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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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ダリア姫のお話②

 

 目は赤いものの、涙が止まったシャオマオはユエにお茶を飲むよう促される。

 こくんと一口飲んでから、ダリア姫と目が合うと少し笑ってくれた。

 コップをユエに渡してから、ダリア姫を見つめてお話の続きを待つ。


 ダリア姫は鱗族によって命を失った。

 それはダリア姫の中の「人族の最期の命」。


「人族の、いのち?」

「そうです。私はたまごのまま形を変えて人族の赤ん坊になったそうです。異種族のドラゴンの子供についてはドラコンにもよくわかっていないことが多いそうで、なかなかこうという説明がなされないのですが」


 ドラゴンは特に歴史を残さない。

 人の手によって残されてきたものはあるが、 ドラゴン自体はこの星の初めから終わりまで、ずっと同じく生きていく。

 あまり過去にも未来にも興味がない。

 同族間の愛情は深いそうだが、自分達と歩まない者に対しては興味が薄いのだという。


 だから、ドラコンとして長く生きていても、数少ない異種族間のドラゴンの子供がどうやって育つかはよくわからないのだという。

 ドラゴンの父は人族になっていたとしても、自分の子供がよく分かった。

 そうして、「ドラゴンとして孵るまで」根気強く待ってくれた。


 それは人族としての気配、つまり命が薄くなるということだった。


「人族として成長していても、結局は卵のままであった、ということですか・・・」

 サリフェルシェリはため息交じりに自分の中の言葉を少しだけ声に出した。

「そのようです。自分ではよくわからないのですが、それは異種族間のドラゴンの子供に備わった生存本能かもしれませんね」


「そのまま成長すれば、どんどん人族として生きていた命が薄くなってドラゴンに変われたのかもしれませんが、私は途中で命を失いました」

「卵が孵るまでに殺されてしまった、ということですよね」

「そうです。そのため私は一度死にました」

 にこっと笑って答えてくれるが、恨みを持って殺されるなんて怖かったはずだ。

 シャオマオはユエの腕をぎゅうっと掴んで恐怖を払おうとする。


「シャオマオ。怖いなら聞かなくてもいいよ」

「ううん。大丈夫。聞かなきゃ。シャオマオができることがこれからあるかもしれないもん」

「強いねシャオマオ。そんなシャオマオが大好きだよ」

「ありがとう、ユエ」

「妖精様と番様、ほんとうに仲が良いですね」

 ダリア姫の言葉に

「つ、つつつつ番!」

「当然だ」

 シャオマオとユエの言葉が同時に返された。


「ダリア姫。まだ二人はちゃんと誓い合った番じゃないんだ。シャオマオちゃんは未成年だしね」

「え?でもほとんど同じ、こんなにも綺麗に混じり合った魂をしているのに?」

「二人は片割れでもあるんだよ」

「同じ魂がわかれてしまうという片割れ・・・。素晴らしい・・・。道理で番様の魂も輝いていると・・・」

 爬虫類のような瞳孔でじっと二人の中身を見透かすように見つめるダリア姫。


「お互いに相手に愛を注いでいます。愛し愛されている」

「当然だ」

「あ、あ、あ、あ、い、あ愛・・・」

 ユエは本当に至極当然のことだと言わんばかりに頷き、シャオマオは言われたことをじわじわと理解したのかどんどん真っ赤になって、これ以上赤くはなれないだろうというところでぴゅっと飛び上がってユエの腕から抜け出すと、「顔熱い!顔洗ってくる!!!」と洗面所に飛び込んで行ってしまった。


