遊びと授業の中間?いいえ完全に遊びです!
今回の薬草採取会では、過剰ともいえるような守りを備えている。
人族エリアの近くに行くのに、ここまでの戦力は必要ないのが本当だ。
しかし、子供たちに「ちゃんと準備をすること」を教えないといけない。
あとは、守りがしっかりとしているので安心して採取ができるようにと眼に見えるように示しているのだ。
外の世界が殊更危険だと言いすぎることも良くないという大人もいるが、基本的には人族エリアにいる者は人族エリアの外は危険なものだと子供達に思っていてほしいと思っている。
根本的に、人族は魔素に弱いのだ。
その弱い魔素に対しての対策が、人族には備わってないため魔道具に頼るしかすべがない。
魔物に襲われなくとも、匂いもない、色もついていない魔素が高濃度で溜まっているところに足を踏み入れてしまえばたちまち弱って命を落としてしまう。
人族のエリアから離れれば離れるほどに、その危険性は増す。
自分達が生きていけるところは少ないと思ってい生きることは間違っていない。
たまに人族でも冒険者をしているものがいるが、純血の人族ではない場合が多い。
そうでなければ魔素の多い地帯に行って活動なんてできないものがほとんどである。
「あなたたち人族はとても繊細なんです。魔素に敏感です。でも、いまこの大神が離れた世界でも星はあなたたちの生きる場所を保っている。星はあなたたちをとても愛してくれているのですよ」
にっこりと湖面の瞳を細めて前を歩く精霊の王様のようなサリフェルシェリ。
草木の生える森の中に入ったせいか、教室の中よりも神秘的に見える。
人族の子供たちはサリフェルシェリの中性的な美しさに、男女問わずぼうっとしてしまっているようだ。
「さあさ、皆さん。そろそろ泉に近づいてきましたよ」
わーっと子供たちが声を上げる。
「ここから泉までの間も野草が生えていますから、色々観察しましょうね」
引率の上級生と一緒にみんな少しずつ離れていろいろなところを観察する。
もちろん、上級生は周囲を警戒するし、大人たちは大きく子供が集団から離れないように目を光らせている。
「今の季節はオルレの実が美味しいのよ」
「オルレ?」
カラがしっぽをくりくり振りながらシャオマオに説明する。
「うん!食べたことない?オルレ。ちっちゃい赤い実でね。甘酸っぱいのよ」
「ない・・・かも?」
「そうなんだ!こういう低い木に巻き付いてる蔓に生えててね。公園とかにも生えてるからみんな見つけたらおやつに食べちゃうのよ」
首をかしげるシャオマオに、茂みの中に入って蔓をたどって見つけたオルレの実をむしって見せてくれるカラ。
「ほらこれ。簡単に見つかるし、外で遊んでるときに見つけたらよく食べるの。食べてみる?」
「うん!」
爪くらいの大きさの小さなまあるいルビーみたいなつやつやの実。
思い切って口に入れてかみしめると、甘酸っぱい果汁がぷちっとはじける。
「すっぱあまい!」
「どう?気に入った?」
「うん!おいしい!」
疲れた時に食べたくなる味というのだろうか。野生的な甘みだがこれはこれで見つけたら食べたくなる気持ちもわかる。
「シャオマオ!こっちこっち!この花甘いんだぜー」
ジュードがペーターと花をむしって咥えながらシャオマオを呼ぶ。
「お花食べるの?!」
「花の蜜を吸うんだよ」
「えー!?」
「ほら、やってみろよ」
ジュードに示された花を、シャオマオもむしってみる。
「ここ咥えて吸ってみろよ」
「うん!」
花を咥えてちゅーっと吸うと、ほんのり甘い蜜が口に広がる。
「ふんわりあま~い」
ニコニコしながらみんなで花の蜜を吸っていると、ライがやって来て「なんだよお前ら顔に花粉つけて。薬草見つけに来てるのに道草食ってるばっかりじゃないか。薬草探せよ」とケラケラ笑っていた。
「だってー、ライせんせ食べたことある?これとかこれとか」
「あるよ。子供って歩きながらこういうのおやつにするんだよ」
「えー!えー!シャオマオ食べたことないもん!!」
ぷくっと膨れるシャオマオ。
「意外ですが、これから学校でみんなにいろんなことを教えてもらいましょうね」
「そういえば、シャオマオちゃんってなんでこういうの食べたことないんだっけ?」
「・・・」
優しくシャオマオに提案するミーシャとライの素朴な疑問にユエの言葉が詰まる。
シャオマオがまさかこういう道に生えているものをポイポイ喜んで食べるとは思っていなかったのもあるが、基本的にはシャオマオが移動中に寝てしまうからだ。
まさか起こしてまで食べさせようと思ったことがなかった。
「シャオマオ、お前本当に妖精様なのに遊んでないんだなぁ。もっと子供と遊んだ方がいいぜ?」
ジュードの何気ない言葉にも、ユエはぐっと言葉を詰まらせた。
シャオマオの周りは大人ばかり。
学校以外で子供と接することがほとんどない。
子供と遊ぶことがないから子供の遊びも知らない。
ユエも子供同士の遊びは知らないので教えることが難しい。
「す、すまない・・・」
しゅんとするユエの口にシャオマオがお花を突っこんで咥えさせる。
「これから一緒に遊ぼうね。ユエが知ってるものも見つけたら教えて」
「・・・うん」
花を咥えてほわんと微笑むユエの顔をみて、周りの生徒が真っ赤になって倒れそうになっていた。
(番にしか見せないはにかみ笑顔いただきました~!)
