体になって戻ってきた。


 鳥族の子供たちは完全獣体の獣人を見たことがないのでひとしきりもみくちゃにされた後、ジェッズたちのお菓子アタックでやっと解放された。


 シャオマオを乗せたユエはご機嫌で断崖絶壁に立つ。


「ユエ。怖くない?大丈夫?」

「がう?」

 何故そんなことを聞かれているのかが分からなかったようだ。

 自分以上に信用しているのだから怖いも何もないのだ。


 銀狼様の力を借りて大人の姿になった時はユエを抱きしめて地下から地上へと飛んだが、このチビのシャオマオでも同じことが出来るのか。しかも乗っているユエを自在に飛ばせることが出来るのか・・・。


「じゃあ、やってみよう」

「準備はいいですか?」

「がう」


 そうだ。まずは地面から近いところで実験してから・・・・・とシャオマオがみんなに話そうとした途端、「よーいドン」というニーカの声が聞こえた。


「がう」

 ぴょい


 断崖絶壁からユエが何の躊躇もなく飛んだ。


「ユエ!」

「がう?」


 強烈に下からの風を受けて落ちながら、シャオマオは自分だけ浮かないように、ユエも浮くようにとイメージした。

 近くにはミーシャの大精霊リューが控えてくれてる。

 最後まで飛べなくても拾ってくれる。

 慌てない。慌てない。落ち着いて。


「ユエ。シャオマオの手足になって、空でもシャオマオを支えてちょうだい」

「がーう」


 落ち着いて、自分に言い聞かせるようにシャオマオはユエの耳に風に負けないような音量で声をかけた。

 返事をしたユエが足を動かして、まるで見えない階段を上がるように空を駆け始めた。


「ユエすごい!空を走ってる!!」

 こうしてユエの執念により二人は空でも離れなくて済むようになったのだった。

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