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神様は話が通じないし、別にやさしくもない

 何にも見えないから瞼は閉じてると思うんだけど、やけに明るい。

 体感的に深夜のはずだ。私の特技は体内時計がやたらとしっかりしていることだ。毎日毎日規則正しい病院内で過ごす時間が長かったからかな?


 それにしても瞼の向こうからライトで照らされてるみたいにまぶしくて、目が開けられない。

 ほかにも患者さんのいる大部屋では、夜中に起こすときにライトで照らされることもあるけど、私はいま個室ベッドで寝ていたはずだ。それに人がいる気配がない。すっごく静かだ。  


 また熱でも出たのかな。呼吸が止まったのかな?

 でもあんまり苦しくはないかも。


 いつも熱があって、熱がない時は息がしにくくて、呼吸ができてるときには体が動かない。


 自分の体が自分で自由に何の制限もなく動かせたことなんかない。

 人生のほとんどが原因不明の不自由で埋め尽くされてた。



『お前、やっと見つけた』


 急に耳のそばで声が聞こえて飛び上がるほど驚いた。

 実際には体は動かないんだけど。


 いや。立ってる。

 何にもない部屋でぽかんと立ってる。私。さっきまであったベッドの感触は?あれ?


 車いすもなしに自分の足で立ち上がったの、いつぶりかな?

 あんまりびっくりしたから変な感想が出た。

 割と落ち着いてるな。

 ここどこだろう。いつの間にかちゃんと目を開けてたから、周りをきょろきょろ見回したけど、何にもないのだ。


 真っ白で、部屋の壁がない。そもそもここは部屋なのかな?

 何にもなさすぎるし、広すぎる。こんな景色見たことがない。

 私の知ってる世界なんてほとんど病院だけど、こんなに広いのはありえない。


「・・・夢?」


 現実では車いすで移動することが多くなってきたし、自分の足で立ち上がって、息もしやすくて体も動くなんて、夢でも幸せだ。うれしくってその場をくるりと一回転した。

 病院着じゃなくて白のAラインワンピースを着てるのもうれしい。すこし裾を持ち上げて、ふんわり落ちるのを見るのも楽しい。


 なんだ。自由ってすごくいいんだな。ああ。すべての枷から解き放たれた囚人ってこんな気持ちなのかなぁ。



『探す、時間たくさん』


 今度は反対の耳に声が届いた。

 気のせいじゃなかったと思ったら、また心臓がはねた。

 こんなにドキドキして私のポンコツの心臓、止まらないかな。夢だから大丈夫かな?



 銀色の髪を床まで垂らした女性が、私の前に立っていた。

 ぼんやりとしたものが急に目の焦点が合ってはっきり見えた、みたいな感じで目の前に人がいた。


 びっくりしすぎてまた心臓がバクバク動いた。そりゃ驚くよ。発作が出るかと思ったけど、目の前の女性に見とれていたら、落ち着いてきた。すごい造形美だ。テレビの中にもこんなにきれいな人いなかった。こんな美しい人がいるなんて、やっぱり夢だ。間違いないとすこしぽかんとしてしまった。


『こんな何もないところ、死ぬに決まってる。なぜまだ生きてた?』

 銀髪の女性は何もないところに腰かけて、ゆったりと足を組んだ。何もないって、この部屋のことかな?でも、この人はなんにもないのに座れるんだ・・・・・。


『お前、とうとう死ぬから見つかった。よかった』

「え?死ぬの?何がよかった?あなた死神ですか?」

 よかったといいながら、女性はにこりともしない。


『お前、この星で生きたが生きてない。生まれる場所、違う。もう一度生きる』

「生きてない?生まれる場所?どういうこと?」


 全く話が分からない。

 どういうことだ。

 目の前の銀髪の女性は、私を見ているようで見ていない。目の前にいるのに気配がない。

 呼吸してるのかも怪しい。死神とか言われたら納得してしまう。

 ゆったりと、私に近づいて、顔を寄せてくる。

 ま、まぶしい。美しすぎて輝いてるんじゃないかと思うくらいの美貌だ。よく見ると、銀色の瞳がきらきらと輝いている。 きらきら輝く星屑みたいな目だ。美しいを通り越して怖い。こんな瞳初めて見た。



