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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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悪い予感

※残酷表現がありますので、苦手な方は飛ばしてください

 

 ナッツバーを二本食べたダーディーは、水を飲んで精霊を呼び寄せた。

 ダーディーの精霊は「土」。

 大地を司っているのらしい。


 こっそり教えてもらったところによると、自分の有利な足場を作るのが得意なのらしい。

 雨にぬかるんでいれば乾かして固めたり、土のブロックで少し高いところにも届くようになるのらしい。

 自分の足場が自分の思うとおりになり、敵の足元を崩せるとなれば、地上戦は相当に有利になるだろう。


 見る見る間に足場を作って完全獣体になった体で空を駆けるように駆け上がって、天井の魔物を鋭い爪と牙で引き裂いた。


「グアアアアアアアアアアアアア!」


 空気をびりびりと震わせるようなダーディーの咆哮は、魔物の時間をほんの少しの間止める。


 そこをミーシャの剣とレンレンの魔道具が見逃さずに隙をつく。


 レンレンの魔道具は閃光弾や炸裂弾だ。


 高価な魔道具だけあって、大量の敵に囲まれたときに使用する。

 しかし、炸裂弾は四方八方に破片が飛びちるものだ。


 接近戦をしているダーディーやミーシャがいるのに爆発物が使われたことにシャオマオはぎょっとしたが、そんなことを使う本人が考えていないわけがなかった。


 炸裂したこぶし大の爆弾は、正しく自分の敵となるものだけを打ち砕いた。


 中には一定以上の大きさの魔物の中の「生きている」魔石に反応する仕掛けがされているのらしかった。


「ひょおおお」

 それでも爆風は大きな風を生む。


 驚いたシャオマオは変な声が出てしまったのを口を押えてごまかす。


 ミーシャは風の精霊を操っているので全く問題にしていない。


 少し強い魔物は浄化のドームを食い破るように進んで侵入しようとしてくる。

 しかし、少しの隙にミーシャに切られたり、ダーディーに引き裂かれたりとどんどん星に帰っていく。



 ありがとう・・・



 ・・・ああ、やっと帰れる



 魔物たちの心の声は、どんどんシャオマオの頭に流れ込んでくる。


 感謝の心はシャオマオを暖かくする。


 ほろりと涙が流れてユエに心配される。


「ううん。悲しいんじゃないの。こんなにもみんな星に帰りたいって思ってて、それが叶ったの。みんなとっても喜んでくれてる。苦しいのが終わるって、ほっとしてる子ばっかり。みんながありがとうって言ってくれてるの・・・」


