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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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オオー!ジャパニーズニンジャ!ワンダフル!


「グアアアアアアアアアアアアア!!」

 シャオマオの恐怖心が伝わった瞬間に完全獣化して飛び出したユエ。


 シャオマオの怯えた心が伝わってきて、心臓が握りつぶされたかのように苦しい。


 森を走り抜けて周辺を探ると大きな水の気配が動いた。


 メリメリメリメリメリ・・・・・!


 少し遠くの木の間から見えたのは水の『竜』だ。

 この星では見たことのない姿の大精霊であったが、シャオマオは見たことがあると言っていた。


 それが大きく鎌首をもたげて勢いよく近くの大木に突っ込んだのだろう。

 大木がへし折られた音と振動が伝わってきた。

 それに合図の笛の音が鳴り響く。

「ピーーーーーーーーーー!」



「グアアアア!」

 シャオマオ!シャオマオ!シャオマオ!


 大きく開けた場所にたどり着くと、ミーシャの目線の先には木の上に鱗のある黒の肌をした男がいる。


 その腕に抱きかかえられたシャオマオの姿。

 なにか薬か魔道具を使われたのか?それとも強い衝撃を与えられたのか?

 気を失っているようで全身から力が抜けてぶらりと小脇に抱えられている。


 その姿を見た瞬間、ユエは頭が沸騰した。

 何も考えられなくなった。


 大切な大切なシャオマオが、今まさに連れ去られようとしている。心にも体にも傷つけられている。


 シャオマオが知らない男に触られていることすら耐えがたいが、傷つけられた。


 あの美しい魂が、それを納める肉体が、毛ほども傷つけられていたらと考えるだけでもう人の姿に戻れないくらいに魔素が暴れ出している。

 滲み出る高濃度魔素にミーシャが眉間にしわを寄せる。


「ユエ先生。魔素を抑えてください・・・」


「グルルルルルルルルルルルル」

 もちろんユエにはミーシャの声など届いていない。


 シャオマオ!シャオマオ!シャオマオ!

 心の中でシャオマオに語り掛けるが反応がない。


「シャオマオを置いて去れ。ユエ先生は必ずお前を殺す」

 低い声でミーシャが相手の男に忠告したが、男はふんと鼻で笑った。


「これ、妖精だろ?俺たちのギルドが潰された原因だぁ」

 ギザギザとした歯を見せながら笑って見せる。


 全体の雰囲気としては若くも見えるが、ユエの魔素にも殺気にも怯まない。

 それなりの修羅場を潜っているのだろう。


「・・・猫族の里を襲った闇ギルドか」

 ミーシャは以前に猫族の里でシャオマオが攫われそうになった話をライから聞いていた。


「おっと。これ以上攻撃してくれるなよ。俺の手元が狂っちまうからなぁ」

 男はニタニタ笑いながら大きな牛刀を腰からぬらりと抜いて、シャオマオの首の近くに添えた。


「グルアアアアア!」

 ユエの口から出た怒号は衝撃波となって男の顔を叩いた。

 男は少し体が揺らいだが、木から落ちるようなことはなかった。


「ユエ先生!シャオマオが怪我をするかもしれません!攻撃してはだめです!!」

 ミーシャが必死に止めた。


 冷静な時のユエであればシャオマオに傷がつくかもしれないのに攻撃などしない。

 手も足も出せなくなるはずだ。

 相当頭に血が上っているのだろう。


「シャオマオを攫ってどうする?!」

「俺たちに妖精を攫えと依頼したやつは前金払って姿を見せなくなっちまったが、妖精が欲しいという金持ちはまだいるだろうしなぁ~」

「妖精に嫌われたらどうなるか知らないのか?」

 ミーシャは眉間にしわを寄せて確認する。


「この妖精は少し変わってるって話だからなぁ。賭けだ」

「・・・賭け?」

「妖精に呪われるならそれまでよ。こいつは妖精らしくねぇって話だからな。いいなりにできるかもしれねぇ。楽しみだなぁ」

 男はわざとらしいゆっくりとした言い方でニタニタと笑った。

 こうやって長々と話しているのも二人が悔しがる顔を見たいのだろう。

 二人を怒らせるような言い方をわざわざ選んでいるようだ。


 ユエの呼気に炎が混じる。

 魔素が爆発しそうに集まって、血がグツグツと沸騰しそうだ。


「グルルルルルル」

 少し足を踏み出そうとしたが、鱗の男は目敏く見咎める。


「おっと、近づくなよ。こっちは傷がついて価値が落ちても構わないんだぜ?なにせ妖精サマだからな。死体にでも金を払うやつはいるかもしれねえ」

 ゲラゲラと笑って、鱗の生えた腕をゆっくり持ち上げてすっと牛刀を動かす。


 ぱらり


 タオの実色の髪が束で切られて風に乗って飛んでいく。


「もしかして、片耳くらい落としてもまた生えてくるかもしれねえなぁ」

「グアアアア!!」

 ユエの炎が一段と大きくなる。



「おい、そこの虎。テメエが俺の兄貴を捕まえたのは知ってるぜ」

 男は興奮した様子でユエを見る。


「自分の大事なものを盗られるのは悔しいよなぁ。俺たちはずっとそうやって奪われて生きてきたんだ。だから人のものを奪ってやる。テメエも自分の大事なものを奪われて死ぬほど悔しがれよ」