『銀と同じ顔の男を探せ。金の目だ。星が泣いてる』


 全然会話が成り立たない。私との会話がしたいわけじゃなくて、自分が言いたいことを一方的に話してる。私の返事なんかいらないみたいだから、黙って聞いておく。


 『お前が生きれば、星も助かる。銀も金に会える』


 右手を私のほほに添えて、親指ですりすりとなでてきた。ほっそりした手は思っているより暖かくて、すべすべしていた。そこは生きている感じがしてほっとした。


『お前にもいる。今はお前がいないから独り』

「私のなに?」

『心から欲してる』

「何もわかんない!会話してよ!」

 思わず突っ込みいれたけど、私悪くない。


『銀と同じ金色の目の男を。お前のことはお前の金が助ける。私の銀を分ける。うまく使え』

 目を閉じて、額と額をくっつけた。

 すぐ離れたけれど、目を開いたら視界が変わってる。


 やっぱり目の前の銀髪の女性は神様なんだろう。

 本当は人間の形なんかじゃないんだ。動物のシルエットが重なって見える。

 巨大な狼っぽい。もちろん銀髪だ。


「じゃあ、金は金色狼?」

『金はさみしがりや。銀も会いたい』


 重なってた映像に、また焦点がしっかり合うように銀の狼が現れたと思ったら、銀の狼は私の腰のあたりを咥えて歩き出した。


「うわあ!!!どこ行くの!?」

 当然、返事はない。咥えてるから話せないのか、話す気がないから話さないのかはわからないけど。痛くはないけど。結構な速足で歩いてるから揺れる揺れる。


『ちゃんと、見つかるところに落とす』

「え?落とすって言った?」

 しゃべったから、落ちた。いや、落とされたのか?落とすって言ったもんね。


 何もない空間だと思ったけど、水がある。

 湖というべきか?

 目の前にぽかーんと開けた湖があって、私はその上に落ちていく。


「お!泳いだことない!!!!」

 私が言い残せたのはそれくらいだ。


 ざぶんと体が湖に沈んで、息ができなくて苦しいと思う間もなく私は気を失った。









『ここどこ?』

 あ、ちゃんと声が出た。でたけど、これ私の声かな?いつもより高くない?

 夜空に満月が二個。

 二個。満月って二個あるものだっけ?


 気が付いたら、湖の近くてびしょびしょになって寝てた。

 なんなら今も寝てる。今いるところがいい感じに柔らかい芝生みたいになってるから、そのまま寝てても痛くはない。視界の端には巨木が立ち並ぶ森が見える。


 何が何だか全然わからない。なんでこんなところにいるのか。なぜびしょぬれなのか。

 いや、隣に湖があるんだから、泳いでたんだろう。夜に。


『んなわけあるかい』


 自分で自分に突っ込んでみたけど、本当にそんなわけあるか、ないのかはよくわからない。

 今この場で目が覚めたところからしか記憶しかないんだから。自分のことなのによくわからない。

 なんて恐ろしい。

 自分が夜に服を着たまま泳ぐようなアグレッシブな人間じゃないことだけは信じていたい。


 なんだか考えるのが面倒になって、満月をじっと観察してみた。

 月は片方がピカピカに輝いて金色に見える。もう片方は、少し地平線に近いところにあって、かろうじて月があるなぁってわかる程度に銀色に輝いている。夜に見える惑星だから月って言ってるけど、月じゃないのかもしれない。


 金の月・・・?

 金?

 なんか、金って気になるな。


 ぼんやり考えこんでいたんだろうか。

 急に現れた人物に胸倉をつかまれるまで私は全く人の接近に気づいてなかった。


『きゃう!痛い!!』

 鱗の生えた、黒い皮膚の男だ。

 鱗?人って鱗ないんじゃない?いや、人かどうかはわからないけど、乱暴だ。そのまま私を片腕で持ち上げて月光で私の顔を確認したら、近くにいた仲間?に声をかけた。


「珍しいな。エルフの森に獣人じゃない子供がいる」

 何をしゃべってるのか全然わからない。

 男は背が高くて、片手で私を持ち上げられる力を持ってる。暴れて何とかなるとは思えない。

 悪意。悪意があると思う。いや、悪意しかない。

 善意があれば倒れてる人間の胸倉をいきなりつかんだりしないはずだ。


 首が締まって苦しくて、相手の手をつかんで少しでも体を浮かそうとして気づいた。

 ん?なんだか、ちいさい?小さい手だ。自分で想像してるより小さい。子供の手だ。

 え?私子供だった?あれ?こんなに小さかったっけ?


