理解した銀、理解できなかった金
「お前ひとりの命で星が助かる。命を使え、妖精」
「ぐああああああ!」
気力を振り絞ったユエが、金狼の言葉に異を唱える。
「何を言うか。金と銀が離れていれば、妖精が居ようとも星は弱る。星が弱れば見捨てられる」
金狼は話しながら何もないところで足を組み、頬杖をついた。
体が浮いているように見えるのに、何かに座っているのだ。
「近いうちにお前らは全員、星とともに滅びの道をたどる。それを阻むために星にもたらされた妖精を利用する。何が悪いのか」
金狼は心底理解できないと、当たり前のことを淡々と話す。
「忌々しい裁定者は金と銀に罰を与えた。それを悲しんだ星が与えたチャンス」
「別の星まで行った妖精がこの星にたどり着いたことが、星々の間の行き来を可能とする証拠だ」
「妖精が命を使って、この星までの道しるべとなれ」
「銀は道しるべを見つけたら、自分でこの星へ帰ってくる。金に会いに」
銀狼のことを考えて、どんどん話す金狼。
みんなも妖精がこの星にいま現れた意味を知り、シャオマオは、そうか、とみんなより納得した。
意味があって、役目があって、別の星に生まれたのか。
そうか。みんなが生きるために自分の命を使えばいいのか。とすんなり納得した。
正しく「星の愛」だ。
星が生き物を生かすために作った存在。
「ぐるああああああああああああ!!」
それがユエの叫び声によって思考が乱れた。
「うるさい虎だ。妖精は命を使ってお前をも生かす。金と銀が再会できれば「魂の片割れ」なぞという呪いも消える。妖精が居なくともお前は生きる」
自分の命のことであるシャオマオも金狼の言葉に納得していたが、ユエは納得しなかった。
シャオマオを犠牲にするなら潔く滅びろ!
「ああ。妖精がいないことが悲しいのなら、記憶を消して新しい妖精の魂を星に願って作ろう」
「美しくいたずらで、だれの命にも執着しない、星の愛を気まぐれに振りまく正しい姿の妖精だ」
「これは少し、人に近すぎる。失敗作だ」
「シャアアアアアアアアアアアアア!」
その場の猫族が完全獣体になって一斉に金狼に飛び掛かった。
怒りのあまりレンレンとランランの双子も初めて完全獣体になった。
シャオマオを「失敗作」などと言われて黙っていられるものは一人もいない。
しかし、全員金狼にたどり着く前に何かに阻まれて地面にたたきつけられた。
「ユエ!にーに!ぱあぱ!!」
「愚かだな。神に手が届くと思っている。猫は愚かだ」
「ううう・・・・・」
今度はシャオマオだ。
自分のために動いてくれた人を愚かなどと言われたくはない。
「シャオマオの家族を馬鹿にするな!!!!!!」
全身に怒りがたまり、怒りのためにぶるぶる震える。
自分がどうやって生まれて、どんな役割を背負っているのかは神や星が采配しているのだろう。
生まれてこうやって死ねと言われれば、その通りにするべきなんだろうと思う。
元々自分の命に執着はない。
ユエ一人でも無事でいられると知れば、なおさら安心して「みんなのためになるなら」と考えた。
しかし、自分が愛する人を馬鹿にされて黙っていられる性格ではないのだ。
「ライにーにたち兄妹は、シャオマオの大事な大事な家族よ!。どんな時もシャオマオを大切にしてくれて、妖精じゃなく妹として自分たちと同じように接してくれた!」
「ぱあぱはシャオマオの親よ!自分が守ってもらえる存在だと教えてくれた!」
「ユエはシャオマオに出会う前からシャオマオを大事に思ってくれていた。シャオマオのために、魂の片割れなんて呪いに負けないでずっとシャオマオに出会うのを楽しみに、苦しい生にしがみついてくれていた!!」
「こんなにもシャオマオを大切にしてくれる人たちを馬鹿にしないで!!!!!!」
シャオマオが叫んだ途端に体の外側で光がはじけた。
全員の目に映る形で、火、水、光、風、土、雷の精霊が大きく固まって、それぞれの精霊王が顕現した。
「精霊?初めて見た・・・」
ラーラが思わずといったようにつぶやいた。
ラーラは獣人には珍しく魔法の適性が低いため、精霊を見たことがない。
しかし話には聞いたことがある。
小さな虫のように光を纏っている存在らしい。
