懐かしい顔がやってきた
「シャオマオ。お話は分かったかな?」
「うん」」
「じゃあシャオマオがどうしたいのかは決まった?」
「うん。シャオマオはみんながどうしたいのか確認したい」
「そうか。シャオマオは優しいね」
シャオマオの話を聞いたユエはニコッと笑って通じ合っていたが、ライは不思議そうな顔をする。
「みんなって、鱗族も入ってる?」
「うん。・・・だめかにゃ?」
「いや、シャオマオちゃんがそれでいいって言うならいいんだけど・・・」
妖精のやることなすことに異を唱えるべからず。
妖精を邪魔すれば星の怒りを買う。
「まずはここにいる人の気持ちを聞きたいの」
「わかった。じゃあ晩御飯を食べながら気分よく話しよう」
「・・・食事・・・じゅる」
「ぷう!」
シャオマオの頭を撫でていたら、後ろからぼそぼそと飢えた獣たちの声が聞こえた。
さっきまでなんだかんだと食べていたはずだが、全く足りていなかったようだ。
「では、ダリア姫。ダニエル王。ウインストンを連れてジョージ王子と先にダイニングに。準備は我々がしますので」
サリフェルシェリがニコッと笑ったが、ウィンストンが手伝うと申し出る。
王宮から運んだ食事の給仕をすると言ってくれたのだが、この家には給仕が必要なものは王と王子の二人しかいない。
出来ればシャオマオが身分差を気にしないように、シャオマオと一緒にみんなで食事してほしいと頼む。
それに納得した王はダリア姫をエスコートしながら王子を伴い、ウィンストンに案内されてダイニングに向かって行った。
「シャオマオもジョージ王子と話していていいんだよ?」
「ううん。シャオマオったらおきゃくさまをおねまきしたのだから、きちんと喜んでもらわないと!」
「うん。お招きだね」
「あう・・・まちがえちっち」
ぽっと赤くなったシャオマオの顔をスルスルと撫でて、手をつないでキッチンに向かって歩く二人。
「シャオマオは頭がいいな。新しい言葉もすぐ覚えてしまう」
「でも間違ってたの」
「間違いは誰にでもある。学ぶ姿勢が美しいんだよ」
美しいユエに美しい笑顔で尊敬のまなざしを向けられると、さらに顔が赤くなってしまう。
ユエはきれいな虎だから。
ユエに似合う片割れでいなきゃ、とシャオマオは考えている。
「シャオマオちゃん。先にこのバスケット運べる?」
キッチンの中では温められたパンがいくつもバスケットに並べられていた。その中でも小ぶりのものをライが指さす。
「できる!!」
「よし!シャオマオ隊員!任せたぞ!」
「はい!隊長!」
しゃびっとライに向かって敬礼をキメたシャオマオが、双子から一番小さなバスケットを受け取る。
なんと、バターロールが7個も入っている。
そこに埃をかぶらないようにレンレンが布をかけてくれた。
「シャオマオ、持つよ」
「だめでっす!シャオマオが持ちまっす!」
ふんす!と鼻息荒く、シャオマオはバスケットを慎重に持ち上げて、ゆっくりゆっくり歩く。
「ユエ。お前はあのスープの大鍋持って行ってくれよ」
バスケットを持ったシャオマオを持とうと手を伸ばしていたユエを、ライの言葉が止めた。
危なかった。
そのままシャオマオを持ち上げていたらきっと怒られていたに違いない。
しょうがないので温め終わったスープの入った大鍋を持って、シャオマオの後ろをついてゆく。
リビングに入ると、ダニエル王とジョージ王子は二人まとめてダリア姫の小さな体に抱きしめられていた。
三人で何か会話を交わしていたので、シャオマオはそっとテーブルにバスケットを乗せて邪魔しないようにユエと二人でまたキッチンに戻った。
黒ヒョウの兄妹がせっせと作る料理をシャオマオたちが運んで運んで、やっとテーブルの上がいっぱいになったところでいったん食事を開始することになった。
シャオマオの力強い主張で、またもウィンストンも一緒に食事をとることになったのだが、彼はやっぱりベテランの執事である。
ささっと空になった籠にパンを追加して戻ってきて、また何気ない様子で自分も食事をとっている。
ピッチャーの果実水がなくなったときも、ひとりでに満タンになったのかと勘違いするくらいさらっと補充している。
しかも、シャオマオがおしゃべりに夢中になっていたり、真剣に食事をしていて気づかない時を見計らって行っているのだ。全く気付いていなかった。
それにしても、ダリア姫の食欲は底なしである。
シャオマオも時折ぽかんとしていた。
どれだけ食べてもスピードが衰えない。
爆速で優雅な食事をする。肉食の獣人より軽く食べている。どう見ても。
そして、流石に胸元から出たぷーちゃんも、自分より大きな肉の塊をガツガツ食べている。鳥なのに。ガツガツ・・・。
