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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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鳥族語のレッスン

 

 ユエは空が嫌いである。

 別に天気がどうとか高いところが恐ろしいといったことではない。


 シャオマオが自分の手の届かないところに行ってしまうのが嫌だし、自分は人の力を借りなけれなその場所にいけないというのが嫌いなのだ。


 もし空を飛んでシャオマオがどこかに行ってしまったら、ユエは地面を駆けるしかない。

 多少の高さならジャンプすれば届くかもしれないが、自分のジャンプ力を越えられたらお手上げだ。

 鳥族がいつでもユエを優先してシャオマオを追いかけるのを手伝ってくれると思えない。

 あの種族は楽しいことしかしないのだ。


 だから鳥族の里に行くことなどありえないことだった。

 鳥族は唯一羽を持ち、空を飛べる種族として生きているため、戦闘能力が低い。襲われることがないように断崖絶壁の崖に家を作って生活している。

 あとは木の上に家を建ててしまう者もいるが、とんでもない高さだ。

 ネズミ返しのようになった床をたどって、玄関や窓から簡単に侵入できないようになっている。


 そして、家に入ったからといって何か得られるものがあるのかといえば特にない。

 鳥族は全財産を貴金属やアクセサリーに変えて、愛するものに贈る。

 つまりは鳥族自身が身に着けているものを狙う方が効率的だがそれも難しい。飛んで逃げるからだ。

 上級者であればいきなり魔法のようなものを放って捕まえられないこともないが、そうまでして捕まえたいという理由はないと思われる。


 もしかすると鳥族が配達しているものを奪いたいということもあるかもしれないが、鳥族は魔素に過敏で魔法の気配には敏いのだ。


 必ず発生源をたどって逃げる算段を見つけるだろう。

 そのための二人組なのだ。

 こう考えると鳥族は戦うすべを持たない弱者だと思っていたが、生存戦略として色々考えていることが分かる。


 ユエは目の前で楽しそうにシャオマオと話しているニーカとチェキータを見てため息をついた。

 眉間には盛大にしわが寄っている。


「妖精様。やっとだ。やっとニーカの家に招待できる」

 ニーカは真っ白の翼を広げてバサバサと動かしている。嬉しすぎてじっとしていられないんだろう。


 鳥族の子供たちからの手紙をもらってから学校に行ったシャオマオは、ミーシャに相談して鳥族の里に遊びに行くことにした。


 本当ならその日にでも連れて行きたかったミーシャであったが、ぐっとこらえて数日。学校が休みになる週末を待った。

 自分の両親に先にその話をしてしまったら、瞬時にいろんな人に話が伝わり「週末なんて待てない!」といって誰かがシャオマオを攫いに来るのが目に見えてる。ミーシャは先の読める子なので自分の胸に仕舞ってその話を当日まで隠し通した。普段よりニコニコしていたために、学校の子供達には「ミーシャ様のご機嫌がいいのは何故だ?」と話題になっていたが。


 お知らせが当日でいいのかと言われれば、当日でいいのだ。

 鳥族はより楽しいことを優先する。

「今日は妖精様が遊びに来たいと言ってる」と言えば何人でも集まる。

 今日も今日とて、さっきその話を聞いたはずの鳥族が20人ほど集まっている。にぎやかだ。


「シャオマオ。忘れ物はありませんか?」

「うん!こどもたちのおやつ~。みんなにお土産でしょ?それに着替えと~えっと~」

「土産なんてなくってもいいんだ!妖精様が来てくれたらそれでいい!」

 顕現したリューに荷物を載せるシャオマオとミーシャに、興奮したニーカがわふわふと近寄って犬のようにまとわりついてくる。


「ニーカ、落ち着くんだ」

 ニーカの後ろ襟をつかんで突進を泊めるのはチェキータ。


「妖精様を焦らせるな。ゆっくり準備してもらうんだ」

「だって、身一つで来てもいいじゃないか。服だって食べ物だってこっちで準備するし・・・」

「妖精様が忘れ物をしたと言って家に帰ったらどうするんだ!」

 小声で怒鳴るという器用なことをするチェキータ。


「ゆっくり思い残すことがないように準備してもらって、ゆったりと滞在してもらうんだ」

「そ、そうだな」

 お土産をみんなに渡すというのもいい。ひな鳥たちに渡すだけでも時間がかかる。すぐにやることが無くなって帰ると言われたらみんなが泣いてしまう。


「シャオマオ。忘れ物はないですか?」

「うん、ない!ちゃんとライにーにとユエにも確認してもらったから」

 ニコッと笑うシャオマオは今日も美しい。ミーシャはまぶしそうに目を細めた。


「では、荷物と先生たちはリューで運びます。念のため、シャオマオと両親が手をつないで飛びます」

「ちっ。俺はチェキータと違って妖精様を抱っこしたことがないんだ。抱っこして運びたかった」

 もそもそと愚痴をいうニーカの言葉はユエの耳に届いていた。

 がるるるるるっと犬歯をむき出しに睨まれたら黙るしかない。羽根をむしられるのだけは勘弁だ。


「シャオマオ。疲れたら抱いて運ぶからいうんだよ」

「うん。ユエに抱っこしてもらうね」

 シャオマオはユエに気を使って、一回くらいは休憩をはさんで抱っこさせてくれるかもしれない。


 正直に、シャオマオがどれくらい飛び続けられるのかはよくわからない。シャオマオから飛ぶことが疲れるといったことは聞いたことがないが、飛ぶのに慣れている鳥族の速度で1時間以上飛び続けるのだ。シャオマオは羽がないがどのくらい飛び続けられるのか。今回はその試験も兼ねている。


