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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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幻獣とお姫様

 

 シャオマオが指さした本は、この中で一番メルヘンな児童書だった。


「これ、表紙がすてきよ」

「幻獣とお姫様の物語ですね」

 サリフェルシェリが本を手に取る。


「げんじゅうってなに?」

「神話時代にいた、実体を持たない生き物だそうです」


「じったい?」

「体がないんだって」

 ユエが優しく教えてくれるが、体がないのに生き物とはこれ如何に?


 一番簡単そうな本だったので、人目に付かないソファーに移動して、ユエの膝の上で本を朗読してもらう。


 その間に、サリフェルシェリ、ライ、ミーシャは積み上げられた本から順番に読み進める。


 ユエのうっとりするような低い声で、他の人の邪魔にならないようにひそひそと本を朗読してもらうと、ちょっとくすぐったい。


 シャオマオの選んだ絵本は、幻獣という生き物が人族のお姫様に恋をする話だった。


 人族は本来魔素がないため、魔素を感じることが出来ない。

 神秘的な力があるものもほとんどいない。

 つまり幻獣に気づくことはないのだ。

 幻獣は、完全なる片思いでお姫様を見つめ続けた。


 金の髪はきれいに波打ち、そばかすの浮いたお転婆姫。

 大きな口を開けて笑うとまるで太陽が現れたのかと思うほどまぶしい。

 気配が、魂が、幻獣をひきつけてやまない。


 幻獣は人族に気づかれることがないことを逆手にとって、お姫様に常に引っ付いていた。

 どこに行くのも一緒。

 起きてから眠るまで、眠ってからもずっとお姫様を見守り続けた。


 お姫様に困ったことがあると、人知れずに助けた。

 何かトラブルがあっても、お姫様は助かる。

 誰もいないときに木に登って落ちたとしても、かすり傷一つない。

 人攫いにあった時も、城の兵士が捜索するとすぐに城の近くで見つかった。

 人攫いの馬車は崖から落ちて、投げ出されたお姫様は怪我一つしていなかった。

「幸運に愛された姫」として、人々からは聖人のように扱われたが、お姫様は自分を助けてくれる存在に気づいていた。


 それがずっとそばにいてくれることも。


「ずっとそばにいてくれるアナタ。アナタのこと一目でいいから見たいわ」

 恐れることなく、なにもない空間に話しかける。


 幻獣はじっとお姫様を見つめることしかできない。


 できればお姫様と視線を合わせてみたい。

 幻獣が願うのはその程度だ。


 数年たった時、美しく成長した姫に、縁談が舞い込んだ。

「幸運に愛された姫をもらい受けたい」と。


 このころになると、姫の幸運にあやかろうと、いろんな人が近づいてくるようになった。

 お姫様は自分の力ではないことを知っていたので断りたかったが、どうしても断ることのできない相手だった。


「私を助けてくれるアナタ。今までありがとう。私が結婚したら、あの国へはついてこなくていいわ」

 お姫様は幻獣が大好きな太陽みたいな顔で笑った。


 幻獣はどうしてもついていきたかった。

 ついていっても、どうせお姫様にはわからない。

 お姫様が死ぬまで離れないつもりだ。


「だめよ。本当についてこないで。約束よ」

 お姫様は幻獣の方を向いてそういった。

 まるで幻獣は自分がお姫様に見えてるんじゃないかと錯覚した。


 しばらくして、お姫様はドラゴンを狩る一族の長に嫁いでいった。

 長は危険なドラゴン狩りにお姫様を伴った。

 お姫様が一緒に来るようになってから、兵士の士気が上がって死傷者の数が減った。

 ドラゴンを狩るまでの日数も短くなった。

 驚くほどに成果を上げるため、「やはり幸運に愛された姫だ」と長を喜ばせた。


 しかし、どんなに幻獣が助けようとも、何度もドラゴンに勝ち続けられるわけがない。

 多くの同胞を失った古いドラゴンは人を恨み、呪いをかけた。


『呪いで老いと死をたっぷりと体験し、恐れの中で後悔しろ』


 ドラゴンを狩る一族はことごとく呪われた。

 体は老人のようにやせ細り、体が石のように徐々に動かなくなる。どんな薬、魔法でも癒すことは出来なかった。


 お姫様も呪われた。

 国からお姫様を連れて逃げた幻獣も、呪いを受けた。


「・・・ああ、かわいそうに。アナタも呪われてしまった。だからついてきてほしくなかったのに」

 お姫様は幻獣をじっと見つめる。


「死が近いせいかしら。アナタのこと、見えるわ。美しい。こんな美しいアナタが私のそばにずっといてくれたのね。ありがとう」

 幻獣はだんだんと動かなくなるお姫様を抱きしめ、大きな洞窟にこもって最後の最後まで二人っきりの時間を見つめあって過ごした。



「ぐすんぐすん」

「シャオマオ。涙を拭いて」

 柔らかな手巾で涙をぬぐわれる。


「かあいそう、お姫様もげんじゅうも、かあいそうよ・・・」

「最後はお互いを見ることが出来たんだけどね」


