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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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荒ぶる鳥

 

「鳥、かな?」

「鳥の骨ね」

「そうだな。この立派なクチバシからすると相当頭が大きいな。こっちが翼の骨だとすると・・・まあ俺を乗せられるかは分からんが、小柄な女性1人くらいなら余裕で乗せられそうだな」

 ライはユエに比べれば細身といえるが、十分筋肉質な立派な体格をしているためにライを乗せられるとなると相当大きな生き物になると思われる。


 黒ヒョウ兄妹は土を掘り返していて、ナイフが到達した硬くてそれ以上は掘り進められないところで骨を見つけた。それは大地に倒れている姿のまま亡くなり、土がそれを覆いつくして埋まってしまったのだと思われる。

 硬い岩盤の上に横たわり、土に埋まりながらもまるで何かを守るように羽を広げて抱きしめているように見える。


「ぷーよ。これが見たかったのか?」

「これ、ぷーちゃんの父か母じゃないか?」

「ああ。家族のお墓を探したかったのか。でも妙だね。ぷーの親はドラゴンと仲良かったのか?滅多に使わない愛って文字を刻むくらい?」

 ドラゴンが別種族に愛という文字を使うとは考えられない。

 ドラゴンからすれば他の種族は病にもケガにも弱く短命で儚く存在としては人が思う精霊と変わらない。

 人が犬や猫を飼うこともあるがドラゴンは他種族にそれほどは違いを見出せずに愛情を持てない。人からすれば蟻を観察する程度の気持ちしか持てないでいるのだ。


 黒ヒョウ兄妹が口々に感想を言い合っていたが、目の前で墓石を見ながら佇むぷーちゃんの背中がブルブルと震えている。


「ぷーちゃん?」

「ぷーちゃんどうしたね?悲しいね?」

 ランランが駆け寄ろうとしたら、ぷーちゃんのブルブルがどんどん大きくなってガタガタと揺れ始めた。


「ぷー?」




「ぎよええええええええええええええええええええええ!!!!!!」


 とんでもない声量で叫ぶものだから耳のいい黒ヒョウ兄妹は耳を手で必死に塞いだ。


「ぎぃええええええええええええええええええ!!ぴょぴょぴょぴょぴょー!!!」


 どう考えても自分の親族の墓に向けるような叫びではない。強烈な怒りだ。

 耳を塞いだままぷーちゃんの顔を見に行くと、ボチョボチョに涙を流して泣いている。

 ランランが手を伸ばすと捕まるまいとしたのか、急に走り出して命の消えた骨を足で蹴り飛ばし始めた。


「ぴよおおおおおおおおおおおおおおおおお!ぴよおおおおおおおおおおおおお!!」

 次は翼を使って無茶苦茶にあっちこっちに弾き飛ばし始めた。


「ちょ、ぷーちゃん、お墓、そんなことしたらいけないね」

 とんでくる骨をよけながらランランが制止しようとするがぷーちゃんは止まらない。


「なんでそんなに怒ってるんだよ」

「ぎゃぴーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 暴れたままライに返事したが、興奮しきっていてライにも聞き取れない。

「とにかく落ち着けっ!何言ってるかわからん!」

「ぎゃぴーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 ぷーちゃんはそこに葬られていた骨をすべて掘り返した土の上に放り投げた後に、さらに土を掘り続けようとした。


「おいぷー。ここから先は岩盤が固い。もうこれ以上先に何か埋めるのは巨大な爆弾でもつかって穴を開けないと無理だぜ?」

「ぷーちゃん。大きな鳥の骨があったんだからこれ以上先はないんじゃないか?」

 みんなが止めようとしたがぷーちゃんは止まらない。


 ぷーちゃんは翼をつかって、土はこれ以上掘れないのに土を払い始めた。

 ぷーちゃんの執念は感じるが何もわからない三人はぽかんとしてしまう。

 近づいて手伝おうとするとぷーちゃんは大音量で叫ぶので手も出せない。


「うーん・・・どうしたもんかね?」

 顎に手を当てて悩むライに

「サリフェルシェリなら起きてる時間よ。合図出してみるか?」

「精霊札を前に何枚かもらったよ」

 と提案する双子。


 レンレンが懐から出したくるりと巻かれて筒状にして縛ってある小さな紙は、サリフェルシェリからもらった通信に使える精霊札だ。

 サリフェルシェリの仲のいい精霊がサリフェルシェリに簡単なメッセージを送ってくれる。逆にサリフェルシェリから何かあればこちらにもメッセージが送られてくる。その場合はこちらに札の残数があれば、と言う条件に限られるが。


