ユエはシャオマオに意識してもらいたい
シャオマオとユエがゲルにたどり着くと、そこは出発した時よりも青々とした芝生の美しい場所になっていた。あと、ユニコーンのたまり場みたいになってた。
シャオマオを見て走ってきたユニコーンに囲まれたのだ。
「何故こんなに集まってるんだ」
「みんなねぇ。きれいになりたいんだって」
一番近くにいたユニコーンの首を、トントンと叩くシャオマオ。
いつか見た光景のように、汚れた魔素が体内から抜けたのだろう。体も鬣も尾もきらりと輝く。
サリフェルシェリが言っていたように「本来の姿を取り戻している」のだろう。
心なしか、ユニコーンの瞳も輝きをまして元気そうだ。
ユニコーンたちは毎朝、順序良く並んでシャオマオにトントンしてもらうのを待っている。
黄金に輝く体を取り戻したユニコーンは、一つお礼を置いていく。
こどもはきれいな石、きれいな花、めずらしい果物。
大人のお礼は生えかわりで抜けたユニコーンのツノが一番多かった。
ユエに確認すると、高級な魔法具にや薬に必要な素材らしく密猟者に狙われる部位らしい。
ユニコーンはツノにそういう需要があることをきちんと知っていた。
「もらっていいの?」
と何度も確認したが、手に取るまでぐいぐいと押し付けて来るので礼を言ってもらうことにした。
ユニコーンたちは賢く、ユエのこともシャオマオのこともきちんと考えているのか、一日に訪れる頭数は10頭までだ。
順番をどう決めているのかわからなかったが、毎日10頭がおとなしくシャオマオが外に顔を洗いに来るまで待っているのだ。
「おはよお。急いでごはんたびるね!」
小さなクロワッサンのようなパンを1つ食べて、温めたミルクを飲んだらユニコーンのところに急ぐ。
そして、ユエに抱っこされながら順番に並ぶユニコーンの首をトントンしていく。
ユニコーンたちは全員がピカピカの体になるとシャオマオを背中に乗せて軽く歩き回ったりして遊んで、お昼ご飯を食べるころには静かに帰っていく。
鞍もなにもつけていないのに、ユニコーンの安定感は抜群だ。
シャオマオはユエの準備したお昼ご飯を食べて、少しお昼寝したら晩御飯まではお散歩したり、言葉の勉強をしたりして過ごす。
夜はユエがゲルのそばに掘って作ったお風呂で体をきれいにして眠る。
因みに、あの大きな魔石を埋めようとして掘った穴だったのだが、埋めた後に水が湧き出してきて、勝手に温まった。お湯は入れ替わっているのか常にきれいなので24時間いつでも使える。
ユエが手を加えてシャオマオが溺れないように浅いところと、虎姿の自分が使える深いところを作ったりして本当の温泉のようになっている。どこから調達してきたのか岩風呂だ。
骨組みにゲルの素材を使ったのか、お風呂小屋だ。天気のいい日は天井を開け放って入ることができる。
シャオマオが海人族の温泉で「おんせんすき~」といったつぶやきを、ユエの虎耳は聞き逃さなかったのだ。
ユエは今の二人きりのこの時間を気に入っている。
朝のユニコーンと度々やってくる鳥族は邪魔だが、シャオマオが喜んでいるので納得している。
リリアナが作った洋服ができたと言っては飛んできて、毎朝できたてのパンを運んできてはシャオマオに食べさせたり、「空を飛べるようになりましょう」と言ってはひなが飛ぶ練習をするときの体操をさせたりしている。小さい体を目いっぱい動かして運動するシャオマオは非常にかわいい。
ユエはできるだけライがやっていた世話も自分がしたいので、人型のまま過ごすようにしている。
シャオマオが照れる顔を見れるのも至福の時だ。
「お風呂はどうする?一緒に入らないと危ないかもしれないな」といえば真っ赤になって断る。
断られるのは当然と思ってからかっただけだが、さてどうやって世話をすればと思っていたらチェキータが来た時にシャオマオが相談したらしく、毎日夜になったら鳥族の女性が交代でやってきて、風呂の世話をしてくれる。
海人族の温泉でシャオマオの世話ができなくて悔しい思いをした人が何人かいたらしいので、数人でやって来てはシャオマオが溺れないように見守ってくれたり、髪の手入れを丁寧にしてくれる。
寝るときも人型のまま、お休みのキスをしていたら真っ赤になるのだ。
「どうして虎で寝ないの?」と聞かれたが、「かわいいシャオマオにキスして抱きしめて寝たいからだよ。虎だと手をつなぐこともできない」といって、盛大に真っ赤になるシャオマオをみて満足そうに抱きしめる。
「シャオマオ。俺の顔はすき?」
「・・・・・・・う」
「嫌いなの?もっと変わってほしいところはあるかな?例えば・・痩せてる方が好きだったり?」
