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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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起きてくださーい

 

 穴の中には綺麗に着飾った女の子が、胸の上で手を組んで、少し微笑むくらいの安らかな顔で眠っていた。


 葬られたのだろうが、軽く閉じられた瞼は今にも開きそうだ。この頬の艶やかさ。話しかければ返事をしそうな柔らかそうな唇。波打つ金の髪は光を反射するような艶を湛えている。


「びょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「ダリア姫!!」

 ぷーちゃんの声とシャオマオの声が重なった。


「え?」

 それに全員が気の抜けた返事をする。


 あの夢の中で見ていたダリア姫そのままだ。

 いや、少し成長してさらに大人っぽく美しくなっているが、夢の中で出会ったダリア姫に違いない。

 あの時のダリア姫なのに、実物を夢ではない現実で見ると美しさが尋常ではない。

 人族が見ても自分と同じ人族だとは思わないに違いない。


 その体は何もしならければ認識できないくらい透明な棺のようなものに横たわっていて、先ほどのリューの水一滴たりとも浴びていない。


「こんなに生き生きとした死人は初めて見ます」

 サリフェルシェリが冗談みたいなことをポツリと言った。笑わせようと思って言ったわけではないようなまじめ腐った顔をしている。


「ぷぷ〜ん」

 ぷーちゃんは小さく語りかけるとまた棺に向かってボトボトと涙を流した。


「ぷーちゃん、『ごめんなさい』って言ってる」

 シャオマオもぷーちゃんのそばに行って、中のダリア姫を見つめる。


「ぷーちゃん『守れなくてごめんないさい』って。ぷーちゃんはあの時の金の鳥さんだったのね」

 どうやらぷーちゃんの正体はダリア姫のそばをずっと離れなかった、あの金の巨大な鳥の幻獣だったようだ。


「ぷーちゃんが、幻獣・・・?」

「おかしいよ、ぷーちゃんはみんな最初から見えてたよ?」

「シャオマオが見えるからだろう。シャオマオが「居る」と認識したんだから、合わせてこの星のもの全員にも「居る」と認識されたんだ」

 流石だ、とほっぺをするする撫でられたがシャオマオは何かした覚えがないので褒められていいのかよく分からなかった。


「ダリア姫を守れなかったことで、ここでダリア姫の墓とともに朽ちたのでしょうね。しかし、守れなかった気持ちだけは無念となって残ってしまった。そこで生まれたのがこのまん丸ぷーちゃんですか」

 一応筋は通っていますね、とサリフェルシェリ。


「ぷーちゃん、もう全部思い出した?自分のことも、ダリア姫のことも、鱗族の人のことも、ドラゴンぱあぱのことも」

「ぷーい」

 ホトホト涙を流していたが、ぷーちゃんは勢いよくシャオマオの胸に飛び込もうとしてユエに捕まった。


「何度もシャオマオの胸に抱かれようとするな」

「あん、ユエだめよ。ぷーちゃん悲しんでいるのだから優しくしてあげないと」

 ユエに掴まれたぷーちゃんをそっと取り返して、シャオマオはゆっくりと抱きしめた。

 そしてぷーちゃんはユエに向かって「レロレロレー」と舌を出した。


 どう考えても確信犯である。


 それにしても、このダリア姫の姿はどうしたものか。

 幻獣ですら朽ちて骨になる年月を、生きていた頃と変わらないままに横たわっているのだ。


「ドラゴンとして飛べるようになった、というところまではお話を聞きました。人の姿から『ドラゴンになって空を飛ぶ』と言うのは、ドラゴンの姿に変わってしまうと言うことではないのかもしれませんね」

 サリフェルシェリが棺の中を覗き込みながら色々と考えているようだ。


「ダリア姫は人型のままドラゴンになった、という事か」

「おそらく。もしくは命をなくしたことで弱って人の姿になったのか」

「しかし、ドラゴンは最強種だぞ?死ぬことなどほとんどない。鱗族が何をどうやって親ドラゴンの隙をついて子供を殺すことができたのかは知らないが、ドラゴンの子供はそんなに簡単に死んでしまうものなのか?」

「異種族間のドラゴンであったダリア姫は通常のドラゴンとは言い難い。弱く儚い。通常子育てをしないドラゴンが愛情を持てなければ死んでしまうくらいには弱いのです」

「親が愛情を持たなければ死ぬ・・・」

 ライはチラリとそばに立てられた墓石のような岩を見た。


「愛」と刻まれている。


 骨の持ち主の鳥のことかと思っていたが、この地の奥底に葬られた自分の子供に向けた言葉だったのだろう。


 ドラゴンの父は、愛するものを二度も失った。

 一生に一度しかない恋をした番を失い、その番が命懸けで残した子供も亡くした。

 全てに絶望し、つがいの眠る山に1人で向かってきっと番の墓で一緒に眠ってしまったのだろう。


「でも、変よ。ドラゴンぱあぱはドラゴンまあまのお墓のあるお山にダリア姫と帰って、2人で過ごすって言ってたもの。ここがドラゴンまあまのお山だったら近くにお墓がないのは変だもの」

