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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第一章

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海の後は温泉ですよ!


 泣き疲れて寝てしまったシャオマオは、ざわざわとした気配に目が覚めた。

 外はそろそろ海に沈む夕日が見える時間だった。


 眠っても虎のユエの首根っこにしがみついて離れなかったので空いた小屋を借りて休んでいたようだ。小屋と言っても床があって、屋根があるだけの壁のない海の家のようなものだ。

 そこへ海人族たちがかわるがわる妖精を見に来ていたのでユエは気がたって眠っていないようだった。シャオマオは目が覚めてすぐに小屋の周りを囲む人魚たちと目が合った。

(デジャブ・・・)


 とりあえず、シャオマオが寝ている間に鳥族たちも全員が医者にかかって健康上に問題がないことを確認してもらったようだった。

 妖精歓迎の宴の準備をしている間にと、海人族の長老に温泉を勧められたので、真水を浴びていたものの体が冷えた鳥族たちは交代でありがたく使わせてもらうことにした。

 着ていたものも湯を使っている間に洗濯してくれるという。

 

 目が覚めた時に小屋に残っていたのはシャオマオが自己紹介して名前を知っているものだけだった。気が休まるように気を使ってくれたんだろう。


 シャオマオは目が覚めてからまた少し泣いて少しのわがままを言ってユエに甘えた。

 虎のままでもユエがデレデレしているのは誰の目にも明らかだった。

 ほかでもない自分に甘えられたという事実が嬉しいのだろう。ご機嫌にのどをぐるぐる鳴らしていた。

 人に甘えられること自体、ユエには初めての経験だ。


 ユエの喉の音を聞きながらしばらく抱き着いていたら、懐かしい声が聞こえた。

「妖精様!」

 返事をする前に案内係の海人族を追い越して小屋に飛び込んできたのは、鳥族の若者に事情を聞いて駆けつけてくれたサリフェルシェリだった。

「よかったぁ!私はもう、本当に心臓が止まるかと・・・」

 ハラハラ涙をこぼしながらシャオマオの姿を前から後ろから点検して、怪我がないことを確認してからサリフェルシェリはぎゅっと抱きしめた。


「サリィ~!」

「はい。サリーですよ。お迎えに来ました」

 優しいサリフェルシェリの顔と声を聞いたら気が抜けるのがわかった。知らず知らずのうちに気が張っていたようだった。


 サリフェルシェリはユエたちが走り去った後、荷物をまとめてしばらく待っていたが、海から飛び上がる巨大な魔物を見て慌ててギルドに連絡して船を手配して駆けつけてくれたのだ。

 ちなみにことが片付いたことを知らせに来た鳥族の若者は、船の舳先に結んだ縄を引っ張って高速で飛んでくれたので、普通に船を動かすより早く到着した。


「サリー。しんぱい、ごめんねぇ」

「いいんですよ。無事で・・・本当に無事でよかった・・・」


 二人とも大粒の涙をこぼしながらお互いの無事を報告しあった。

 みんな怪我もなく無事だった。

 それだけで本当に心の底から安心した。


「たくさん泣いたんですね。おかわいそうに。瞼が腫れてしまっている」

 寝ている間には甲斐甲斐しく冷たいタオルを目に当ててもらっていたが、あまりにも腫れ過ぎたために元には戻っていない。そっとシャオマオの顔を両手で挟んで親指で目元を撫でるサリフェルシェリの深い湖面の瞳と見つめあった後はどちらともなくまた抱き合って、お互いの背中を撫でて慰めあった。


「さあ、妖精様。私たちと温泉に行こう」

 しばらくサリフェルシェリとの再会を見守っていたチェキータだが、我慢できなかったようだ。

「きっとすっきりするぞ」



「妖精様と温泉に入れるなんて・・・」

 サラサは大きな胸にシャオマオを抱きしめながら感動している。

 そう。スレンダーな鳥族が多い中で、一番胸が目立つサラサに抱かれながら温泉に浸かっているのだ。一人で浸かるとずっと立っていても溺れる深さなので。この頭に当たる柔らかさに癒される。

  

「はひゅう~」

 温泉につかると大きなため息が出る。

 妖精の体でも同じようだ。


「おんせんすきぃ~」

 温まったあとはのぼせないよう岩に腰かけて足をパシャパシャして休憩していたら、サラサの手でつくった水鉄砲でぴゅうとお湯をかけられた。

 きゃあきゃあ言いながらお湯をかけあったが、今日は鳥族しかいないのでお風呂で遊んでようが泳ごうが、怒る人がいないのだ。

 遊んでいる声を聞きつけたほかの鳥族の女性たちもみんな集まってバシャバシャと遊びまわったり、水分補給としてヤシの実のジュースを飲んだりしながら長い時間温泉を堪能した。


 前の体では旅行なんてとんでもない。学校行事で友達と一緒にお風呂に入ったこともないのだ。楽しすぎる!



