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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第一章

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さあ、帰ろうね

 

「はー、こりゃまたお似合いだ」

 海人族の衣装に着替えたシャオマオを見て、長老たちは手を叩いて喜んだ。

 昨日着ていたのが猫族の伝統衣装だと知った海人族から、「我々の伝統衣装も着て欲しい」と頼まれたのだ。

 見せられた衣装を見て驚いて、着てみてシャオマオはなつかしさに涙がこぼれそうになった。

『浴衣だぁ~!』

 夏祭りに着てみたいと願ったあの浴衣だ。

 藍色の反物は特殊な製法で、糸から海人族の手で作られている。光が照らすと静かにオーロラ色に輝く。

 淡く儚い光で、派手ではないがつやつやと上品で美しい。帯は子供帯でふんわりと結ばれている。

 布には染めと同じく藍色の糸で刺繍が上品にされており、青緑の鱗が数枚アクセントとして縫い付けられていて、控えめに輝いている。


「これ、キノだ」

 一つの鱗をつまんでにっこりとすると、長老も嬉しそうだった。


「そうです。よくわかりましたな」

「キノの気持ちがね、あるのよ」

「キノは何と言っていますか?」

「また会いたいって。あとねぇ、すきって言ってる」

「ほっほっほ。我々みなの気持ちを代表してくれておる」

 シャオマオはサリフェルシェリに所々通訳してもらいながら長老たちとにこやかに会話する。

 そろそろ帰ろうかというので、海人族たちがみなで見送りに来てくれたのだ。


 肝心のキノはユエと睨み合っている。

 睨んでいるのはユエで、キノは目を細めてニコニコしながら受け流しているが。

「人の(つがい)に自分の鱗をつけた服を送るなど非常識だ」

「番?何を勝手な。シャオマオ様はまだ成人前ですよ?」

「成人前でも決まったことだ。俺の片割れで番だ」

「片割れは魔力の質からそうなんでしょうけど、片割れが必ず番になるなんて決まりはありませんよ」

「決定事項だ」

「この虎猫は熱でもあるのかな?」

「なんだと?」

 ユエの髪がザワザワ揺れ始めた。怒りのあまり魔力圧力が漏れているのだ。


「シャオマオ様は妖精様です。獣人の番システムには当てはまりませんよ」

「俺の番がたまたま妖精だっただけだ」

「それはそれは。残念なことだ」

 キノはちっとも残念と思っていない言い方で、口先だけで哀れんだ。


「星の愛し子は誰にも縛られない。縛りつけようとすれば星の怒りを買う」

「愛する気持ちは縛りつけられることではない」

「自分が愛されていると?」

「当然だ」

「はー。猫は猫だな」


 ばちん!!


 大きな音が鳴って、みんなから少し離れた場所にいた二人に視線が集まった。


 ユエが何かを掴んでいるが、遠目だと分からない。

「切り落としてやろうか?」

「お好きにどうぞ。いくらでも再生する」

 不敵に笑うキノの背中からは、半透明の触手のようなものが二本伸びていて、一本がユエに掴まれている。


「あれだったのか」

 ライがキノに吹き飛ばされた時のことを思い出して悔しそうに言う。

 ぷりぷりの水分を含んだ触り心地で完全に固いゼリーだ。


「ケンカやーの!」

「妖精様。先に船に乗り込みましょう」

「そうだそうだ。喧嘩してる奴は置いていこう」

 シャオマオが怒りだしたのでサリフェルシェリとライも続いて舟に乗り込む。

 舳先にはまたロープが何本も繋がっていて、鳥族が交代で引っ張ってくれるらしい。


「ああ、シャオマオ様。お忘れ物ですよ」

 キノはユエが掴んでいる自分の触手をプツリと自切してシャオマオを追いかけた。

 ウニョウニョと切れた後も動く触手を、ユエは思いっきり沖に向かって放り投げた。


 海人族の若者が二人がかりで例の魔石を持ってきた。

「さあ。あの子から貰ったものですから、シャオマオ様がお持ちください」

 巨大なクジラの魔物からもらった巨大な魔石。


 不思議なことに、シャオマオは自分より少し大きな石を全く重さを感じないで持つことができる。他の人だと想像するような石の重さになるらしい。

 なので、船に乗ってる間はシャオマオが抱えていることになった。大きすぎて虹色を通して景色を見ることになるが、それはそれで美しい。

 魔石を持ったシャオマオを抱えても、石の重さは消えたままだ。

 長老たちは、お土産にとシャオマオが喜んで飲んでいたココナッツウォーターと、染めてない反物と、みんなの鱗が詰まった小瓶とたくさんのものを持たせてくれた。



 とんと軽く地面を蹴って、船を全く揺らさず飛び乗ってきたユエは流れるようにシャオマオを抱きかかえる。全員の乗船を確認して、鳥族はみなで楽しげに紐を引っ張り出した。


「また会いましょうね、シャオマオ様」

「うん。遊びに来る。キノも会いに来て」

「もちろんです。何かあれば海に向かってキノと名を。すぐに駆け付けます」

 キノは砂浜で手を振ってくれたが、子供の海人族たちは何人か船と一緒に泳いで付いてきた。

 途中まで見送ってくれるらしい。


 時折跳ねながら船と並走して楽しそうにしているのをみていると、次は少しぐらい浜で水遊びをしてみてもいいかもと思えた。多少はあのみんなが溺れるショッキングな事件から立ち直れたのかもしれない。

 あまりにも強いトラウマにならなくてよかった。


 しばらくすると、海人族の子供たちが手を振って見送ってくれた。見送りはここまでの様だ。

「次は一緒に遊ぼうねー」

 シャオマオが手を振ると、何人かがイルカのように水面からジャンプして見せてくれた。魚の下半身がきらきらと太陽を反射して驚くほどきれいだった。そしてジャンプがかっこいい!!


