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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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子守歌

 

「うううううう・・・・・!」

 シャオマオが大きく唸り声をあげる。


「のーして大事な大事なダリア姫がドラゴンの言葉で話しかけたのに聞いてあげないの!!!」

 大粒の涙をぼちょぼちょこぼしながら、シャオマオは洞窟の中で反響するくらいの大声で叫んだ。

 シャオマオのこんな大きな声を聞いたのは初めてかもしれない。

 隣でユエが黄色の目を真ん丸くした。


 シャオマオのタオの実の色の髪が洞窟の薄暗闇の中でピカピカ輝いている。

 なにか精霊がシャオマオの感情に反応して大きく力を振るおうとしているようだ。

「ぐあう」

「ユエ、こんなの怒らないのムリよ・・・・・!」


 その場にいる人たちの体が寒気で総毛だつ。

「すげえ冷気だな・・・さみぃ」

 シャオマオの背後に現れたグローが身震いしながら他の戦闘員たちとやってきた。


「チビは何でこんな怒ってんだ?」

「ダリア姫が呪いの王に話しかけたのに全く自分の子供だとわからなかったようなのです」

 グローの質問に、サリフェルシェリが答える。


「まじか。想定していた一番穏便な手段が通じなかったか」

 ふむ・・・と顎に手をやってグローが唸る。


「まあ、これが一番穏便で一番理想的な方法でしたがそう簡単にいくならば鱗族たちも困ってはいなかったでしょう」

 自分の子供の声を聞いて、ドラゴンの呪いが大人しくなってくれれば一番理想的だった。

 しかし、そんなに簡単にいかないこともみんな考えていた。


「ふうん。じゃあ、二番目の作戦か?」

「シャオマオ様が説得を試みるというのが二番目でしたが・・・」

「チビも興奮しすぎて自分の気持がコントロール出来てねえんじゃねえか?どんどん気温が下がってる」

 グローが指摘したように、話してるうちにも気温がぐんぐん下がって息が白くなりそうだ。


「冷気を操るというのは初めてです。怒っているのに冷気というのが珍しいですね」

「師匠に似たんじゃねえか?あんたも怒れば周りを凍り付かせそうだぜ?」

 はははっと笑われたが、サリフェルシェリは笑う気になれない。


 シャオマオが怒って周りにいる仲間にまで被害が及ぶような力を意識的に使うとは思えない。

 グローの言うように、興奮しすぎて精霊を操る力がコントロール出来ていないのだろう。

 仲間の誰かを傷つけなければいいのだが・・・。


「ドラゴンぱあぱのばかばかばか!!!ダリア姫だよ!?ずっと可愛がってドラゴンになるのを待っていたダリア姫なんだよ?ドラゴンの翼も生えて、ドラゴンの言葉も話せるようになったダリア姫だよ!?のーしてわかんないの!!!!!」

 ジタジタと暴れて叫ぶシャオマオの体の周りがきらきらと輝いてる。

 まるでダイヤモンドダストを纏う雪の精霊のようだ。


「ドラゴンぱあぱはダリア姫のことが大事なのに!!どうして呪いの気持だけになっちゃったの!!ばか!」

 シャオマオが叫んだ途端に鋭い冷気ときらきらとした雪の結晶が礫となってドラゴンの影を覆い隠すように襲い掛かった。


「自分も星に帰れなくなっちゃって!ダリア姫に心配かけて!ドラゴンまあまとも会えなくなっちゃって!!ばかばかばか!」

「グオオオオオオオオオオオオン!!」

 ドラゴンの呪いの声は鱗族の体を硬直させ、恐怖の色に塗りつぶす。

 グローは自分の体を自分で抱きしめるようにして耐える。そのほかの戦闘員も武器をかなぐり捨てて逃げたくなる気持ちを何とか抑えてその場で膝をついた。


「ダリア姫の声がちゃんと聞こえるようになるまで、頭を冷やして!!!!!!」

 怒りすぎて涙をぽろぽろ流すシャオマオは、ドラゴンの呪いをびしっと指さした。

 刹那、シャオマオの周りに集まっていた雪や氷の精霊はびっちりとドラゴンの影を取り囲んで凍らせる。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

 体の先端から凍り付き、動けなくなるドラゴンの影は、首を嫌がるように左右に振っていたが、それすらも自分の思うようにできなくなると、氷の中に全身を閉じ込められて固められてしまった。