(無表情デフォのユエ先生の妖精様にだけ見せる笑顔最高!!)
(虎獣人と花と妖精様!今日の採取会に参加できてよかった~)
(『うん』ですって!!力の抜けた子供みたいな顔!!私の推し最高!!!)
シャオマオとユエ先生の恋の行方を見守ろうの会は男女問わず着々と会員数を増やし、本日の引率生徒たちにも多く紛れている。
二人のやり取りを見ていた会員たちの身もだえする声が周りから聞こえてきて、ライはぞくりと体を震わせた。
「ああ。泉が見えてきましたよ」
サリフェルシェリの言葉に、前にいた人族の子供たちも緊張が解けてきたのか少し急ぎ足になる。
「前の兵士を追い抜いてはいけませんよ」
「はーい!」
みんなきちんと兵士の後をついていく。
「うわー!キラキラ!すごく綺麗!」
シャオマオはすいっと浮かんで高いところから泉を眺める。
「この泉の水は美味しいですよ。水筒の水が無くなった人はここで汲んで飲んでも大丈夫です」
サリフェルシェリの言葉に子供たちがみんな泉に駆け寄って、思い思いに水を飲んできゃあきゃあと喜んでいる。
シャオマオはもちろん泉で遊ぶのは初めてだし、そのきれいな水を手ですくって飲むという経験も初めてだ。
泉の縁に座って、冷たい水をすくって、じっと見つめる。
なんだかすっごくきらきら輝いて見える両手にたまった水に口をつけて、一口飲む。
「わあ・・・おいしい」
喉を通る水が冷たくて気持ちいい。
キラキラと目を輝かせて水を飲み込むシャオマオを見て、うっとりとするユエ。
美しいシャオマオ。愛おしい俺の番。俺だけの宝物。
水を飲んでいる姿を見ているだけでもたくさんの感情が湧き出してくる。
一瞬、どんな姿も見逃したくない。
ずっとそばにいて、その光を見ていたい。
そんなユエを見てにこにこするサリフェルシェリ。
ずっと子供のころから見ていた虎のユエが感情をこんなにも揺らして日々を楽しく生きているのを見ることが出来るのはわが子の成長を見ているようで嬉しい。
まんまるーく水の湧き出すこの泉は年中枯れることなく溢れることなく一定で、冬にも凍ることがなく、動物たちも立ち寄る憩いの場になっているらしい。
薬草が種類は多くはないが自生しているスポットで、みんな自分の家で賄う分くらいを採取して、取り尽くさないようにしている。
「さあ、皆さん配られた絵図は持っていますか?泉の周りで、1枚目の絵と同じ傷薬に使う「ヨーグ」という薬草を探してください。一人5枚までです」
シャオマオは手に持っていたヨーグの絵をじっくり観察する。
(まーるい葉っぱに葉脈が紫。裏がツルツル。ちぎったらスーッとする匂いがする。トゲトゲの葉っぱはニセモノだからダメ。裏が毛だらけなのもダメ)
注意事項を読み込んで頭に入れる。
「どう?シャオマオ覚えた?」
「うん!バッチリ!」
カラが手に持っていたオルレの実を分けてくれたので、それを口に放り込む。
「では、持ってきた布を泉の水で濡らして軽く絞ってください。採った薬草はそこにきれいに包んで。5枚集まったらここに集合。サリー先生に見せてくださいね」
「昼の時間になったら笛吹くからな。引率生は聞き逃すなよ。笛の音が聞こえるところまでしか行くなよ」
サリフェルシェリとライが次々に注意事項を並べる。
みんな布を敷いてその上に持ってきたお弁当を置いて、水筒と手荷物をまとめて出発の準備をする。
「では、引率生のいうことは必ず聞いて。危ないと思ったら笛を吹くこと。始め!」
わあわあと子供達が引率の先輩を連れて思い思いの場所へ飛び出していく。
「シャオマオ!あっちがいいんじゃない?」
カラが指さす先は、太陽の光を浴びて明るい開けた場所だ。
「うん!いいと思う!」
ヨーグは日当たりのいい場所、風通しの良い場所、雨がたくさん降る場所を好む。
「では、あちらへ行ってみましょう」
にっこりと笑ってミーシャが二人を引率してくれる。
「気を付けて」
ユエも応援してくれる。
「レッツゴー!!」
シャオマオたちは勢いよく飛び出した。