 シャオマオは悲しい終わり方をする物語を初めて読んだので驚いてしまった。


「幻獣と人族では、どうしても結ばれることはないんだ」

「みえない・・・んだもんね」

 きゅうと自分を抑えてくれているユエの腕に自分の手を重ねるシャオマオ。


「げんじゅうって、ほんとうに誰にも見えないの?」

「いや、稀に見れるものもいるみたいだよ。魔素の多い人とかね。そして、『そこにいる』とわかったときに見えるらしい」


 見えるから認識するのであって、認識したら見えるようになるというのは難しいのではないかとシャオマオは考えた。

「ユエに、シャオマオが見えなくなったらどうしよう・・・」

「見えなくなる?そんなことは絶対ないんだけど、もしあったとしてもすぐわかるよ。絶対に見つける。シャオマオは?俺が見えなくなったらどうする?」

「見つけるの!絶対絶対!ユエのことわかる。ずっといてくれるのわかるもん」

「そうだね。お互い見えなくなっても見つける自信があるから大丈夫だよ」

 ユエはシャオマオの頭のてっぺんに口づける。


「ほら、こうやってシャオマオのこと触るからね。俺の触り方、覚えてね」

「う、うん」

 手を持って、指先を少しずつ大きな手で撫でられたり、耳をこっそり触られたりする。


「どうして真っ赤なの?シャオマオ」

 くつくつ笑いながらたずねるユエ。

 絶対に聞かなくてもわかってるくせに聞いてくるのだ。


「もうおしまい!触るのおしまいよ!」

「ああ、残念」


「図書館ではいちゃいちゃはご遠慮願いまーす」

「ライにーに」

 シャオマオはユエの膝からパッと飛び降りて、迎えに来たライに抱き着いた。


「こっちはあらかた本を確認できたよ。どうだった?シャオマオちゃんの本は?」

「うん。ばっちり」

「それはよかった。じゃあみんなで本の内容の発表会をしようか」

「はーい」


 会議に使ってもいいテーブル席に座って、ちょっと声を潜めて話し合う。

 学校の図書館は小さい子も使うので、音読していいスペースや、資料の検討をする場も広く設けられている。

 静かに勉強したい人向けには音が響かないスペースも確保されていて、幅広い年齢層に対応できるようになっているのだ。

 学生にはできるだけたくさんの本に触れてもらいたいという、エリティファリスの方針で改装されたのらしい。



「こちらの本はエルフ族が古い竜と戦う物語でしたね」

「私が読んだのは—」

 みんなが読んだものも、それぞれ竜と戦ったり、古い神から呪われたりと多種多様だった。


「シャオマオが読んだもの教えてあげて」

「はい」

 シャオマオは一生懸命にお姫様と幻獣の話をした。古い竜から呪いを、ジョージ王子の病に近い「老人のようになって体が動かなくなる呪い」も説明した。


「おお。シャオマオ様が読んだ本が一番近いのではありませんか?」

「すごいよシャオマオ」

 向かいに座ったミーシャに頭を撫でられて喜ぶシャオマオ。


「このお姫様が人族の王家に本当にいたのか調べないとね」

 本をぺらぺらめくりながらライが少し考えて言う。


「ぜんぶ作ったお話かもしれないものね」

「王家の資料で『幸運に愛された姫』がいたのか調べましょう」

「そうですね。サリーがウィンストンに聞いてみましょう」

「では、私はドラゴンを狩る一族が実在したのか調べてみます」

 ミーシャが請け負ってくれた。


 今では人の身でドラゴンを狩るなんて夢物語だ。生業としていた一族がいたのかどうかはサリフェルシェリでも定かではないらしい。


「問題の幻獣ですね。この物語の中ではどんな姿をしているのか、全く書かれていませんね」

「どーしてだろう?」

「作者はわざと書かなかったんだろうな。みんながそれぞれ美しい幻獣を想像できるようにしたんじゃないか?」


 そこにいると信じて見なければ見えない幻獣。

 どんな姿をしているのか。


「サリーの曽祖父の時代には、幻獣も普通にいたらしいんですけどね」

「え!?」

「曽祖父には幻獣の知り合いもいたらしいです」

「ど、どんな姿なの?」

「美しい牡鹿の光の塊だったらしいです。大きくて、ツノはまるで森のよう。大人を二人乗せても軽々と山間を飛び回って遊んだらしいですよ」

「おっきいのね・・・」

 シャオマオがため息交じりに言う。



「じゃあ、明日からは私はここで資料探しを」

「ミーシャ、無理しないでね。ときどきおうちにも帰って来てね」

「ふふ。遊びに来てね、じゃないんですね」

「うん。ミーシャったらにーにだから。いつでも帰ってきてほしいの」

「ありがとうございます。シャオマオ」

 きゅうと抱きしめあう二人。


 独立した鳥族はすぐにペアの相手と仕事をする。親元からの独立も早い。

 ミーシャにはまだ自分の家はない。

 愛する妖精様に兄として慕われていることは、何にも変えられないほどの喜びとなった。


「さあ、シャオマオ。日暮れだ。今日の捜索はおしまいにしよう」

「はい。ミーシャまたね」

 可愛く手をふりふりして帰宅した。


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