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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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金狼復活

 

 食事を簡易的な行動食で済ませて、水分を補給する。

 犬族も簡単な食事を持ってきていた。

 めちゃくちゃ硬いジャーキーだった。


「我々も少しはもってきています。狩りの時、潜んで待ち伏せするときに食べます。こうしてジワリと味のするものを噛んでいると集中できるのですよ」


 噛むと歯と当たってカコカコ音がするところを見ると、めちゃくちゃ硬いのだと思う。

 シャオマオには太刀打ちできそうにない。


 シャオマオはジャーキーが齧れなくても柔らかいマフィンが美味しいので満足だ。


「休憩する時間ができてよかったな。この後、肉体を取り戻した金狼様の影響は読めないからな」

 自分からシャオマオの頭にちゅうーっとキスをして満足したダーディーも、モリモリ行動食を食べている。


「目的は完全に「銀狼様の復活」だろうがな」

「でも、銀狼様、どうやって復活するんだろうね」

「シャオマオに欠片をたくさん渡してくれてるんだろう?」

 みんなの視線がシャオマオに集まる。


 銀糸の髪。

 銀の輝く瞳。

 銀のきらめく尾。


 どうみても銀狼様の影響だ。


「シャオマオちゃん。思い出してよ。なにか銀狼様と接触した記憶はない?」

「えーっとえーっと、あの、すごく美人のお姉さんと、あにょ、銀狼様としゃべったにょ」

 みんなにじっと注目されていると緊張して噛んでしまう。


「おお!銀狼様と接触できてたのか!」

「何か言ってなかった?」


「えーっと。この星で好きに生きろ、楽しめ、お前の片割れを探せって励ましてもらった」

「・・・・・・相当シャオマオちゃんのことが好きなんだなぁ」

 みんな力が抜けた。


「えーっと、金狼様はせっかち。銀狼様はのんびり」

 目をつぶって頭を捻りながら、断片的な記憶を思い出しつつ言葉にする。


「銀狼様はまだまだ自分の復活を待つつもりでいたんじゃないのか?」

「それで自分の欠片をシャオマオ様に渡していたと?」

 あり得る、とラーラが顎に手を立てて悩む。


「えーっと、星が可愛そうって。金と銀のバランスが崩れると星がイタイイタイになるの」

「それは間違いありません。星が崩れる一番の原因は、魔素濃度の急激な変化。銀狼様と金狼様が一緒にいないこの星の今の状態は『異常』です」


「それでも、妖精のシャオマオちゃんがいることで、自然と魔素は浄化されている。それにプラスして銀狼様の力を与えられたのは何故だろう」


「シャオマオ様の力だけでは対抗できない何かがあると思われたのでは?」

 ラーラが空色の瞳でじっと見つめて来る。

 ラーラの瞳はシベリアンハスキーのように色が薄いので、顔に迫力がでるのだ。


「んーっと、金に会いたいってしょんぼりしてたのよ。すっごくさみしそうだった。シャオマオも泣いちゃうくらい悲しい気持ちでいっぱいだったの・・・」

 すりっとよってきたユエを撫でる。


「シャオマオ、銀狼様を金狼様に会わせてあげたいよ」

「シャオマオちゃん」

 ライたちはシャオマオの意識の上に現れた銀狼と何度か接触したことがある。

 シャオマオをとても大事にしてくれていた。


 しかし、なにか思惑があってシャオマオちゃんに「自分が出てきていることは内緒にしろ」とも言っていた。


 シャオマオの状態に関係なく自由に出られるのか。

 ならば今は出る時ではないと思って出ないのか。

 それとも自由には出られないのか。


 神様のすることに人が意味づけすることなんて意味がないとは思うが、銀狼様はかわいがっている(ように見える)シャオマオを傷つけない(と思いたい)。

 ライは色々考えて、希望的な結論しかつけられなかった。




 シャオマオが見ているとドームの外にいた精霊が、じたじたとドームの中に入ってきた。


「みんなドームの中心へ!浄化を強くします!」

 シャオマオが宣言すれば、みんな瞬時に動いた。




 ぐらり



 地面が揺れたかと思うくらいの強烈な魔素。

 揺れたのは自分の体だ。


 シャオマオが驚くくらいの高濃度魔素が地下の穴からあふれ出てきた。


 重い空気が目にみえるくらいだ。


 どろりと地面を這うように進んでくる。


 次に、ダンジョンの穴からまるで舞台の下から役者がせりあがってくるように、金の髪を地面まで垂らした、金の瞳の美丈夫が現れた。


 息が詰まりそうだ。


 ドームの浄化をもっと強くしなければ、と周りをみてシャオマオは驚いた。


 シャオマオ以外の全員が地面にひれ伏して頭を下げているのだ。



 体は高濃度魔素を感じなくても、なにかがこのドームの外側の魔素を感じて恐れている。


 ただの人であるみんなは、恐れ、ひれ伏すことしかできない。


 本能のような行動をとらずに済んだのは、妖精のシャオマオだけだった。



「・・・銀狼様と同じ顔をした男の・・・神様」


 思い出した。


 一番最初に頼まれたあの時の言葉。


 男女の差はあるんだろうが、全く同じ顔だ。


(『銀と同じ顔を探せ』だ)


