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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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洞窟での出来事①

 

 洞窟の中は真っ暗で、湿っぽくて、多くの生きているものや生きていない者の気配がざわざわとしていてミーシャは一歩入ってすぐに落ち着かなくなった。


「ミーシャ。水の精霊と外で待ってるか?」

「そうよ。ミーシャまだ子供よ。忘れてたよ」

「あー、忘れてた。ミーシャ鳥族だったな」

 双子が歩みを止めたミーシャの様子に気が付いて、「そうだった!」といってぽんと手を打つ。

 ここにいる全員がすっかり忘れていたが、ミーシャはまだまだ成人もしていない子供だ。なんなら特に冒険者を目指しているわけでもない。


「足手まといにならない自信はありますが、どうもこの洞窟は生理的に苦手ですね」

 少し困ったように眉を下げるミーシャ。


「ついててやれないのは申し訳ないが、ミーシャは入り口で待っててくれるか?」

「そう、ですね。入り口の見張りということで待たせていただきます」

 無理はしてもしょうがない。少し考えたが素直にうなずく。

 本来の目的はぷーちゃんを迎えに来たことなのだから。


「ぷーちゃん見つけたら先にここまで連れて来るよ」

「そうね。シャオマオに会わせるのが一番大事よ」

「はい。時間がかかりそうなら先に連れて帰ります」

 双子に言われてキラキラの笑顔で返事するミーシャ。

 双子もちょっと目頭を押さえる。

「キラキラよ・・・」

「新しい武器か・・・」


 ミーシャは鳥族だ。鳥族は基本的に空が好きで、高いところが好きで、自由な風が好きで、地面をトコトコ歩くよりも空を飛ぶことを喜びとしている。スピード狂が多いのも特徴だ。地上は魔素がたまっていたりもするので苦手なものだし、鳥族の性質として地下は特に受け付けない。上空や左右を塞がれている洞窟や建物の地下は体がざわざわとして落ち着かなくなってしまうのらしい。

 それを学校に通うためとはいえやっているミーシャは鳥族から見ても相当な変わり者である。


 そんな性質だからたくさんの地下施設を知っている訳ではないが、それでもこの洞窟は気配が変だとミーシャは感じた。

 危険がどうのというよりは、違和感が大きく体が少し動かしにくい。いつもよりも体が動くのがほんの少し遅れる。


「じゃあ、ミーシャはここで待っててくれ。さっさとぷーを連れてくるからさ」

「わかりました」

「じゃーねー」

「またあとでー」

 まるで誘拐犯のところへ殲滅に来たとは思えないような気軽な挨拶をして、黒ヒョウ兄妹たちとミーシャは洞窟の入り口で分かれた。




 グフグフグフ・・・・ガルルルルルルル・・・・・・


 唸るような声で巨大な闇の塊のようなドラゴンが、檻の中のダリア姫の匂いを嗅いだり、檻を前足でガシャガシャとつついたりする。興奮しているのか息が荒い。


 檻の中のダリア姫は顔色こそ悪いものの、毅然と落ち着いた態度をとっている。


 シャオマオはこの星で大きな魔物を見てきた。たくさんの種族の人たちも見たり接したりしている。

 その代わり、この星の人以外の生物にはあまり接していないので、動物をあまり知らない。

 特に神話世代から生きている生物に関しては、知る機会すらなかった。

 以前の星の知識だと、物語の中でドラゴンは賢くて人を凌ぐ知恵や寿命があり、強くて特別な能力を持っていたりするのだ。まるで神様のような存在であったり、生物の頂点であったり。


 人を食べる恐竜のような恐れ方をされたり、気まぐれに人を襲ったりもする一方、神のように知恵を与えて称えられたりと、それこそ物語ごとに違っていたがこの星では恐竜のような神話世代に生きていた太古の生き物だという。


 ダリア姫の檻を覗き込む姿を見ていると、巨大なトカゲの王様のようにも思える。

 しかし、それが本来の姿とはシャオマオにはどうしても思えない。

 人と話も通じない、それこそ見た目のトカゲに近い、人と心を通わせることが難しい生き物だとは思えないのだ。


「・・・・・・泣いてる」

 シャオマオにはドラゴンが泣いている心が分かった。


 涙こそ流していないが、ダリア姫を特別なものと思っているのは伝わってくる。

 もっと近づきたいと思ってはいるが、中にいるダリア姫を傷つけないように焦る心を落ち着かせて、檻に体重をかけて壊そうとしている優しいドラゴンと心が通わないとは思えない。


 バキ!ギギギギギィ!