「この鳥は元をたどれば幻獣ですからね。とても大きいのです。きっと食べ続けてエネルギーを蓄えねば使える力も弱いのだと思います。幻獣から変異したとはいえ、なんだか力が全くない普通の鳥に見えますから」
「普通の鳥に見えるのは、ダリア姫が魂を見る目を持っているからだな。この鳥をしばらく観察して普通の鳥だって判断するやつは少ないよ」
ライがケラケラ笑ったが、ダリア姫はいまいちわかっていないようだった。
「じゃあ、ぷーちゃんったらご飯沢山食べたらあの金の鳥さんみたいになるのかしら?」
「ぷーいん」
可能性はあるらしい。
あるならやってみるしかないだろう。
「じゃあ、ぷーちゃんは『ご飯いっぱい食べて幻獣に戻る』がいいと思うの」
「そうだね」
シャオマオの言うことを否定しないユエはスープをシャオマオの口に入れながらにこにこしていた。
完全に頭の中は「シャオマオの喉が動く様子は本当に愛らしい」のみである。
「ライにーに、協力してちょうだいませませ」
深々と頭を下げるシャオマオに、プッとふきだすライ。
「わかったわかった。ぷーに飯食わしてやればいいんだろ?」
「ご飯代はシャオマオの魔石を使ってほしいの」
「シャオマオの魔石を使わなくても、俺の稼ぎでシャオマオに不自由はさせないよ?」
結局食事に関しては、どのくらいの期間ライが付き合えるかわからないため、王様からも定期的に配達してくれることとなった。ライはみんなのお母さんではあるが、お母さんが職業ではないのだ。
そして王宮のご飯を食べる贅沢な鳥、ぷーちゃんの爆誕である。
「ダリア姫は今後どうしたいですか?」
サリフェルシェリが尋ねると大きな肉を切り分けていた手を止めて、ダリア姫はうつむきがちに話す。
「父の呪いをなんとか解いて何の憂いもなく旅立ってほしい。多分、父の体はまだ朽ち果てずに地上に残っているでしょうから」
「朽ち果てない?」
「そうです。本当はドラゴンの魂が星に帰れば肉体は森になります。今まで食べたものの命をまた復活させるために森になって山になって、命を育みます。でも、呪いを残したドラゴンの体からは命は芽吹くことはありません」
「あわわ・・・。ダリア姫泣かないで」
肩を震わせるダリア姫に飛んで抱き着くシャオマオ。
「父を助けたい・・・」
「わかった。シャオマオも頑張るね。ダリア姫の目標は『ドラゴンぱあぱの呪いを消す』がいいと思うの」
「ありがとうございます」
「じゃあ、最後にシャオマオちゃんの望みは?どうしたい?どうなってほしい?」
ライが尋ねた。
「シャオマオったらわがままで、よくばりな妖精なの!みんなの願いが叶うようにするの!」
ユエの上によじ登ろうとするので、ユエはシャオマオを肩車した。
びしっと人差し指を立て、「誘拐犯の鱗族の人!またシャオマオの家に来てちょうだい!!」と大きな声で宣言した。
「ちょ!」
「シャオマオ!?」
双子が慌てたところで玄関の方が騒がしくなる。
呼び鈴の音が鳴って、音の精霊がサリフェルシェリのところへやってきた。
「あらら。意外な形で願いが叶ったようですね・・・」
サリフェルシェリはまったく驚いていないのに口だけで驚いたように言うと、玄関まで飛び入りのゲストを迎えに行った。
「お邪魔します。妖精様」
「あ!ラーラ!!」
以前に金狼の地上進出を一緒に阻止した狼獣人のラーラである。
一気にユエの雰囲気がキツくなる。
当のラーラは何も気にしていないようだが。
「・・・?妖精様?少し縮んでしまわれたか?」
「これが本当の姿なのん・・・」
「さようでございますか。しかし美しさに変わりはない。私はいつでも妖精様のお傍へ駆けつける準備をしております」
「ありがとう、ラーラ」
膝をついて頭を下げ、シャオマオの手を取って自分の頭に乗せた。
シャオマオはラーラの挨拶を受けて、思う存分半獣姿のラーラの短い毛を撫でまくった。
「それで、ラーラはきょうどうして来たの?」
「犬獣人の傭兵になりたい若者の登録と、王宮への挨拶へ来たのですが王が不在で。であれば妖精様に挨拶をしてから帰ろうと思っていたのですが・・・。この不届き者がお庭の木の茂みに潜んでいたのを偶然見つけましたので、ひっとらえました」
冷たい目をしたラーラに全身をロープでぐるぐる巻きにされた鱗族の若者。まるで芋虫のようにしか動けなくなっている。
口にもロープを嚙まされていて、時々何か呻いているものの聞き取れない。
「えっと、鱗族の人、シャオマオです。・・・・・・・・・ごはん、たびた?」
シャオマオは鱗族の若者がおなかをぐうぐう鳴らしているのを聞き逃さなかった。
「こんな強者の獣人ばかりいて、暗器も全部取り上げられてんだ。俺は戦えねえよ。だからロープ外してくれ」
鱗族の若者、グローは自己紹介をしてから諦めてテーブルに着いた。