 ゲラゲラ笑いながら男はシャオマオを抱えてどろりと溶けるように気配を消した。


「シャオマオ!!!」

「グアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 追いかけようとするユエをミーシャが止める。


「ぷーちゃんが付いてます!連絡があるまで待ちましょう」

「グルルルルルルルル・・・・」


 そう。ぷーちゃんから耳打ちされて、抱えられたシャオマオについていくのというのをミーシャは知っていた。


「グルウ」


 男が消えたところの周囲の気配を探っても、何も感じることができない。

 隠密にたけているのか臭いも音もしない。

 姿を現す前に狩りに使う臭い消しを使われたに違いない。

 これは獣人でも匂いが追えないものだ。

 闇雲に探しても見つけられないだろう。


「・・・・・・・シャオマオ」

 しばらく黙っていたミーシャがこぼす。



 するとミーシャの言葉に水の大精霊、水竜の中からぷくんと大きなシャボン玉が現れた。


「もう出てきても平気ですよ」

 ミーシャがにっこりとシャボン玉を持ち上げて地面に降ろすとプチンとはじけてシャオマオが現れた。


「ぷふぅ」

 まったく息苦しさはなかったが、なんとなく大きく息を吐きだした。


「グルルルルルルルルル!!!!!」

「わあ!ユエ。ごめんね。心配させてごめんねぇ」

 飛びついてきてほとほと涙を流すユエの頭をぐいぐいと撫でて慰めるシャオマオ。


「では、精霊で相手を追いかけるふりをしますね」

 シャオマオを隠していた水竜の大精霊は、猛烈なスピードで男が逃げたであろう方向へ飛んで行った。

 森の中を隠れていると想定して、精霊で探し回っているというポーズをとっておく。



「ユエ。ユエ。心配だったのよね。ごめんね」

「ぐあう・・・」

「え?あれが偽物だって気づいてたの?」

「ぐう」

 それなのにあんなに慌てて今も泣いてるのかとシャオマオはよくわからなかったが、シャオマオの形をしたものが無下に扱われているだけで辛かったのだというので目いっぱい慰めておいた。


 どんなに似ている身代わりだとしても、ユエは絶対に騙されない。

 魂で感じる「シャオマオ」を絶対に間違えない。

 だけれど、シャオマオの姿をしたものが傷ついたりしているのを見れば黙ってはいられないのだ。


 流石のユエも、本物のシャオマオが人質に取られているような場面で相手に攻撃を加えるような真似はしない。


「ユエ先生の迫力で、相手もあれが偽物だとは気づいてませんでしたね」

 ミーシャは作戦が上手くいったことに大きく息を吐いた。

 緊張したが、本当にうまくいってよかった。



 森へ飛んで逃げたシャオマオがよくない気配に捕まりそうになったが、今回も過保護者達がつけさせている魔道具の数々が大変役に立った。


 空に浮かんでいるときに周りにまき散らされた睡眠薬の霧がシャオマオを一瞬眠らせたが、金糸のブレスレットの「状態異常無効」により素早く回復。


 魔道具のアンクレットが持ち主に近づく悪意を感じ取って身代わり人形を生み出す。

 持ち主の魔素を吸った魔石の力で本物そっくり見えてしまう人形が出来上がる。

 これはシャオマオから「忍者」の話をきいた過保護者たちのアイデアで作られたジョークグッズであったが、こんなにうまくいくとは思わなかった。


 シャオマオの護身用魔道具の説明を聞いていたミーシャは、あえてワンテンポ遅れて「攫われる隙」を作ってから攻撃する風を装って、本物のシャオマオと男の間に大精霊の水竜をねじ込ませた。


 そして本物のシャオマオは水竜の中に隠してしまって、相手側に押し出した身代わり人形を掴ませることに成功した。

 シャオマオには海でも守ってもらったダンジョン脱出用シャボン玉がある。

 水の中に入れても溺れることはない。


 シャオマオが睡眠薬で眠らされたのは一瞬だ。

 目を開けたらシャボン玉の中にいて、渦巻いている水竜の中から外は見えなかったがみんなの声が聞こえたので少し混乱したが、大人しくしていた。


 きっとあの男は鳥族の少年が水の精霊を呼び出したことに驚き、シャオマオから一瞬気をそらしてしまったことで自分が偽物を掴まされているとは気づかなかったのだろう。


 あとはミーシャが悔しそうな顔をして救援の笛を吹いたこともよかった。


 男は対峙しているのが鳥族の少年であることや、見たこともないような大精霊を躱し、助けにやってきた虎獣人の本気の怒りを見て安心しきって自分の腕の中の人質が本物であると思い込んでしまったのだろう。


 人質のことくらい少しは気にするだろうに、悔しがる二人を見てよっぽど気分がよかったに違いない。

 相手が油断してくれていてよかったと、ミーシャは再び安堵の息を吐く。


 しかし侮るなかれ。白の少年天使は裏では「魔王様」と呼ばれているのだから。

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