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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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洞窟での出来事④

 

「おい、ぷー。恥ずかしいからってつつくなよ」

 ライはぷーちゃんにつつかれた頭を撫でながら少し笑った。


 周りを見渡すと、鱗族の者たちは皆倒れて気を失っているようだ。

 洞窟の中を見て回ったが、どうも闇ギルドのアジトというよりは、普通に生活している村のような気もする。

 あえて殲滅するようなことをしなくても、自分達には脅威にならないと思われた。


「じゃあ、さっさと帰ってシャオマオちゃんを安心させて―」

 入り口に体を向けて帰ろうとした途端、黒ヒョウ兄妹の体はびりびりと痺れるような感覚に陥り、固まったように動けなくなった。


 体の芯から凍り付くような寒気、じっとりとなめまわすように自分達を見る視線。強大な気配。

 ライの頭のてっぺんから、嫌な汗が流れてきた。


 この広場のようになった場所の壁に落ちた影が、よく見ると動いているように見える。

(なんだなんだなんだ!!!)


 魔物だろうがダンジョンだろうがこんな嫌な気配を感じたことなんてない。

 禍々しいという言葉がぴったりだ。

 レンレンとランランに視線を向けると、真っ青な顔で荒い息を短く吐いている。

 腕をだらりとおろしたまま武器を構えることもできない様子だ。


 影が大きく口を開けるのが見えたと同時に、洞窟全体が崩れるのではないかというくらい振動した。


(くそ!)

 なんとか固まった自分の体を叱咤して、レンレンとランランをかばうように背に隠して武器を構えた。

 動いていた壁を見ると、大きな大きな影の頭がじっとこちらを見ているような気がする。

 信じられないことに、影絵で作られたドラゴンがこちらを睨んでいる。


(なんだこれは・・・。ドラゴンの思念か?)

 恨み、怒り、そんな抑えきれない気持ちがじっとりと影の視線に乗っているような感じがする。

 その視線の先には気絶した鱗族の男女。


(鱗族に対しての感情か?ドラゴンに呪われているのは鱗族・・・?)

 しかし、このドロドロとした怒りを噴出させる思念に対しての攻撃手段なんぞ、ライには思いつかない。

 呪いの残留思念と戦える奴がいるなら教えてほしい。そんなものはあるわけないのだ。

(思念は精霊のようなものか・・・)

 人を愛する気持ちが精霊になるなら、恨む気持ちも形を成して当然なのだ。


 自分達に襲い掛かってくるのなら戦わないわけにいかない。持っている武器の何が実体のない思念に有効なのかは全く分からないが、改めてライがナイフを握りしめたところで、自分のすぐそばを弾丸のようなスピードで何かが通り過ぎた。


「ピヨオオオオオオオオオ!!!」

「んな!?」

 壁の影に向かって、大きく体を膨らませた真ん丸のぷーちゃんが襲い掛かった。


 ライでも抱えきれるかどうかという大きさになった真ん丸のぷーちゃんが足蹴にすると、ドラゴンの影は頭を振ってぷーちゃんを嫌がっているように見える。


「攻撃・・・できてるのか?」

 振り払ってもなお攻撃してくるぷーちゃんを大きく頭を振って嫌がったドラゴンの影は他の闇に隠れて消えていった。


「ぷいぷい~!!」

 ぷーちゃんのいつもの鳴き声に、ライはハッと我に返ってまだ固まったままのレンレンとランランをさっと左右に抱えて入り口に向かって走り出した。


 再び小さくなったぷーちゃんも、ライに追いつくと肩にとまって「ふう、やれやれ」とでもいうようにため息をついた。


「おい!ぷー!あれなんだよ!?」

「ぷい」

「知らないわけねーだろ?!とぼけるな!!」

「ぷぷい」

 ぷーちゃんはとぼけてるわけでもなく、全く分からないらしい。

 とにかくライは二人と鳥一匹を抱えて入り口まで全力疾走した。




「ん?もう一度言って?」

 ユエはきょとんとした顔でシャオマオが言ったことを聞き直した。こんな珍しいことはない。

 ユエはシャオマオの言うことを聞くために自分の耳が付いていると思っているので、シャオマオの言葉を聞き逃したことなどないのだ。

 しかし、シャオマオの言ったことがなかなか理解できなかったので念のためにもう一度聞いてみる。さすがに聞き間違いかと思ったのだ。


「うん。あのね、ドラゴンったらダリア姫のぱぁぱなんだって」

「ぱぁぱ?」

「うん。ぱぁぱよ。おとーしゃん」

「・・・・・・・お父さん」

 ユエは藁の中ですやすやと体を丸めて寝ている小さなダリア姫と、目の前の鼻息だけでシャオマオを吹き飛ばしそうな闇のような黒いドラゴンを見比べた。


「うん。餌をとりに行ってる間にドラゴンまぁまが殺されて、ドラゴンまぁまが守ってた卵が行方不明になってたんだって」

 くすん、とシャオマオは鼻をすすってドラゴンの鼻先ににぺたんと抱き着いた。

 ドラゴンの気持とその時の状況が映像のようにシャオマオに伝えられる。

 体中に刺さった武器や切りつけられた傷跡。きっと一生懸命に戦ったのであろう痕跡は山積みになった人族の死体でわかる。真っ白な鱗が分からないくらいに飛び散って周りを染める赤。空になった巣の中。

