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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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実はみんなしっかり怒っているのです。

 

 何かを思い出したというサリフェルシェリは先に食事を終えて部屋に戻ってしまった。

 そのほかのみんなはいつも通り、食後のお茶を飲みながらゆったりと敷物の上でごろごろしている。


「あ。ぷーちゃんたらご飯の時間にも帰ってこなかったの」

 あの大食漢のぷーちゃんがご飯を食べているか心配だ。

 思い出したらどんどん心配になってきて、そわそわと動きだしたくなって立ち上がったらさっとユエに抱き上げられる。


「大丈夫だよ。あの鳥は自分で自分の身を守れるよ」

「ユエ。ぷーちゃんあんなにちっちゃいのに。もうお外暗いよ?」

「うん。風の精霊に聞いてみてごらん。大丈夫だから」

「あ、そっか」

 シャオマオはしゃらりーんと自分の周りに魔素をまいて、「風の精霊さーん」と呼びかけた。


 ミーシャがいるせいか、一気にどぱっとシャオマオの姿を覆い隠すくらい集まった。

 風の精霊は遊び好きで楽しいことが大好き。特に妖精と一緒に遊ぶのが大好きだ。


「ぷーちゃん怪我してない?」

(ぷーちゃんまだ遊んでるのよー)

「遊んでる?怖がってない?誘拐の人にいじめられてない?」

(楽しそうにしてるのよー)

(遊んでるのよー)

(相手がへとへとなのー)

「へとへと?今日は帰ってこれそうかな?おなか減ってないかな?」

(妖精様がさみしがってるから早く帰ってくるように伝えておくわー)

(おなか減った頃よー)

(ボロボロなのよー。もう追いかけっこ終わったのよー)

「みんなありがとう」

 口々にシャオマオの前に現れていろんなことを教えてくれる。

 どうやらぷーちゃんは遊びまわって元気にしているようだ。


「風の精霊さんたちみんな心配ないって言ってくれたの」

「風の精霊は見聞きしたものを何でも教えてくれるので、情報収集には向いているのですが。どうも好きなことしか興味がないんですよね・・・」

 ミーシャが苦笑いを浮かべる。


 頼んだことを忘れずに見聞きしてくれるかどうかは運任せだ。

 今回は妖精様にきっと喜ばれると思って、ぷーちゃんについていってたものが多かったようだ。


「ぷーちゃんのご飯、避けてあるからいつ帰って来ても大丈夫だよ」

「ありがとう!ライにーに」

 流石ライにーに。人を食べさせることには抜かりがない。


「じゃあシャオマオ。ぷーちゃんが戻ってくるまでの間にねーねと一緒に大きいお風呂入るね」

「うん!」

 シャオマオはいつも、自分の部屋についている猫脚付きバスタブでお風呂に入っているが、この家には大型猫の獣人たちが入っても困らない大きな浴場がある。


 大きすぎて危ないのでシャオマオ一人で入ることはしないが、ランランがいるときは別だ。

 二人で仲良く入る。


 たまに「水着を着て温泉のように一緒に入ろう」とユエに誘われるが、なんだか家のお風呂でそんなことしたくないのでずっと断り続けている。


 なので、ランランとシャオマオが一緒にお風呂に入る話をしていると、ユエが拗ねている気がする(無表情の中にも言葉にしない何かがあるように見える)。


「ユエ。さみしかったらみんなと入るといいのよ」

「・・・・・・・・でっかい虎とは嫌だな・・・」

 ライがちょっと考えてぽつりと呟いた。




「ぷいーーーーーん」

「このクソ鳥!待ちやがれ!!」


 森の中に男の怒号と鳥の声が響く。


 パン!ガサガサ!


 大きなナイフで切られた枝が地面に落ちる。


 男は木々に飛び移りながら、目の前にある邪魔な枝をマチェーテのような大きなナイフで払いながら鳥を追いかけている。小さな鳥に完全におちょくられているのは誰が見ても明らかだ。


