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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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チビ猫お帰り

 

「ぐるる」

「ユエ。シャオマオ様のベッドから降りなさい」


 シャオマオが刺されてから3日が経った。


 初日は落ち込み全く動けなかったユエは部屋の片隅にずっと座り込んでいるばかりだったが、翌日サリフェルシェリの増血がしっかりと効いて、顔色を戻したシャオマオを見てからはぴったりと寄り添っている。


 まだシャオマオの意識は戻らない。


 ユエの顎がシャオマオの頭にぴったりとくっついていて、シャオマオが重いのではないかとサリフェルシェリが心配してベッドから降ろそうとする。


「こら。シャオマオ様にしっぽを握られていても降りれるでしょう?狭いのですからゆったりと寝かせて差し上げなさいな」

 サリフェルシェリの言葉に、ユエはふいっと目をそらして無視する。


「サリフェルシェリ。ユエも俺も、その場にいたやつらはみんな不安なんだよ」

 仲裁するライも珍しくユエの味方をした。

 手に持っていたお盆をサイドテーブルに置いて、シャオマオを見つめる。


 みんなシャオマオが刺された瞬間動けなかったのだ。


 あんなに守らなくては、と思っていても体が動かなかったのがショックだった。


 それほど金狼の動きは敵意や悪意がなかった。


 まるで砂の塊に刃物を立てるくらいにしか思っていなかったのだろう。



 ライもシャオマオのベッドの傍らに座って、シャオマオの頬をさらりと撫でる。


 ユエはいつもであるが、ライも珍しく手が空いた時にはずっとシャオマオの傍らにいる。


 すやすやと眠っているだけに思えるが、サリフェルシェリに言わせると体内の魔素がぐるぐるとせわしなく巡っているのらしい。


 血とともに銀狼様の欠片を失ったことでバランスを再度取り直しているのかもしれない。


 新しく増血された血と体が馴染むのにも魔素は使われる。


 血は魔力、魔力は血。

 どちらも自分の中に隅々までぐるぐるとめぐっているものだというのが医療の現場で学ぶことである。



「ユエ。シャオマオちゃんにスープを飲ませてくれ。薬の時間だ」


 サリフェルシェリが確認したところ、表面上に見える怪我はなかった。

 内部の刺し傷も、銀狼様がふさいだと言っていたので魔素を安定させる薬だけを飲ませている。


 ユエは人型になって、ささっと傍らのタオルを体に巻き付けてシャオマオの上半身をゆっくり起こす。


 シャオマオの背後に回って、自分の体にもたれかかるような姿勢にさせて、ライが作ったスープの上澄みを少しスプーンにすくってから、声をかける。


「シャオマオ。ライが作ったスープだよ。飲んで。今日はきれいな黄金色のスープだ。美味しいよ」


 ユエが声をかけると、少しだけシャオマオの口がむぐむぐと動く。


「ほら。口に入れてあげるよ」


 少しだけ、湿らせたくらいのスプーンを口に当ててあげると、口はまたむぐむぐ動く。


「口をあけようね」


 うっすらと開いた口にスープを慎重に流し込むと、のどが動いた。



「よかった。飲めたね」

 ライがほっとする。


 眠り込んでいる人に何かを飲ませるのは危険だ。

 最初にサリフェルシェリがチャレンジしたが、全くうまくいかなかった。


 食事をしないと薬が飲めない。

 薬が飲めないと治りが遅い。

 とサリフェルシェリの言葉を聞いて必死だったのだ。

 ユエが泣きながらシャオマオに話しかけると反応するようになったので、シャオマオの食事と薬担当はユエになった。


 まだ起きられる状態でないが、ユエの声には反応できる程度に眠りが浅くなっているのかもしれない。


 小さなカップに入れたスープを平らげたので、次は薬だ。


 これはスープと違ってちょっと手こずる。


 なにせ苦い。


 子供は泣きわめき、大人は「あれを飲まないでいいように健康に気を付けている」というくらいの味なのだ。


 しかし効果は高い。

 良薬口に苦し、どころの苦さではないのだが。


「今回は飲ませた後にシンプルに甘さで対抗しよう。・・・はちみつだ」

 ライの手にある黄金の輝きを見て、サリフェルシェリは喉を鳴らした。


「これは・・・」


「そうだ。人族が育てている高級ローズガーデンのローズハニーだ」


「なんと、ほとんどとれない希少なローズの谷のはちみつ・・・」

 サリフェルシェリは加工品より加工されていない甘味を好むので、こういったものをよく知っているのだ。


