鳥族の里でのお遊び
「イチ、ニ、サン、はい!」
「じゃーんぷ!」
ぴょいっと少し高くなったところから、ジャンプするひな鳥たち。
ぱさっと羽根も動かしているが、まだ空中で止まるほどの力はない。
飛行訓練をする広場で訓練に参加したシャオマオとサラサはふんわり浮かんだまま、先に地面に着地したひな鳥(飛べない組)たちを空中から見守った。
「妖精様の小さなときを思い出しますねぇ。あのひな鳥体操はかわいかったですぅ」
サラサが思い出してきゃっきゃとはしゃぐ。
翼がない代わりに手を必死に動かしているのが可愛かったのだという。
「よーせーたま。どしてとべるの?」
「いつからとべるの?」
ゆっくり地面に降り立ったら、まだ飛べないひな鳥たちに囲まれて質問されたがシャオマオだって自分が飛べることに説明なんてできない。
赤ちゃんに戻ったり成長したりしてるうちに気が付いたら飛べてた。
うん。意味が分からない。
「わかんにゃい。楽しいと飛べたの」
ごまかして笑ったが、「ふーん」と納得できないなりに返事をしてくれた。
「俺たち飛べるようになったら大人なんだ。妖精様は飛べるし大人なの?」
シャオマオより大きい子がジロジロとシャオマオを見る。
虎の匂いがべったりの可愛い女の子。妖精様は見た目で年齢が分からないらしいし、もう大人なんだろうか。まだひな鳥なんだろうか。とにかくこんなにそばにいて気分のいい子は初めてだ。風の精霊がどんどん生まれていく。かわいい。とにかくかわいい。
「うん?シャオマオったらまだ子供よ」
「なんで飛べるのに子供なの?」
「うう?シャオマオったらまだ学校行ってるし・・・」
「がっこう・・・?なにそれ楽しいの?」
「楽しい!シャオマオったら学校楽しくて大好きよ!」
満面の笑みを見て、質問者の男の子が真っ赤になる。
「うあ、か、わ・・・」
口をパクパクとしている男の子にシャオマオが不思議そうな顔をして近づいたら、ユエがさっとシャオマオを抱き上げた。
「ユエ?」
「シャオマオ。良くない」
「ん?よくなかった?」
ユエは、こくこくと頷く。
「ふいに男に近づいて笑顔を見せてはいけない」
「おとこ・・・のこ、なの」
流石に誘拐される様なこともなければ、苛めてくる男の子でもない。
学校にいるお友達と同じような年の子だったので、警戒心は全くなかったと言ってもいい。
「だめだ。男は男だ。シャオマオの魅力は老若男女問わずを魅了してしまうのだから」
「うーん。妖精様だもんね。気を付けるね!」
「違うよ、シャオマオ。妖精じゃない。シャオマオの魅力なんだから、シャオマオが気を付けないと」
「う、うん」
うっとり色気溢れる表情で頬にキスをされたら、今度はシャオマオが真っ赤になる番だ。
「じゃあ、そろそろ広場へ行きましょうか」
サラサがにこにこと誘ってくれたが、昼食が準備されている広場は地上である。
「こどもたちは誰が連れて行くの?」
「え?」
「ライにーには先に行ってるけど、みんなリューに乗れるかなぁ?」
ミーシャの顕現させた大精霊に、ユエが乗り込んでいるが飛べない子供たちはあと20人弱。さすがに一回では無理だろう。
「妖精様。そんなのこうするんだ」
ニーカがニコッと笑ったら、崖の近くに居る子供たちをぽいぽい崖下に放り投げはじめた。
「きゃー!!!」
シャオマオの悲鳴とは裏腹に、落ちていく子供たちの悲鳴は聞こえない。
子どもたちは流石に鳥族。
自在に飛ぶことは出来ないが、羽を広げて空中でバランスを取ってスピードを抑制することはできる。
うまく羽を広げて楽しそうに風を受けたり、必死に羽の動かし方を考えたり、風の精霊と会話しながらなんとか浮かべないかと相談しているようだ。
「ニーカ、シャオマオが驚くようなことはやめろ」
「へ?びっくりしたのか?まだ自分で飛べないが、落ちるスピードはコントロールできる。それに本当に危なければ地面に激突する前に飛べるようになるかもしれない」
「運!?」
シャオマオは驚いた。
こんなにおおざっぱで大けがする人はいないんだろうか・・・。
「まあ、飛べないひな鳥とはいえ、鳥族だしなぁ。この程度で怪我なんて・・・」
にこーっとわらうニーカを怖いと初めて思ったシャオマオであった。
地面に降り立ったら、子供たちはみんな当たり前だが無事だった。
因みに、ひな鳥たちにドキドキしながら「大丈夫?」と聞いたら、「なにが?」といった様子だった。
普段からされているので特別思うことはないのらしい。
たくましい。
「妖精様。さあ、お昼ご飯を食べよう。食べたらニーカと空を飛んで遊んでくれ!」
「ニーカ。妖精様をせかすな」
「ぐえ」
ぐいっと首根っこをチェキータに抑えられるニーカ。