 男はずかずか歩いて自分の馬車の荷台にある小さな檻に私を入れると、鍵を閉めて布をかぶせた。



 え?捕まった?誘拐?

 まるで野犬でも捕まえたみたいな動きだったのでぽかんとしてしまった。


 檻の中は立てないくらいの高さしかないから立ち上がれないし、そもそも震えてて立てない。閉じ込められたことが怖くてうまく考えることができない。


 馬車だって初めて見た。馬も。大きすぎる。あんなに大きなものだったんだ。移動が馬車ってどういうことだろう?車じゃない?車・・・くるま?車ってなんだったかな?


 記憶がいろいろとごちゃごちゃしてておかしい。

 檻に入れられるのも初めてだ。いや、初めてかどうかは以前の記憶がないからわからない。

 今の自分が初めてだと思うんだから初めてでいい。いや、そんなこと考えてもしょうがない。

 外がどうなっているのかわからないのが余計に恐ろしい。怖くて考えがあっちこっちにとんでるのかな?

 ど、ど、ど、どうしよう・・・・・


 恐る恐る、檻をつかんでみたけどこんな太い鉄の棒を何とかできるとも思えない。扉を閉められたときに鍵をしっかりかけられた音がしたので、多少揺らしてみたけどやっぱりびくともしない。

 どう考えてもこの状況で保護ってことはないだろうし逃げないと。だいたい保護されたい相手とも思えないし。


 あ、馬車が動き出した。

 めちゃくちゃ揺れる!!頭が低い檻にぶつかって痛い!

 狭いけど、背中を檻にあてて踏ん張るしかない。


 馬車のスピードが一定になったころ、近くから子供のすすり泣く声がいくつか聞こえてきた。

 もしかして、私のほかにもこの馬車の中にさらわれた子がいるんだろうか。


『ねえ。君たちもさらわれたの?』

 思い切って声をかけてみたけど反応がない。やっぱり言葉が通じないのかな?


 

 2時間は走ったろうか。他の子たちの鳴き声や小声で話し合う声が聞こえなくなったからみんな眠ったのかも。檻にかけられた布を外そうとしたんだけど、どこかに固定されてるのか外れない。

 私にはため息をつくことくらいしかできることがないのか。


 濡れていた服はまだしっとりしているけれど、寒さは特に気にならない。そして眠気でだんだんと頭がぐらぐらしてきた。私も図太いな。檻にぶつからないように小さく横になろうとした時だ。


 どこかから私を檻に入れた男の声が聞こえた後に、馬車が急に速度を上げて私の頭がまた檻に打ち付けられた。

『ぎゃう!』

 痛い!痛すぎて変な悲鳴が出た!ほかの子供たちも叫んでる。

「魔物だ!エルフの森を超えて魔物が来るなんてありえない!」


 痛む頭を押さえていたら、遠くからすごく大きな音が聞こえてきた。

 メリメリ・・バキバキバキ!!バリバリバリバリ!!!


 いや、普通に生きてて聞くような音じゃないよ!

 攫われたところから見えた森の巨大な木が、押し倒されるような音だ。

 それが何本も何本も。まとまって倒されてるみたいな音が迫ってくる!


 ものすごく大きな生き物が追いかけてきてる?大きな獣の声と合わせて大木を押し倒しながらドカドカと足音が迫ってくる。


『生きろって言ったくせにー!!』

 自分の口から誰かを非難する言葉が出たけど、自分で言ってるのに意味がわからない。

 生きろって言われたんだろうか?

 誰に?

 すごく大事なような気もするけど、そんなこと今思い出してもきっと役に立たない。


 ドカン!


