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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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みんなで冒険。夢の中と現実と。

 

 みんなを見送ってからは、ユエからいつも飲んでいるリンゴ酢のような甘くて酸っぱいドリンクを飲ませてもらった。

 エルフ族が飲んでいる健康ドリンクらしく、体が丈夫になるからと子供に積極的に飲ませるらしい。

 気分が落ち込んでいるせいか、今日は普段よりも酸っぱく感じる。


「酸っぱいの?」

「うん。すっぱ!」

 眉間のしわでユエにすぐばれてしまった。

 でも心配させないように元気に答えておく。


「大丈夫だよ。いつもと同じように寝て、いつもと同じように目覚めたら、ちゃんとみんな揃っているから」

「うん」

「信じて待とうね」

「うん。シャオマオ、にーにたち信じてるの」

 ユエに抱き上げられて、「いい子」とほっぺたにちゅうと口づけされて部屋に運ばれた。


 ぷーちゃんのベッドに使っているかごの中の布を整えて、いつ帰ってもいいようにしてからユエに抱っこされて一緒の布団にくるまれる。


「おやすみシャオマオ」

「おやすみユエ」

 いつものように挨拶してからゆったりと目を閉じた。




 ジャラララララララ・・・・・・・ジャララララララララ・・・・・・・


 大きな鎖がジャラジャラとぶつかる音。

 その音に交じって聞こえる大勢の人の声と気配。

 ダンダンダンと足を踏み鳴らしているだろう地響き。


 それらが急に迫ってきて、驚いたシャオマオは瞳を開けたが真っ暗で何も見えなかった。


「ユエ・・・」

「大丈夫だよ」

 自分を抱きしめていてくれる人に寄り添ったら、優しい南国の果実の香りがふんわりとシャオマオを包んで安心させてくれた。

 ふう。つめていた息を吐き出すことが出来た。

 すりすりと頬を撫でてくれる指だって、いつもの慣れた触り方で安心して力を抜くことが出来た。


 いつか見た夢と同じだ。

 今回は最初から一緒に夢の中に招待されたようだ。


 しめじめとした重苦しい湿気を含んだ空気。

 話し声が聞こえるわけではないが、大勢の人の気配で一杯の場所がある。

 それらが集まっているほうに向かってユエは迷いなく歩く。


 相変わらず真っ暗な中ではシャオマオには右も左も見えないが、ユエには何かが見えているようだ。


 途中で片手抱っこにされたが、ユエはジャンプしてどこかに片手で器用にぶら下がったりしながら上を目指してどんどん進んでいるようだ。

 シャオマオは邪魔にならないように四肢を使ってがしっとユエの胴体に抱き着いて落ちないようにする。


 やっとぼんやりとした光が少し感じられる場所にやってきた。

 自分を抱きしめてくれているユエの顔の輪郭がすこーし見えるようになってきた。


 ニコッと笑ってくれたユエの指がさした先を見ると、少し先に壁のない場所が見えた。

 シャオマオはユエに肩車をされて、その場所からこっそりと周りをうかがってみる。


 ここは洞窟の天井に近い場所らしい。

 すぐ目の前には天井に吊り下げられている滑車。

 じゃらじゃらと大げさな音を立てて動いているその先には、いつか見たあの白のドレスを着た女の子が入れられた大きな檻があり、ゆらゆらと揺れながら下に降ろされていく。


「とうとう我々の呪いが払われる時だ!!!」

 その声に黒い影のような人が歓声を上げながら大勢うごめいている。


 暗すぎて種族が特定できない。


 人が大勢いるところは崖の上のようで、その下にはまだ深い空間が広がっているようだ。

 ちょうど檻が歓声を上げる人々の眼前まで降りてきた。


「恐ろしい呪いの王にお前を贄にすれば我々の呪いは消える」

 喜びのあまり、声の主は震えているようだった。


「贄の功績に報いるために、できることならかなえよう。望みはあるか?」


 しかし、檻の中のドレスの少女はしゃんと背筋を伸ばして優雅に座り、まっすぐ前を見つめて何も言わない。

 じっと見つめるだけで何も話さない。


「・・・・・・檻を下ろせ!!」

 しばらくの沈黙の後、何も話さないと思ったのだろう。しびれを切らした声の主は檻を下ろすように命じ、少女はゆっくりと崖下の闇に飲み込まれていく。


 周りの歓声が一段と大きくなり、動く鎖の音も掻き消される。


 ユエの頭にしがみついていたシャオマオは、ユエの虎耳にこしょこしょ話しかける。

 くすぐったそうにぴこぴこ耳を動かしたユエはシャオマオの希望通りに檻を追いかけることにした。




「兄さん。今度は捕まえたやつギルドに引き渡さないだろ?」

「シャオマオを攫うしぷーちゃんまで捕まえて。シャオマオ悲しんでたよ!」

 竜の形をした大精霊に乗ったレンレンとランランは、プンスコ怒りながら同じく竜の背中で武器を磨いてにこにこしているライに話しかける。


