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「あの時のダリア姫かしら?」
「ドラゴンの父に名をもらいましたのでダリアは昔の名前ですがそうです。夢の中で会いましたね」
「・・・・ごめんね、誰の夢かわからなかったけど、誰も助けられなかったのかも」
「気にしないでくださいませ。あれは夢でしたのよ」
太陽の笑顔。
「びょええええええええ!!!!」
濁声で泣くぷーちゃんが突進してダリア姫の胸元にずぽっと埋もれる。
夢で見たダリア姫よりも胸元が豊かに育っている。ドラゴン効果だろうか。
「お前はあの幻獣なのね」
胸元に納まった小さな白い丸鳥を見て驚いたように呟いてから、ダリア姫はふうとため息をついた。
「まったく。私のことを守らなくていいと言ったのにずっとそばにいて。追い払っても命令してもどこへも行かないし、本当に頑固な鳥で困ったわね」
「ぷう」
照れたようにクネクネと揺れるぷーちゃん。
全身でダリア姫が好きなのだと言っているようだ。
何せ四六時中付き纏い、攫われたと知ったら無謀にもなんの作戦もなくドラゴンに突っ込んでいくわ、姫が死んでしまった後は一緒に墓に埋まってしまうし、それでもなんとか朽ち果てない姫を見つめて考えに考えて、自分の分身のようなぷーちゃんを作り出し、妖精様に助けを求めた。
すごい執念である。
(途中でぷーちゃんになっちゃったせいで、記憶が曖昧になっちゃったみたいだけど)
とにかく、「ダリア姫が大すき」という気持ちだけが残った状態のようだ。
ダリア姫の胸元に居場所を見つけたぷーちゃんはふくっと膨れて満足そうに豊かな胸に顔を押し付けてすりすりしている。それに合わせて胸も揺れているのを喜んで鳥なのにホクホク顔だ。
(しゅけべだ・・・)
「シャオマオ、眉間にシワが寄っているよ」
「あう」
「ダリア姫。私はエルフ族薬師のサリフェルシェリと申します。お会いできて光栄でございます」
サリフェルシェリが珍しく高位のものに対するように頭を正式に下げた。
「丁寧な挨拶をありがとうございます」
「ダリア姫が目覚めたことで、今ここで何か起こることはありませんか?」
「特には」
「では、ダリア姫はここを離れることはできますか?」
「私は自由です」
「妖精様、ダリア姫を屋敷に招待してはいかがでしょうか?長い話になりそうですから。お茶をしながらゆっくりと状況の整理をしましょう」
ニコッと微笑むサリフェルシェリ。流石冷静だ。
「そういえば、喉渇いたかもー」
「シャオマオ。水筒のお水飲んで」
「ううん。ライにーにのおいっしー猫族のお茶飲むのよ」
「ああ。シャオマオちゃん最近あのミルク茶好きだね」
ライの入れるほうじ茶のような味わいのお茶はそのままでも美味しいのだが、それをミルクで割ってほうじ茶ラテにするのが最近のシャオマオのブームなのだ。
「ダリア姫は自分で飛べるでしょ?でも嫌じゃなかったらミーシャの大精霊に乗ってシャオマオのお家に行こうよ」
「大精霊様・・・。なんと、私が乗ってしまってもいいのでしょうか?」
「ミーシャ、いいよね?」
「もちろんですよ」
一瞬でばっと目の前に現れるリュー。
「不思議な生き物の形をしていますが、これもドラゴンですか?」
「よくわかったね!これシャオマオが知ってる星のドラゴンと近い種類の『竜』なの。この星のドラゴンとは違って、天候を操ったり神様だったり、修行してなったり、いろんな話はあるけど身近な想像の生き物なの」
「そうでしたか。美しい鱗をしている・・・」
リューはダリア姫に撫でられて嬉しそうにしている。
全員でリューに乗ってシャオマオの「しゅっぱーーーつ」の合図で空に舞い上がり、サリフェルシェリに怒られない程度のスピードで飛んでくれた。賢い子なのだ。
「ユーエの〜おみみは〜〜虎の耳〜。りっぱなよく聞こえる大きなみーみーでーふかふかで〜」
シャオマオは適当な節回しで適当な歌を歌ってご機嫌に完全獣体のユエに跨ってブラシをかけていた。
どうやらダリア姫にベタベタしているぷーちゃんをみて、嫉妬に駆られてしまったのらしい。
自分の方がシャオマオと仲良しだというところを見せつけたかったのだろう。
「シャオマオ様。お菓子は何にしますか?」
「あのね、あのね、ダリア姫が好きならライにーにのホットケーキとドーナツ食べたいの!」
「ああ。あれですか。良いですね」
サリフェルシェリはキッチンで材料を確認しているライにリクエストを伝えに行った。
因みにダリア姫は人の食事をドラゴンになる少し前からずっと摂っていなかったので、「どんなものでも!妖精様が好きなものを食べてみたいです!」と言われている。
バターと蜂蜜とチョコの花粉の香りと・・・いろんな香りがふわふわとキッチンから漂ってくる。
