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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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ミーシャのお見舞い

 

 ころりと横に転がって、うううっと腕を力いっぱい伸ばすとともに、足もピーンと伸ばして「くわぅ」と大あくび。


 目がちゃんと明かないくらいむくんでる気がする。


 ゆっくり周りを見回したが、ここはぼんやり薄暗い。


 遠くにランプの明りがあるようだが、まぶしくないように光は最小限に抑えられている。



「ぐあう・・・・」

「ユエね?」


 すぐに自分を抱きしめるように懐に入れてべろべろと舐めてくれる獣。

 暖かくてふわふわで、ぽろぽろと顔に降り注ぐ大粒の涙。


「またいっぱい心配かけたのね、ユエたちに。ごめんなさい」

「・・・・ぐあう」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめて自分の体の下に隠すようにどんどん仕舞われてしまう。

 体重が全部かからないようにしてくれているので潰されるような心配は全くしてないが、よほど心配させてしまったに違いない。


 懐から出してもらえるのかと少し心配していると、ユエはちょこっとだけ体を動かして、ベッドの傍らに置いてあるベルを咥えて「りりりん」と鳴らした。


「ユエ!シャオマオちゃん起きたのか!?」

 最初にライ。


「シャオマオ!!」

 レンレンとランランとダーディー。


「シャオマオ様!!」

 サリフェルシェリ。


 ドアをぶち破る勢いで入ってこようとしたが、全員が一気に殺到したのでみんなドアの枠に挟まってしまった。

「ぎゃあ!!」


 これはよほど心配をかけたのに違いない。

 シャオマオは全員から怒られることを覚悟した。



 シャオマオは自分が今いるのが人族の屋敷であることと、また小さな体に戻っていることと、今日が気を失ってから10日目の夜であることなどをきいて、具なしのスープをユエに手伝ってもらいながらゆっくりゆっくり飲んだ。


「さあ、シャオマオ様。スープの後はこれを飲んでしまいましょうね」

 にっこりと笑うサリフェルシェリの手には薬(と説明されなければ泥に見える)を乗せたスプーン。


「あにょ・・・それ・・・・」

 何故サリフェルシェリが平気な顔をしているのかわからないが、近くで話すだけでものすごい臭気が襲ってくる。


「体内魔素を安定させる薬ですよ。こういう薬は飲み切ることが大切なのです。しばらくは続けないと」

「しばらく!!」

 しばらくとはいったいどれくらいなのか。

 あの匂いのままの味だと大変だ。

 いや、なんだか記憶の底にはあの薬の味が・・・


「さあ、シャオマオ様。口を」

 サリフェルシェリのいつになく極上の笑顔を見ていたら、もうどうにもならないのだというのはわかった。助けを求めて周りを見てみたが、全員に目をそらされたのだ。


「は、は、はぷ・・・・あ・・・・」

 カタカタ震えながら口を開けた瞬間に、口にスプーンを突っ込まれた。


 何とも言えないどろりとした感触、ほんのりとした生臭さ、それを突き抜け脳天に刺さる苦さ、あまりの味に「ぐえ」っと口をあけたら、ライがもう一本スプーンを突っ込んできた。