 嫌な音が響いて檻の天井が壊れる。

 天井に力をかけて、ドラゴンは鉄の檻をなんなく壊してしまった。そこから手を入れようとしたが、ぴたっと動きを止める。

 どう考えても檻の中に大きなドラゴンの手を全部入れることは無理だ。


 少しためらうような動きをしてから、入り口を作るように上から檻の鉄格子をまげる。

 ギギギギギ・・・・・


 広がった鉄格子はダリア姫が通りやすい広さがある。


 入り口を広げてからじっとダリア姫が動くのを待っていたが、なかなか立ち上がってくれないと思ったのか少し離れた場所まで下がって、ドラゴンはしゃがんだ。

 怖がらせないように気を使ったのだろう。


 ダリア姫はしばらくドラゴンと見つめあいながら座っていたが、ふらふらと立ち上がって曲げられた鉄格子の間を通って外に出てきた。


 少し歩いて立ち止まると、スカートをつまんで優雅な挨拶をした。

「偉大なるドラゴン様にご挨拶を。人族の姫ダリアといいます」


 グルルルルルルルル・・・・・・・


 ドラゴンは小さな小さなダリア姫を見つめた後に少し頭を震わせて、悲しいという気持ちをにじませた。


「ピヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ダリア姫とドラゴンが見つめあう空間に、高く大きな声が響く。


 ドラゴンは声のした方を見て、巨体を起き上がらせると大きな腕を振って何もない空間を切り裂くように動かした。


「ピイヤアアアアア!!」

 風が急にこの竪穴の中に吹き付けてきた。

 ダリア姫の小さな体は風にあおられて倒れそうになる。

 しかし、飛び込んできたであろう声の主の姿は見えない。


 地面に倒れそうになったダリア姫に思わず手を伸ばそうとしたシャオマオを、ぐっと後ろからユエが押さえる。

「だめだよ。ちゃんと見てあげて」

「でも・・・。う、うん」

 反論しようとしたけれど、シャオマオは思い直した。

 これは誰かの記憶。誰かの夢。


 崖の上からダリア姫をいけにえにした人たちの声が聞こえてくる。


「これが贄の幸運か!」

「儀式はどうなる!」

「呪いの王よ!贄を与えたのだ!早く呪いを!!」

 口々に好きなことを叫んでいるが、ドラゴンは甲高い鳴き声の生き物を攻撃しようと動いているので上空からの声には反応しない。


 ドラゴンは顔を左右に動かして、声の主をきちんと視認しているようだ。

「ユエ、見える?」

 シャオマオには何も見えない。


「見えると思えば見えるよ。シャオマオはもうここにいるものが何かわかっているんだろ?」

 さっと目を片手で隠された。


「ほら」

 すぐに手を離された。

「う、わ」


 巨大な鳥。美しく発光する金の鳥。

 クジャクのような飾り尾羽が長く伸びていて、体からは金の光の粒子がふわふわと生まれて周りを照らしている。

 大きな足に生えた鋭い爪でドラゴンを引き裂こうと動いているが、この竪穴が恐竜のようなドラゴンと大きな鳥が戦うには狭すぎる。


 金の鳥はドラゴンが前に出ようとしたところで足でダリア姫の入っていた檻を掴んでドラゴンに投げつけた。

 ドラゴンの方は自分に向かってきた檻をよけようともしない。

 自分には脅威にならないと判断したのだろう。

 少しばかり目をつぶっただけで顔から檻を受け止めた。


 そのすきに金の鳥が大きな爪で傷つけないようにふんわりとダリア姫を掴んで上空を目指して飛び上がった。


 グアアアアアアアアアアアア!!!

 洞窟が崩れるのではないかというくらいの大音量。

 びりびりと空気が震え、地面すら揺れている気がする。


 ドラゴンは自分の背中の翼をバサリと広げると、大きな体をものともせずに金の鳥にすぐに追いついた。

 片方の手でダリア姫を掴んでいる金の鳥の足を掴み、もう片方の手で金の鳥を竪穴の壁に押し付ける。

 上空へ向かって飛び続けるものだから、金の鳥は背中をがりがりと壁で削られながら人がいるところまでつかまったままだった。


「シャオマオ。上へ行こう」

「うん」

 シャオマオはユエに抱きしめられながら空を飛び、檻がつながっていた滑車があった天井まで浮かび上がった。


 ドラゴンは金の鳥を上から押さえつけてギリギリとダリア姫を掴む足を締め上げる。


「やめてください!この子を傷つけないで!!」

 ダリア姫の悲鳴のような声でドラゴンが少しひるんだ。


「偉大なるドラゴン様。お願いです。この子を傷つけないのなら一緒に参りますから」

 少し緩んだ金の鳥の足から、ダリア姫が這い出てくる。


「ピイイイイイイ~!」

 悲し気に、すがるように金の鳥が鳴く。


「ありがとう。こんなところまで助けに来てくれたのね」

 金の鳥のふんわりとした体を撫でてから、ダリア姫はにっこり笑った。


「貴方の姿を初めて見たわ。こんなに美しい鳥だったのね。いつもいてくれてありがとう。でもここまでよ」

 ダリア姫はしっかりとした足取りで歩いてドラゴンに近づく。


「ピィアアアアアアアアア~」

 ドラコンは近寄ってきたダリア姫を見つめて、取り押さえていた金の鳥から手を離した。

 きちんとダリア姫の言葉を理解している。


「ありがとうございます」

 ダリア姫がまた優雅にお辞儀した。

 きっとドラゴンはただの恐竜のような生き物ではなく、敬意を払うべき生き物として存在しているのだろう。


 ダリア姫は静々とドラゴンのそばへ行き、その手でやんわりと掴まれた。


「ピアアアアアアアアア!!」

 金の鳥は悲し気に叫んだが、崖上の人々に取り押さえられたため動くことは叶わなかった。

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