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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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サリフェルシェリの報告

 

 サリフェルシェリに「食べ終わってから、ゆっくり話をしましょう」と言われて、シャオマオは嫌な予感を振りはらって、ハンバーグを楽しんだ。


 せっかくのライの手料理だ。

 こんなにジューシーで美味しいものを楽しまない手はない。


「シャオマオ。美味しい?」

 ニコニコ食べるシャオマオの顔を、少し眉を寄せて心配したユエが覗き込む。

「美味しい!ハンバーグ大好きになっちゃった!」

 ちょっと大きめに切ったところをフォークにさして、ユエの口に突っ込んだ。


「ね!美味しいね!」

「うん。シャオマオありがとう」

 シャオマオから食べさせてもらったので、とろけるような笑顔になるユエ。

 さっきサリフェルシェリの口にシャオマオがハンバーグを突っ込んだ事で下がった気分がふんわり上昇した。


「ぷーちゃん、ハンバーグどうかな?美味しいかな?」

「ぷいぷいぷい!」

 ぷーちゃんはガガガガガっと高速でハンバーグをつついてモリモリ食べている。


「鳥のふりする努力くらいしてほしい・・・」

 ライがあきれながらハンバーグを咀嚼する。


 晩御飯を終えて片づけをしてから、消化にいいハーブティーを入れてもらった。

 シャオマオは張り切りすぎて、またしても食べすぎたのだ。


「シャオマオ様。大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫なの。このハーブティーすーすーするのね」

「飲むとすっきりしますよ」

 ユエはいつもより食が進むシャオマオを止めるタイミングが少し遅かったのを反省して、しゅんとしている。


 みんなでリビングの敷物の上に座って、サリフェルシェリを見つめる。


「サリフェルシェリ。それで?『幸運に愛された姫』は見つかった?」

 ライがお茶を飲みながらサリフェルシェリに尋ねた。


「ええ。幸運に愛された姫というのは実際にいらっしゃいました。人族の王族に昔々にいた姫で名前をダリア姫と言いました」


 6人の兄王子たちの年の離れた末っ子で、たった一人の女の子だったため特にかわいがられていたようだ。

 お勉強もそこそこに、よく王宮を抜け出しては侍女や乳母を困らせるが、庭を駆け回って泥だらけになって遊んでいる。

 にこにこといつも笑顔で、その場にいるだけでみんなの気分を明るくしてくれるようなお姫様だった。


 王族と言ってもまだまだ弱い人族の代表者なだけで、町の人との距離も近かった。

 特に末っ子姫ということもあってか、比較的に緩やかに育てられ、市井の子供たちに交じって遊ぶこともあったらしい。


 不思議なことに、やんちゃな姫だがどんなに遊びまわっても大怪我をすることがない。

 人より丈夫なのかと思われていたが、目撃した乳母たちの証言によると「何かに守られているとしか思えない」ようなことが頻繁に起こるらしい。


 いたずらで小さい子供に背後から投げられた泥だんごは大きく軌道を逸れて当たらない。

 王宮のバルコニーから落ちても運よく木にひっかかる。

 夜の裏山で迷子になったのに、いつの間にか人に見つけてもらいやすい場所で眠っていたなんてこともある。


 極めつけは乗っていた馬車が崖崩れに巻き込まれたにも関わらず、乳母と二人無傷で助かったことだ。


『ダリア姫は幸運に愛されている』

 いつしか姫は人族でもうわさの的になっていた。

 精霊様か、妖精様に愛されているんじゃないかともいわれていた。


 そして、はつらつとした夏の空のようなカラッとした笑顔のまま、結婚相手を探そうかという年頃に成長したある日、突然に、姿を消した。


 どれだけ探しても見つからなかった。


 二つの月が雲に隠れて薄暗い夜だった。


 ほんの少しの時間、侍女が姫を一人にした。

 魔物の声が聞こえたと、街のはずれに兵士が招集された。

 王宮の中の兵も普段と違う動きになった。


 ほんの少しずつ、いつもと違うことが起こってしまった日に、まるで煙のようにふっと消えてしまったのだ。


 王も王妃も兄王子たちも嘆き悲しみ、何年も探し続けたが欠片ほどの手がかりも見つけられなかった。


「見つからなかったの?」

「はい。どれだけ探しても、噂でさえも聞かなかったそうです」


 ショックだ。

 物語のように原因も、結末も、はっきりしない。

 それが現実なのかもしれないが、姫も王様たちも、みんなかわいそうだ。


 シャオマオがしゅんとしているのを感じて、ユエは優しく背中を撫でながら、頭のてっぺんに口づけた。



 王と王妃はあまりの悲しみに第一王子に早々に王位を譲って隠居した。

 姫をはあきらめきれなくて、死んだことにすることもできなかった。

 例え中身がないとしても墓を建てることすら考えられなかった。

 なので家系図では名前と生まれ年しか情報がなく、詳しいことは王妃の手記にしか残っていなかった。


 人族を守りながら兄弟みんなで力を合わせて王族は続いていくが、臣籍降下した第三王子の一人娘が奇妙な病にかかった。


 持病などもなく、健やかに育っていた中で急に、四肢の感覚がなくなり、体を動かくすことが出来なくなった。

 人族の薬師にも、エルフの賢者を頼ったこともあったが、原因を見つけることができずに亡くなってしまった。


「!」

「おそらくジョージ王子の症状と同じものと思われます」


 それから王族の中には時折同じような症状で命を落とすものが現れた。


 昔の衛生状態や医学が進んでいない時代の記録であったため、特に関連付けて考えられたことは今までなかったらしいが、ダニエル王のお妃様、息子夫婦、ジョージ王子と立て続けに病が発症したことで過去の病も調べられたという。


