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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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洞窟での出来事②

 

 闇色のドラゴンは再び巣穴へ静かに降り立ち、ダリア姫をゆっくり地面へとおろした。

 そして少し離れてからつめていた息を吐きだした。


 その吐息にダリア姫の体があおられて少しばかり揺れた。


 ドラゴンは少し目を見開いた後にまた二歩ほど距離をとって横穴へ体を滑り込ませると、体を伏せて自分の影響が極力及ばないギリギリの距離に横たわる。

 そして、暗闇の中から悲しげな瞳でじっとダリア姫を見つめるのだ。


 ダリア姫はどうしたらいいのかわらかない。

 立ったままでいればいいのか、話しかけてはいけないのか、そもそも何をなすべきかはわからない。

 攫われて「贄」としてこのドラゴンへ捧げられたことは分かっているが、このドラゴンの心がわからない。


 自分を最大限気遣ってくれていることはわかる。

 食べるつもりもない様だ。

 話も理解してくれる。何故か自分の言うことをきいてもくれる。

 しかし、ダリア姫からはどういう風に接したらいいのかはわからない。

 なぜ自分にそんな悲し気な視線を向けてくるのかがわからない。

 自分という弱い生き物を、この強大なドラゴンがどう感じているのかがわからない。


 ダリア姫はじっとドラゴンのことを見つめ返した。

 ドラゴンの瞳はオレンジ色で、闇の中でも光を放っているようにきらきらと輝いているが、その瞳は悲しみで染まっていることが伝わってくる。


 しょうがないのでダリア姫は姿勢を正して立ったままドラゴンの視線を受け止め続けたが、それも3時間を超えると辛くなってきた。

 ピクリとも動かず、絵師に見つめられるモデルのようにずっと動かず立ちっぱなしだ。見た目にもすこし疲れが見え始めた頃、ドラゴンは目を細めて慌てて巣穴の中に入って行って、いくつかの果物を掴んで戻ってきた。


 最初に寝ていた場所からは先に進まず、体を横たえると左手の指だけをちょろっと動かして、果物をダリア姫に向かって転がした。


 ダリア姫は足元にゆっくりと転がってくる果物をじっと見つめて、視線をあげてドラゴンを見た。


「ありがとうございます。頂きます」

 頭を下げてからしゃがんで、足先までころがって来た一番近い果物を手に取ってにっこりと微笑む。


 バタン!


 ドラゴンのしっぽが地面を軽くたたいた。

 表情はわからないが喜んでいるようで、なんだかダリア姫も嬉しくなった。

 皮をむいてジューシーな果物を頬張ると、じゅわっと果汁が口いっぱいに広がった。久しぶりに得られた水分が体中にしみわたり、ダリア姫の緊張は少し解けた。


「ねえねえユエ。ダリア姫ったらドラゴンにいじめられてないね」

「そうだね」

 またドラゴンの巣の中に戻ってきたシャオマオとユエ。

 二人も崖の壁の突起に腰かけながらダリア姫とドラゴンを見つめる。


 崖の上では黒の肌をした人々に、ダリア姫の「幸運」が捕えられていた。

「そこにいる」と認識されてしまったために、みんなに姿をさらすことになってしまったのだろう。

 しかし、ドラゴンがトドメを刺さなかった以上、ダリア姫の幸運もむやみに傷つけられることはないはずだ。

 罪人を入れておくような鉄格子のついた横穴に押し込められて、「ピヤアアアアアア」と悲しげな声を上げていた。





 部屋の扉が開いたので誰が入ってきたのかを目線だけで確認した男。見たことない女の子が立っているのを見つけてぽかんとした後に座っていた椅子を勢いよく倒して向かってきた。


「どうやって・・・ウッ!」

 手に持っていた三節混を軽く振って、男の顎にヒットさせたランランは全く表情を変えない。

 男はそのまま棒のように後ろにばたんと倒れてしまった。


「こいつらどれくらいいるのか」

「めんどくさいよ。兄さんもう一気にやってしまおうよ」

「まずはぷーを捕まえ、じゃなくて救出すること。出口がいくつあるかわからないのにぷーを連れて逃げられたら困るからなぁ」


 地道に気配が少ないところを選んで一つの部屋ずつ確認しているが、アリの巣のように縦横無尽に入り組んだ通路があって、その先に個人で使うような部屋や物置が配置されている。

