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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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体験しないと使えない大切な言葉

 

「この大きな岩・・・」

「ぷ~・・・」

「うん。お墓、よ」

 双子とぷーちゃんは大きな岩の前に立って、岩の表面に刻まれた傷を見た。

 自分達よりはるかに大きな巨石は、少し岩肌に苔むした古いもので周りに草花が生えている。

 日当たりがよくて雨も適度に降って、とても素敵な場所を選んでいるのが分かる。


「・・・・ドラゴンの文字だね」

 ライは子どもの頃、親と一緒に冒険していた時に見たドラゴンの墓と同じような傷を岩に見た。

 傷に見えるがこれはドラゴンが使っている文字だ。

 ドラゴンは稀に墓に文字を刻むことがあるらしい。


 確か、この形は・・・・

「愛」

「あい?」

「うん。愛って意味のドラゴンの文字だ。本当に、すごく重い意味の言葉だから、墓にも使われずめったに見られない」

「愛してるって、人は良く使うね」

「永遠の愛とかお墓に刻むよ」

 レンレンが首をひねってランランが答える。


「ドラゴンは使わない。ほんとうにめったに使われない。いや、使えないんだよ」

 昔の記憶を思い出す。



「ライ。ドラゴンってね、すっごく完成された生き物なのよ」

「かんせー?」

「そう。一人で完璧なの。誰も頼りにせず、一人で生きて一人で死ぬものが多いの。生まれてすぐに一人で生きていけるから、親は子育てをしないし伴侶も必要としない。孤独を感じない。自分より弱いものを認めない」

 母親は苔むした墓の表面を撫でながら、ライに悲しげに微笑みかける。

「だから愛を知らないの」


 ライはまだ小さくて母親の言うことがまだ全部わかるわけではなかったが、「愛を知らない」という言葉は少しだけわかった。


「強いと、愛いらないの?ぼくは母さんを愛してるからいないとさみしいよ」

「まあ。私もライがいないとさみしいわ。ライ愛してる」

 ライの母は優しく笑ってライを抱きしめてくれた。


「ドラゴンはね、言葉として愛を知っていても、簡単に使うことがないの。体験しないとつかわないの。だから、一生死ぬまで愛という言葉を使わない者も多いのよ。ドラゴンが簡単に使うことが出来ない愛という文字が刻まれたこのお墓は、この子の番なんでしょうね」

 ライの母の目線の先には、墓の横に丸くなって朽ちた巨大なドラゴンの躯があった。

 ほとんどを植物に侵食されて、こんもりとした小山のようになっている。


「愛する番を弔って、自分が死ぬまで横にずっと付き添っていたのね、きっと」

 ドラゴンはめったに恋をしないのに、この星で大神に次いでロマンチストな生き物かもしれない。



 ドラゴンの文字を見て思い出した昔の思い出。

 レンレンとランランに聞かせてあげなきゃいけない、大切な母さんとの冒険の思い出だ。


「兄さんの思い出の母さんって、とってもおっとりしてて優しいね」

「母さんを美化して恋人の理想が高いね」

「この年までずっと一人よ。ランラン、将来は二人で兄さんの老後の面倒みるね」

「そうね。育っててもらった恩があるね」

 双子はこの話を聞いてボディーランゲージで会話した。


「失礼なこという双子はこうだ!」

「きゃん!」

「なんでわかったの!?」

 二人の頭にチョップを叩き込んで、ふんっと鼻息荒くライはぷーちゃんを振り向いた。

 双子のボディーランゲージは双子だけで作った合図だが、悪口とは伝わるものである。


「このドラゴンの墓に何かあるのか?」

「ぷい~」

「え?それはちょっとなぁ・・・」

 悩むライに、レンレンがチョップされた頭を撫でながらたずねる。


「兄さん、ぷーちゃんなんて言ってるね?」

「いや、この墓の中が見たいって・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「墓の中身を確認したいらしい」