 チェキータとニーカの夫婦以上にそっくり。きっと似ているんじゃなくて、同じなんだろう。






「・・・・・・銀」


 小さな声だが葉が擦れ合う音もしないくらいしんと静まったこの場所では、はっきりと聞き取れた。


 虫もいないんじゃないかと思うくらい、全く音がしない。

 みんなの呼吸音も聞こえない。


 静かすぎて、少し耳鳴りがする。




 目が合った。


 シャオマオの体が少し動きにくくなる。


 金の瞳がギラギラと輝いているのが見て取れた。



「生なり・・・」

 小さな声でミラと同じことを言う。


「何故ただの『(ルート)』が生なりまで進化した・・・」


 金狼の言うことはわからない。


 しかし、シャオマオに意識が向いているのは分かる。


 道端の名も気にしたことがない草をみて、「花が咲いているな」と思う程度の意識だが。



 生なりという言い方に、シャオマオは金狼に吸収されたミラを思い出した。


「妖精か」

 会話にはならない。

 それでもすべてを見通すような金の瞳に、シャオマオの体が震えた。



「妖精。道をつなげ」

 話しかけられたが、なんと返事していいのかわからない。

 そもそも、質問してもいいんだろうか。


「別の星にいる銀に届く(ルート)

 じっと見つめられるが、シャオマオを見ているようで見ていない。


「お前はただの道だ。金と銀を会わせるための星から星への道」

 説明するように、シャオマオの役目を話す。


「銀の力はまだ足りない様だが、金は復活した。できないのなら、お前の命を使ってでもやれ」

 ぞわっと全身に鳥肌が立った。



「ぐああああああああああ!」

 ユエの威嚇の声だ。


 シャオマオの命というセリフに、体をなんとか動かして抵抗しようとしている。

 その声を聞いたみんなが力を振り絞って固まった体を動かして立ち上がった。


「妖精様を害することは許されない!」

「シャオマオちゃん!」

「俺の娘に何をする!!」


 全員が戦闘のプロだ。

 全員が武器を持って戦うことを生業としている。


 それが、ちらりと目線を向けられただけでまた汗が噴き出て体が動かなくなる。


「ぐあああああああああ!!!」

「・・・ユエッ!」

 みんなの体が止まった瞬間に、ユエが金狼に飛び掛かった。


「金の欠片の器か」

「ぎゃう!!!!」


 ユエの完全獣体の巨体が何かに叩かれて吹き飛ばされた。


「ユエ!!」


 背中から地面にたたきつけられる。


 手をすっと、小さく動かしただけだった。

 ユエに触れてもいない。


 こんなものと戦えるのかと全員が震えた。


「・・・・・・よくも・・・・・」


 シャオマオは両手を握りしめて、地面を睨んで震えた。


「よくも・・・・・・よくもユエを傷つけたな・・・・」



「ぐああああ!」

 ユエは全身の痛みに耐えながらシャオマオを止めるが、シャオマオは涙をためた瞳で金狼を睨んで止まらなかった。


 どどどん!


 シャオマオの浄化魔素が塊のように金狼に襲い掛かってたたきつけられたが、金狼はまったく気にしてもいない様子だった。


「効かない?!」

「銀の力は金を傷つけない。金も銀を傷つけない」


 少し歩いて距離をつめて来る。


「妖精。早くルートを」

 金狼は全くシャオマオがやったことを気にしていない。


「ルート、開いたら、どうなるの?」

 高濃度魔素は確実に浄化されているのに息が詰まる。

 なんとか吐息のような声が細く出た。


「銀がこの星に帰ってこられる。金は早く銀に会いたい」


 何もない空間なのに、椅子に座るように腰かける金狼。


 しゃらりと流れる黄金の髪。


 見たことのある構図だ。


「妖精、命を使って道をつなぎ、銀を早くこの星へ返せ」


 金狼にとっては、銀狼以外のすべてがどうなろうと関係がないのだろう。


 温度のない声に命じられる。

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