 大きな魔物だけではない。

 小さな魔物たちも、しょわしょわと溶けながら喜びの感情を残していく。


「この星はこんなにもみんなに愛されて、みんなの嬉しいの感情で一杯なんだね」

 あまりにもこぼれる涙を舐めにきたユエに抱き着く。


「ユエ。この星好き?」

「・・・」


「シャオマオね。魔物ちゃんたちも幸せになってほしいの」

「ぐう」


「ね。みんな幸せになってほしいよね。星に帰るってどんな気持ちかな。死ぬのとは違うんだよね」

「ぐう」


「星で遊んで、楽しんで、満足してもまだ楽しい星に帰るってイベントが残ってるんだもん。この星は遊び場なのかもしれないね」

 ユエにべろりと顔全体を舐められる。


「だからね、この星に意地悪する人がイヤ。星にもちゃんと元気で楽しく居てほしいの」

 シャオマオの瞳がきらりと光ったのを、ユエは見逃さなかった。


 シャオマオの願いをかなえるためならユエは何でもする。


 それこそ神と戦うことも厭わないだろう。



「グアアアアアアアアアアアアアア」


 ダーディーとは違った声が遠くから聞こえた。


 闇の塊のような魔物の中に飛び込んで行く黒の影。


 初めて見るライの完全獣体だ。


 美しいクロヒョウが牙を大きくむき出して咆哮を上げて、ドームの外から魔物をドンドンと引き裂いている。


「兄さん、どうしたんだろ?興奮したのかな?」


 レンレンの声の後、すぐにバリバリと天を引き裂くような雷鳴がとどろき、地上に落とされた。


「か、かみなり!」

 急に雷雲が上空に現れている。

 シャオマオはみんなの上に雷鳴が落ちないか心配したが、遠くに見えるライの体がバチバチと帯電してるのを見て息をのんだ。


「ライにーに・・・」


「シャオマオ。大丈夫。兄さんの精霊だよ」

「え?!」


「兄さんの使う力は雷。本当に珍しいんだ。天候を操る精霊を使役する人ってほとんどいないんだって」

 レンレンはニコッと笑ってライを指さす。


 帯電しているように見えたが、ライの体に纏わりつく雷の精霊のようだった。

 真っ黒な体にバチバチと青白い光がまとわりつくと、天からの落雷が魔物を打ち滅ぼす。


「ライったら、本当に『(ライ)』だったんだ。きれいね。神様みたい」

 神秘的な姿にほうっとため息をつくと、ユエがぐっと眉間にしわを寄せた。


「ユエもきれいよ。シャオマオの『(つき)』」

 しわを伸ばすように、ユエの眉間を指で押す。


「シャオマオの前の星には月は一つだけだったの。シャオマオの月は一つだけよ。ユエだけ」


「こらー。いちゃいちゃするなー」

 にっこりと笑ったシャオマオのところにランランがやってきた。


「ねーね。サリーは?」

「兄さんが一人で大暴れしてるからね。ドームの中にいる犬族と私たちはちょっと休憩できるよ」


 遠くから、青白い光と地面をえぐるような落雷の音が響く。


「兄さん、あの姿になって雷の精霊を使うことがほとんどないから本当に楽しそうよ」

「そういえば、ライにーにが獣体になるところ見たことなかったかも?」


「獣体にならないようにして戦う練習してたのよ。兄さん、獣体になったら気分がよくてやりすぎてしまうのよ」

「え・・・?」


「シャオマオ。兄さんすごく喧嘩っ早くて短気で口より先に足が出て、足より先に手が出るタイプの人よ」

「えええ~?」


「そういう性格が大嫌いだから、普段は隠してるだけよ。私たちにも悪影響だからって。あとはシャオマオに嫌われないように演技してたのかも?」

「演技・・・全然そういう風には見えなかった・・・」


「うん。シャオマオにばれないように頑張ってたんだけど、大量の魔物がいるのをみて興奮してしまったね。楽しそうよ」

 ランランは横目で見ながら手を洗って行動食をもりもり食べた。


 獣人は本当によく食べる。

 この行動食は、よく食べる獣人用にとてもハイカロリーなもので固められているバーだ。


 シャオマオもライが作ってくれたおやつを食べながら、紅茶を飲む。


「私も頂いてもいいですか?」

「ラーラ!」

 少しも怪我をしていないラーラがやってきた。


「行動食を分けてもらえると黒ヒョウ殿から」

「うん。ラーラ達も食べて。怪我してなくてよかった」


 ライが持ってきたかばんには、行動食がたっぷりと詰め込まれていた。


「ええ。今のところうまくいっています。しかし黒ヒョウ殿は本当にお強い。しかも雷の精霊を使役しておられる」

「ライにーにったらすごいのよ」

 シャオマオもニコニコと答える。


「犬族のラーラさん。シャオマオを守れない人はシャオマオのそばにはいられませんよ」

「ミーシャにーに」


「珍しいな。戦闘できる鳥族とは」

「鳥族としては、ですけどね。この暗さではもう私はあまり役に立てません」

「ミーシャにーにもね、シャオマオのにーになの」


 ラーラは首をひねっていろいろと考えて

「私も家族になれるでしょうか?」

 とシャオマオに尋ねた。


「ぐるあああああ!!」

「冗談です。あくまでも友達としてそばにいられるだけで文句はありません」

 ユエに牙をむき出しにして怒られれば、冗談というしかなかったが、ちょっと残念そうだった。


 バリバリと雷が魔物たちを引き裂いて、星に帰していくのを見ながら、紅茶を少し飲む。


 嫌な予感がする。


 シャオマオの心には、順調な魔物退治の他に、なにか予感めいたものが渦巻いている。


 誰かが怪我をするかもしれない。

 大きな怪我を。


 シャオマオは守られてばかりは嫌だ。


 その誰かを守らなければならない。


 それにしても、どうして地下の金狼は大人しいんだ。


 金狼から漏れる高濃度魔素が魔物を発生させている。

 でも、地下の金狼は閉じ込められたままだ。


 何かが変だ。


 ドン


 音がした方を見た。


 地面から生えている黒い木の根のようなものが、ミーシャの体を貫いていた。


「え?」


 真っ白なミーシャの羽にまで、真っ赤な液体が飛び散っている。


 服に、じわじわと真っ赤な模様が広がる。


「ごほっ」


 咳き込んだミーシャは真っ赤な液体を口から溢れさせた。


 木の根にミーシャの体から染み出した血が吸い込まれ、木は爆発するように大きく伸びて、結界のドームを突き破ってミーシャを上空に放り投げた。


「ミーシャ!!!!」


 シャオマオは悲鳴のような声を上げて投げ飛ばされたミーシャの体を空を飛んで追いかけた。


「ぐああああああ!!」

 シャオマオの耳には止めるユエの声も聞こえなかった。

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