「向こうはきゃっきゃしてていいな」

「こっちは男ばっかりぎゅうぎゅうだし虎もいる・・・」

 ライとニーカだ。

 女湯から聞こえる声を聞きながら、恨めしそうにいう。


 男性陣は順番に湯を使い終わっており、残ったのはシャオマオが起きるのを待っていた、ユエたちと新たにやってきたサリフェルシェリだ。

 ユエは虎の姿のまま人型に戻っていないので、女性が使っている岩風呂よりも小ぶりの男湯はぎゅうぎゅうだ。


 戻ろうと思えば人型に戻れるが、虎の姿のまま海水に浸かったので毛皮をきれいにしたいのだ。完全に気分だけの問題だ。

 

 クジラの魔物の中で着ていた服はびりびりに破れて海に消えてしまったが、サリフェルシェリは着替えを一式持ってきてくれていた。

 さすがにシャオマオがいるときに全裸なのはまずいと日頃からライに言われすぎたので、ユエももう理解していて素直に礼を言った。

 ちなみに海に飛び込むときに上着を脱いだライの服もある。

 獣人族が戦ったとなったら服は用意しておくべきなのだ。


 ニーカは本当ならチェキータと風呂に入りたかったが、妖精様の世話があるからと断られたのだ。

 「では妖精様を連れて三人で!」と提案しようかと思ったが、いくら鳥族でも口に出したら命が危ないとわかっているので言葉にはしなかった。まだ死にたくない。


「そういえば、ライはどうやってここに来たんだ?」

「ああ。ユエがシャオマオちゃんと魔物に飲み込まれてから追いかけて海に潜ったんだが、流石に追いつけなくてな。困っていたら海人族の一人に見つけてもらえたんだ。そいつも自分のところの族長を助けに魔物を追いかけているところだったらしくてな。俺が海にいても足手まといだからって、先にこの島に連れてきてもらってたんだ」


 ニーカの質問にライが説明したら、すうっとユエが人型に戻った。

『族長・・・キノか?』

 猫族の言葉で話す。


『そうだろうな』

 ライも猫族語で返した。


『あいつ、別に魔物の中で何も困っていなさそうだった。いつでも自分で出られたんだろう』

『・・・どういうことだ?確かにえらく強かったが』

 確かに海人たちはあの大きな魔物を取り囲んでいた。中にいるキノを心配していたのではなかったのか?


『俺を眠らせたのもあいつだ』

『・・・お前が眠った?』

『シャオマオに魔石をとらせようとした後、俺を動けなくして眠らせた。何をどうされたのかはわからないがあいつがやったんだろう』

『目的がよくわからないな。魔道具の守りもきかなかった』

 ライは腕にしている魔道具の腕輪をじっと見た。

 壊れている様子はないが、作動しなかった。


『好意は感じない』

 魔道具の中でシャオマオの銀の守り紐一つだけが作動したから濡れずに海上に出られたんだと思う。

 あれは敵に囲まれてどうにも逃げ出せなくなったときや、今回のようにいきなり水中に放り出されたときに作動して、安全圏まで移動してくれる魔道具なのだ。

 ユエやライが最悪死んでもなんとかシャオマオだけは助かるようにと金に糸目をつけなかった最後の砦だ。

 それ以外の悪意に反応するものは何も作動しなかった。

 シャオマオの魔道具だけではなく、ライのものも、ユエのものも。

 ユエは攻撃されて眠らされているのにもかかわらずだ。


『好意はない。悪意もない、か?』

『キノですか。長生きの人魚です。噂ではうちの長老たちとも渡り合う、結構なやり手ですよ』

 サリフェルシェリも猫族語で会話に入る。


「そんなに考えたってしょうがない。みんな無事だったからいいじゃないか」

 体を洗い終わって、岩風呂に飛び込んできたニーカはみんなが何をしゃべっているのかわからなかったが、難しい顔をしているのはわかる。笑い飛ばしてあっけらかんという。

 考えてもしょうがないことは考えないのだ。

 全力で今を楽しむのが鳥族だ。


「そうだな」

 ニーカが入ってきたのと交代で、ユエが湯船の外に出て虎の姿に戻ってぶるぶると体を振って水気を飛ばした。

「ぎゃあ!お前もっと遠くでやれよ!」

 顔に水を浴びたライが怒ってもユエは全然気にしない。

「ふん!」と鼻を鳴らして出て行ってしまった。


「あいつ、虎の姿だとシャオマオちゃんから抱き着いたりしてくれるから気に入ってるんだろうな」

「ず・・・ずるい」

 

 鳥族は鳥の姿になれない。

 鳥になれたら妖精様の肩にとまったりしてずっと一緒にいられるのに。

 早く妖精様には空を飛べるようになっていただこうと心に決めたニーカだった。


今日も読んでいただきありがとうございます('ω')ノ


因みに目が覚めたシャオマオがユエにした小さなわがままは、「もっとぎゅっとして。しっぽ貸して。背中に乗せて。肉球の枕して」とそんな感じでした。

ユエはご機嫌すぎて、しばらくは他の人がシャオマオに触ってもイライラしませんでした。

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