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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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ブラッシング一つでご機嫌だ

 

「ユエ気に入った?」

「ぐあうううぅ」

 ほとんど吐息のような声がする。


「よかったの!」

 シャオマオは自分の膝の上に頭を乗せてとろけているユエを必死にブラッシングしている。

 実は先日の街歩きの時に、獣人専用のブラシがあるのを知って、ユエに見つからないようにお小遣いでこっそり買っていたのだ。

 小さめのブラシで顔周り。

 少し大きめでシャオマオの手にもピッタリな胸元用ブラシ。


 人姿のユエは胸元がつるつるだけど、虎姿の時は立派な胸元のふさふさの毛があって、シャオマオはそこをむしゃむしゃにいじるのが大好きだ。


 ユエもそこにシャオマオを隠すのが好きだ。


 シャオマオはそんな胸元に手をうずめていじくりまわすのだ。

 今日は胸元の毛を熱心にブラッシングする。


 ご飯の後、「親子の時間をゆっくりとってもらおうね」とライに言われたシャオマオは、ミーシャに纏わりつくのをあきらめて、拗ねに拗ねていたユエに近づいてブラシを見せた。


 そして「ユエのブラッシングをさせて」といったらユエは上機嫌になった。

 因みに、獣人同士で毛づくろいをするのは上位の求愛行動だ。


 今はユエの部屋でブラッシングを頑張っているところだ。

 他のメンバーは腹ごなしの運動として、庭で暴れている。


 どろどろにとろけてふにゃふにゃで、ユエはいまはただの巨大な家猫だ。

「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ」

 喉もぐるぐるごろごろ言いっぱなしだ。


 抜けた毛をブラシから除きながら、ぐるぐるいう喉の音を聞くシャオマオは満足げである。

 シャオマオはこのユエの喉のぐるぐるを聞くのが大好きだ。

 そして、成果物としてユエの毛玉がいくつもくるくると傍らに積みあがっている。


「シャオマオがユエをほっとくわけないの。たまにね、順番がね。たまたま最後になるだけなの」

「ぐふ」

 不満げな返事。


 しかし、シャオマオが自分を「後回しにしたってユエは待っている」と思ってくれているのは嬉しかったりもする。


 シャオマオを不安にさせていない。

 自分が信頼されているからだとも思う。

 いちいち言わなくてもわかってくれているだろうと、信じてくれていると思えるのだ。


 何故かシャオマオのことに関すると、大体のことがポジティブに考えられるようになったユエだ。

 これも成長なのかもしれない?