「うん、昨日きたウィンストンさんのお土産品の中に入ってたんだ」


 昨日遅くに王の従者であるウィンストンが人目を忍んで屋敷にやってきた。


 どうやら人族の避難命令が解除されたとのことで、様子を見に来てくれたとのことであったが、ウィンストンはシャオマオがしたことを知っている様子だった。


 具体的に何とは言わないが、「ダニエル王とジョージ王子からおすそ分けです」とたくさんの王家御用達の品を運び込んでは帰って行った。


 人族も、ギルドから具体的に避難命令が出されたのに全く被害を受けなかったことを感謝してくれているようで、ギルドの再建には人族も多くかかわってくれているようだ。



「はい。このスプーンひと匙だけです。シャオマオ様。今日は飲んでくださいね」

 茶色の瓶から取り出されたどろりとした泥の色の薬・・・


 鼻のいいユエとライは息を止めている。


「さあ、口をあけよう、シャオマオ」


 ユエの言葉にも、いやいや、と首を振ってシャオマオは口を閉じて、顔をそむける。


「ほら。シャオマオ様。はちみつを舐めてみましょうね。美味しいですよ」


 スプーンに絡まったはちみつで口につんつんとされるとシャオマオは、ひくひくとバラの香りを嗅いでからスプーンを舐めようと口を開けた。


「いまです!」


 がぼ!っと口に泥色の薬を突っ込まれる。


 すかさず流し込まれた薬を吐き出そうとしたらはちみつのスプーンを突っ込まれる。


 シャオマオは頭が混乱して、はちみつを舐めながらひんひんと泣き始めた。


「可愛そうなシャオマオ・・・」


 もらい泣きしたユエに抱きしめられて、スプーンがのどに当たらないようにライにも世話をされる。


「おかわいそうですが、これ以上の治療はありません・・・」


 サリフェルシェリが固く味の改良を誓っているうちに、「あ!」と声を上げた。


「シャオマオ様!」

「シャオマオ!」

「シャオマオちゃん!」


 三人の声にダーディーが部屋に飛び込んできた。


「どうした!?うっ!」


「シャオマオちゃんが・・・」


 部屋の中にはあの薬の何とも言えない匂いが充満している。

 もう蓋は絞められているのになんという臭気!


 ダーディーが慌てて鼻をつまんでベッドの上を見ると、そこには桃色の髪に戻ったチビ猫(シャオマオ)がユエに抱きしめられているところだった。


「シャオマオにもどったの・・・か?」


「まだ意識がはっきりしないようなので何とも言えませんが、銀狼様に頂いた欠片が完全になくなったのかもしれません。本来のシャオマオ様に戻られたのでしょう。やはりこの薬は効きましたね。体内魔素が落ち着いて、安定してきている様子です」


 ライはシャオマオの口にはちみつを追加してやりながら、久々に見た子供のシャオマオに涙がでそうになった。


「シャオマオちゃんはやっぱりこの小ささじゃないとね」


「シャオマオは大きくなっても小さくても最高の番だが、ライの言いたいことはわかる。・・・かわいい」

 うっとりとするユエ。


 慣れ親しんだ、シャオマオの柔らかさ。

 大きさ。

 匂い。(若干まだあの薬の匂いは残っているが・・・)

 いつもついてしまう後頭部の寝癖。

 自分に抱き着いてくれる時の力加減。

 身を任せてくれた時の重さ。

 細い指が自分の体にかかる様子。

 桃色のふさふさとしたまつげ。


 すべてが愛おしい。

 ああ。かわいい。

 シャオマオは可愛いの塊でできている。


 ユエはベッドにシャオマオを寝かせて、虎姿になるとうまくシャオマオを踏んずけないようにまた添い寝を始めた。


 久々の銀狼の気配のないシャオマオの純粋な気配を堪能しながらユエは目を閉じた。


 そんなユエを見て、みんなしょうがないなぁとちょっと笑ってからため息をついて、部屋から出ようとする。


「ユエ。何かあったらすぐに呼べよ」


「晩御飯の準備ができたら呼びに来るけど、それまでに起きたらダイニングに来なよ。シャオマオちゃんが食べられるものも準備してあるからね」


「シャオマオ様。よかったよかった」


「うる」


 ダーディーたちが呼びかけても、ユエは目をつぶったままだ。


 サリフェルシェリは「よかったよかった」と涙を流している。

 相変わらずの泣き虫だ。


 部屋の明かりを消して、みんなでそっと部屋を出る。


「シャオマオちゃん。起きるの待ってるからね」


 ライに話しかけられたシャオマオは、手にさわさわと当たるユエのしっぽを掴んで、ちょっとだけ微笑んだ。

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