「よっしゃ。みんな準備ができたんだったら出発しようぜー」

 ライが軽く言う。

 その言葉に、水の大精霊のリューがすいっと浮かび上がる。


「妖精様。出発しましょう」

「はい」

 ニーカとチェキータに手をつないでもらって、すいっと浮かぶ。

 鳥族の二人は羽を広げただけに見えたが、それでもシャオマオに合わせて体を浮かせる。


 本当に、鳥族のこの翼と体はどうなっているのか。

 ふぁさっと一回動かすだけで、けっこうな高度を上げて進むのだ。

 翼を動かす動きと進む動きがあっていないような気がする。それは翼もないのに空を飛ぶシャオマオが疑問に思うことではないかもしれないが、何度見ても不思議である。


 道中を一緒に飛びたいと集まった20人の鳥族たちもまた飛び立つ。


「わあ!みんなで飛んだら精霊ちゃんたちが喜んでる!!」

 シャオマオの顔に吹き付ける風が甘い。

 精霊たちがまとわりついてずっと鳥族の里まで道筋が出来上がっている。


「これたどったら、迷子にならないね!」

 まるで空中にできた道路だ。この一本道をそのままずっと走り続ければ鳥族の里に到着すると思われる。


「妖精様にだけですよ。この子たちがここまで歓迎するお客様はない」

 チェキータがいつもの王子様スマイルで微笑みかける。


「そもそもお客様なんて来ない」

 ふふんっと鼻で笑うニーカ。


 他種族が鳥族の断崖絶壁の家に招かれることはほとんどなく、今回の妖精様滞在にユエたちも一緒に招かれたのは本当に珍しいことだという。

 先代の妖精様は自由に鳥族と遊んでは、自由に家にも遊びに来ていたのらしいが。


「一番妖精様と遊ぶのは鳥族の役目だ」というのが鳥族の自慢にもなっている。

 それほど空を飛ぶ唯一の鳥族は妖精と仲が良かった。



「妖精様、妖精様」

「なあに?」

「鳥族語は話せますか?」

「鳥族語!?シャオマオったらわかんないの・・・」

 若者が話しかけてきたが、シャオマオはしょんぼりする。


「じゃあ覚えましょうよ。『ピーヨ』これが妖精様です」

「ぴーよ?」

「それだと『水浴び』ですね」

「むむむずかしい・・・」


 鳥族語は難解で、鳥族以外にはまったくリスニングもスピーキングも難しいと言われる言語である。

 流石のサリフェルシェリでも、一言しかしゃべれない。

『やめなさい』である。

 鳥族語でこれを言うと、共通語よりも早く静まるので便利である。


「『こんにちは』は?」

「『ピ』です」

「ぴ?」

「それだと『重たい』ですね」

「一生話せる気がしない・・・・」

 シャオマオがもにゃもにゃと悔しがっている姿をチェキータがにこにこと見守ってくれる。


「では、歌を歌いましょう。多少違っていても、歌は我々の心から出る感情を表現してくれますよ」

「トゥルルルルルル~~」

 シャオマオに鳥族語を教えてくれた若者が歌い始める。


「まずは聴いてください」

 チェキータの言葉に、若者たちが歌っている歌を大人しく聴くシャオマオ。


 ああ、わかる。わかるなぁ。

 シャオマオは顔を赤くした。


「どうでしたか?妖精様」

 若者達みんなで合唱してくれた歌は、シャオマオの心にストンと落ちてきた。


「愛の歌よ。大好きって気持ちが溢れてた」

「そうです!よくわかりましたね!」

 若者たちがくるくると回りながら喜ぶ。


「気持ちがこもっている言葉は分かるの。『愛してる。貴方の大きな翼、一緒に飛ぶ幸せ。愛してる』って歌ってたのん」

「そうですそうです!乙女の歌なのです」


 鳥族の青年に恋する乙女の歌らしい。

 女の子から求愛するときはよくこの歌を歌うのらしいけど、鳥族の女の子たちは直球なのだろう。大好きなものは大好きなのだ。隠したり照れたりしない。


 それからは道中ずっと、付き添いの若者たちがシャオマオにいろんな歌を歌って聞かせた。

 シャオマオは「戦いの歌」「失恋の歌」「愛の歌」と正確に歌詞を当てる。

 鳥族たちはそれだけでも感激していた。他種族にはまったく聞き取れないと言われる言葉だが、歌であれば妖精様に届くのだと。

 それからはみんな、鳥族語を使うときはメロディーをつけてまるでミュージカルのようにシャオマオに話しかけるのであった。



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