ダリア姫の瞳がキュルリと輝く。
「ぷいん」
ぷーちゃんは甘えた声でダリア姫にお菓子の美味しさを伝えているらしい。
「なんと!そんなに美味しい菓子をお前は食べてたの?なんて羨ましい!」
「ぷーい」
羨ましそうにするダリア姫に少し自慢するようにいろんなお菓子の美味しさを説明するぷーちゃん。
「ダリア姫。これ食べて我慢してようねー」
「あむっ」
ダリア姫の口に薄い板キャラメルを入れる。
「な!なんですかこれは!?」
「キャラメル〜。おいちいよね!」
シャオマオは自分の口にもキャラメルを入れて、隣にいるユエにも食べさせた。
舌に張り付くような薄いキャラメルを食べて、ダリア姫は喜んで涙を流さんくらいだ。
「これは人族も食べていますか?」
「うん!子供のお小遣いで買えるよ」
「・・・食生活が向上しているようで何よりです。私の時代はなかなか甘味が少なくて。子供のお小遣いで買える甘味はほとんどありませんでした」
ダリア姫が生きていた時代は、人族が中央に移動してきて少し後だ。
生活基盤が整って、やっとさあこれから発展していくぞ、という頃合いだった。
物資の流通はまだそこまで行われておらず、手に入らないものも今より多かったという。
「皆が豊かになっているのならよかった」
太陽の笑顔で頬を赤く染めてニコニコするダリア姫は本当に嬉しそうだ。
「おーーーい。まず何枚か焼けたから持っていってくれー」
熱々でふかふかで大きいのがライのホットケーキの特徴だ。
「きゃー!」
シャオマオは興奮してキッチンに突撃していった。
「ダリア姫、私がお持ちしますよ」
「いえ、サリフェルシェリ。私も自分で取りに参りますよ」
「では、みんな自分の好きなだけ食べてくれ。このあとはドーナツを揚げるからホットケーキだけで腹いっぱいにするんじゃないぞ」
ライが犬歯を見せてニコッと笑ったのを機に、みんなで一斉に「いただきます」をいって食事の開始だ。
シャオマオはいつの間にか着替えたユエに膝の上に座らされて、ユエが切り分けたパンケーキを食べている。
小さなシャオマオの口にちょうどの大きさのパンケーキは、ジュワッとバターが溶けて染み込み、蜂蜜はとろりと焼き目にかかっている。
「はうわあ!おいちー!」
ほっぺたを真っ赤にしてぷるぷる震えるシャオマオを、うっとりとした目で見つめるユエ。
どちらも(至福)と顔に書いてある。
「なんと・・・・・素晴らしいお味です。こんなに幸せな味が今はあるのですね」
「うん。幸せの味よね」
「因みにドーナツというのは・・・・」
「これと同じような材料で、揚げて作るお菓子なの!」
「気になります!」
なんとダリア姫も優雅なテーブルマナーで食べるのが早い。
そして5枚を食べたところで「ドーナツの分を空けておきます」とナイフとフォークを置いた。
「あ、ほら。みんなドーナツもできたぞー」
「きゃー!」
双子とシャオマオはまたキッチンに走っていってドーナツをお皿に入れてもらって戻ってくる。
「シャオマオ、それ新作だね」
穴の空いてるのがドーナツ。これは穴が開いてない丸くてふくっとした形をしている。
「これ、クリームドーナツなの!」
「クリーム?」
「うん。前にライにーにに頼んでカスタードクリームとホイップクリームを作ってもらったの!それが入ってるのよ」
「手間がかかってる分、うまいんだよなぁ」
ライもクリームドーナツを嬉しそうに齧っている。
「く、クリーム・・・」
ノーマルのドーナツも美味しい。気が遠くなるほど美味しい。甘味と油の暴力。しかし、クリームドーナツはなんというか暴力的な旨さなのだ。
切った断面から溢れ出してくるカスタードクリームの舌触り、マイルドな甘さ。お腹に溜まるずっしり感。
しかし、ホイップクリームと合わさった時には軽さが加わり、罪悪感が薄れてどこまでも食べ続けられるような味になる。
「なんて、なんて美味しいのかしら・・・」
「ぷいぷい」
ぷーちゃんもダリア姫が食べているものを胸元からつついて食べて満足そうだ。
「シャオマオが鳴いていた動物の声を聞いていたそうだが、あれはその丸の元の幻獣の夢だったんだろうな」
「んえ?そーなの?」
「うん。あの夢の中の場面でシャオマオに助けて欲しいと願っていたのは幻獣だけだ。ドラゴンは特に助けて欲しいとシャオマオに願ってはいないようだった」
ユエが冷静に分析する。
「あれぷーちゃんの夢?」
「ぷー?」
やっぱり忘れてしまっているようだ。
厳密にはぷーちゃんは幻獣のカケラのようなものだ。元々の幻獣の気持ちも正確に残っているわけでもなさそうだ。
次のチョコレートの花粉が練り込まれた生地に、チョコがかかってるドーナツは双子がめちゃくちゃに食べた。
喧嘩しながら奪い合っていた。これだけは普段の仲の良さがなかったことになるくらい美味しいのらしい。