「・・・・・マジか」

「冗談のような光景ですね」

「実体がないのに・・・」

 サリフェルシェリたちはまるで狐につままれたような顔をして、氷ドラゴンを見つめる。


「ぷーちゃんの攻撃も効いていましたし、実際は物質としての何かがあったのかもしれませんね」

 ドラゴンの呪いを氷漬けにしたシャオマオは、ユエの毛皮に抱き着いて涙を舐めてもらっていた。

 あまりにも悲しすぎて怒ってしまったシャオマオは、ユエのしっぽを掴んで離さない。


「とりあえず俺たちはあの氷ドラゴンを見張るから、何か指示があったら呼んでくれ」

 鱗族の戦闘員たちがササッと動いてドラゴン入りの氷をロープのようなもので固定していく。


「・・・・・・・・・・・・・ゴホッ」

「ダリア姫?」

「大丈夫ですか?」

 咳を一つしてダリア姫が目を覚ました。


「まだ話さないでください。薬を飲みましょう」

 口を動かそうとしたダリア姫をサリフェルシェリが制止する。のどの調子がまだ整っていない。

 しかし、ダリア姫はサリフェルシェリの薬を手で制した。


「・・・・・・・・私の、体に、薬は、効かないでしょう」

 咳をしながらかすれた声を絞り出すダリア姫。「もったいないから」と遠慮する。

 いいものだとしても、悪いものだとしても、人や獣人が使っている薬や毒がドラゴンの体に有効だとは思えない。

 それほどドラゴンの体というのは特殊なのだそうだ。

 で、あればとサリフェルシェリは精霊札を千切って精霊にダリア姫の回復に力を貸すように願う。



「父は、どう、なりましたか?」

「ごめんね、ダリア姫。ドラゴンぱあぱのこと、凍らせちゃった・・・」

「凍った・・・?」

 サリフェルシェリの上着を枕に眠っていたダリア姫がシャオマオが指さす方向を見て、目を見開いた。


「・・・・・・・凍って・・・・・ますね・・・・・」

 巨大な天井にまで届きそうな氷柱がそびえたち、中にドラゴンの影が閉じ込められている。

 実体がない『呪い』を氷に閉じ込めるなんて、どうやったらできるのかと、ダリア姫は頭が混乱するのを感じたが、一度目をつぶって「妖精様のすることだから」とシンプルな答えで頭を納得させた。


 星が味方する妖精は、基本的にできないことがない。

 星が喜ぶことであれば物理法則を曲げることもできるが、あんまりなことは出来ないそうだ。

 つまり、今やっていることは「それほど無茶苦茶でもなく、星が応援してくれていること」なのだろう。


「ダリア姫が起きるまでのあいだ、どこにも行かないでじっとしててほしかったの」

「ありがとうございます、シャオマオ様」

 かすれていた声に少し艶が戻ってくる。

 サリフェルシェリの精霊札の効果もあるが、ダリア姫の回復力もすさまじいのだろう。


「さて、シャオマオ様。説得はどうなさいます?」

「戦ってもダリア姫のことわかんないままかもしれないの。ダリア姫の声が届かないなんて」

 シャオマオの言葉に、ダリア姫がふと遠い記憶を思い出した。

 できればダリア姫のこと思い出してもらって、ゆるやかに星に帰ってもらいたい。


「うた」

「歌?」

「ええ。歌です。一部のドラゴンはとてもロマンチックで詩的な生き物なんです。私の母はいつも歌うように話すドラゴンでした。私は卵の中で、いつも母の歌声を聞いていたのです」

 懐かしそうに眼を閉じるダリア姫。

 卵にずっと子守歌やドラゴンの物語を歌って聞かせてくれていたまあま。


 甘い声。

 やさしい声。

 楽しい物語。

 愛のうた。


「もしかしたら、歌なら届くかもしれません」



 ドラゴンの前に、ダリア姫が一人立つ。

 この広場にダリア姫とドラゴンの呪いの閉じ込められた氷柱のみだ。

 みんなは二階の天井近くののぞき窓から階下を覗き込んで見守っている。


「~~~~~~~~~♪」

 ぴいんと静かな空気に隅々まで広がるようなダリア姫の歌声。


 卵の中で一番聞かせてもらっていたドラゴンまあまの歌から始めた。

 きゅるきゅると嬉しそうな、幸せの歌。

 早く赤ちゃんに会いたいという歌。

 この星がどれだけ愛にあふれているかという歌。

 弱いあなたを命を賭けて守るという歌。


 その場にいる人たちには直接言葉はわからないが、みな同じような白昼夢を見た。

 歌詞の意味に沿ったような幸せな光景が浮かんでくる。


 何曲か歌うと、直接叫ぶのとは違って喉の痛みは緩やかでもダメージが蓄積してくる。

 ダリア姫からのお願いは、「私が血を吐こうが倒れようが、手助けしないでください。絶対に」だった。


 必ずドラゴンぱあぱからの返答があるはず。

 それに賭けさせてください。

 ダリア姫からの必死のお願いがあったので、シャオマオたちは渋々ではあったが了承した。


 1時間、2時間と時間が過ぎてゆく。

 ダリア姫の歌は何週もしている。


 何度も歌っているのは最初にうたった優しい子守歌。

 これが一番ダリア姫にもなじみがあるのだろう。

 ドラゴンの母に何度も何度も歌ってもらった歌。


「~~~~~~~~~~~~~~♪」

 ダリア姫の歌に、なにか細いところを通り抜けるような甲高い風の音が重なり始めた。


 ぷーちゃんが一番初めに気が付いたようだ。

 じっとドラゴンの呪いを見つめている。


「音がするね」

「ぐあう」


 シャオマオは音の精霊に頼んで、氷の中の音を大きくしてもらう。


「・・・・・・・~~~~~・・・~~~~~~~」

 細く細く聞こえるドラゴンの声。


「応えてる!!」

 シャオマオは喜んで氷の精霊に頼んでドラゴンの頭の氷を溶かしてもらった。

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