良く見える人には小さい人の形にも見えるらしいが見え方は人それぞれだ。
それがシャオマオよりも大きな人型になって現れた。
ラーラには分からなかったが、精霊が寄り集まってできた精霊王と言われる存在であった。
精霊王たちはそれぞれの色の光で構成されていて、女性の姿をしているが、顔は目隠しのような布が巻かれているためにはっきりとはわからない。
口を大きく開けて、自分の力を歌に乗せて放出する。
「何をしても無駄だ。金と戦えるものはこの星にはいない」
まるで自分の周りになにかバリアでも張り巡らされているのか、攻撃が届かないと言っている。
「では、シャオマオ。交代しよう」
小さな声であったが、金狼は聞き逃さなかった。
「銀!!!!!!!!!!」
精霊たちの歌がまじりあって、驚くほどの美しい旋律となって金狼に襲い掛かった。
爆風により土煙が舞い上がり、一瞬で皆の視界がゼロになる。
「銀!!!!会いに来てくれたのか!?」
土煙を腕の一振りで遠ざけて、金狼は銀狼の姿を探した。
「金の馬鹿者。妖精を苛めるな」
「銀!」
先程まで失敗作の妖精だと言っていたシャオマオに向けて、満面の笑みを浮かべる金狼。
「なんだ。まだ欠片は全部集まっていないままか。その星に魂がまだ散らばっているのか?いつ集まるんだ?いつ銀に会える?」
矢継ぎ早に質問する。
「金よ。何故この星に生きる者を大事にできないんだ」
「?どういうことだ?」
シャオマオの顔をした銀狼が、ため息交じりに金狼を見る。
金狼は金狼で、まったく銀狼の言うことが理解できない様子だ。
「何故この星に生きる者をないがしろにする」
「わからないな。この星に生きる者はみな我らの子だろ?」
「そうだ。だから愛おしいだろう」
「金は銀にしかその気持ちを持っていない」
「自分の子供たちに対して、何の愛情も持っていないのか?」
「そうだ。金の愛は銀にしかない。この星が壊れるなら壊れればいい。しかし、銀との居場所がなくなるのは困る。だから星を生かす。そこに何かが生きていようが死んでいようが気にしていない」
「・・・金」
「銀。銀こそどうしたんだ?そんなにも金以外を気にするなんて」
「金よ。お前は長い間一人でいるうちに、金狼という立場を忘れてしまったのか・・・」
「立場?そんなものは何の役にも立たない。ただ役目に縛り付けられ、銀と離れ離れになってしまった。金には銀さえいればよい」
「お前は裁定者に罰を与えられたのことの意味を何一つ理解していないんだな」
「銀・・・・。お前は何が言いたい・・・?」
こんなにも同じ存在で、目を見ればわかるという意思の疎通をしてきた存在の言いたいことが理解できない。こんなことは離れ離れになる前まではなかったことだ。
「妖精は自ら志願して星を渡り、銀の一番大きな魂の欠片が眠っていたところを命を賭けて探してくれた」
「この星の者たちは妖精の不在にも耐え、住処を移しながら命をつないでくれていた」
「魔物たちは星のシステムに従って、魔素の澱を体にため込んで星に帰るまで働いてくれた」
「すべては勝手な金の願いによってこの星がいびつな形になったことが原因だ!」
シャオマオの形をした銀狼の叫びによって、また精霊王たちが歌を紡ぎ、金狼を攻撃した。
「銀。金はお前を失うことに耐えられない」
精霊王の攻撃により、少し皮膚を焦がしたが瞬時に直る。
「永遠を勝手に願ったな。銀は何度生まれ変わろうとも金に出会っていたのに!!」
銀狼という魂を砕かれて、肉体だけになって、最初は金狼に会いたい一心で、空っぽの肉体に魂を少しずつ集めた。
しかし、銀狼は何度も生まれ変わっているようで、新しい魂となって出会い直しているようで、同じ魂だったのだ。
魂にはすべての記憶が刻まれて、どれだけ出会いをやり直しても金狼を愛する気持ちは揺るがなかった。
何度生まれ変わって出会っても、新しい銀は金を愛する。
それは決まりだ。
高いところから低いところに水が流れるように、出会えば何度でも恋に落ちていた。
銀狼はそうやって魂を集めるうちに、星産みの神が作った法則を思い知った。
金狼は肉体を集めても、理解できないままだった。