 檻が浮いた。

 違う。馬車が浮いたんだ。体がさらにあちこち檻にぶつかって痛い。 


 檻にかかっていた布がどこかへ行ったせいで外が見えた。馬車の荷台の後ろ半分が消えて、私が入った檻はそのまま宙に放り出されてる。

 大きな森の大木が倒れて道になっているのが見えた。さっきまで聞こえてた音はこれだったんだ。森から何かが追いかけてきたんだ。あんな大きな生きた木を倒すような何か・・・。


 下には真っ黒な闇で作ったみたいな巨大な獣が大口を開けている姿。

 猪みたいな動物の形に見えるけど、こんな小山のような大きさの猪なんているわけない。


 下で落ちてくるこの檻を飲み込もうとしてる!


『助けて!』

 助けて!


 私の声と誰かの声が重なって聞こえたけど、怖くて目があけられない。

 檻を必死で掴むくらいしかできることがない。

 衝撃に備えて全身に力を入れていたら、ギャンっと金属のぶつかる音とともに私の体が何かに抱きしめられた。


 ありがと。やっと還れる。


 普通の声ではない、気持ちの塊みたいなものが届いた。

 歓喜に震えるような感謝の気持ちが、私の胸に飛び込んできた。

 熱い。

 胸が熱い。

 胸に熱が集まりすぎてる。火でも付いたのかと思うくらいの熱さだ。


 あんまり暑いし、息苦しいから目をそっと開けてみたら誰かにぎゅうぎゅうに抱きしめられていた。


『・・・だれ?』

 なんとか苦しい中で声を絞り出したら、私を抱きしめてる人がこっちをみた。


 金の瞳だ。

 空に浮かんでる月みたいに輝く金の目が、びっくりするくらい大きな涙をこぼしている。

 くるりと丸い瞳にこんもり涙が盛り上がって、次から次へと私の頭にこぼれてきている。


「シャオマオ。俺のシャオマオ。いままでどこにいたんだ・・・うううううう」

 どれだけ泣くんだ。

 あと、苦しい。放してほしい。でも抱きしめられてるせいだけじゃなくて、胸に熱が集まりすぎてるような気がする。胸がやけどしそう。

 あとこの人、全裸だ・・・・・

 私は一日で二度目の気絶をした。




「ユエ!」

 やっと追いついてきたライが俺の姿を見て叫んだ。

「お前!?ユエか?」

「そうだ」

「人型じゃねえか!」

「うむ」

「冷静だな!」

 俺は立ち上がって、改めて腕の中のシャオマオを抱きなおした。気絶してしまった。かわいそうに。なるべく揺らさないようにして寝かせてあげたいけれど、早く目覚めてまた俺のことを見てほしい気持ちも同じくらいある。そわそわして落ち着かない。