「でも、どうして今までは平気だったのに、ミーシャとシャオマオが一緒にいるの、ヤになっちゃったのかな?」

 ユエは何も言わなかったが、どうしてもミーシャだとわかっているが、キノの気配が濃厚なのが悪い、と思っている。


 それは海の気配だったり、水の気配だったりもする。


 ユエは虎なので泳げるし、水とも相性がいいはずだが、魔素の話になると弱いながらも持っているユエの火の魔素と少し反発する。

 それがキノだと思うととても腹立たしい。


 キノはシャオマオを攫おうとしていた。

 二人だけの巣を作って、自分だけの母にしようとした。

 シャオマオが以前の記憶がなかったり、とても妖精とは思えないような性質だったから諦めただけだとユエは思っている。


 そんなキノが、肉体と命を賭してシャオマオのためにミーシャを救ってくれたのは分かっている。


 ミーシャという優秀な生徒であり、親交のあるチェキータとニーカの子供が助かったのは事実だし、シャオマオを悲しませなかったことも大事だ。


 長生きしたのでこの辺りで星に帰りたいと思ったことも、タイミングとしてちょうどよかったのだと思う。


 しかし、そんな大きな決断を幼いシャオマオ一人にさせたことや、結局ミーシャとしてずっとそばに侍ることになったのは完全に「してやられた」感がすごいのだ。


 ミーシャはミーシャだ。

 あの体は身も心もミーシャだ。


 しかし、新しく入った水の魔素がどうも自分と反発しているような気がする。


 なんとなく、「いる」という気配だ。


 それがなんだと色々理由をこねくり回したところでしょうがない。

 一言でいえば、「気に食わない」というだけである。



「のーして、ミーシャが急に苦手になっちゃったの?」

 シャオマオから目線をそらす。


「あれ?のーしてツンするの?ツンしたらシャオマオったら傷つくのよ?」

 ユエの顔の向きに回り込んで、ユエを追い詰める。


「ぐあうあう」

「きゃあ!」


 のしっとシャオマオに乗り上げて、もちろん体重はかけないが、シャオマオが動かないように押し倒してしまった。


「あははははははは!」

 べろべろとシャオマオの顔や手足をなめまわすユエ。


「くすぐった!ゆえ!たすけれ!!あはははははは!やめれー!」


「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる」

 ご機嫌なユエ。


「あははははは!」

 シャオマオは涙をながして笑い続ける。




 ぺろ


「きゃあ!みみ!くすぐったい!!」


 ユエはシャオマオの耳が好きだ。


 自分とは違う人族のような丸い耳。


 かわいく丸くてやわらかくて、どんなユエの声も聞いてくれる。


 ぺろ


「きゃあ!そこ目よ~」


 くすくす笑うシャオマオの涙をなめとる。


 美しいタオの実のような『ピンク』色。


 銀の星は今はほどんど消えてしまったが、自分を映すきれいな宝石。


 涙も甘い。


 小さな鼻。


 寝ているときにときどきぷうぷういう可愛い鼻。


 細い首。


 かじったらすぐに折れそうな白い首。


 薄い肩も。


 すんなり伸びた手足も。


 かわいい。


 小指の爪の形まで可愛い。


 思わずシャオマオの手を口の中に入れて牙に当たらないようにむぐむぐする。


 シャオマオは全く怯えていない。


 自分の手を一口で口に入れてしまえるユエを、すごいなぁと感心したり、くすぐったくて笑ったりするだけだ。



「ユエのお口の中を点検しまーす」

 シャオマオが寝そべったままいうと、ユエは大きく口を開けた。


 シャオマオは指で一本ずつユエの牙をつんつんしながら虫歯になっていないか、きれいに磨けているか点検する。


 いつもユエの口の中はきれいでピカピカなので見るところなんて一つもない。


「今日もきれいでーす。舌も赤くてきれいです。良く磨けていますね」

 歯医者さんのようにふんふん言いながら点検する。


「ぐあう」

「えー?シャオマオのおくち見るの?恥ずかしい」


「ぐあう」

「やん」

 お医者さんを交代しようと言われて抵抗するシャオマオ。


 どうも口を大きく開けてみてもらうのは恥ずかしい。

 いつも歯磨きの後、ライやユエにチェックしてもらっているのに今見られるのはダメだ。


「ぐるううう」

 ユエも、いつもみているのにどうしてかと不思議そうだ。


「いまダメ。いまはなんだかだめなの・・・」

 顔を手で覆い隠しても、首まで真っ赤だ。



「・・・シャオマオ。歯医者さんごっこだよ」

 素早く人姿に戻って、シーツを体に巻き付けたユエが話しかける。

 シャオマオの横に優雅に寝そべる。


「らめ。いまのシャオマオ見ないで~」

「どうして?俺の桃花。いつもかわいいのに」


「なんだか恥ずかしいの。だめなの・・・」

「どうして恥ずかしいのかな?」


「わかんない。急に恥ずかしくなったの」

「わかんないのか」

 顔を隠して横たわるシャオマオの頭のてっぺん、覆い隠している手、真っ赤な耳、服の上からおへそ。さっきなめた足の先まで順番に口づけるユエ。


「俺の桃花(タオファ)に恥ずかしいところなんて何にもないのに」

「・・・・・・・・・はずかしい・・・ユエどうして人姿になったの?」

 手で覆い隠しているのでむぐむぐと返事するシャオマオ。


「大きな手と顔ではちいさな桃花(タオファ)のお口の中がちゃんと見えないから」

 くつくつ笑うユエ。


「ねえ、桃花(タオファ)。もしかして、口づけされると思った?」

「・・・・・・・・」


「虎に、口を舐められるかもって、想像した?」

「してにゃい・・・・」


「本当?」

「ほんと」


「想像してほしいって言ったら?」

「しにゃいの」


「ほんとにしたらだめ?」

「だ、だめ!」


「だめか」

「うん」


「でも、俺がしたいと思ってるのは知ってる?」

「し、しらにゃい」


「そうなの?」

「しらにゃいの・・・」


「そっか。知ってくれてると思ってた」

「もう、ユエ・・・・シャオマオ、恥ずかしい」

 片言のような話し方になってしまう。


「俺の桃花(タオファ)。かわいい。俺のだよ」

「ユエの?」


「そうだよ。全部俺に頂戴」

「うん。あげる。だからユエもシャオマオに頂戴」


「もう全部あげてるよ。桃花(タオファ)の好きにしていい。全部、心も体も、髪の一本も、全部桃花(タオファ)のものだから」

「ユエ。この星で一番きれいなものをありがとう」


 この星の、何よりもきれいなユエ。

 シャオマオの片割れ。

 全部違うのに、全部同じだ。


桃花(タオファ)って名前をくれたでしょ?それもきれいで大好き。それと同じくらいユエもきれいで大好き」

 にこっと微笑むシャオマオ。

 妖精だ。

 空気に溶け込みそうなのに、強烈な存在感がある。


「さあ、シャオマオ。残念だけどタオルを持ってくるからそれで体を拭こう。俺の匂いが付きすぎてる」

「そうなの?」

 きょとんとするシャオマオ。

 ようやく顔を見せてくれる。


「こんなに匂いがついていたら、二人っきりで怒られるようなことをしていたと思われるかもしれないよ?」

「し、し、し、してないもん!!」


「シャオマオが考えた怒られることってなにかな?」

「え?!」


「シャオマオが俺のこと、意識してくれてほんとに嬉しいよ」

 美しく微笑むユエに、今日は翻弄されっぱなしのシャオマオだった。

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