 ずっとずっと二人で生まれるのを楽しみに温め続けた卵が無くなっている。

 ドラゴンは犯人を捜すうちに真っ黒な体色に変化して、呪いをまき散らす特殊個体となっていたのらしい。


「やっと自分の赤ちゃんを見つけたんだって言ってるよ」

「シャオマオ。ダリア姫は人族の形をして人族の両親も揃ってるが、それでもドラゴンの赤ちゃんなのかな?」

「うん。難しいのはわかんないけど、ドラゴンは自分の赤ちゃんを間違えるわけないって言ってる」


 生まれ変わりか、ダリア姫の体に子供の魂が宿ってるのか、それともドラゴンが別の生き物に擬態するのか。ドラゴンの生態について詳しく調べたことがないユエには知識がないので判断がつかないが、ドラゴンがこんなに自信をもって言い切るのだから、なにかしらの確信があるに違いない。


「これからドラゴンはダリア姫をドラゴンとして育てるのかな?」

 ユエの疑問をシャオマオがドラゴンに聞いてみる。


「ダリア姫はこれからドラゴンになるから人の町では暮らせないんだって。飛べるようになったら二人でまぁまのお墓のある山に戻って暮らすんだって」

 シャオマオの言葉に、遠くで動く気配があった。


「?」

「だれか、いるのですか?」

 ダリア姫がシャオマオの話し声に目を覚ましたようだ。恐々と様子をうかがう声がした。


「ひょ!」

 その声にびっくりしたシャオマオがまた変な声を上げてしまった。


「・・・誰ですか?」

「シャオマオです。妖精です」

 姿の見えない相手にダリア姫がおびえているのが分かったので、シャオマオはとっさに自己紹介してしまった。


「妖精様!?」

 攫われたら幻獣が現れてドラゴンに捕まって最後は妖精様が現れた(姿は見えないが)。

 ダリア姫はもう物語でしか聞くことのない名前に目を白黒させている。

 もうあとは金狼様と銀狼様くらいしか自分を驚かすものはないだろうと思う。


「よ、妖精様が現れるなんて・・・。このドラゴン様とお友達ですか?」

「ううん。シャオマオはね、誰かに呼ばれたの」

「呼ばれた・・・」

「そう。誰かがきっと、シャオマオに助けてほしいって思ってるの」

「妖精様は、その誰かを助けに来てくださったのですね」

「うん。ダリア姫は?助けてほしい?」


 グフグフグフ!

 シャオマオの声にドラゴンは興奮して鼻息を荒げた。


「こら!ダリア姫にちゃんと説明しなきゃメ!でしょ?」

 シャオマオが大きい声を上げて人差し指をドラゴンの鼻先に突き付けた。

 ドラゴンは興奮していた気持ちを落ち着けて、ため息をついてまたシャオマオの髪を後ろへ流した。


「では妖精様。そもそも今のこの状況はどういうことなのかお聞きしてもよろしいですか?」

 ダリア姫は藁の上にしゃんと背筋を伸ばして座ってシャオマオに説明を求めた。


「シャオマオもよくわからないんだけど、知ってること全部説明するね」

 ダリア姫はシャオマオの拙い説明をすべて全部聞いてから、疑問に思ったことを質問したり、じっと考えて頭の中で整理したりした。


「・・・なるほど。私はこのドラゴン様のお子である、と」

「納得、できない、よね?」

 恐々とシャオマオが尋ねると、「いいえ」とダリア姫は首を振った。


「偉大なるドラゴン様がそのようにおっしゃるのであれば、恐れ多いことですが私はドラゴン様のお子なのでしょう」

 ダリア姫の肝の座った返答に、ドラゴンはしっぽの先がパタパタしている。嬉しそうだ。


「では、ドラゴン様のようになれる自信はありませんが、飛べるようになるというのであればそれを待ちたいと思います」

 ダリア姫はぐっと胸の前で拳を握った。


 箱入り娘というにはいろいろとやんちゃなお姫様だとは聞いていたけれど、こんなに荒唐無稽と言ってもおかしくないような話を聞かされても前向きな発言をする女の子がいるなんて、とシャオマオの方が驚かされた。


「妖精様が先ほど聞いてくださった、『助けてほしいか』という質問ですが」

「うん」

「上で掴まっている金の鳥を助けてはもらえませんか?」

「金の鳥?うん。あの子は檻から出そうと思ってるよ」

「ありがとうございます。今の私が助けてほしいことはそれくらいです」

 にっこりと笑うダリア姫に、余計なこととは思いながらもシャオマオはつぶやいた。

「あの金の鳥は・・・ダリア姫のことが大好きよ?」


「ええ。あの鳥がずっと私を守り、そばにいてくれたことを知っています。本当に助けてもらいました。ドラゴンになっても友達でいることが出来るかはわかりませんが、もう守ってもらう人族の姫ではなくなるのであれば、あの鳥も自由になってもいいのです」

 にこっと太陽みたいな顔で笑った。


「お別れです」

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