 エルフ族のエリティファリスが人族とかかわるようになってから、衛生状態が上がって病にかかって死ぬものも減り、もともと発症数が少なかったため埋もれていた病であるともいえる。


 出生率も、子供の生存率も上がっていたため、人族が魔素や一般的な災害以外では命を落とすこと自体が減りつつあった。


 そんな中、ダニエル王のお妃様は王子を産んでしばらくすると、体が動かなくなり、1年後にはこの世を去る。

 大事に育てた王子は健やかに育ち、結婚して孫を抱かせてくれたが相次いでこの病にかかってしまい、亡くなることとなる。

 その悲しみも癒えない間に、今度はジョージ王子である。


「昔からの病と関連付けては考えていなかったようですが、王が妖精様に縋りつきたいと思ったのもわからなくはないですね」

 眉を下げて、困り顔でサリフェルシェリがシャオマオに笑いかける。


「物語では、ドラゴンの呪いだったの。ドラゴンがたくさん仲間を殺されて、怒って呪いをかけたの」

「ええ。幸運に愛された姫の「幸運」のことと、行方知れずになったことで物語の題材になったのかもしれませんが、それにしてはなにか秘密がありそうですよね」


「シャオマオ。お腹落ち着いた?」

「うん、ユエ。だいぶすっきりしたの」

 ハーブティーなのに即効性がある。

 ユエは静かにシャオマオの思考を邪魔しないように静かに体調を心配していた。


「やはり、物語に出てきた『ドラゴンを狩る一族』についても、ミーシャの調べを待った方がいいのかもしれませんね。本当にそういった一族がいたのなら、そんな優れた一族がいま残っていないのが不思議です」

 サリフェルシェリが顎に手を添えて少し悩む。


「それが、物語の通りだったらドラゴンの呪い・・・ってことだろう?」

 ライが言うドラゴンの呪いが今にも残っている?

 そして、人族の王族が何故呪われる事になったのか。


「どうしてポツポツとしか現れなかった病が、突然ダニエル王の周りで立て続けに起こったんだ?」

 ライは体を大きく投げ出して、ふかふかの敷物にドンと横たわった。


「どうして王族にだけこの病が出現するんだ?」

 天井を見ながらぼんやりと疑問に思ったことを口にする。


「人族だけに現れる病なのか?それとも、王族だけの呪いなのか?」

 シャオマオもライのいうことで頭を整理させる。


「シャオマオちゃんが聴いたのは鳴き声で、人の声じゃなかった」


「同じように体が動かない、閉じ込められたやつの声がシャオマオちゃんに届いた」


 うーんと悩むライ。


 ライのつぶやきを、サラサラと紙に書き付けるサリフェルシェリ。


「今はまだ、ちゃんと正解がわからないね」

「シャオマオに助けを求めてるやつのこともわからないね」

 レンレンとランランはマスカットような房についた果物を食べながら話す。


「まだ考える材料が足りないね」

「それでも少しずつ集まってるよ。シャオマオ、不安そうな顔することないよ。ちゃんと進んでるよ」

 レンレンが優しくシャオマオに語りかける。


「ほら、これ好きだろ?」

 ランランがむしった実を口に入れてくれる。

 サクサクした歯触り。

 さくらんぼのような優しい甘さのククルという果実だ。


「おいち」

「種はここに」

 ちょっとだけ種が大きいのでシャオマオは丸ごと食べられない。ユエはニコニコして自分の手のひらにのせるようにいう。

「むぅ」

「いいよ。汚くないから」

「むむぅ」

「シャオマオ。どうして恥ずかしいの?」

 シャオマオの顎を猫の子のようにすりすり撫でて微笑むユエのキラキラした笑顔に騙されそうになるが、そこまで赤ちゃんじゃない。


「ユーエ」

 ライが「シャオマオちゃん真っ赤じゃないか」と諌めながらティッシュのような紙を渡してくれたので、そこに出す。

 残念そうなユエ。


 レンレンとランランはそのままガリガリと丸ごと食べているようだ。

 ぷーちゃんも。


「ほんとにこの鳥なに?」

「気がついたらシャオマオのこと食べてたりしないね?」

「ぷん!」

 少し膨れて「そんなことしない!」と怒ったのがわかる。

「もう、普通に会話になってますね」

 サリフェルシェリはもう何も考えたくないようだ。

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