「妖精様。ゆっくりみなと話しながら食事をしましょう」
「チェキータ。ありがとう!」
手をつないで一緒にバーベキュー会場へ向かった。
それからはひな鳥の訓練を見守り、希望者にお土産を配ったり、みんなのおしゃべりに付き合ったり、鳥族とっておきのスポットに遊びに行って果物を食べたり、歌ったり、踊ったり。
天気の変わる兆候を教えてもらったり、雨雲に追いかけられて雨と晴天の境目を見たり、招待してくれた人の家に順番に遊びに行ったりと充実した数日を過ごした。
鳥族に人気があったのは「妖精様を抱っこして一緒に飛ぼう」の時間だ。
女性だけができる催しで、男性は「並んで飛ぼう」だった。女生徒の格差があったが近くで水の大精霊に乗った虎がにらみを利かせてるので渋々承諾するしかなかった。
鳥族もそれぞれで、風の捕まえ方が全然違うらしく、シャオマオにとっても楽しい時間だった。
お礼にシャオマオは希望者全員の祝福を行った。希望者全員ということは、鳥族全員ということだ。
エルフ族よりも人数が多いので何日かに分けて、希望者から受取っていた羽根を染めるという方法を取ったのだがそれでも時間がかかった。
シャオマオは楽しそうにしていたが、小さな事件はシャオマオの知らないところで起こっていた。
「あの・・・ミーシャ、様」
ミーシャの前を真っ赤な顔をした女の子が立っていた。年のころはミーシャと同じくらいだ。
「君はリエンダだね。何か用かな?」
いつもの輝く美貌でにっこりと微笑むミーシャ。美しい完璧な笑顔だ。
「名前!覚えててくれたんですね。・・・あの、ミーシャ様。いつ人族のがっこうから里へ帰ってくるのでしょうか?」
「卒業まではあと数年かかるよ」
「あの。がっこうが終わるまでペアを決めないって聞きました!本当ですか?」
リエンダはひどく思いつめた顔をしている。
「うん。前はそのつもりだったんだけどね、今は条件に合う子を探してる」
「本当ですか!?その条件って、教えてもらえますか!?」
「うん。『ペアの相手よりも妖精様を優先すること』かな」
「そ、それは・・・・」
「難しいだろうね。僕が出来ても相手がどうかな?」
「そんなの、ペアである意味が・・・」
「僕にとって、ペアってそういうものなんだ。噂通り『変わり者』だからね」
顔色の変わったリエンダはうつむいてしまったが、ミーシャの笑顔は変わらない。美しい完璧な笑顔だ。
「じゃあね、リエンダ」
立ち尽くしたリエンダを置いて、ミーシャはその場を立ち去ってしまった。
鳥族は独り立ちをしてすぐ、ペアの相手を見つける。
主に男女でペアになることが多く、のちに夫婦になることは珍しくない。
ペアは仕事上でのパートナーだという場合でも、無二の親友ということも多い。
それくらい信用していなければペアで仕事を続ける、いや、それよりももっと単純なこと。「一緒に空を飛んで楽しい」というところが破綻してしまうのだ。
親から独立するのが早い鳥族は、年齢や性別によって形は様々であるが、単純な親兄弟の血のつながりよりペアの方が濃く結ばれる場合もある。
そんなペアよりも妖精様を優先する。いくら鳥族にとって大切な友人の妖精様でも、普通はペアと比べるものではない。
『長い人生を共に歩むペア』よりも『誰のものでもない妖精様』を優先する。
ミーシャの条件は「一生一人でいます」と宣言しているのに等しいのだ。
「ミーシャ。断り方が手馴れてる」
「ライ先生。シャオマオには内緒ですよ」
こっそり物陰にライが隠れていたのをミーシャは知っていた。
「えー。ミーシャにーにがモテてたって教えてあげようと思ったのに」
残念そうなライ。
「嫉妬してくれるかもしれないぜ?『ミーシャにーにはシャオマオの!』とか言って」
「それはかわいらしいですが、だめですよ」
そういえば、ライがモテていた時もシャオマオは嫉妬していた。
シャオマオはミーシャのことも自分のものだと思ってくれるだろうか。
「尊き妖精、シャオマオ様。この度は鳥族の里で十分遊べましたかな?」
「うん!楽しかった」
カナンの胸にはシャオマオからもらった魔石のピンバッジがきらりと輝いている。
今回のシャオマオのお土産は、シャオマオの持っている上等の魔石がアクセサリーに加工されたものだった。
一つ一つの魔石を確認してみたら、全部同じように見える虹色の魔石でも、持ってる力が違うことがわかったのだ。
鳥族に渡したのは「風の魔力がこもった魔石」だった。
「鳥族はシャオマオ様と共に。何かあれば必ず鳥族にもお知らせください。鳥族は力弱き民かもしれませんが空にあればどの種族をも上回る。必ずやシャオマオ様の役に立ちます」
「ありがとう!みんなまた遊びに来るね」
シャオマオたちは笑顔で里から飛び立った。