「これを舐めてから湯冷ましを飲んで飲み下すんだ!」

 たっぷりのゆずはちみつのジャムをもごもごしながら湯冷ましを飲むと、なんとか苦みと生臭さがごまかされて遠くなる。


「ぷはあ~」

「頑張りましたね、シャオマオ様」

 サリフェルシェリはシャオマオの頭を優しく撫でる。


「ゆずはちみつで飲むのはレンレンが考えたのよ」

「ランランがどうしても飲めないから考えたのよ」

 双子が半獣姿のままで牙を見せながらにこにこしている。


 二人は突発的なことで完全獣体となってしまったので、体内魔素のバランスが崩れてうまく人姿に戻れなくなっていたのらしい。

 この薬を二人も何日か飲んでいるのらしいが、初めて飲んだ時にあまりの味にランランが目を回して気絶したのでレンレンが考えたのらしい。


 今は人姿に戻れるのだが、訓練のために時間で区切って人姿、半獣姿、完全獣体で過ごすようにしているのらしい。


「どっちがレンレンかわかるか?」

「どっちがランランかわかるか?」

 同時に尋ねる双子はそのまま場所をくるくる回って入れ替わってから後ろを向いて止まった。


 身体的には男女差が少なくなるのが完全獣体や半獣体だ。

 普段からそっくりな二人。

 声もわざと半獣体になってから似せるようにしてるのらしい。


 そんな二人をきょとんとした顔で見るシャオマオ。

「こっちがレンレンにーに。こっちがランランねーね。ちゃんとわかるもん」


 瞬時に言い当てたことに、ユエ以外は全員驚いた。

「シャオマオは本当にすごいね。兄さんでも後ろ姿でたまに間違うことあるよ」

「小さい頃だろ~?」

 不貞腐れるライ。


 二人が小さいころ、長旅から帰ってきてやっとレンレンとランランに会ったら急に大きくなっているしで、間違えたことがあったのらしい。


「兄さんは匂いでわかるだけよ。匂いもわからないのにちゃんと見分けるシャオマオはすごいよ」

「さすがだ。俺たちの妹よ」

 肉球のついた手でふにふにと顔をもまれると気持ちがいい。


「さあ、シャオマオちゃん。今日はもう眠くないかもしれないけれど、お薬をのんだんだからまた眠ってね。目をつむって横になっているだけでもいいよ。明日、明るい時にみんなで話そう」

 ライは優しい目をしてシャオマオの前髪をかきあげるように撫でた。


「ううう。眠くない、けど、みんなも寝ないといけないもんね」

「うん。ユエに添い寝してもらって、ゆっくり目をつぶってごらん。もうすぐ朝になるよ」


「じゃあ、みんな朝までいてね。朝お話ししようね」

「もちろんですよ。シャオマオ様。朝ご飯を食べて、みんなでお茶をしましょう」


「おやすみなさい」


 部屋のランプを小さく小さくして、みんなが部屋から出て行った。



 しばらくして、シャオマオはユエに尋ねた。


「・・・・・・・・ユエ。シャオマオに言えないことあるの?」

「・・・・・・・・」


「困らせてごめんなさい。明日、明日ちゃんと聞くね」

「ぐあう」


 シャオマオはみんなが意図的にあまり眠る前の話をしないことに気が付いていた。

 自分の記憶もぼろぼろと欠けていて、ちゃんと通して覚えていることは少ない。

 その少ないことの中でも気がかりなことがあるのに、誰もその話に触れなかった。


 明日だ。明日、万全の調子できちんと聞かなくては。

 目を閉じて、胸の上で手を組む。


 どうか無事でありますように。



 いつもよりも早く目が覚めたシャオマオは、それよりも早く目覚めていたユエとともに身支度をしてリビングに向かった。


「おはよう、シャオマオちゃん」

 ライはそうなることが分かっていたように、リビングで待っていてくれていた。

 もうすっかりお湯を沸かして、しょうがないなあと言いたげな顔をしてお茶の準備をしてくれた。


「気になってたら朝ご飯も楽しく食べられないもんね」

「うん。ライにーにありがとう」


 久しぶりの猫族のお茶の香りに癒される。


「シャオマオちゃん。どのくらい覚えてる?」

「えーっと、あんまり」


「これ、覚えてる?」

 小さな巾着をさかさまにすると、ライの手にきらきらと光る鱗が落ちてきた。


「キノ!!」

 シャオマオは思わずライに走り寄って、その手の中の鱗に縋りついた。


「やっぱりあの海人族の族長の鱗だったか」

 ユエがぽそっとこぼした。


「うんうん。シャオマオちゃんのポケットの中にハンカチに包まれてたんだ。ハンカチはだめになったから、代わりに巾着に入れて預かってたんだ」

「ありがとおおおおおライにーにいいいいいい」

 シャオマオはがびがびと泣きながら、ライに渡された鱗を見つめる。


 きれいな鱗。


「・・・・・ねえ、ライにーに。・・・・・・み、ミーシャ、は?」

 聞くのが怖かった。

 声が震えていた。


「ミーシャは、この屋敷のゲストルームにいるよ。サリフェルシェリが治療してくれたから、傷も治ってきているし、毎日魔素も安定してきてるんだ」

 ライは眉毛を下げながら、少し笑って安心するようにゆったり説明してくれる。


「ミーシャ、なにが、だめなの?」


「意識が戻らないんだ。でも、シャオマオちゃんも昨日目覚めたでしょ?ミーシャもそのうち目が覚めると思うんだよ」


 しとしとしとしと、シャオマオの桃色の瞳から涙がこぼれる。


「・・・・・・・ミーシャに会いに行く?チェキータとニーカもいるよ」

「・・・うん」


 ニーカとチェキータは、ミーシャの両親だ。

 怪我をさせてしまったことを怒られるかもしれないとシャオマオは思った。


 しかし、キノという海人族の族長が、自分の命を使ってミーシャを助けてくれたことを説明しなければならない。

 そして、そんな長生きの命を与えたのが、以前の自分であったことも。


「じゃあ、みんなが起きて来る時間になったらお見舞いに行こうね」

「はい」

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