 悩みながらも答えるライ。


「兄さん。いくら冒険家と言ってもやっていいことと悪いことあるね」

「そうね。めったにない愛と刻まれたお墓を暴くなんて、よくないよ」

 レンレンとランランはまだ成人したばかりだが、人の気持がわかるほうだ。


「そんなこと俺だってわかってるよ。言ってるのはぷーだ」

 ライが指さしたぷーちゃんをランランが見る。

「ぷーちゃん。そんなに大事ね?お墓の中には骨しかないよ?」

「ぷうう~」

「その骨が大事なんだと」

 言い聞かせるランランに、ぷーちゃんは背を向けてドラゴンの墓石に向かって歩き出した。


「ぷ~~~~!!」

 大きく風船のように膨れ上がったぷーちゃんが嘴や足を使って土を掘り返そうとするが、長い年月をかけて固まってしまったであろう土は簡単に崩れない。

 全身を土で汚しても何日もかかりそうな有様だ。


 ランランとレンレンは腰に隠しているサバイバルナイフを取り出してぷーちゃんが掘っているところに膝をつき、一緒になって掘り返した。

 武器というよりはなんにでも使えるようなただただ頑丈なナイフで、乱暴に使われることを想定しているのでこうやって土を掘り返すこともできる。


「ぷーちゃんが見たいって言うなら協力するね」

「そんな必死な姿見たら手伝わないわけにいかないよ」

「ぷう~ん」

「なにその泣きそうな声」

「ほら、ぷーちゃん頑張って掘るよ」

 双子とぷーちゃんが頑張っているのを見て、ライも腰からサバイバルナイフを取り出した。

「はいはい。俺も手伝いますよ」




「ミーシャにーに!お帰りなさい!」

「ただいま帰りました。こんな時間まで起きていたのですか?」

 庭に降り立った大精霊に気づいたシャオマオが走ってきてミーシャを出迎えた。

 ミーシャも全身で「お帰り」を言って抱き着いてくるシャオマオをキャッチして、嬉しそうに微笑む。


「ううん。ちゃんと眠ったのよ。さっき起きちゃったの。ミーシャ一人?」

「ええ。私だけですが安心してください。ぷーちゃんはちゃんと助け出しましたし、ライ先生たちも怪我していません。少し別の目的が出来たので寄り道しています」


「ライたちが無事だというのなら、時間がかかっても自分達で戻ってくるでしょう。ミーシャはもう眠ってください」

 遅れて庭にやってきたサリフェルシェリが申し訳なさそうにミーシャに休むようにいう。

 子どもが徹夜するなんて成長に良くない。

 この星の大人たちは子どもが健やかに強く育つように心を配るものだ。


「状況の説明をしてから・・・」

「緊急性がないのなら休んでからでも大丈夫ですよ。シャオマオ様ももう一度眠りませんか?」

「やーん。もう眠くないの!」

 珍しくシャオマオがぐずる。


「シャオマオ。あまり起きて悩んでもしょうがない」

「そうです。ライたちが戻ってからまたお話の続きをしましょうね」

 サリフェルシェリが袖口で自分の顔を覆ってから、シャオマオの顔の前にふわっとなにかの粉を巻いた。


「う・・・・・にゅ・・・?」

 ユエはふーらふーらと揺れるシャオマオをさっと抱き上げた。

 横抱きにすれば、もうすうすうと寝息が聞こえる。

 きっと興奮していたから眠気が飛んでいただけで、体はまだ睡眠を必要としていたのだろう。


「ミーシャは?自分で眠れます?」

「あ、はい・・・」

 両手を顔の横に挙げてて無抵抗を表現したミーシャに、サリフェルシェリが微笑んだ。

「よい子ですね」


「シャオマオが夢を見れば過去がわかる。資料ではわからない」

 ちらりとユエを見たミーシャに、ユエは簡単に説明した。

 それにしてもよくもこんな強硬手段をユエが許したなとミーシャは驚いたが、「俺も昔よくこれで眠らされた」というユエのセリフを聞いて、横でにこにこしているサリフェルシェリに対する見方が変わったのを感じた。




「ドラゴンを飼い慣らす。そんなことはやはり夢物語だったのだ・・・」

 暗闇の中からぽつりと声が聞こえた。

 目を開けるとシャオマオの目の前には焚火があって、右隣には鱗族の老人一人だけが座っていた。どうやらこの老人の独り言のようだ。


「我々には呪いだけが残った・・・」

 左を見ると、ユエがいた。

 手を差し伸べるとユエが柔らかく手を握ってくれる。


 二人で立ち上がって、焚火から離れる。

 あの金の鳥がいた檻へ向かって行った。

 檻は壊れてもうなくなっている。いまはただ牢獄があった痕しか残っていない。


「よかった。あの鳥さんちゃんと逃げてくれてる」

 ほっと胸をなでおろす。


 先ほど見ていた夢からどのくらいの時間がたったのかわからない。

 ドラゴンの姿も、ダリア姫も、金の鳥の姿もない。

 鱗族の姿もまばらだ。


「シャオマオ・・・!」

 ユエはばっと虎に変わり、シャオマオの首元を咥えて壁を駆け上がった。


 洞窟全体が振動するような大きな咆哮が聞こえた気がした。

 しかし、声は耳には聞こえない。直接頭の中に響くユニコーンの声に似ているが、洞窟はそれに合わせて振動している。


 ユエは壁の上にある突起に身を隠すようにしてしゃがみこんで、胸元にシャオマオを隠す。

 シャオマオもユエの胸元にしがみついてこの振動をやり過ごしているようだ。


 シャオマオは外を確認することが出来ないので、暗闇の中からこっそりとユエは周りをうかがう。

(何だあれは・・・)


 あのダリア姫の父親だと名乗ったドラコンの影が洞窟の壁に染みついている。かと思えば、それがじろりと周りを睨んでいるのが見えた。

 じっと見つめれば生きているかのように動いている。


(あれが呪いを振りまいているのか・・・)

 しかし、本体ではない。

 あの肉体の圧力がなく、精神体の発する魔素ともいえるような禍々しい思念のみがこの洞窟全体を覆いつくしている。

 長く居れば自分達も呪いを受けてしまいそうなくらいの、ドラゴンの深い恨みを感じ取ることが出来る。

(哀しいな・・・)

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