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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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クリー二の木

 

 マリユルウェルのお別れの前日、シャオマオはエルフ族の子供たちに交じって遊ぶようになっていた。

 狩猟を好むエルフ族のみんなは妖精様がいる間は武器を携帯しないほうがいいんじゃないかと話しあったが、当の妖精様であるシャオマオから、「普段通りでいいの」と言われて武器を携帯するようになった。


 弓を背負ったエルメルフェルナは凛々しい姿でシャオマオを迎えに来た。

 これぞエルフといった佇まいに、シャオマオは大いに喜んだ。


「シャオマオ。今日は大森林の中まで遊びに行こう!」

「森の中、入っていいの?」

「勿論だよ。妖精様が入ったらいけない場所なんてないさ」

「ユエ。行っていい?」

「勿論。俺も行くよ」

 ユエは当然のことをというように、シャオマオの手を取って口づけた。


「なんだ。()()()も一緒か」

「ユエが嫌がることはしないの」

「妖精様なのに?」

「そうよ。妖精かもしれないけれど、シャオマオったらユエのシャオマオなの」

「そっか。シャオマオがしたくてしてるならいいけど」

「うん。シャオマオったらそうしたくてしてるの」

 ちょっと考えたそぶりをしてから、まあいいかといったような表情のエルメルフェルナ。


「なんでもいいけどさ、とりあえず動きやすい服着て来いよ」

「これだとだめ?」

 ひらひらのエルフ族の日常着をつまんで見せるシャオマオ。


「見てるだけならいいけど、シャオマオもやりたくなるんじゃないかな?」

 そういえば迎えに来てくれたみんなはズボンを履いて、ひらひらも控えめだ。


「楽しいことするのね!着替える着替える!待っててね」

「おう。急げよ」

 シャオマオのセリフにうっとり頬を染めて抱きしめているユエの手をトントンとして離してもらってから、シャオマオは自分の部屋に冒険服に着替えるために飛び込んで行った。


 シャオマオが冒険服を着て戻ってきたら、リビングではソファに横たわる完全獣体のユエと、それに群がる子供たちがいた。


「ユエ、虎さんで来てくれるの?」

「ぐうあ」

「シャオマオは今日飛ぶの禁止だからな。途中の山までは()()()に乗せてもらえばいいんだよ」

 エルメルフェルナがカラッと笑う。



 シャオマオはユエの背中の乗って、崖を駆け上っているところだ。


 エルフ族の子供たちはとにかく体が軽い。

 虎のユエが岩の足場を選んびながら頂上を目指して進んでいるが、子供達だって負けていない。大幅に遅れることもなくひょいひょいとついてくる。


「エル。みんないつもここまで遊びに来てるの?」

「ああ。年長組が連れてきてくれるんだけど、今日は大人が先に行って狩りをしてるからな。手前の滝までは遊びに行っていいって言われてるんだ」

「滝?」

「ああ。大森林の子供の遊び場だよ」

 シャオマオはユエから降りて、みんなに続いて歩いた。


 シャオマオは不思議だった。

 どの種族も「飛んでください」と妖精様をうっとり見るのに、「飛ぶの禁止」なんて言われると思っていなかったのだ。


 ポカポカとした気候で歩いていたら、体が熱くなってきた気がする。

 周りを見ると、自分より小さいデューデリアリの顔も案外けろりとしている。

 シャオマオは自分の体力のなさを痛感したのだった。


「さあ。シャオマオ。これが子供が遊んでいい「小さい滝」だ」

 目の前が開けると、そこには立派な滝があった。これで小さいのなら、大きい滝はどのくらい大きいのだろうか。


 どうどうと流れ落ちる滝は5メートルほどの高さがあって、自分たちはその水の流れ落ちる場所に立っている。流れた水は滝つぼにたまってきらきらと輝いている。


「涼しい。さっきまで暑かったの」

 シャオマオは、帽子を取って滝のひんやりとした空気で涼んで「ふう」とため息をつく。

 赤くなった頬に滝のマイナスイオンが気持ちいい。


「ここ、なかなか深さがあってな」

 エルメルフェルナが説明しながら背負っていた荷物を木のそばに置く。


「気持ちいいんだ」

 荷物を置いた木に巻き付いた蔦を掴むと、それを持って木に登り始める。


「それ!」

 蔦に捕まって、木から飛び降りるエルメルフェルナが放物線を描いて滝つぼに向かって飛んでいった。


「エル!!」

 エルの姿が崖の向こうに消えると、派手な水しぶきが上がって子供たちの歓声が聞こえる。

 どうやら焦って慌てたのはシャオマオだけだ。


 儚く美しい容姿の女の子なのに、話し方と一緒でエルメルフェルナは大胆な遊びが好きなようだ。

 走って崖の端まで行くと、下の滝つぼで泳ぐエルメルフェルナの姿が見えた。


「シャオマオ。飛べ!」

「え?」

「シャオマオも飛んでみろよ」

「う、うん」

 シャオマオは高いところは平気だが、落ちたことはない。落ちることが平気かどうかはよくわからない。


「本当は年少組のテストなんだ。これができたら狩りに連れて行ってもらえる」

 ということは、今日来ているデューデリアリもできたということだ。


「エルメルフェルナ。飛ぶよー」

 デューデリアリは蔦を使わずに滝の上からぴょいと飛ぶ。


 ざぶん!!