自分の腕の中にいるシャオマオをきゅっと抱きしめて、わざと耳のそばでこそこそ小さい声で話しかける。
「・・・ううん。いまの、ユエがいい」
「俺はシャオマオが好きな見た目をしているかな?」
「・・・・・・・うん」
「じゃあ、どこが好き?一つだけ?いっぱいある?」
「いっぱい・・・」
恥ずかしがったシャオマオが、ユエの胸にぐりぐりと顔を押し付けて布団にもぐっていく。
「耳が真っ赤でタオの実みたいだ。俺の桃花の香りが俺にも移って嬉しいよ」
つむじに思わず口づけた。
こんなことを毎日毎日繰り返している。
はっきり言って幸せだ。これは新婚生活では?というくらい。というか思っている。
ユエが望んだシャオマオと二人きりの生活。充実している。
徐々に語彙が増えていろんな話をしてくれるようになったシャオマオはどんどんかわいさを増している。内面の美しさも目立つようになってきた。
シャオマオも、だんだんと人の感情を読み取る力が強くなったのだろう。ユエがうっとりとシャオマオを見つめていたら火が出そうなくらい顔を真っ赤にして照れていることもある。
自分の番の成長を見守れるなんて、なんて幸せな人生だろうか。子供のシャオマオと出会えたことに感謝する日々だ。
そんな二人きり(?)の生活を壊しに来たのがサリフェルシェリだ。
「妖精様!ユエ!エルフの大森林に滞在する許可が出ましたよ!!」
「サリー!」
朝のユニコーンのトントンをしている最中に、きらきらに輝くユニコーンに乗ってサリフェルシェリがやってきた。一番最初にトントンした子だ。
元気そうで安心した。
「おお!やはり妖精様のお力は素晴らしい!毎日輝きを取り戻したユニコーンが増えるのを皆喜んでおります」
順番に並ぶユニコーンと、貢物の山を見て目を潤ませて感動している。
「毎日ね、じゅーう人来てくれるの」
「シャオマオ。人じゃなくて、10頭だよ」
「じゅーうとう」
「ん。正解」
シャオマオを立て抱きにしているので、こめかみに口づける。
最近1から10まで数えられるようになったのだ。
なので自分の年が4歳であることもわかった。
「きゃあ」
二人できゃっきゃと笑っているのを見るに、ツッコミ役がいないようだ。
「ところでライは?ギルドですか?」
最後のユニコーンを癒したところで質問したら、ユエとシャオマオがピタッと止まる。
「?どうかしましたか?」
「サリィ~!」
地面に降りたシャオマオは、サリフェルシェリに向かって走って抱きとめてもらった。
「ライがね。い~っかいも帰ってこないの」
「ええ?!」
「会いに来てくれないの!」
「もう二週間ですよね?一度も?」
「帰ってきている様子はないな。ライのゲルもなにも変わっていない」
「二週間では食料も難儀したでしょうに」
「いや、鳥族が毎日来る」
「毎日・・・」
「毎日」
ライの性格からして、ユエだけならまだしも妖精様がいるのに二週間も戻ってこないのはあり得ない。
ギルドでなにか依頼を受けるにしても、必ず手紙をよこすだろう。
何の連絡もなしに戻ってこないとなると・・・
「猫族エリアに行くしかないのでは?」
ユエの肩眉がくっと上がった。
「いやだ」
「いやだって言っても、なにかトラブルでも・・・」
「ライは俺たちを邪魔しないように遠慮しているんだ」
「そんなわけありません。邪魔するために苦労していたのに」
サリフェルシェリは持ってきた籠のかけ布をとって、中身をシャオマオに見せた。
「さあ妖精様、お昼ご飯にしましょう。今日はエルフ族のおやつもありますよ」
「やったあ!」
シャオマオはライを心配しているが、サリフェルシェリの気遣いに乗ってぴょんぴょん跳ねてよろこんだ。
ゲルの中に入って、昼食とおやつを済ませると、シャオマオはお昼寝するように言われた。
もちろん、ユエが添い寝してくれる。
「前よりも甘くなってますね」
「・・・足りないさ。これまでの分を消化しているだけだから」
すうすうとシャオマオの寝息が聞こえたところでこそこそと話し合う。
「そろそろ猫族エリアにはいかないといけませんよ」
「・・・・そうか」
「猫族の族長にも後ろ盾になってもらわないと。妖精様の身を守るために」
「俺だけでも十分だ」
「海で死にかけておいて」
「・・・う」
「あなたは十分に強いですが、魔物と戦うときだけです。人との戦闘は慣れてません」
「・・・・」
「だから、人の手を借りるのです。ライだけではなく、猫族の戦士の手を借りましょう」
ユエはシャオマオの手を握り、その手をじっと見つめた。
「明日、ライを迎えに行く」
にっこりとサリフェルシェリに微笑まれた。
ほっとけばどこまでも甘くなるのがユエです('ω')