 ところどころに光る苔が生えているだけで窓もない。ダンジョンと違って光源が最小限に抑えられているので、黒い肌、黒髪の鱗族には有利なアジトだ。

 夜目の利く黒ヒョウ兄妹にも多少は暗く感じるが、障害になるほどではない。


 内部は入り組んでいて複雑で、見取り図もない今回は一つずつ部屋を確認しているが面倒で、黒ヒョウの双子はぶうぶう文句を言っている。

 さっきから出会い頭で潰している鱗族の男たちは油断していることもあるが手ごたえがない。

 全員が全員、戦闘員というわけでもないのかもしれない。



「まあ、ダンジョンでもこうやって地道な宝探しすることだってあるんだからさ。その練習だと思えばいいさ」

 ライはカラっと笑って言うが、人攫いや殺人も平気でするような闇ギルドを壊滅させることがダンジョンの練習だというのは少々乱暴かもしれない。


「でも兄さん。時間がかかりすぎるとシャオマオが寝てる間に帰れないよ?」

「そうよそうよ。シャオマオに心配されてしまうかもしれないよ」

「そ・れ・に!ぷーちゃん殺されてしまうかもしれないね!」

「それはありそうよ!ぷーちゃん生意気だからねぇ」

「ゆっくり探りながらだったら危ないよ!」

「そうよそうよ!急がないと!」

 双子は口々に文句を言いつつ持ってきたかばんから物騒な爆発物を取り出してライに見せる。


「あー。うん。お前たちがこそこそ探りながらやるっていうのが性に合わないのもわかる。一気に片づけたいのは俺も同じだ。でもなぁ・・・」

 ライは思案するように顎に手をやってレンレンの手に持っている爆発物を眺める。自分たちは何とかできるが、ここで炸裂させたら洞窟が崩れそうな威力がある。


「じゃあ人が多いところにいって人質取って、ぷーちゃんつれてこさせればいいね」

「それいいアイディアよ!それから集まったやつを順番に殴ればいいね!」

 双子たちはハイタッチして喜ぶ。

 成人したばかりなのに過激で脳筋な二人だ。どちらが闇ギルドかわからない。


「んー。そうだなぁ。制限時間内の作戦で、シャオマオちゃんにも物騒なことは内緒にしなきゃいけないんだけど」

 ライがすっと左の通路を見ると、ざわざわとした人の気配がやってくる。


「お前たちが望んだ展開になりそうだな」

 異変を感じた鱗族の声が遠くから足音とともに伝わってきた。

 ライはいつものククリナイフではなく、いつかのユエとの「遊び」で使った両手に持つスティックを取り出した。今回は「服を汚さない」を守らなきゃいけないから武器選びも大事だ。


「やっと気づいたか」

「こいつら鈍感ね」

 黒ヒョウ兄妹は犬歯を見せて不敵な笑いを見せた。三人とも笑い方がそっくりで三つ子のようだ。


「侵入者がいたぞ!」

「子供だ!捕まえろ」

 手に光る大きめのナイフを見るに、相手もこの洞窟で戦うための知恵は多少あるようだ。

「誰が子供よ。立派に成人してるね!」

 まずはレンレンとランランが飛び出して、どんどんやってくる鱗族たちを文字通り蹴散らしていく。


 ライは後ろで一番最初にレンレンの武器に殴り飛ばされて伸びている男のそばに行って、しゃがんで男の髪を掴んで乱暴にゆすった。


「おい。起きろ」

 気絶する男を無理やり起こす声は一見すると穏やかだ。


「・・・・う・・・」

「おいおい、ちょっと小突かれた程度で気絶してんのか?」

 つかんだ相手の顔がよく見えるように自分の顔の近くに釣り上げる。


「なあ、妖精サマを攫おうとした奴って仲間だろ?どこにいるのか教えてくれよ」

「・・・・う・・あ・・・・ヒッ」

 男は黒の瞳をうっすらとあけて、目の前に迫るライのエメラルドの宝石のように光る瞳が飛び込んでくると、悲鳴を上げた。


「そいつが妖精サマの大事な小鳥を攫ったんだよ。よっぽどイカレてるやつじゃなきゃ、そんなことしねえよなぁ?・・・妖精サマに怒られる前に返したほうが身のためだと思わねえか?」

「・・・・・・・は、い」

 犬歯を見せてにたりと笑うライの表情は、今までシャオマオの前で見せたことのないものだ。

 髪を掴まれている鱗族の男は年若いのだろう。すっかりライの雰囲気にのまれてガタガタと震えている。


「レンレン!ランラン!そのまま奥に進めば集会場の広場だ。まずはそこまで進め!」

「わかったよ兄さん!」

「ランラン!このまま押し切るね!」

 レンレンは手に持っていた筒から出ている紐を口で引き抜いて、通路の奥へ向かって思いっきり投げた。


 カッ!!!!!


 強烈な閃光弾が洞窟の中を青白く染め上げる。


「うわあああ!!」

 鱗族の男たちは悲鳴を上げて前後不覚になったが、レンレンとランランはそのまま目を抑えて苦しむ男たちを次々と昏倒させながら駆けてゆく。

 ライは道案内を頼んだ男の首根っこを掴んでずるずると引きずりながら、レンレンとランランが打ち漏らした奴がいないか点検しながらゆっくりついてゆく。


 しばらく問題なく進んでいたが、レンレンとランランがいち早く開けた場所に飛び込んだその瞬間、どかん!!と自分たちがいた場所に大きな鉄球が襲い掛かってきた。


 レンレンとランランはさっと空中に飛んで鉄球をよけた。


 鉄球の先には鎖が付いていて、その鎖を握っているのは身長3メートルはあるだろう小山のような巨体の鱗族の女だった。


「なんだい。子供じゃないか」

「油断しないでください!相当強いですよ!」

 鉄球を手繰り寄せる巨体の女に後ろに控える男たちが声をかけた。


「子供じゃ面白くない?」

「全然勝てない大人が?」

 プークスクスと双子が笑う。


「躾けてやるよ、クソガキ・・・」

 巨体の女は鉄球をぐるんぐるんとまわし始めた。

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