「あ、あの、妖精様は・・・?」

「うん。思春期、くらいかな?」

「悪いことをしてしまいました」

「いいのいいの。全員知ってるし、ユエがほら」

 ライが指さした先には、ほろりと感動の涙を流すユエがいた。


「嬉しそうですね」

「うん。ユエは本当にシャオマオちゃんを愛しているんだ。番としても片割れとしても」

「素晴らしい愛です」

 愛がないと生きられない、弱い弱いダリア姫。

 愛という感情がとても好きなようだ。


「ぷー」

「うんうん。お前の愛もきちんと受け取っているよ。ありがとう」

 やっぱり胸元にいるぷーちゃんを、ダリア姫は愛おしく撫でた。



 ばちゃばちゃと顔に水を何度かけても、鏡に映る顔は真っ赤なままだ。

 シャオマオはむーっと口をへの字に曲げて、目を閉じた。


「あ、あい、あい、あい、あい、し・・・」

 どうしても口が動かない。

 ちょっとも顔も元に戻ってくれない。

 心臓はばくばくと胸をノックしてるし、体の中で何かが暴れまわってるみたいだ。


「シャオマオ様」

「ひょ!!」

 サリフェルシェリが迎えに来てくれたようだ。びっくりしてまた変な声が出た。

 ユエじゃなくてよかった。


「大丈夫ですか?お話の続きはまた今度にしますか?」

「だいじょうぶなの。ごめんね。またにげちゃった」

「大丈夫ですよ。かわいいものです」

 手渡された布で顔を拭くと、優しく微笑んだサリフェルシェリの顔が目の前にあった。


「まだ赤いかな?」

「赤いですよ。かわいいタオの実のようです」

「もー。そんなのかわいくないの!」

「そんなことありません。シャオマオ様はこの星で一番かわいい」

「・・・・ありがと」

「いえいえ。本当のことですから」

 サリフェルシェリはまたシャオマオから「妖精だから?」と聞かれると思っていたが、素直に受け止めてくれたのを顔に出さずに(おや?)と驚いた。

 シャオマオも何かと成長しているようだ。

 いい傾向である。


「では、ここまで来たのでみんなにおやつを持って戻りましょう」

「はーい」

 キッチンにはライたちが買い物したものと、ウィンストンが指示して運び込んだ王宮の料理が驚くほどの量で並べられている。


「シャオマオ様、晩御飯の前ですからね。軽いものにしましょう」

「あ、はあい」

 タオの実のきれいに並んだタルトがきらきらと輝いているのに目を奪われたままに返事する。


「じゃあ、木の実のチョコレートと猫族のお茶にする」

「いいですね」

 木の実の入ったチョコレートを口の中で溶かしながら飲むお茶が意外と合うのだ。この木の実が前の星で言うところのアーモンドにそっくりで、とても美味しくてお気に入りだ。

 シャオマオがお茶に入れるミルクを小さなピッチャーに入れると、熱いお湯と茶葉の筒を準備したサリフェルシェリがお盆に乗せて一緒に持ってくれた。


「チョコレート~。木の実のチョコ~。ここにライにーにが隠しているの知ってるのーん」

 戸棚の下の段の右から3番目の扉を開けるとそこには瓶に入った一口サイズのチョコレートがあった。

 レンレンとランランから、「ここにあるのよ」と教えてもらった隠し場所なのらしい。

 時々こっそり盗み食いをしているのだが、子供の手の届くところにほどほどの量が準備してあり、無くなれば補充しているのはライである。


「ここに目をとられたら本命には気づかないからね」

 と悪い顔をして笑うライのセリフを思い出しながらサリフェルシェリは「シャオマオ様はたまに悪いことをしているのですね」と笑った。

「そうなのよ。シャオマオったら悪い子なのよ。大泥棒よ!」

 ふんす!と鼻息荒くいうが、盗んでいるのはチョコだ。

 紙に包まれたチョコをむんずとつかんで、ちいさなお皿にばらばらと入れた。


「まあまあ、今度は木の実のチョコレートですね」

 すんすんと香りを嗅いで、ぽいと口に入れるダリア姫。この味もずいぶんと気に入ってくれたようだ。


「ダリア姫。このお茶ね、これ飲みながら食べるのよ」

「まあ。そんなお作法が」

 作法ではないが、妖精様の言うとおりに食べてみるととても美味しい。

 じんわりと溶ける味を楽しみながら、ダリア姫は自分の話を続けることにした。


「父から母は命を使って鱗族を呪ったと聞きました。では、私もできるのではないかと思いました」

 口の中のチョコをお茶でさっぱりさせてから、ダリア姫はきっぱりといった。


「自分の命を使って、母のすべての呪いを自分の身に受けることが出来るのではないかと思いました」

 ダリア姫は母親の命を使った呪いを吸い取ろうとしたが、父親が許さなかった。

 ダリア姫を失うと思った父の怒りはすさまじかった。

 到底ダリア姫一人で背負いきれるものではなかったのだ。


「父はこの世の人族をすべて呪いました。鱗族だけではなく、知らぬこととはいえ自分の子供を奪うことになった王族も、もう人族というすべてを呪ってしまおうとしたのです」

 俯くダリア姫。

 すべての原因が自分にあると思っているのは本心なのだろう。


「父は自分の怒りの根源を、自分の肉体から切り離してしまった。本当は何かを恨むことも憎むことも、意味のないことだと思っていたのかもしれません」

「それがあの洞窟のドラゴンの影か・・・」

「ええ。私は何とか力を尽くして父の怒りも背負いましたが、私は死んで、永遠に呪いを受けるだけの体になってしまった。怒りを切り離した後の父は、そこで私の体に縋りついて泣くこの幻獣をみて考えました。『幻獣のこの愛は、何か奇跡を起こすやもしれない』と」


「父はドラゴンの魔素で私を包んで地中深くに埋めました。ドラゴンとしていつか孵るかもしれないと信じてくれていたのかもしれませんね」

「でもでも、ダリア姫が呪いを受けてくれていたのに、王族に黒い炎で焼かれる人がいたの」

「ええ。私が死んでから長く時間がかかりすぎたのかもしれません。私の呪いを受ける力が弱ったことや父の魔素が薄れてきたことで、地中に留めていた呪いが少しずつ漏れ出てしまっていたのでしょう。そのせいで、あの山は生き物も精霊もいなかったのです」

「そういうことかぁ・・・」

 ライが納得した声を微かに出した。


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