 小さな鳥は男が追いかけられるような高さから上にはいかない。

 スピードも男が追いかけるギリギリの速度を保っている。

 罠を投げればするりと交わし、武器を投げてもひるみもしない。

 そして時々、「ぷぷぷぷぷー!」とこちらを向いて鳴いてはぷりぷりと体をゆすって踊ったりして見せる。完全に馬鹿にしているのだ。


 妖精を誘拐できたと思った。

 自分のアジトに戻る前に、腕の中の妖精を袋詰めにして背負おうと立ち止まったところで違和感に気づいた。


 手の中の妖精は人形だった。


 何故気づかなかったのかわからないくらい、ピンクの髪に、服を着てるだけの人形ともいえないくらいの粗雑な作り。


「くそおお!!」

 男が人形を地面にたたきつけたところで、地面に落ちた人形からこの鳥がにゅっと現れたのだ。


「ぷぷぷー」

 明らかに笑っている。

 鳥が笑うなんてことあるのかと思ったが、明らかに悪意のある顔と声をしている。


「笑ってんじゃ、ねえ!!」

 苛立ち紛れにナイフをふるった。


「ぷん」

 地面に落ちている人形は胴体から真っ二つになった。


 力の入っていない、本気ではない剣筋とはいえ、それなりにスピードもあった。

 ただの獣が避けられるとは思えない。

 それをこの鳥は避けた。


 避けたうえで人形の上に戻ってきて、こちらに尻を向けてぷりぷりと踊った後に、「ぷぷぷー」っとまた笑ったのだ。


「この野郎・・・!妖精の代わりにお前を捕まえてやる」

 珍しい鳥を捕獲しようと男はしばらく追いかけたが、全然スピードが追い付かない。


 小さい鳥の見た目だが、実は精霊獣だったのかと疑った。

 精霊の加護を受けていなければ、このスピードはいくら何でもおかしい。


「金持ちに珍しい動物の収集家がいたな。標本でもよかったか?」

 男はぶつくさと言いながら、木から地面へと飛び降りた。


 小鳥は完全に油断しているため、男が立ち止まったら絶妙な距離感で近づいてきた。


「くわ~」

 挑発のためにあくびまでして見せるが、男はもう小鳥の挑発には乗らない。

 ポケットに手を入れて何かを掴むと、自分の顔の前で手を開いて思いっきり息を吹きかけた。


 ぶわっと黒い霧が舞って小鳥を包んだ。


「ぷい!」

 慌てて逃げようとしたが、黒い霧は小鳥がいた場所を丸く取り囲んでしまって逃げることが出来なかった。すっかり取り込まれて姿が見えなくなる。


「こんな小さな鳥一匹じゃあ、帰ったら怒られるだろうなぁ・・・」

 霧が晴れた後に地面にぺっしょっとうつ伏せる小鳥の長い尾羽をつまんで、男は腰に付けた革袋に雑に入れた。




 シャオマオは大きなふろ場の洗い場で、頭からつま先まで全身石鹸であわあわにしてもらってランランと遊んでいたところだった。


「う?」

「どうしたね?シャオマオ」

「ねーね、なんだか嫌な・・・・ううん。悪い予感がするの・・・」

 どきどきする胸を泡だらけの手で押さえる。

 シャオマオの様子に、ランランはシャオマオの泡を手桶の湯で洗い流した。


「ぷーちゃんか?」

「うん・・・多分」

「風の精霊にまた聞いてみるといい」

 自分の泡も流しながら、脱衣所のタオルをとりに走った。


「風の精霊さー」

(たいへーん)

(ぷーちゃん捕まったのー)

シャオマオが呼びだす前にやってきた風の精霊たちが口々にしゃべりだす。

「え?!そんな・・・」

 ランランはタオルを巻いてやって来て、シャオマオをタオルで包んで水気をふき取るとささっと服を着せてやる。


「どうしたね?」

「ぷーちゃん・・・捕まったって・・・ねーね、どうしよう・・・」

 シャオマオが震える体を自分で押えるように小さくなっている。


「大丈夫よ。私たち助けに行くよ」

「シャオマオも行く!」

「まずは何人かが行くよ。風の精霊に案内してもらうなら、ミーシャとレンレンとランランよ」

「シャオマオも・・・」

「シャオマオ。攫われたの忘れたの?」

「だって・・・」

「だってはナシよ。兄さん!ユエー!!」

 ランランは自分の服を着たタイミングでシャオマオを抱き上げて皆がくつろぐ部屋に走っていった。


「ランランどうした?」

「ぷーちゃんが誘拐犯に捕まったよ。風の精霊に道案内を頼むから、ミーシャに一緒に行ってもらいたいね」

「わかりました」

 ミーシャはさっと身を起こして長くなった髪を結んだ。


「ミーシャ、レンレン、ランランだけでも救出は大丈夫だけど、俺も行くよ」

 ライはニコッと笑って敷物をぺろりとめくり、床下に隠されている武器をいくつか携帯した。


「何人いるか知らねーが、鱗族のアジトに行くならまた闇ギルドに成長しないうちに叩かねえとなぁ・・・」

 独り言を言うライの瞳はいつもよりギラギラしている。


 ライは今回の誘拐で自分の妹が狙われたことを許していない。

 間抜けな誘拐犯が身代わり人形を持って逃げたのでそのまま見逃したが、遠足というシチュエーションでなければ徹底的に叩きのめしていた。


「ライにーに・・・」

「シャオマオちゃん。大丈夫だよ。安心して先に寝てて」

 不安そうに寄ってきたシャオマオの頬をそっと撫でる。


 お風呂上がりでプルンとした頬は触り心地が最高だ。

 おもわずフニフニとつついて感触を楽しんでしまう。


「安心していいよ。シャオマオちゃん。みんな無事に帰ってくるから」

「ちゃんといつもの時間に寝るのよ?」

「ぷーちゃんも無事に連れて帰ってくるよ」

「シャオマオ。心配しないで。私たちを信じて待っててください」


「・・・うぃ」


 ライ、レンレン、ランラン、ミーシャの4人は急いで庭に出て、ミーシャが召喚した大精霊の竜の背に乗ってあっという間に空の彼方へ消えてしまった。


「みんな、気をつけてね・・・」


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