「それ、誘拐されてた子供か?ほかにも檻に入ってた子供が3人いた」

「俺のシャオマオだ」

「俺の?シャオマオっていうの?子猫ちゃんだ。ってか、男が全裸で幼女抱きしめてるのヤバイから。ほら、こっちよこして。お前は俺の予備の服着てこいよ」

 俺はその言葉に自分が全裸であることに気が付いたが、そんなことよりシャオマオが怪我してないか確認するほうが先だ。シャオマオを渡さないでライの馬まで歩き出す。


「いや、だから、子供」

「だめだ。俺のシャオマオは渡せない」

「はぁ?お前そんなこと言うやつだったか?それにさっきから『俺の』ってなに?」


 馬に向かう最中にも、ライはずっと話しかけてきていつもよりもうるさい。シャオマオを受け取ろうと伸ばした手を切り落としたいくらいだ。絶対に触らせたくない。


「なあ。その子どこの子?ほかの3人はエルフの子供だったよ。サリフェルシェリが怒り狂ってたから、誘拐犯を切り刻んで大ダンジョンの砂漠に捨てに行くって言ってたぞ」

「そうか」

「その子の親は?耳が丸いから人間かな?シャオマオって名前なら、猫族エリアに住んでるの?知り合い?ユエが知ってる子供なんていたっけ?」

 ライは自分の頭の上の丸いクロヒョウの耳をぴるぴる動かして俺の腕の中のシャオマオに顔を近づけた。


「目を閉じててもかわいいねぇ」

「やめろ。近づくな。見るな」

「ユエがそんな執着見せるなんて。魔物が大森林越えてこっち来るような変なこと、これ以上起こってほしくないんだけど?ほら。ここに寝かせて」



 ライが自分の荷物から取り出した厚手の敷物を敷いたところにゆったりとシャオマオを寝かせた。


 美しい桃色の髪。白い肌。熟れたタオの実の香りが濃厚に漂ってくる。

 シャオマオから目が離せない。


「おい。はよ服着ろ!シャオマオちゃん女の子でしょ?全裸でじっと見てくる男怖いよ」

 あきれたように言われても、目を離した瞬間に、シャオマオが目覚めたらと思うと、そばを離れられないんだ。目覚めたシャオマオの瞳に一番に映りたい。

 髪を撫でてみる。

 柔らかい、本当に子猫の和毛みたいだ。

 しっぽがゆらゆらと機嫌よく揺れてしまうのも止められない。


「全裸でうっとりするなって」

 しょうがないなぁとか言いながら、ライが俺に服を着せる。俺のほうが体が大きいので緩いサイズのパジャマだ。顔はシャオマオに向けたまま、されるままに腕や足を動かした。ちゃんと服を着たんだ。敷物の上に座って、少し濡れた服ごと温めるように抱え込んで毛布をかぶった。


 

「お前。その虎男、ユエか!!」

 空から声が降ってきた。

「ニーカ!お前が来たのか」

 ばさりと翼の音をたてて地面に降りてきた鳥族のニーカとライが挨拶している。


「ユエ。どうやって人型に?なにがあった?あの巨大な魔物を退治したのはお前か?あいつ、エルフの森の中を突っ切ってここまで来たようだぞ。空から確認してきた」

 俺の周りをくるくる回りながらニーカまでうるさく話しかけてくる。


「シャオマオが起きる。しゃべるな」

 近くに来たニーカを押しのけると、初めて気が付いたかのようにニーカが毛布の中のシャオマオを見た。


「・・・・これ」

 バッとニーカの羽が膨らんで、大きく広がった。驚いた時の鳥族の癖だ。横に人がいるときには殴られることもあるので結構危ないのである。


「シャオマオちゃんだって。猫族の言葉だな。この子にピッタリ」

「この子供、本当に猫族か?」

「いや、耳が丸いししっぽもないように見える。猫族のエリアに住んでる人間の子じゃない?ユエが知ってるみたいだし」

「ライ。鈍い。鈍すぎる」

「どういう意味だよ!」


 ニーカとライが話していることも遠くに聞こえる。

 俺の耳に入るのは、シャオマオの小さな呼吸音だ。

 熟れたタオの実の香りを堪能するために頭に鼻をうずめた。人型の鼻でも十分濃厚なタオの実の香りがする。そこに少し血の香りも混じっていた。慌てて調べると髪のなかに傷があった。どこかにぶつけていたんだろう。心臓がつぶれそうなくらい苦しい。シャオマオが怪我をしている。

 俺はまた泣きそうになったが涙をこらえて、その血の固まった傷をなめてやった。

 俺も小さなときは親に傷を作るたびになめて治してもらったんだ。すぐ治るからな。傷が治ったら、その傷を作る原因になったやつを八つ裂きにしてやるからな。



「妖精が現れたんですね!!!」

 森の奥からサリフェルシェリがユニコーンに乗って現れた。


「精霊が騒いでいます。妖精様はどちらに?」

 ユニコーンからさっと降りてこちらに歩いてくると、まず俺の姿を見て「ユエ?!」と走ってきた。

「ユエ!よかった。人型になれるようになったんですね!魔力圧力が薄らいでいる。急に何かあったんです?」


 目の前まで近づいて俺の腕の中のシャオマオを見つけると、口に手を当ててフルフルと震えだした。


「妖精様・・・」

 サリフェルシェリは敷物の端に額ずけて泣き始めた。


 もうだめだ。

 世界は俺とシャオマオ二人きりでいいのに。

 なんでこんな大騒ぎになるんだ。

 おかしいだろう。

 

読んでくれる人がいるから楽しく書けます。ありがとうございます。

誤字脱語見つけ次第編集しますが、すごい・・・多いね・・・( ´∀` )

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