「そうだなぁ。ミーシャはどう思う?」

「シャオマオに危害を加える輩はこの星に必要ありません。一片たりとも」

 風の精霊からぷーちゃんの攫われた場所を聞いて竜を操るミーシャは、自身が神の使いのような美貌をきらめかせてあっさりきっぱりと答える。


「うーん。やっぱりそうだよなぁ」

 エメラルドの瞳を月光できらきらと輝かせるライは、大きなククリナイフに鈍く写る自分の姿を見てうんうんと頷く。


「じゃあみんな、今日のことシャオマオちゃんに内緒にできるかー?」

「はーい!」

 ライの問いかけに、全員がにこにこして手を挙げて返事する。


「いい返事だ。じゃあみんな、ぷーを見つけた後は『怪我しない』『服を汚さない』を心がけてくれよ」

「はーい!」


 人よりも大きな岩が転がっている場所で竜が旋回し、地上にゆったりと降りるとランランがまずその背から飛び降りた。


 しばらくその辺の岩をペタペタ触ったりして何かを探し回っているようだったが、その中で小ぶりな岩を見つけると、懐から取り出した丸い球のような魔道具を地面に3つ置いて2歩後ろに下がった。


 ボン!


 地面を揺らすような爆発音。

 そして、煙が舞っている中でランランは岩を思いっきり素手で殴りつけた。


 ドカン!!

 ガラガラガラ・・・


 大きな音を立てて岩が崩れ落ちると、そこにはぽっかりと穴が開いており、洞窟の入り口であることが分かった。

 魔道具で岩に擬態させた入り口だったのだろう。

 壊れるまでそこに洞窟があるなんて一切わからなかった。


「・・・すごい」

「ランランはああいうの見つけるのじょーずよ」

 ぽかんと見つめていたミーシャに、レンレンが嬉しそうにいう。


 簡単にやってのけたランランだったが、本来は「鍵」を持つ人物にしか「扉」は見つけられないものだ。


 しかも闇ギルドのアジトである。用心に用心を重ねていただろう。

 こんなに簡単に見つけられるような「鍵」ではなかったはずだが、ランランたちは巧妙に隠されたアジトの入り口をいとも簡単に見つけた上に、掛けられた魔道具の「鍵」も壊してしまった。


 無邪気にライに頭を撫でられて喜んでいるランランは子どものような顔でにこにこしているが、ミーシャは改めて、レンレンとランランの実力を知ることになった。


「流石は最年少でギルドのランクを駆け上がる冒険者だ。僕も頑張らないと・・・!」

 ミーシャは傍らにいる水の大精霊をひと撫でして消すと決意を固めてこぶしを握った。




 完全獣体となったユエに跨ったシャオマオは落ちないようにユエの首周りにしっかりと抱き着いて、またいつかの『滑落』という言葉を思い浮かべながら落下の浮遊感を楽しんでいた。


 自分も飛べるようになったのだからと崖の下に飛び込もうとしたところ、ジャンプの寸前でユエに捕まえられて首を横に振られたので断念して乗せてもらったが正解だった。


 シャオマオではこの漆黒の闇の中で崖の出っ張っている場所が全く見えない。ユエにはちゃんと見えているようで、うまくそこに着地しながらぴょんぴょんと下へ進んでいる。

 シャオマオだけだったらぶつかってケガをしていたかもしれない。

 夢の中の世界で怪我をするのかまではよくわからないが。


「ぐう」

 まだ地面には到着していない崖の途中で、ユエがシャオマオに降りるように言った。


 シャオマオが素直に降りると、ユエは人型に姿を変えた。

 やっぱり夢の世界だと思うのは、ユエがちゃんと完全獣体から人型に戻っても服を着ていることでもわかる。


 ユエはシャオマオを抱き上げて、自分の膝の上に乗せてきゅうと後ろから抱きしめる。

 シャオマオが恥ずかしがって逃げないので、裸じゃないということはいいことだと思う。


「ユエ。夢ではちゃんと服着てるの」

「そうだね。それだけは便利だね」

 にこにことしていたユエだが、ピクリと体が反応して固まった。


 ユエが緊張しているのがわかったあと、一拍おいてシャオマオの全身に鳥肌が立つ。


 ものすごく大きな力の塊が遠くから近づいてくるのが分かった。


 力の塊を巨大な体にぎゅうぎゅうに詰め込んだ生き物が、この洞窟全体を揺らすような足音を立てて近づいてきたのだ。


「・・・・・・・・・・おっきい・・・・・」


 シャオマオたちがいる場所は地上よりもだいぶ遠かったようだ。

 巨大な生き物は、シャオマオたちの少し下を歩いて行く。


「呪いの王よ!贄を用意した!!約束通り古の呪いを解いてもらおう!!」

 上空から声が響くと共に、光るものが降ってきた。


 火のついたものを投げ捨てたようだ。


 消えることなく闇をほんのり照らしながら落ちてきて、『呪いの王』と呼ばれた巨大な生き物を照らす。


 闇に慣れたシャオマオの目には少しの明るさでも十分だった。


 崖の下では闇より暗い漆黒のドラコンが、首を伸ばして檻の中に座っているダリア姫を食い入るように見つめているところだった。


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