 シャオマオがキッパリという。


 そうだ。そんな愛を持って生きたドラゴンなら、きっとつがいと子供の墓は隣同士にでもして、自分はその間にでも体を横たえるだろう。


 どうしてこの場所にはダリア姫のお墓しかないんだろう。


「ぴよぷー」

「え?」

「シャオマオどうしたの?その丸に何を言われたの?」

 ユエはもうぷーちゃんをぷーちゃんと呼ばなくなってしまった。よほど悔しかったに違いない。


「シャオマオが願うんだって」

「願う?」

「ダリア姫にお願いするんだって」

「何を?」

「起きてくださーいって」

 黒ヒョウ兄妹は全員がざっと身構えて武器を手に墓の中を警戒した。


「シャオマオちゃん。そのダリア姫は今は生きてるのかい?」

「ビヨ!!」

 ぷーちゃんが濁声で怒ったように鳴く。


「ううん。亡くなってるって」

 何者に「なっている」のか全く未知の遺体だがシャオマオが呼び掛ければ起きるかもしれない。そうはいってもシャオにとってよくないものである可能性もあるわけだ。


「どうしてシャオマオが呼び掛ければ亡くなった姫が起きるのかは分からない。そこに寝ているのがダリア姫なのかどうかも分からない。もうドラゴンになっているんだろう?」

 ユエは冷静にシャオマオに確認する。


「うーん。生きてないからドラゴンちゃんなのかダリア姫なのか分からないなぁ」

 シャオマオは透明な棺にペタペタと触れながら何かを探ろうとするが、やっぱり分からない。


「びょびょびょびょびょ〜」

「どうしてもシャオマオに起こして欲しいんだって」

「丸。偉そうにシャオマオに願うな」

「別に偉そうじゃないのよ?」

「丸がシャオマオに何か願うことが偉そうだ」

「もう、ユエったらまたそんなこと言うんだもん」

 むくーっと膨れたシャオマオに、「不服そうなシャオマオもかわいいね」とユエは褒めちぎっていて全く気にしていない。


「仲良いのはいいんだけどさ。どうするの?この何者かは不明のダリア姫だったご遺体、起こしてみる?」

 ライが近づいてきて確認する。


「ぷーちゃんは、ダリア姫がみんなに危害を加えると思う?」

「ぶー」

「ダリア姫はみんなに優しくしてくれる?」

「ぷい!」

「ダリア姫を起こしたら、鱗族の人たちのこともわかるかしら?」

「ぷい!」

「ダリア姫は鱗族の人のことを怒ってるかしら?」

「ぶー」

「ぷーちゃん、ダリア姫に会いたいよね」

「ぷいん!」


「わかった!!ダリア姫!起きてくださーーーーーーーい!!!」

 シャオマオは叫んだ。

 全く一切の躊躇なく、誰の意見も聞かずにいきなり。


「ちょ、シャオマオ!」

「このお転婆め!」

 レンレンとランランが止めようとしたが遅かった。


 バリン!!

 分厚いガラスが粉々になるような音がした。


 ごお!!

 棺から強烈な風が吹いて全員の体に襲いかかる。流石に体幹の鋭い黒ヒョウ兄妹とユエは全くぶれなかった。

 サリフェルシェリは2、3歩タタラを踏み、シャオマオとぷーちゃんは上空に投げ出された。


「あにゃああああああ!!」

「ぷいーん」

「シャオマオ!!」

 ミーシャが猛スピードで飛び上がってシャオマオとぷーちゃんをキャッチした。


「ミーシャありがと」

「どういたしまして。驚きましたね」


 地上を見れば風はもう治ったようだ。

 ミーシャがオロオロしているユエの元へシャオマオを届けようとしたところで止まった。


 自分たち以外に誰もいないはずの上空で、自分に影がさしたからだ。


(上を取られた!!)


 空中戦では上空を取った方が有利になる。

 ミーシャはその大きな翼の影に体が震えそうになった。


「妖精様、ですか?」

 ミーシャが固まっていると、自分たちの上空にいたはずの何者かが真横に瞬時に移動してきて話しかけてきた。


「ミーシャ!!」

 ユエの声に固まっていた身体が動くようになったミーシャは勢いをつけてシャオマオをユエに投げようとした。

 ユエは絶対にシャオマオを落とさない。


 しかし、ミーシャの手が突き出されようとしたところでその腕の中にいたシャオマオがいなくなっていた。


「危ないじゃない」

 金の髪が波打ち、太陽の光を浴びて輝いてる。


「小さい子をこんな高さから投げるなんて、ひどいわ」

 ひどく悲しげな顔でミーシャに話しかける。


「・・・・・・・ダリア姫ですか?」

「そうね。昔々、人族だった頃にそう呼ばれていたことがあるのよ。今はね***********」というの。

 全く聞き取れない発音だった。


 ドラゴンの名前なのだろう。


「妖精様、あの時は姿を確認することができませんでしたが気配が一緒なのでわかります。お久しぶりです。あの時は会いにきてくださってありがとうございました」

 瞳はドラゴンぱあぱと同じ爬虫類のような瞳孔をしているが、あの笑顔は変わっていない。

 まるで輝く太陽のような笑顔だ。

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