 自分の勢いの分だけ沈んで、ぷかんと浮かんで来たデューデリアリも楽しそうに笑っている。


「みんな飛べ飛べ!」

「きゃー!」

 下からエルメルフェルナが声をかけると、おチビたちはその場から飛び込んで、少し大きな子は蔦を使って宙高く舞い上がって飛び込む。


 みんなが楽しそうにしているのを見ていたら、だんだんシャオマオもうずうずしてきた。

「ぐるぐるぐる」

「うん。ユエも一緒ね!」


 子どもたちがみんな岩場に上がって見守っていたら、シャオマオがその場からぴょいと飛んだ。


 だぼん!!


 尻から着水したシャオマオ。


 ざん!!


 きれいに腕から水に入ったユエは水しぶきも最低限だ。

 水はなんだか暖かくて、温水プールのようだ。


「シャオマオ!これでお前もエルフ族の年少組の仲間だ!!」

 水から顔を出したシャオマオに、エルメルフェルナが拍手した。


「ぷう!」

「ぐある」

 虎のユエのだぶだぶの首に捕まって岩場に上げてもらうと、みんながシャオマオに抱き着いてきてくれた。

 何度か飛び込んで遊んでから、精霊に頼んでみんなの服を乾かしてもらう。


「じゃあ、シャオマオも年少組になったし、あそこへ行こうか」

「まだ遊ぶところあるの?」

「もちろんだよ」


 崖から今度は草原に遊びに行く。

「ヨコヅナ~~!」

『妖精様!』

 キラキラに輝くヨコヅナの顔に抱き着くシャオマオ。


 ここは大森林のはずれにある、ユニコーンたちの住処だ。

 シャオマオの祈りのこもった染料のタブレットが配られてからというもの、ユニコーンたちの体に魔素がたまることがなくなり、子供たちも健やかに育っているという。


『妖精様。今年生まれた子供たちに会ってください』

「え?え?赤ちゃん見せてくれるの?ありがとう!」

 ちっちゃいツノも生えていない赤ちゃんユニコーンたちに囲まれているシャオマオを見て、エルフの子供たちはぽかんとしていた。


 エルフとユニコーンは基本的に住処を同じくしているが、ユニコーンが自分たちの子供を見せてくれることはない。警戒心が非常に強く、大人のユニコーンは大人のエルフと仲良くなることはあっても、自分の子供はよっぽどの信頼関係がないと見せてくれることがない。


 それがいまわらわらと集まって、座っているシャオマオを取り囲んでいるのだ。

 驚かないわけがない。


「きれいな子たちばっかりねぇ。元気に育ってね。大きくなったらシャオマオを乗せてね」

 シャオマオは順番に集まってきて顔をすりすりと寄せてくる子供のユニコーンたちにお願いをする。

 ユニコーンの小さい子供たちはシャオマオの髪をハミハミして、「なんだこの生き物?」ときょとんと不思議そうな顔をしている。人を見たことがまだないのだ。


「ぐるううう」

 虎のユエでもシャオマオの毛づくろいはみんなに怒られるからやってないのに、ユニコーンの子供たちが寄ってたかって髪をハミハミしているのを見ると嫉妬にかられる。


()()()はシャオマオのこと好きなんだな」

「ぐう」

 遠くからぎりぎりと睨むユエの顔を見て、呆れたようにつぶやくエルメルフェルナ。


「シャオマオ可愛いもんな。みんなシャオマオのこと好きになる」

「ぐるぐる」

「でも、シャオマオは妖精様だからな。シャオマオを独占しようとすんなよ。シャオマオに不自由させたら承知しないぞ」

「ふんっ」

 つーんと顔をそむけるユエに、こんなのがシャオマオの番って本当か?と不安になるエルメルフェルナであった。



「シャオマオ、のど乾かないか?果物採りに行こう!」

「くだもの~」

 みんなで果物のなってる場所へユニコーンに乗って遊びに行ったのだが、近づくにつれて濃厚な甘い香りが漂ってきた。


「・・・・ユエ。これ、何のにおいかな?」

「ぐ?」

 スンスンと二人で鼻を鳴らすが、いろんなにおいがたくさん混じっているようで、シャオマオが言う香りを特定できないでいるユエ。


 仕方がないので順番に「これ?」「違う」「こっち?」「違うみたい」とみんなで果物を持ち寄って確認していたが、とうとう一つの木の実にたどり着いた。


 香りは濃厚なマンゴーのよう。パッションフルーツのようなとろける果実。種はプチプチとした歯ごたえ。いくつもの南国の果実が混ざったような果実に、うっとりと見入るシャオマオ。


「これよ。ユエの香り。これなの」

「はー。シャオマオもこの()()()、いや、虎のこと好きなんだなぁ」

「え!?急にどうしたの?」

「これ、クリーニの木。恋人の木って意味だよ」

「え!?」

「昔から、恋人に捧げる果実って名前ついてんだよ。甘い恋の味なんだって」

 シャオマオは真っ赤になってうずくまってしまった。

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