「サリフェルシェリに連絡してシャオマオちゃんが起きたらこっちに向かってもらうように頼んでみようか。俺たちだけではどうしようもないな」

 と諦めモードのライがお茶の準備を始めた。

 焦っても仕方がない。脅威もない。やることもない。ならお茶を飲んで栄養補給をするしかないのだ。


「じゃあ、サリフェルシェリに連絡するよ」

 しゅるりと紐を解いて丸まった札を一枚手に取ったが、札はレンレンの手の中でぼろぼろと真っ黒になって崩れてしまった。


「あれ?メッセージがあったみたい」

「サリフェルシェリなんだって?」

「うーん」

 レンレンは顎に手をやって精霊の言葉に耳を傾けていたが、やがて笑顔になってライに報告した。


「サリフェルシェリはいまからミーシャの大精霊に乗ってみんなでこっちに向かうみたいよ」

「そうかそうか」

 ライはお茶をレンレンとランランにお茶を入れてやって自分も一口飲んだ。


「じゃあしょうがない。ぷーが怪我しないように見守っておくか」

「ぷーちゃんシャオマオが驚くくらい暴れてるよ」

「シャオマオ怖がらないかなぁ?」

 小さな器でお茶の香りを楽しみながら、大暴れして時々叫ぶ鳥を眺める。

 うん。怖い。




「シャオマオ髪また切ろうかなぁ」

 ミーシャの大精霊「リュー」の上で風に弄ばれる髪を抑えながらシャオマオがぽろりとこぼした。

「髪を切る?どのくらい?俺が結んだりできるくらいは残してくれる?きっと短いシャオマオもきれいだと思う。だけど長いのもいいと思う。髪がジャマなら毎日もっときっちり結んだりしようか?でも短い髪のシャオマオだってかわいいんだろうな」

 一気にしゃべったところを見るにユエは混乱しているようだ。


 全体的にもそうだが、特に前髪がだいぶ伸びてしまった。

 耳に掛けられるのはいいんだけれど、ずっと髪をユエに結んでもらうのも申し訳ない気がするし。でもこうやって空を飛んでいるときにふわふわと顔の上で踊るのはやめてほしい。


「そんなことは気にしなくていい。番の身づくろいは至福の喜びであるし美しい番をさらに美しくするのは母との約束だよ」

 とろけるような笑顔でシャオマオの髪を手に取って毛先に口づけるユエ。シャオマオはあの美しい夢で見たユエのお母さんの顔を思い出した。


「まあま。ユエのきれいなまあま。番には優しくしてあげてって言ってた」

「そうだよ。俺を約束破りにさせないで」

「わかった。シャオマオはユエに髪をお願いするね」

「うん。ありがとう。じゃあ髪が顔にかかるのが嫌ならもう少しきれいに編み込みにしようね」

 ユエにきれいに編み込みしてもらいながら、シャオマオも(こういう時間。これはこれで愛おしいな)と思っているので嬉しそうにユエの膝の上で足をぶらぶらしながらご機嫌だ。


「ユエは自分の都合のためなら母を登場させるようになりましたか」

「あれでは絶対にシャオマオは断りませんからね」

「本当にシャオマオ様のことになるとなりふり構いませんね」

 ふう、とため息をついたところにサリフェルシェリの仲の良い水の精霊がわらっと寄ってきた。


「どうしました?ライたちですか?」

「ライにーに?」

 シャオマオが髪を編み込んでもらったタイミングでシャキッと立ち上がってサリフェルシェリに近づく。


「シャオマオにもおせーて」

 サリフェルシェリに報告に来た精霊はふらふらとシャオマオに近づいて、ひしっと首に抱き着いてきゃっきゃと喜んでいる。


「・・・・ありえない。精霊札で使役されてる精霊が命じられた人以外に先に近づくなんて・・・」

 サリフェルシェリは現実を直視したくないのか半目だ。


「まあまあ先生、妖精様ですから」

 呆れたように言うミーシャだが、これだとシャオマオはこの札で使役されたどんな精霊の情報でも「教えて」というだけで抜き出すことが出来ると言ってるのと同じだ。さすが妖精様である。どんな強い魔素を持っている魔道具が相手でも、この星でできないことなどないのではないかと思われる。


「えええー!ぷーちゃんが暴れて手が付けられない?!」

「どういうことでしょうか?」

「えっとね、ライにーにたちも説明できないからとにかくサリーに来てほしいっていってるの」

「危険はないようですね。危険なところにシャオマオ様を連れて行くわけにはいかない」

 罠でもないようだ。

 伝言を運んできた精霊が、くるくる踊りながら魔素をサリフェルシェリに渡してきた。これは手紙のシーリングワックスのように伝言を封印している少しばかりの魔素で、伝言を預けた相手がだれか魔素の判断ができるものならわかるようになっている。これはレンレンの魔素である。


「よし。リューちゃん!ライにーにに会いに行くから急いで飛んで!」

 うんうん、と頭を振った後に唐突にスピードを上げたリュー。

「う、わ、わ。こら!リュー!早すぎます!!私を空へ放り出すつもりですか!」

 身構えていなかった体重の軽いサリフェルシェリの足が少し浮いたところでミーシャが手を伸ばして助けた。


「怒らりちゃったね、リューごめんね。サリーが怒らないくらいのスピードで飛んでちょーだい」

 頭をなでなでしたら、リューは嬉しそうにして少しスピードを緩めて飛ぶようになった。


 これもまた明らかにおかしな光景だ。

 ミーシャの大精霊だ。ミーシャが妖精様を愛し、もともとの持ち主キノが妖精に心酔していたとしても、他人が顕現させたものを操るなんて常識の範囲外だ。

 さすが妖精様だというしかないのだ。


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