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生忌物倶楽部  作者: 鬼居かます
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07「第一話 出会い」 【第一話 最終話】私はムサシで人を助ける。そしてムサシの尻拭いをする。

【毎日昼の12時と夕方の18時の2回更新します】


 今回はキリが良いため短めとなります。

 すみません。




 


「行けーっ、ムサシっーーーーー!」





 きいは絶叫する。するとムサシは更に加速する。




 一方の三ヶ木ゆうはうずくまっていた。

 もはや一ミリでも動けない。眼前に迫るウシの巨体がぐんぐん大きくなる。




「う、うぅぅ……」




 そのときだった。

 ドサーーーーッとなにかが倒れる音がした。




 ムサシだった。




 ムサシが一気に十メートルを跳躍してウシに馬乗りになったのだ。

 そして力任せに首筋を咥えウシの巨体を左右に振る。




 ウシと同じだけの体躯を持つムサシならではの芸当だ。

 そしてウシは気を喪失した。




「……っ」




 そしてムサシは止まらない。

 次の雄牛の尻にかみついたかと思うと、

 そのまま横倒しにさせ、次の一頭にも襲いかかる。まさに圧倒的だった。




 そして三ヶ木ゆうだが、駆け寄った寸又嵐(すわらし)先生に保護された。

 そして千木良きいは呆然と見ていた。




「……ム、ムサシ。……すごいっ」




 ムサシは五頭のウシをすべて鎮圧していた。

 あっという間であった。




「千木良っ! ムサシを止めろっ! 

 ウシを殺させる気かっ?」




 いきなり髙見澤ヨウコが叫んだ。

 それで我に返ったきいが見たのは、ウシの喉笛に噛みついたムサシの姿である。

 ウシはのけぞり口から泡を吹いていた。




「ど、どうやってっ!」




 きいが駆けだしてムサシの首に手を回す。 

だが興奮しているムサシは身震いをし、きいをはじき飛ばす。




「……痛っ!」




 尻から落ちたきいがうめき声を上げる。

 見るとウシは目がうつろになっている。このままでは遅かれ早かれ死しかない。




「笛を使えっ!」




 ようやく近くまで走り寄ってきた髙見澤ヨウコが叫んだ。




「へっ? 笛っ?」




 きいはポケットから笛をごそごそと取り出した。

 そして咥える。




 ッピーーーーーーッ!




 音は聞こえなかった。

 だが見るとムサシが口をウシから離し、きいを見ている。

 そして近寄ってくると鼻先をふんふんと鳴らし甘えてくるのであった。




「良かったよっ。

 ウシさん、大丈夫みたいだよっ」




 きいは両手を伸ばしムサシに抱きつくのであった。




「……ねえ、ヨウコちゃん」




 千木良きいは、

 傍らに屹立している髙見澤ヨウコに話しかけた。




「なに?」




「ありがとっ。

 ……ゆうも助かったし、ウシさんも無事だし」




「ふん。……お前、少しは使えるようだな」




 それだけ言い残すとヨウコは去って行った。




 そしてそれからが大変だった。

 動物たちを残らず回収するのに二時間かかり、

 また家畜たちが暴れたお陰で柵も杭もめちゃくちゃになっていて、

 獣医科だけでは人出が足り農業コースの生徒たちにも応援を頼む始末だったのだ。




「お前らー、もう日が傾いてきたぞ」




 ねじりはちまきで悪戦苦闘する寸又嵐先生が

 一年獣医科女子クラスに声をかける。




「先生っ! もう少しで終わりますっ」




 千木良きいが飛んで来た。

 もうくたくただったし、元々片付けは好きではないからだ。




「千木良っ! お前は居残りだっ!」




「ふえっ、ど、どうしてですかっ?」




 きいは涙目になり懸命に訴える。





「診察室のケージの扉、お前壊したろ?」





「ふえっ、あれはムサシがっ……」




「誰の担当だっ? あーん?」




 寸又嵐先生が凄む。するときいは直立不動になり敬礼をする。




「イ、イエッサー」




 そしてぱたぱたと足音を残し去って行くのであった。




「……先生。ムサシはワヒーラなんですよね? 

 そのことをきいに伝えたんですか?」




 三ヶ木ゆうだった。

 お嬢様も今日は返上で泥まみれになって、懸命に囲いの修繕を行っていたのだ。




「ん? そう言えばまだだな。

 ……しかし、あれはワヒーラでいいのか? ……もしかしたら……それ以上の……」




 寸又嵐先生のセリフの最後は口の中でのつぶやきとなった。

 そして考え顔になる。




「まあ、でもいいか。 

 あいつにとってオオカミでもワヒーラでもなんでもすべて、……みんなワンコだろうしな」




 そう言って先生は豪快に笑った。




「ですね。私も黙っておくことにします」




 ゆうはそう言って口を押さえて上品に笑う。

 西日がオレンジ色の光を農園に落とす。もう間もなく日が暮れる。




 ――ワヒーラ。




 それはカナダの奥地に住むと言う、人をも襲う凶暴な伝説のオオカミ。

 つまりUMAであった。




「……ムサシぃ。もう壊さないでねっ」




 小さな身体で汗びっしょりになって、

 スパナを持った千木良きいはムサシに寄りかかり一息ついていた。




 ムサシがその巨体をぶつけて壊してしまった扉の掛け金を交換する作業が終わったのだ。

 窓の外はすっかり暗くなっている。




「……ムサシぃ。今日は疲れたね」




 そう言ってきいは目を閉じた。

 仕事が終わったと思ったら急に疲労を感じたのだ。

 そしてそのままウトウトしてしまったときだった。




「あきれた。

 そのまま朝まで寝るつもりかしら?」




 三ヶ木ゆうだった。




「あ、ゆう。終わったよ」




「そうね。お疲れ様」




 そう答えたゆうは持っていた缶コーヒーをきいに手渡した。

 それは甘々な砂糖たっぷりのコーヒーだった。




「ありがとっ。

 ……私ね、ムサシと別れたくないんだっ」




「そうね。

 私もムサシにはいつまでもいっしょにいて欲しいわよ。助けてもらったお礼もあるし」




「そうだね。

 ……私、やっぱりムサシを相棒(バディ)にしたいよっ。……でも、駄目だよね……?」





「うふふ。

 ……これを寸又嵐先生から預かって来たわ」




 そう言った三ヶ木ゆうは、

 一枚の書類を千木良きいに差し出した。




「ふえっ? 

 ……こ、これって。……ええっ? いいのかなっ?」




「いいんじゃないかしら?」




「やったあーっ! 

 ムサシっ! これでいつもいっしょだよっ!」




 きいは書類を持ったまま、くるくるとムサシの横を走り回った。

 ……三ヶ木ゆうが届けた書類は、学校に提出する相棒の届け出申請書だったのだ。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み

「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。

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