 鳥族たちもかわるがわる楽しそうに紐を引く。

 サリフェルシェリが海人族のエリアに向かった時と違って、景色を楽しむ余裕がある。

 あの時は水面をはねるように船が走っていた。宙に浮いている時間が長かった。サリフェルシェリは恐ろしさのあまりずっと目を閉じたままだったのだ。


「もうすぐ到着です、妖精様」

「ありがとうニーカ。チェキータ」

「うん?妖精様、急に言葉がきれいになった」

 浜に船を上げてから、ニーカは手を叩いて喜んだ。

「何度も呼んだ。慣れた」

 にこっとすると、チェキータが抱きしめてくれた。

 聞き取りは、だんだんとみんなの感情が読み取れるようになってきたら言葉の意味の方が先に理解できるようになってきたのだ。

 知ってる単語ならだんだんと発音もきれいになってきたようだ。

 やはりいろんな人の話しているところをたくさん見ると違う。


「妖精様」

「チェキータ。ニーカ。楽しかった。いっぱいありがとう」

「急に大人になってしまったようだ」

 さらさらと髪を撫でられる。


「いろいろありましたが、鳥族はこの度のお詫びと、助けていただいた恩を忘れません」

 浜に鳥族が跪く。

 チェキータはシャオマオの手をとって自分の頭の上に乗せた。


「う?助けたの、海人族よ」

「彼らは妖精様が望まなければ手を出さなかったでしょう」

「そうなの?」

「そうだろうな。ユエなんて一番最初に沈められてただろうしね」

 ライがわははと笑い飛ばすが笑い事ではなかったかもしれないということだ。


「妖精様は星の愛し子です。空も何かあれば妖精様の味方をします。最後まで妖精様と一緒に」

 誓いの後、ちゅっと指先にキスされた。

 瞬間的にシャオマオの顔がぼっと赤くなる。

「チェキータ『王子様』」

「おーじ?」

 チェキータが首をかしげたが、知らない単語なので教えてあげられない。

「かっちょいい・・・」

 ユエのこめかみがピクリと動いた。


「ありがとうございます」

 チェキータは再度にっこりと微笑むと、お辞儀して「いつでも呼んでください」と言ってみんなと帰って行った。


「さ、シャオマオ帰ろう」

 ユエがシャオマオを抱きかかえたとたん、山道から走って近づいてくる人物がいた。


「おおーい。迎えに来たぞおおお!って!なにその魔石!?」

 驚かそうとして走ってきたジルが逆に驚いて腰を抜かしていた。

「もらったの」

「も、もしかしてあの海に出たっていうでかい魔物か!?」

『クジラ』

「く?」


「これ持って帰るのどうしようか?」

「もう砂浜に埋めてしまいましょうか?」

「バカバカバカ!こんな大きさの魔石なんて金を積んでも手に入るもんじゃないぞ!?」

 ライとサリフェルシェリが考えるのがめんどくさくなっていい加減なことをいうと、ジルが慌てて止める。

「わかってますよ。妖精様が魔物からもらったものですからね。大事にしますよ」

 サリフェルシェリがジルがあんまり慌てるものだから笑いながら言った。


「しかし、大きすぎて使い道がわからんな・・・」

 魔石は基本的に人族やドワーフが作る魔道具や武器に変わったりするが、ここまで大きいものを加工することが難しいだろう。

 というか、歴史的な宝物として扱われるかもしれない。


「使い道を探すよりは、普通に妖精様が持っているほうがいいでしょうね」

「では、俺とシャオマオは二人でゲルに戻る。あそこは魔素濃度が高くてめったに人が来ない。あとは俺の家だと知られている。誰も近づかないだろう」

「そうか。俺は一旦猫族エリアの家に帰るよ」

「私もジルとギルドに戻って報告が終わったら一度大森林に戻ります」


 みんなやることがあるのか、一度解散するらしい。

「何日か二人で頑張って生活して。いろいろ済ませてからまたゲルに行くから」

「ライ~」

 なんだかんだ言っても、ライはずっと一緒にいてくれた人だ。何日かとはいえ顔を見ないなんて心細い。

「大丈夫だよ、シャオマオちゃん。絶対にゲルに戻るから待ってて」

「妖精様。会えない間に覚えた単語を書いておいてください。会った時にどれだけ覚えたか教えてくださいね」

「サリ~」

 段々と悲しくなってきた。


「泣かないでシャオマオ、大丈夫だよ。俺がずっとそばから離れないから」

 形のいいおでこに軽くキスをされて慰められた。



「集合はユエのゲルですね」

「揃ったらまたギルドにも来てくれ」

「ユエ。ちゃんと手紙を読んで、腹くくれよ」

 すっかり忘れているふりをしていたのはライにばれていたようだ。くぎを刺された。


「みんな早く会いに来てね」

「「はーい」」

 ライとサリフェルシェリは笑顔で返事をして去っていった。


「さあ、シャオマオ。二人の家に帰ろうね」

「うん」

 大きな魔石を抱えたままのシャオマオを抱えてユエは自分のゲルに戻っていった。



 そして、2週間たってユニコーンに乗ったサリフェルシェリが「ユエの大森林滞在の許可をもらいましたよ!」と喜んで遊びに来ても、ライの姿はまだないのだった。

ライ!早く帰ってあげないとシャオマオが泣いちゃうよお~('Д')

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