29「第三話 獣使い」私のムサシは悲しみを知る。
【毎日昼の12時に更新します】
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そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。
すみませんが、よろしくお願いいたします。
「いっしょに狩るのよ」
そうお母さんは僕に言うと、風下へと案内した。
■
そしてタイミングを見計らいムースの群に迫り、端にいた一頭を見事仕留めたのである。
背中に飛び乗って引き倒すと、喉元に喰らいついて絶命させたのだ。
「こうやって捕まえるの」
「うん」
巨大なムースを引きずりながらお母さんは言った。
■
こうしてオオカミは狩り方を覚えていく。
どの季節にどの獲物がおいしいか、そしてどうやって狩るのかである。
ふつう、オオカミは集団で暮らし、集団で狩りをする。
だがこのワヒーラの親子は違った。
単独でムースを仕留められる体格もあるが、今では数を減らし群を作れるまで個体がいないのである。
原因は人間だった。
広大なアラスカも開発が進み、日に日に彼らの領地が目減りしているのだった。
一撃で即死させられたムースは白目をむいて横たわっていた。
それに小さいワヒーラがかぶりつく。お母さんオオカミはそれを温かい目で見守っていた。
■
そのときだった。
「……っ」
お母さんがふいに首を上げ耳を立てた。目に緊張が走る。
「逃げるのよっ!」
お母さんがそう告げて森へと駆けだした。
だが僕は気がつかない。おいしい食べ物に夢中なのだ。
グルルっ。
振り返ったお母さんは緊迫した表情で唸り声を上げて、僕を呼ぶ。
そこでようやく僕は顔を上げた。
そのときだった。
ダーンッ……!
大きな声がした。
するとお母さんの身体が一瞬跳ねて、そしてゆっくりと崩れたのである。
「お母さんっ!」
僕は母親に駆け寄った。
お母さんは口から舌を垂らし大地に横たわっていた。目にはすでに生気がない。
「お母さんっ、お母さんっ、お母さんっ」
小さな僕は鼻先でお母さんの顔をつつく。
だけど返事がないことに驚き、そして悲しんだ。
「……見ろよ。子連れだったんだな」
「ああ。捕まえよう」
そんな人間の会話が辺りに響いた。
もちろん僕には人間の言葉なんかわからない。だけど悪意はわかった。
と、同時に今まで嗅いだことのない嫌な臭いが鼻についた。人間と鉄と火薬の臭いだった。
やがて捕獲された僕は狩人の手から、動物業者の手に渡った。
そして遠い国へと運ばれることになったのである。
そして船に揺られた。
僕は船中の檻の中で幾日も過ごした。
そしてある日、檻の鍵がかけ忘れてあったことから脱走することに成功した。
夜、甲板にまで逃げると海の向こうに街の灯が見えた。
僕は海へと飛び込んだ。
そして泳ぎ、浜へと到着したのであった。
「ここはどこだろう?」
初めて見る土地だった。
しばらくの間、僕は辺りを探検した。砂浜を越えるとそのときの僕は知らなかった自動車というものが走っていた。
「鉄の臭い」
僕は首を振る。
鉄の臭いがする所は嫌な所であることを僕はすでに知っていた。
そこには必ず人間がいて、良くないことが起こるのをお母さんの件で嫌と言うほどわかったからだ。
僕は山へと入った。
安心した。
そこには森の臭いがした。安心な臭いである。
これは今から二年前の話であった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神に祟りなし」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




